GMPの3原則
GMPの3原則
GMPの3原則は下記の通りである。
- 人為的な誤りを最小限にする
- 汚染及び品質低下を防止する
- より高度な品質を保証するシステムを設計する
これらは、よく知られた言葉であるが、実は誰が言い出したのかは分かっていない。規制要件や通知等にも記載はない。我が国にGMPが導入された時にわかりやすく説明するために使用されたようである。
実際、GMP省令にも厚生労働省の通知にも、3原則という形でまとまった記述は見当たらない。GMP省令第1条(趣旨)も、この省令が薬機法に基づく基準を定めるものだと述べるだけで、原則を列挙してはいない。WHO(世界保健機関)などがGMPを広める際に、講師が自ら考えた説明ではないかという説もあるが、これも裏付けは取れていない。
出典が不明であることをうかがわせる手がかりもある。文言が資料によって少しずつ違うのである。とくに三つ目の原則は、「高い品質を保証するシステム」「より高度な品質を保証するシステム」「決められた品質を保証するシステム」など、いくつもの言い方で紹介されている。法令の条文であれば一字一句が定まっているはずであり、これほど言い回しが揺れるのは、原典を参照するのではなく、研修やセミナーを通じて人から人へ伝わってきたからではないかと考えられる。

GMPの3原則は国によっても異なる。
例えば、米国FDAでは、
- keep it clean
- check and double check
- write it and down
とされている。
一方でWHO-GMPにおける3原則は、
- 人為的ミスの軽減(ルール、教育訓練)
- 汚染と品質低下防止
- 品質を高めるシステムを構築
である。
これを見ていると、本邦におけるGMPの3原則は、WHOを参考にしたものと推察される。
本邦におけるGMPの3原則の意図するところは、
1. 人為的な誤りを最小限にする
文書による作業の標準化(SOP)、教育訓練など
人は一定の確率で必ず間違える。だから記憶に頼らず、SOP(標準作業手順書)や指図書に基づいて作業し、作業の直後に記録し、重要な作業はダブルチェックする。例えば原料の秤量を誤れば、5ミリグラム錠を作るつもりが10ミリグラム錠になりかねない。
2.汚染及び品質低下を防止する
交叉汚染防止
洗浄、ラインクリアランス、装置メンテナンスなど
ある製品の成分が別の製品に混ざる交叉汚染の防止のほか、前のロットの原料や資材が残っていないことを確かめるラインクリアランスや、空気中の微粒子や微生物から製品を守る管理もこれに含まれる。
3 より高度な品質を保証するシステムを設計する
逸脱・変更管理、製品品質照査、マネジメントレビュなど
である。三つ目の原則は、人が間違えることを前提に、間違いを繰り返さない仕組みを作るという考え方である。
米国FDAが世界で初めてGMPを法制化したのは1963年であった。これは1960年~1962年に発生したサリドマイド事件をきっかけとしている。
1969年には、WHOがGMPを制定し、加盟国に対して医薬品貿易においてGMPに基づく証明制度を採用・実施するよう勧告した。
本邦においては、1974年に当時の厚生省が「医薬品の製造および品質管理に関する基準について」(厚生省薬務局長通知 薬発第801号)において、医薬品製造業者に対してその実施を指導したのが最初である。 おそらくその際にWHO GMPが参照されたものと思われる。
その後、1980年9月には厚生省令として施行されて法制化された。1994年4月に製造業の許可の要件となり、2005年4月からは製造販売承認の要件となった。製造業者が守るべき基準として始まり、許可の要件、承認の要件へと、段階的に位置づけが重くなってきたことがわかる。2021年には大きな改正も行われている。
一つ目の原則が最初に来る理由
3原則の並び順にも意味があると考えられる。一つ目に人為的な誤りの防止が置かれていることである。医薬品の品質問題というと不正製造の事件が大きく報じられるが、患者の立場から見れば、故意の不正で品質の悪い薬が出荷されても、誰も気づかないミスで出荷されても、健康への影響は同じである。そして日々の製造でより起こりやすいのは、悪意のない誤りの方である。
人の注意には限りがあり、慣れた作業ほど思い込みや手順の省略が起きやすい。だからこそ、ヒューマンエラーを防ぐことが品質管理の基本中の基本になる。二つ目と三つ目の原則も一つ目と切り離せない。洗浄の手順が守られなければ汚染は防げず、間違いを前提にした仕組みがなければ誤りは繰り返される。
3つは独立した原則というより、互いに支え合う関係にあると見る方が実態に近い。もっとも、この順番が意図されたものかどうかも、出典がない以上確かめようがない。
3原則が生き残った理由と現行GMP省令との対応
3原則が出典不明のまま生き残った理由は、「地図としての便利さ」にあると考えられる。現行のGMP省令は、医薬品の製造所に関する通則だけでも20を超える条文を持つ。初めて学ぶ人が全体像をつかむには、3本の柱という単純な地図がちょうどよい。
実際、3原則を現行の省令に当てはめてみることもできる。一つ目は手順書等(第8条)や教育訓練(第19条)に、二つ目は交叉汚染の防止(第8条の2)や構造設備(第9条)に対応する。三つ目は医薬品品質システム(第3条の3)、変更の管理(第14条)、逸脱の管理(第15条)などに対応すると見ることができる。
入口としては有用、ただし根拠にはならない
一方で、限界も意識しておきたい。2021年の改正で入った承認事項の遵守や品質リスクマネジメントといった考え方は、3原則の言葉からは直接見えにくい。また、監査や当局の調査で「3原則に基づいて管理している」と説明しても、法令上の根拠を示したことにはならない。根拠を問われたら、GMP省令の条文と通知に立ち返る必要がある。
新人研修で3原則を教えるなら、「これは法令の文言ではない」と一言添えるとよい。3原則は、あくまで条文を理解するための補助線である。補助線だけを覚えて条文を読まなければ、改正で加わった新しい要求を見落としかねない。とくに2021年の改正以降は、品質方針や品質目標の設定、資源の配分など、経営層の関与が省令で求められており、現場の3原則だけでは語りきれない領域が広がっているのである。
製薬企業に機器を納める立場であれば、顧客が3原則を口にしたとき、その背後にある具体的な条文を確認するとよい。汚染防止の話なら、交叉汚染の防止を定めた第8条の2や、構造設備の清浄の確認を求める第10条が関係してくる。
まとめ
- GMPの3原則は、人為的な誤りの最小化、汚染・品質低下の防止、品質を保証するシステムの設計の3つである
- 省令や通知にはその形の記述がなく、誰が言い出したのかは確認できない
- 入門の地図としては有用だが、法令上の根拠を示すときは省令の条文に立ち返る
出典がわからなくても、長く使われてきた言葉には、それなりの理由がある。便利な要約と、守るべき条文とを区別して使いこなしたい。
関連商品
QMS工房(QMSを作る)業種・許可・製品に合わせて、規程・手順書・様式の一式をご提案し、作成します(見積無料)
【ビデオ・VOD】具体的な事例で学ぶGMP実践セミナー当社SHOP
[書籍]【信頼性基準適用試験/GLP/GMP】データインテグリティに適合するための電子/紙データ・記録の運用管理とSOP作成手法当社SHOP
【ビデオ・VOD】データインテグリティの具体的な手順書作成セミナー 【データインテグリティ書籍付】当社SHOP
【ビデオ・VOD】改正GMP省令対応の「管理監督者のGMP教育」/「企業文化」の見直し醸成セミナー当社SHOP
この分野の解説動画
この記事は参考になりましたか?

この記事へのコメントはありません。