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データインテグリティに関するFDAの期待と指導の変遷

FDAはデータインテグリティ(以下DI)に対して、一貫して同じ強度で臨んできたわけではない。1997年に21 CFR Part 11 を公布して電子記録・電子署名の要件を定め、2003年には自ら運用裁量(enforcement discretion)を表明して要求を絞り込み、2016年以降はCGMP違反としてのDIを正面から扱う文書を発出した。本稿では、FDAの姿勢の変遷を連邦官報の一次記録に基づいて年表として整理し、あわせてMHRA・PIC/S・WHO・EMAの各DIガイダンスとの関係を対照する。

出発点 ― 1997年の21 CFR Part 11

FDAは1997年3月20日、電子記録・電子署名に関する最終規則を公布した(62 FR 13430、Docket No. 92N-0251)。規則本文は同官報の13464頁から始まる。発効日は1997年8月20日である。この規則は、一定の要件を満たす電子記録・電子署名を紙の記録および手書き署名と同等のものとしてFDAが受け入れるための基準を定めたものであり、FDAの全プログラム領域に適用される。

Part 11 の成立経緯と個別条項の解釈は「21 CFR Part 11が生まれた経緯」「Part 11の4つの解けない課題」で扱っているため、本稿では立ち入らない。

2003年の方向転換 ― Scope and Application ガイダンス

発効後、Part 11 の適用範囲と解釈をめぐって産業界とFDAの間に大きな議論が生じた。連邦官報は当時の懸念を、(1) 電子技術の利用を不必要に制限すること、(2) 想定外の水準まで遵守コストを引き上げること、(3) 公衆衛生上の便益なく技術革新を阻害すること、の三点にまとめている。とりわけ、バリデーション、監査証跡、記録の保存、記録の複製、およびレガシーシステムの各領域で懸念が強かった。

FDAはヒト用・動物用医薬品および生物学的製剤のCGMPイニシアチブの一環としてPart 11 の再検討に着手し、2003年2月25日に草案を公示(68 FR 8775)、同年8月に最終版を発行して9月5日に連邦官報で告示した(Docket Nos. 2003D-0060)。この告示で、FDAは以下を明らかにしている。

本ガイダンスは、バリデーション、監査証跡、記録の保存、記録の複製に関するPart 11 の要件について運用裁量を行使することを表明するものである。また、Part 11 の発効日である1997年8月20日より前に稼働していたシステム(一般に既存システムまたはレガシーシステムと呼ばれる)については、Part 11 の再検討を行っている間、いかなるPart 11 要件についても執行措置を勧告または実施しない意向である。ただし、記録は依然として、根拠となる述部要件(predicate rules)に従って維持または提出されなければならない。

連邦官報 68 FR 52779(2003年9月5日、FR Doc. 03-22574)より要約・和訳

同じ告示で、FDAは草案からの修正点として「Part 11 は引き続き有効であり、運用裁量はガイダンスに示された特定の要件または状況にのみ適用されることを強調した」と述べている。この動きにあわせて、Compliance Policy Guide 7153.17 と、バリデーション・用語集・タイムスタンプ・電子記録の維持に関する各Part 11 草案ガイダンスが撤回された(電子的複製に関する草案は2003年2月4日、68 FR 5645で撤回)。CPG 7153.17 については「Compliance Policy Guide 7153.17とは」を参照されたい。

運用裁量は「免除」ではない

2003年のガイダンスは、Part 11 の要求を撤回したものではない。むしろ「その他のPart 11 のすべての規定については執行する意向である」と明記している。運用裁量の実際の範囲と、査察で何が見られるのかについては「Part11査察の再開」で詳しく扱う。

2016年から2018年 ― CGMP違反としてのDI

2010年代に入ると、FDAはCGMP査察においてDIに関わる違反を頻繁に観察するようになる。FDAは2016年4月15日、草案ガイダンス『Data Integrity and Compliance With CGMP』を公示した(Docket No. FDA-2016-D-1113)。連邦官報の告示は、この草案が「近年のCGMP査察で観察されたDIに関わるCGMP違反の増加に対応するもの」であると述べている。

草案はコメントを踏まえて改訂され、2018年12月13日、最終版『Data Integrity and Compliance With Drug CGMP: Questions and Answers』として告示された(Docket No. FDA-2018-D-3984)。2019年3月12日には正誤の告示も出されている。この最終版はQ&A形式をとり、DIがCGMP遵守とどう関係するかを具体的な問いに答える形で示している。

