「第1章 第1節 遺伝子治療用製品に関する規制要件と開発動向」
(国立医薬品食品衛生研究所 内田恵理子・山下拓真・山本武範・井上貴雄/著)
……遺伝子治療に用いられる遺伝子治療用製品等(2.2.2参照)は2016年に欧州で初めて承認されて以降、実用化が急速に進み、日欧米で23品目、日本では9品目が承認されており、承認品目の増加に伴い日本での臨床開発も増加している。本稿では、遺伝子治療用製品等を日本で臨床開発する際にかかる法規制や参照すべき指針等を紹介するとともに、日本で行われている臨床開発の動向と課題を概説する。(中略)ICHでは最近、遺伝子治療用製品等を含む新たなモダリティをガイドラインの対象に含めるため、新規ガイドラインの作成や既存ガイドラインの改定作業が進められている。新規ガイドラインとしては、遺伝子治療を対象とする初めてのガイドラインである……(本文へ続く)
「第1章 第2節 再生医療用製品/遺伝子治療用製品開発及び臨床研究とカルタヘナ法」
(金沢工業大学 山口照英/著)
…………カルタヘナ審査に時間を要するという点についてはここ数年、カルタヘナ第1種使用申請や第2種使用申請における申請スキームや申請時期に関して様々な改訂が行われており、審査の迅速化や効率化が行われている。本稿では、遺伝子治療ウイルスベクターのカルタヘナ第1種使用等における対応も含めて最近の状況を解説し、体外排出の評価や臨床使用における第1種使用規程の改定について紹介する。さらに、体外排出の評価においてウイルスベクターの生体内分布ガイドラインをどのように活用するべきかについても言及する。(中略)我が国のカルタヘナ第1種使用は、国際条約である生物多様性影響評価の中に海外で施行されている組み換え生物製品に対する環境影響評価を合わせた規制となっている。特に遺伝子
治療開発において……(本文へ続く)
「第2章 遺伝子治療用製品におけるFDAとEMAの規制と最新動向」
(国立医薬品食品衛生研究所 山本武範・内田恵理子・山下拓真・井上貴雄/著)
……欧米では、遺伝子治療に用いる製品の品質・安全性の確保や開発促進を目的としてガイダンスやリフレクションペーパーが数多く発出されている。本稿では、遺伝子治療製品に関する海外規制について最新動向を含めて俯瞰するとともに、近年発出されたガイダンスのうち、重要性が高いと考えられるものについて、その概要を紹介する。(中略)FDAは2023年7月現在、遺伝子治療に関して20のガイダンスを発出している(表2)。(中略)ここ1,2年の間にFDAから発出された最新ガイダンスの中から、臨床開発が活発化しているゲノム編集技術を用いた遺伝子治療製品に関するガイダンス案に焦点を絞り、その内容を概説する。……(本文へ続く)
「第3章 遺伝子治療用製品の非臨床安全性評価」
((独)医薬品医療機器総合機構 直田みさき・真木一茂/著)
……遺伝子治療用製品については、ベクターの種類や特性、臨床応用方法が多様であり、科学技術の進歩や経験の蓄積も急速に進んでいる。そのため、柔軟かつ合理的なケース・バイ・ケースの対応が求められている。(中略)本稿では、遺伝子治療用製品の非臨床安全性評価に関する一般的な考え方を概説する。(中略)ベクターの特性に関する情報は、非臨床試験における動物種の選択、試験成績の解釈、染色体へのベクター組込みリスク評価、発現産物によるハザードの把握のために重要である。非臨床安全性を評価するにあたり、特に考慮すべきベクターの特性を以下に挙げる。 ……(本文へ続く)
「第4章 規制をふまえた臨床試験立案/治験計画」
(国立成育医療研究センター 小野寺雅史/著)
……国内の遺伝子治療臨床研究に関しては「遺伝子治療等臨床研究に関する指針(厚労省告示第48号、平成31年2月28日)」があり、治験に関しては「遺伝子治療用製品等の品質及び安全性の確保について(薬生機審発0709第2号、令和元年7月9日)」が遺伝子治療用製品特有の項目ついて説明している。(中略)遺伝子治療の治療効果(mode of action)は遺伝子レベルでの作用機序にあり、治療の結果、何らかの影響が患者ゲノムに及び、特にゲノム挿入型ベクターや長く閣内にとどまるベクターではその遺伝子的変化が長期にわたり持続する可能性がある。このため、これまでの医薬品開発とは全く異なった観点からその安全性、有効性を評価する必要があり、ここでは臨床試験立案に際し検討しておくべき遺伝子治療用製品特有の課題とその留意点について説明する。(本文へ続く)
「第5章 臨床試験/治験実施上における課題と対応」
(国立成育医療研究センター 小野寺雅史/著)
……本章ではこれらの実施計画書に基づき実際に遺伝子治療用製品に対する臨床試験(治験)を実施する際の問題点や留意点を記載する。(中略)遺伝子治療用製品を用いた治験を開始するには、治験実施の科学的正当性を判断した文書と治験実施計画書、説明同意文書、治験薬概要書(Investigator's Brochure,IB、Investigational Medical Producy Dossier,IMPD)等を治験計画届書に添付して厚生労働大臣宛にし、医薬品医療機器総合機構(PMDA)に提出する。これを受けOMDAは保健衛生上の気概が発生しないことを30日調査で確認し、……(本文へ続く)
