21 CFR Part 11の対応課題


21 CFR Part 11の対応課題

21 CFR Part 11について研究するページです。

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21 CFR Part 11の対応課題

電子記録の範囲

もともとPart 11のPreamble(序文)の22には 「紙で保管する予定の記録を作成するため、たまたま使用したコンピュータ・システムにPart 11を適用することは意図してはいない。」 と記載していたにもかかわらず、 FDAスタッフの見解は、「電子的に記録されたものは全てPart 11が適用される」といった広義解釈になってしまった。

タイプライター・エクスキューズ

米国において、Part11査察を受けた企業の担当者が次のような説明を行った。
『真の記録は紙の記録である。我々はコンピュータを単に記録を作成するために使っているに過ぎない。』
これは、序文に以下の記載があるためである。

Part11は、文書による記録であって、作成後も従来の紙媒体システムで保存されるような記録の作成をする際に、単にたまたま使用されるコンピュータシステムに適用することを意図したものではない。このような場合では、コンピュータシステムは本質的には手動のタイプライタかペンのような機能をはたし、署名はいずれも従来方式の手書き署名となるものである。
‥…例えば、ある人がFDAに提出する書類を作成するのにワープロのソフトウェアを使用することにした場合には、技術面からいえば、電子記録が最初に作られその後紙に印字されたということになるにしても、その提出物の作成に使用されたコンピュータシステムにPart11が適用されることにはならない。

上記の担当者の説明は、コンピュータをタイプライターとして使用しているのであって、Part11の対象ではないというものである。この説明をもじって「タイプライター・エクスキューズ」と呼ばれる。
FDAの見解は以下のとおりである。
『たとえば電子記録が作成されない場合のように、コンピュータが本当にタイプライターのように使用されている時のみ、Part 11は適用されない。』
タイプライターとコンピュータシステムの大きな違いは、タイプライターは「One Time Printing」(つまり1度しか印刷できない)のに対して、コンピュータは何度でも同じ記録を印刷できることにある。その場合、1度目の印刷と2度目の印刷の間に電子記録の改ざんを行うことができ、印刷後バックデートでサインが可能となってしまうのである。

Part11の座長であったPaul Motiseは、講演で以下のように述べた。
『プリントアウトを本質的に信頼することはできない。なぜならプリントアウトにはデータの再構築または生データから再現するために必要なメタデータ情報を含んでいないからである。』

電子データの長期保存

長期間の記録の保管期限において、データへのアクセスは保証されなければならない。また、電子記録は、実操作可能なフォーマットで保管しなければならない。
しかしながら、いったん電子で作成された記録を長期間保存することはとても困難である。なぜならば、システムはいずれ陳腐化し、リプレースを行うからである。
システムのリプレースを行った場合には、データの移行は行われるが、メタデータの移行までは行われないのが一般的である。
ところが、その場合、監査証跡が失われ移行後の電子記録はPart11を満たさないことになってしまう。
以下のいずれかのアプローチをとる必要がある。

  1. タイムカプセルアプローチ
    電子記録が作成されたままシステムを維持する
    システムの陳腐化、サポート終了といった問題がある
  2. マイグレーションアプローチ
    旧システムから新システムへデータおよびメタデータを正確かつ完全にマイグレーション(移行)する
    マイグレーションプログラムのバリデーションが必要
    移行不可の場合は、検索システムの別途構築が必要となる(記録のアーカイブ)

電子記録を移行する際には、監査証跡やマスター、辞書も共に移行する必要性があるといえる。
紙の記録と違って、電子記録の場合、長期間保持し続けることは困難が伴う。なぜならば、コンピュータ化システムは、定期的にリプレースされるからである。
コンピュータ化システムのリプレース(つまり旧システムのリタイヤメント)に際しては、電子記録を維持するか、移行するか、破棄するかを決定しなければならない。
くれぐれもシステムをリプレースする際などには、まず現在保持している電子記録をどう保持し続けるかを検討することが大切である。
安易にシステムを廃棄してはならない。システム廃棄計画書を作成し、電子記録の保持方法について十分な検討を行っておく必要がある。