近年、FDAはCGMP査察においてDIに関わるCGMP違反をますます多く観察している。これは憂慮すべきことである。DIの確保は、医薬品の安全性、有効性および品質を保証するという産業界の責任、ならびに公衆衛生を守るFDAの能力の重要な構成要素だからである。こうしたDIに関わるCGMP違反は、ウォーニングレター、輸入警告(import alert)、同意判決(consent decree)を含む多数の規制措置につながっている。

連邦官報 83 FR 64132(2018年12月13日、FR Doc. 2018-26957)より要約・和訳

ここで注目すべきは、DIが独立した新しい規制として導入されたのではなく、既存のCGMP(21 CFR Part 210・211、PET用医薬品については212)の解釈として位置づけられている点である。DIの指摘は、新法違反ではなくCGMP違反として立つ。

2024年 ― 臨床試験領域への展開

DIとPart 11 に関するFDAの整理は、その後、臨床試験領域にも及んだ。FDAは2017年6月21日に草案(82 FR 28277)、2023年3月16日に改題した草案(88 FR 16268)を公示したうえで、2024年10月2日に最終版『Electronic Systems, Electronic Records, and Electronic Signatures in Clinical Investigations: Questions and Answers』を告示した(Docket No. FDA-2017-D-1105)。この最終版は、2007年5月発行の『Computerized Systems Used in Clinical Investigations』を置き換えている。

連邦官報によれば、この最終版のねらいには「監査証跡の使用や記録の保護を含む、DIおよびデータセキュリティの統制を適用・実装するための推奨事項を更新すること」および「2003年8月のScope and Application ガイダンスに記載された、電子システムのバリデーションに対するリスクベースアプローチの推奨を拡張すること」が含まれる。さらに草案からの変更点として「規制対象事業者に対するFDA査察の焦点を明確化した」ことが挙げられている。

表1 FDAのDI・電子記録関連文書の年表
年月日文書位置づけ
1997年3月20日21 CFR Part 11 最終規則(62 FR 13430)電子記録・電子署名の受入れ基準を規定。発効は1997年8月20日
2003年2月25日Scope and Application 草案の公示(68 FR 8775)同時にCPG 7153.17 と複数のPart 11 草案ガイダンスを撤回
2003年9月5日Scope and Application 最終版の告示(FR Doc. 03-22574)ガイダンス本体は2003年8月発行。バリデーション・監査証跡・記録保存・記録複製に運用裁量を表明
2016年4月15日Data Integrity and Compliance With CGMP 草案Docket No. FDA-2016-D-1113。CGMP査察でのDI違反増加への対応
2017年6月21日臨床試験におけるPart 11 のQ&A草案(82 FR 28277)後の2024年最終版の原型
2018年12月13日Data Integrity and Compliance With Drug CGMP: Q&A 最終版Docket No. FDA-2018-D-3984。DIをCGMP解釈として確立。2019年3月12日に正誤告示
2024年10月2日臨床試験における電子システム・電子記録・電子署名のQ&A 最終版Docket No. FDA-2017-D-1105。2007年の『Computerized Systems Used in Clinical Investigations』を置換

ウォーニングレターに見る指摘の傾向

DI関連の指摘として繰り返し現れるのは、試験データの削除や上書きが可能な設定のままの分析機器、無効化された、または一度もレビューされていない監査証跡、自らの記録を改変できる管理者権限を持つ分析者、行為の帰属を特定できない共有アカウント、そして正式な試験の前に「試し打ち」を行い都合の悪い結果を記録に残さない運用、といった類型である。

指摘の件数や比率について、確定的な統計をここで示すことは避ける。ウォーニングレターは公開されており個別の確認は可能だが、集計方法によって数値が大きく変動し、当局が公式な集計値を公表しているわけではないためである。

MHRA・PIC/S・WHO・EMAとの関係

DIに関する規制当局の期待は、FDA単独で形成されたものではない。むしろ、各国当局のガイダンスは相互に参照しあいながら収れんしてきた。MHRAは自らのガイダンスを「PIC/S、WHO、OECD、EMAのガイドラインおよび規則に対する英国の companion document(併読文書)」と位置づけており、意識的に調和が図られている。

