各章の内容紹介 <本文抜粋>
「第1章 核酸医薬品の開発動向」
( 国立医薬品食品衛生研究所 井上 貴雄 / 著)
核酸医薬にはオリゴ核酸の構造,塩基長,修飾核酸の種類,作用機序,DDS などが異なる様々な種類の核酸医薬モダリティが存在する。したがって,
核酸医薬の品質評価や不純物管理のあり方を検討する際には,それぞれの核酸医薬モダリティについて個別に分析学的特性を把握すると共に,得られる
不純物プロファイルなどが有効性,安全性あるいは薬物動態に及ぼす影響について,各開発品目の特性を踏まえながら考察する必要がある。すなわち,
核酸医薬のCMC 管理戦略においては,オリゴ核酸に共通する性質の他に,個別製品におけるケースバイケースの特性を正確に理解することが重要と考える。本稿がその基盤となる情報の整理につながれば幸いである。……(本文へ続く)
>「第2章 核酸医薬品と核酸化学 」
( 甲南大学 冨田 恵麗沙 秋田 智香 川上 純司 / 著)
本稿では、
DNA(デオキシリボ核酸),RNA(リボ核酸)の化学的性質や構造について説明し,オリゴ核酸合成に最も一般的に使用されるホスホロアミダイト法について解説する。また,
核酸医薬品の製造過程で生じる可能性のある不純物について,産生される原因と併せて説明する。さらに核酸医薬品への応用が期待される,またはすでに核酸医薬品に用いられている
修飾核酸の構造について説明し,さらに
その合成方法についても概説する。
……(本文へ続く)
「第3章 核酸医薬品の規格値設定と品質評価 」
「第1節 核酸医薬品の品質評価に関する10 年間の議論の経緯 」
( (独)医薬品医療機器総合機構 伊藤 浩介 / 著)
核酸医薬品は,他のモダリティと異なる作用機序を有することから,低分子化合物,抗体医薬品等により標的とすることが困難であった疾患に対する創薬ポテンシャルを有しており,様々な疾患領域において注目を集めている。核酸医薬品の有効成分であるオリゴヌクレオチドは,
製造工程において,類似した物理化学的性質を有する類縁物質が生じ,
当該類縁物質の分離・分析が困難である場合がある等,核酸医薬品の品質については,技術的な課題が存在することが認識されている。また,既存の医薬品規制調和国際会議(ICH)ガイドラインにおいて,核酸医薬品が対象外とされているガイドラインもある。以上を踏まえ,核酸医薬品の開発を促進するために,品質の確保に関する技術的なガイダンスが求められていた。
……(本文へ続く)
「第2節 核酸医薬品製造における出発物質の品質管理 」
( ルクサナバイオテク(株) 佐藤 秀昭 / 著)
核酸医薬品製造において,
出発物質の品質span>はオリゴヌクレオチド
原薬の品質に直接影響を与える。一度組み込まれた後には精製除去の機会が限定されること,及び最終合成物においてオリゴヌクレオチド類縁物質の分離・検出に限界があることを踏まえ,
不純物の管理戦略の中で適切に位置づけられる必要があることから,本稿では,
出発物質の定義とリスク分類を中心に述べる。なお,新規化学物質の出発物質の定義と特定のアプローチは,最近の規制ガイダンス,業界グループからの提案及び総説で概説されている。これらのリスクベースのアプローチは,出発物質がオリゴヌクレオチド原薬の品質にどのように影響するか,また原薬の品質に影響を与える可能性のある出発物質の重要な属性を制御するための基礎情報を提供する。……(本文へ続く)
「第3節 核酸医薬品の不純物と管理戦略 」
( 塩野義製薬(株) 関口 光明 / 著)
現在のところ,核酸医薬品を対象としたガイドラインは存在していないが,欧米企業を中心に結成されたOligonucleotide Safety Working Groupから,品質確保のための規格試験項目の提案文書や不純物の管理戦略に関するホワイトペーパーが発表されている。一方,国内では厚生労働省から「核酸医薬品の品質の担保と評価において考慮すべき事項について」が発出されている。またAMED 医薬品等規制調和・評価研究事業の一環として,AMED 研究班と製薬工業協会・核酸医薬品質評価タスクフォースが協力して,核酸医薬品の不純物管理の考え方ならびに品質評価のケーススタディーについて議論を重ねており,その成果を総説として報告している。品質規制に関する文書の詳細な解説は他稿に譲ることとして,本稿では核酸医薬品の
品質管理の中でも不純物に焦点を絞り,タスクフォースにおいて議論してきた内容を踏まえながら,
不純物管理の考え方の最新動向について整理することにした。……(本文へ続く)
「第4章 核酸医薬品 製造における工程管理とスケールアップ 」
( 味の素バイオファーマサービス (株)ジーンデザイン 太田 明宏 井上 聡 伊藤 俊輔 /著)