通常旧システムから、新システムに移行する際には、GxPデータの移行を行わなければならない。
しかしながら、いわゆる生データの移行は行っても、監査証跡を移行するケースはほとんどないのではないだろうか。監査証跡は移行しないというよりは、移行できないと言った方が正しいようである。
当該システムがGxPデータを保持している場合、廃棄は慎重に行わなければならない。
21 CFR Part 11の11.10 (c)にこういう記載がある。
「記録の保管期間を通じて記録の正確で容易な検索を可能とするような記録の保護」
つまり電子記録は保管が義務付けられている期間は廃棄することができない。またFDAの査察に対してすみやかに電子記録を検索し提示することができなければならないのである。
さらに11.10 (e)にはこういう記載がある。
「監査証跡は、少なくとも当該電子記録に要求される期間と同じ期間保管することが必要で、FDAのチェックとコピーができるようになっていなければならない。」
つまり電子記録に加えて、監査証跡もFDAが調査することがあるので、廃棄してはならないのである。
従ってシステム廃棄計画書では、監査証跡を含めたGxPデータをどのように新システムに移行させるか、または別の方法で保管するのかを決定しなければならない。
一方において、ER/ES指針の3.1.3.電子記録の保存性の(2)には、以下のような要件が記載されている。
「保存された電子記録を他の電子記録媒体や方式に移行する場合には、移行された後の電子記録についても真正性、見読性及び保存性が確保されていること。」
システム移行において、真正性、見読性及び保存性の確保は重要である。
しかしながらシステム移行において、監査証跡を移行しなかった場合、真正性が担保できなくなってしまう。
つまり監査証跡を伴わない電子記録は、作成者、作成日時、変更者、変更日時等が不明となり、なりすましや改ざん等の不正行為を発見することができなくなってしまうのである。
ER/ES指針やPart11対応において、電子記録の長期保存は技術的に困難を伴う。
FDAは、監査証跡が消去されている場合などは、査察を拒否することがある。さらにワーニングレターを発行することさえあり得るのである。
FDAは、1994年にPart11のドラフトルールを発表した際には、「本物のコピー」を保管しておくように要請していた。
つまり査察が実施されるまで、旧システムを維持することを求めていたわけである。
しかしながら、この要求について、米国の製薬会社は反発した。
旧システムを、査察のためだけに温存しておくことは極めて不合理である。
故障のリスクやメンテナンスの費用、さらにライセンス料も負担し続けなければならないからである。
製薬会社からのコメントを受け、FDAは1997年にPart11のファイナルルールを発行した際には、11.10 (b)において以下のように要求を変更した。
「FDAの査察、審査、複写に適した、人間の目で読める形と電子形式の両方で記録の正確かつ完全なコピーを作成できること。」
つまり「本物のコピー」を「正確かつ完全なコピー」に修正したのである。
FDAが電子記録の正確かつ完全なコピーを作成できるためには、旧システムから新システムに、監査証跡を含めて完全に移行しなければならないということである。
しかしながら、これにも問題がある。
同じメーカの同じソフトウェアのリプレースであれば移行が可能であろうが、メーカが違う場合にはほとんど不可能だろう。
ちなみに、旧システムを温存する方法を「タイムカプセルアプローチ」と呼び、旧システムから新システムにデータ移行する方法を「マイグレーションアプローチ」と呼ぶ。
電子記録を保持するために、タイムカプセルアプローチもしくはマイグレーションアプローチのいずれを選択するとしても問題があるといえる。
では、一体どんな方法で、この問題は解決できるのであろうか。それはデータベースのアーカイブである。
ここでアーカイブとバックアップはその目的も方法も異なるので、注意が必要である。
バックアップは、アクティブデータベースのデュプリケートであり、その目的は災害時の復旧である。
一方、アーカイブとは、ディスク容量の制約等により、古い電子記録を別の検索可能な記録媒体に移行することを指す。一般に古い電子記録は、検索する頻度も少なく、また更新はほとんど行われない。しかしながら査察時などのような場合、すみやかに適切な記録が検索できなければならない。したがって磁気テープを利用するような、バックアップではその用をなさない。
電子記録を適切にアーカイブしておけば、査察時において検索が容易であり、また監査証跡も保持される。
もちろん監査証跡を含めて検索が容易になるよう、SQL文等により検索ツールを整備しておかなければならない。
ただし、当然のことながら、アーカイブにおいてデータベースの構造や、データを変更してはならない。
また検索ツールも、データを変更できるものであってはならない。

記録と署名のリンク

当該電子記録と電子署名を、恒久的にリンクすることは困難である。
当該システム上に管理されているドキュメントと電子署名は、リンク付けが容易である。しかしながら、ハイブリッドシステム(電子の記録&手書きの署名)では、そのリンクが難しい。
また、システムをリプレースした場合などにも、記録と署名が正しくリンクされていなけらばならない。

範囲を狭めるためのサブシステム化

昨今のネットワーク技術を利用して、あらゆるシステム間で電子データの交換が容易に行われるようになってきた。
しかしながら規制要件適応のシステム(つまりGxPデータを扱うシステム)が、他の規制要件適応外システム(例えば人事管理システム)等とネットワーク接続して利用されている場合は、本来必要ないシステムまでPart 11対応を要求されてしまうと考えられる。
したがって、規制要件適応のシステムは出来る限り単体運用とし、ユーザ登録(ID、パスワードの発行)等は当該システム内で閉じて行うようにしなければならない。
また出来る限り、社内・外のネットワークからも切り離された状態が望ましい。