「第6章 ウイルスベクターの規格設定方法と品質評価」
(東京大学 菅生健・和田美加子・恒川雄二・岡田尚巳/著)
……ウイルスベクターの規格設定は、個々のケースによるところが多い。ここでは、AAVベクターを例にして、ベクターの設計(ベクターゲノム、血清型・カプシド変異体)、および不純物をどの程度分析し規格化するかに関してそれぞれ解説する。(中略)AAVには多数の血清型があり、それぞれ組織特異的な指向性を示すが(表2)、静注投与すると大部分が肝臓に取り込まれ、肝機能障害などを引き起こす7)。治療効果を持続させつつ、免疫反応を抑える取り組みが非常に重要である。一例として、AAVベクターと間葉系細胞(MSC)との併用8)や、海外では非ウイルスベクター(ラパマイシン内包ナノ粒子)を用いた報告が散見される9)。……(本文へ続く)
「第7章 ウイルスベクターの製造と品質管理手法」
(東京大学 菅生健・和田美加子・恒川雄二・岡田尚巳/著)
……今後、遺伝子治療用製品の本格的な普及に向け、投与量の低減など安全性やコストの優れた治療法の開発、技術料加算の施設認定、人材育成、医療従事者の啓蒙に加え、製品となるベクターの生産性や安全性に関わる製造・分析の基盤技術開発が急務である。本章では、AAVベクターを中心に、製造技術の現状や開発状況、及び品質管理に関して解説する。(中略)ここでは最も標準的なヒト胎児腎細胞(HEK293細胞)を用いたトランスフェクション法による、AAVベクター製造技術を中心に、上流工程、下流工程に分けて解説する(図1:AAVベクター大量製造プラットフォームの例)。……(本文へ続く)
「第8章 遺伝子治療用製品の特許戦略」
(日本大学 加藤浩/著)
……遺伝子治療用製品について研究開発を推進するためには、研究開発戦略とともに特許戦略の構築が必要不可欠である。とくに、研究開発の初期の段階から特許について十分に検討することにより、広くて強い特許を取得することが有効である。その結果、研究成果を事業活動に最大限に生かすことができる。本稿では、このような視点から、遺伝子治療用製品の特許調査、特許動向について説明し、特許調査と登録特許の状況を解説したうえで、遺伝子治療用製品に関する特許戦略について考察する。(中略)特許調査には、日本国特許庁が提供している「特許情報プラットフォーム」(J-PlatPat)のほか、「Patent Scope(世界知的所有権機関:WIPO)」、「ESPACENET」(欧州特許庁:EPO)などが利用されている。特許う調査の手法としては、キーワード検索のほか、国際特許分類(IPC)を利用することが推奨されている。ここでは、国際特許分類(IPC)から遺伝子治療用製品に関する特許検索を行う方法について説明する。……(本文へ続く)
「第9章 遺伝子治療用製品用の申請資料作成」
……遺伝子治療用製品を含む新モダリティ医薬品のCMC開発においてはまだ国際的に標準的なガイダンスがないため、従来の低分子医薬品のTraditional approahをベースにバイオ医薬品におけるEnhanced approachも考慮しながら、手探りでCTD-Qを思い描かざるを得ないのが現状であろう。そこで、本稿では遺伝子治療用製品等を無駄なく最速でCMCを開発するためにCTD-Qをどう思い描き、開発初期からアプローチする必要があるか考慮ポイントの提示を試みる。(中略)遺伝子治療用製品等は多様であり、一律にCTD記載内容を記すことは困難と考える。しかし、主に欧米製薬企業の有志により遺伝子治療用製品のQbDのケーススタディーの原則としてまとめられた”Project A-Gene”には、遺伝子治療用製(Gene Therapy)に特徴的なCTDのモジュール3の主なセクションに推奨される内容が記載されており、これらを表2及び3に引用、記載した。この推奨される記載内容は、……(本文へ続く)
「第10章 PMDA相談の対応と申請資料作成」
((独)医薬品医療機器総合機構 前田大輔/著)
……遺伝子治療用製品に関わる技術は日進月歩であり、類似製品や標的とする疾患に関する科学的な知見も日々更新されることから、適切なタイミングで規制当局に確認しながら進めることは、効率的な製品開発を行う上で不可欠の視点である。また、そのような相談を通して実用化に向けたマイルストーンを明確にすることが、研究開発費の獲得にも有利であることも少なくない。本章では、臨床試験の開始が実用化における1つの山場であるとういう認識のもとで、シーズ選定後から臨床開発初期段階までを中心に、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)が実施している相談事業を活用していく上での留意点、相談資料の作成方法などについて解説を行う。……(本文へ続く)