平成18年9月21日付で厚生労働省医薬食品局審査管理課長から発出された「医薬品の臨床試験の実施の基準の運用について」の第26条第1項にかかわる解説では「当該システムが、入力済みのデータを消去することなしに修正が可能で、データ修正の記録をデータ入力者及び修正者が識別されるログとして残せる(すなわち監査証跡、データ入力証跡、修正証跡が残る)ようにデザインされていることを保証すること。」とある。
これは元々ICHのGCPを翻訳したものであり、答申GCP(中薬審答申第40号)として出されたものと同一である。
ここで注目すべきことは「監査証跡」と「修正証跡」を区別していることである。
さらに日本版ER/ES指針の用語の定義には「監査証跡」とは「正確なタイム・スタンプ(コンピュータが自動的に刻印する日時)が付けられた一連の操作記録」とある。
つまり「監査証跡」は操作を記録するものであって、「修正証跡」(変更記録)を含まないものと理解できる。
日本版ER/ES指針の「3.1.1. 電磁的記録の真正性」にはこう記載されている。
「(2) 保存情報の作成者が明確に識別できること。また、一旦保存された情報を変更する場合は、変更前の情報も保存されるとともに、変更者が明確に識別できること。なお、監査証跡が自動的に記録され、記録された監査証跡は予め定められた手順で確認できることが望ましい。」
この条文を正確に解釈したい。
そもそも日本版ER/ES指針は、当局へ提出(申請)した「資料」とその資料を作成した根拠になった「原資料」を電磁的に保存する場合の指針である。
上記の条文において、「保存情報」とは例えば「治験実施計画書」を指すだろう。
「作成者」とは、その「治験実施計画書」を承認した者のことであり、文書の内容に責任を持つものであると解釈するのが正当であろう。決して「治験実施計画書」をタイプしたり、文書管理システムに登録したオペレータを指すのではない。
「一旦保存された情報」とは、例えば治験責任医師と合意した「治験実施計画書」の初版(Ver.1.0)を指すだろう。
何らかの事情で「治験実施計画書」を変更する場合は、Ver.1.0を消去することなしに保存しておき、新しく作成されたも同様に保存しなければならないのである。
「変更者」とは、変更に責任を持つ者と解釈するべきである。
「なお、監査証跡が自動的に記録され」なければならない。
ここで注目すべき事は、変更の履歴を求めていないということである。つまり「治験実施計画書」のVer.1.0とVer.1.1では何が変更されたかまでは記録する必要はないのである。
一般に「監査証跡」は「変更履歴」を含むと理解されているが、条文を読む限りはそうではない。
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