リスクっていったい何であろうか?
こう言えばわかりやすいかも知れない。
リスクと問題点は違う。問題点は解決するものであり、リスクは回避・低減するものである。
つまり、問題点とは目の前にある障害のことであり、解決せざるを得ない。
それに対して、リスクとは将来起こり得る問題のことであって、回避・低減すべき
ものである。
ここで質問である。次の語群のうち、「リスク」と反対の意味を表す言葉として最もふさわしいものを選んで頂きたい。
「安心」「安全」「確実」「チャンス」「リターン」
一般的にはリスクは、不確実さのことをいう。つまり、正解は「確実」である。
経済学においては、景気予想が下に外れてもリスクであるが、上に外れてもリスク
である。宝くじに当たるのも実はリスクなのである。
ISO/IEC Guide 51によると、
「リスクとは危害の発生の確率とそれが発生したときの重大性の組み合わせ」
とある。
ここで重要なことは、危害の発生する確率であって、欠陥の発生する確率ではないことに注意しなければならない。
医薬品や医療機器の製造において、欠陥が生じることがリスクではなく、欠陥によ
って患者等が危害を受けることがリスクなのである。
例えば、ビタミン剤や栄養剤における品質の欠陥と、抗がん剤、血液製剤における
品質の欠陥では、患者に与える気概の度合いが異なる。
医療機器では、体外診断機器と放射線治療装置では、やはり危害が異なる。
リスクを判定する際には、製品を理解することから始めなければならない。
食品業界では、HACCPと呼ばれるリスク分析手法が古くから使用されてきた。
医療機器業界では、欧州で作成されたISO-14971が90年代から使用されてきた。
ところが、ICHによって医薬品業界で品質リスクマネジメントのガイドライン (ICH Q9)が作成されたのは、2005年のことである。
これだけリスクの高い業界において、20世紀中は、リスクマネジメントに関するガイドラインが存在しなかったのである。
医薬品業界では、リスクマネジメントではなく、品質リスクマネジメントと呼ぶ。
その理由は、品質の欠陥が患者に与えるリスクを管理しなければならないからである。
医療機器においては、リスクはつきものである。
ところが、日本人の特性において、ゼロリスクを要求しがちである。
リスクを完全にゼロにすることは不可能である。
マスコミは、事故を起こした企業に対して厳しくバッシングを行う。
あたかもそれ
が正義であるかのようにふるまう。
そのため、日本では企業はリスクの高い医療機器を製造したがらないし、規制当局
もリスクの高い医療機器を承認したがらない。
医療機器が年間6,000億円もの輸入超過になる要因の一つではないかと思われる。
医療機器の発展のためには、リスクが伴うのである。
リスクは完全にゼロにはできないため、受容可能なまで低減を図らなければならな
い。
「安全」とは、リスクがないことではなく、受容不可能な残留リスクがないことを
意味する。
まずリスクと問題は異なる。
では、リスクはどうやって評価するのかを述べてみたい。リスクは「重要度(Impact)」と「発現可能性(Probability)」の掛け算であらわされる。例えばImpactは高く(High)、Probabilityも高い(High)場合は、非常にリスクが高い(High×High=Very High)といえる。
またImpactは高い(High)が、Probabilityは中程度(Middle)という場合もあるだろう。
このようにImpact×Probabilityの結果でリスクの程度がはかられ、対応の優先順位が決定される。
では、Impactの程度はどうやって決定すれば良いであろうか。簡単な例えは、「誰が誰に謝るか」を考えればわかりやすい。
例えば、「担当者が別の担当者に謝る」はLow Riskである。また「事業部長がたの事業部長に謝る」はMiddle Riskかも知れない。「社長が顧客や当局に謝る」はHigh Riskであろう。
では、リスクの回避方法と軽減方法はどう考えるのか。例えば、砂浜に何個かの落とし穴が掘ってあったとする。この場合、「落とし穴を埋める」ということが「落とし穴に落ちる」というリスクを回避する方法であるが、何個あったかが不明であるので完全とは言えないかも知れない。
絶対に「落とし穴に落ちない」ためには、「岩場を歩く」か「海の中を歩く」ことであろう。しかしながらこの方法は必ずしも満足が得られないかも知れない。そこで万が一「落とし穴に落ちる」こともあるので、「ヘルメットをかぶって歩く」「助けを呼ぶために携帯電話を持って歩く」「ふたりで歩く」などの軽減方法も考えられるのである。
CSVやPart11対応は、まず十分なリスクの抽出と回避方法、軽減方法の検討が必要である。
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