核酸医薬品の原薬であるオリゴ核酸の多くは,固相合成法により化学的に製造されており,代表的な製造プロセスは,伸長合成→脱保護→精製→脱塩(→凍結乾燥)となる。……(中略)
近年,核酸医薬品開発の進捗に伴い,大スケールでの製造を見越した液相合成についても検討がなされており,JIPHASEⓇに代表される疎水性保護基を利用した合成手法や,可溶性担とanofiltration を組み合わせた合成手法,複数のフラグメントを収束させる合成手法などの研究開発も盛んになされている。 ……(本文へ続く)
「第5章 核酸医薬品に必要な非臨床試験実施・留意点」
(ラボコープ・ディベロップメント・ジャパン(株) 玄番 岳践/著)
核酸医薬品は化学合成により製造されるため規制上は低分子医薬品と同じカテゴリーに属するが,一部バイオ医薬品の非臨床試験ガイドライン(ICH S6)を参考にできるともいわれている。すなわち,核酸医薬品の非臨床試験を計画する場合,
低分子医薬品及びバイオ医薬品,両方の非臨床試験の考え方を理解し,適切な非臨床試験を組み立てる必要がある。
本章では,核酸医薬品に特有の性質を踏まえ,非臨床試験の組み立て方及び留意点について解説する。
……(本文へ続く)
「第6章 核酸医薬品の動態的特性とDDS アプローチ」
(第一三共(株) 高草 英生/著)
核酸医薬が創薬モダリティの一つとして確立されてきた背景には,オリゴ核酸の薬物動態の理解とともに,修飾核酸技術やdrug delivery system(DDS)技術の進展と応用によって,生体内での安定化や標的指向性など,医薬品として望ましい薬物動態プロファイルを実現できるようになったからに他ならない。本章では,まずアンチセンスを
中心に,吸収,分布,代謝,排泄の順で薬物動態特性プロファイルを説明した後に,薬物動態関連のトピックとして
核酸医薬の薬物間相互作用,バイオアナリシス,免疫原性についても触れたい。本章の後半では,
核酸医薬品の実用化に向けたDDSアプローチについても概説する。……(本文へ続く)
「第7章 核酸医薬特許の考え方と調査」
((株)Medical Patent Research 小崎 知広/著)
……核酸医薬品は核酸モダリティそれ自体の物質特許の重要度は依然として高いものの,
オリゴ核酸に特定の修飾を与えることによる改良(選択発明)特許,
リガンドやキャリアを付与することによる改良(用途)特許,
デリバリーツール自体の特許,
修飾核酸の製法特許など,開発ステージと共に必要となり,汎用性のある周辺技術が多種多様に存在し得,低分子モダリティと比較すると物質特許以外にも数多くの出願をなす機会がある。これらの特許は製品自体を直接保護するものではないが,結果的に多数の特許で製品周りを重畳的に保護するケースが多くなり,必然的に採り得る特許戦略も異なってくる
……(本文へ続く)
「第8章 核酸医薬品の実用化事例」
「第1節 デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対するエクソン・スキップ薬の開発」
((国研)国立精神・神経医療研究センター 青木 吉嗣 武田 伸一/著)
デュシェンヌ型筋ジストロフィーは,X 連鎖性の遺伝形式をとり,DMD 遺伝子の主としてフレームシフト変異が原因で,筋細胞膜の裏打ちタンパク質であるジストロフィンが欠損する希少難病である。筆者らは,神経・筋疾患患者登録サイトRemudy を活用し,日本新薬社と共同で,DMD を対象に,エクソン53スキップ薬であるNS-065/NCNP-01(ビルトラルセン(商品名:ViltepsoⓇ))の開発を進めた。……(中略)
DMD 遺伝子のエクソン44 スキップ薬であるNS-089/NCNP-02 の開発を進め,2021 年度中に医師主導治験第1/2 相試験を成功裏に完了した。本稿では,DMD に対するエクソン・スキップ薬開発の現状と課題を述べる。……(本文へ続く)
「第2節 siRNA 医薬の開発」
(Alnylam Japan(株) 鎌倉 稔 久保 貴弘/著)
Alnylam Pharmaceuticals 社は,RNAi 技術のリーディングカンパニーとして約10年にも及ぶ研究の結果,トランスサイレチン(TTR)mRNA を標的とする2本鎖siRNA のDDS として最適化された脂質ナノ粒子(LNP)の開発に成功した。このLNP-siRNA 治療薬であるパチシランLNP(商品名:オンパットロⓇ点滴静注2 mg/mL)は,RNAi の原理を応用した世界初の医薬品として,2018年8月に米国食品医薬品局(FDA)及び欧州医薬品庁(EMA)より製造販売承認を取得した。
……(中略)
RNAi の原理やLNP 製剤のLNP-siRNA 治療薬であるパシチランLNP 及びコンジュゲート製剤のGalNAc-siRNA 治療薬であるギボシランの開発について概説する。……(本文へ続く)