表2 主要規制当局・国際機関のDIガイダンス対照
発行主体文書名版・発効特徴
FDA(米国)Data Integrity and Compliance With Drug CGMP: Questions and Answers2018年12月Q&A形式。医薬品CGMPの解釈として構成され、独立した新規制ではない
MHRA(英国)‘GXP’ Data Integrity Guidance and DefinitionsRevision 1、2018年3月GLP・GCP・GMP・GDP・GPvPを横断。用語定義が詳細で、データガバナンスと組織文化に重点
PIC/SGood Practices for Data Management and Integrity in Regulated GMP/GDP Environments(PI 041-1)2021年7月1日発効査察官向けの実務指針。ALCOA+の各属性を体系的に整理
WHOGuideline on data integrity(Annex 4, TRS No.1033)2021年TRS No.996 Annex 5(2016年)を置換。データガバナンス・経営層の責任を明文化
EMA(EU)GMP/GDPに関するQ&Aの「Data integrity」項目、およびEU GMP Annex 11Annex 11 は2011年版が現行Annex 11 はコンピュータ化システム全般を規定。改訂に向けたコンセプトペーパー(EMA/INS/GMP/778340/2022)が公表されている

実務上の含意は明快である。FDAのガイダンスだけを読んでいれば足りる、という時代ではない。MHRAとWHOは用語定義とデータガバナンスの記述が厚く、PIC/Sは査察官の視点が読み取れる。三者を突き合わせて、自社の手順書がどの水準に立っているかを確認しておきたい。

日本における位置づけ

日本では、電子記録・電子署名について「医薬品等の承認又は許可等に係る申請等における電磁的記録及び電子署名の利用について」(平成17年4月1日 薬食発第0401022号、いわゆるER/ES指針)が現在も有効である。コンピュータ化システムの管理については「医薬品・医薬部外品製造販売業者等におけるコンピュータ化システム適正管理ガイドライン」(平成22年10月21日 薬食監麻発第1021011号、平成24年4月1日適用)がある。さらにGMP省令は、令和3年厚生労働省令第90号による改正(2021年4月28日公布、同年8月1日施行)により、第20条第2項でDIに関する業務を明文化した。

2026年時点で取るべき対応

  1. 「2003年で止まった理解」を更新する運用裁量の表明だけを根拠に社内の判断基準が組まれていないかを確認する。2016年以降のCGMP解釈としてのDIが、現在の査察の主戦場である。
  2. DIをCGMP/QMSの文書体系に接続するDIを独立したテーマとして切り離さず、逸脱管理、CAPA、変更管理、教育訓練の各手順から参照される位置に置く。指摘はCGMP違反として立つため、根拠条項の対応づけを明示しておく。
  3. 臨床試験領域を点検する2024年10月の最終版ガイダンスは2007年の文書を置き換えている。EDC、ePRO、デジタルヘルス技術、ITサービスプロバイダとの取決めを含め、臨床開発部門の手順が旧文書のままになっていないかを確認する。
  4. 複数当局のガイダンスを突き合わせるFDA・MHRA・PIC/S・WHOの4文書を並べ、用語定義(生データ、真正なコピー、監査証跡、ハイブリッドシステム)が自社手順書と一致しているかを点検する。あわせてER/ES指針、コンピュータ化システム適正管理ガイドライン、GMP省令第20条第2項の要求が欠落していないかも確認する。

まとめ

FDAのDIに対する姿勢は、1997年のPart 11 公布、2003年の運用裁量表明、2016年から2018年にかけてのCGMP解釈としての整理、2024年の臨床試験領域への展開という四つの段でとらえるとわかりやすい。2003年の運用裁量は要求の撤回ではなく、対象を絞り込んだうえで残る規定の執行を明言したものである。現在のDI指摘はCGMP違反として構成されるため、DIの手順は品質システム全体に組み込まれていなければならない。

DIの概念とALCOA+の各原則は「データインテグリティと不正」、手順書への落とし込みは「データインテグリティに関するSOP作成の留意点」、Part 11 の執行の現況は「Part11査察の再開」で扱っている。

出典

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では、データが誠実ということは何を意味するのでしょうか。
その答えは、規制当局にとってデータが信用できるということです。
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一方において、FDAは1997年に21 CFR Part11を発行し、電子記録の信頼性に関する要求事項を明らかにしました。
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特に問題となったのは、コンプライアンスコストです。
規制当局は、患者の安全性を担保するために規制要件を強化する必要がありますが、規制要件を強化しすぎるとコンプライアンスコストを高める結果となってしまいます。
製薬企業が負ったコンプライアンスコストは薬価に転嫁され、結果的には患者負担となってしまいます。
すなわち、いたずらにコンプライアンスコストを高めてしまうことは、逆に患者に負担を強いる結果となってしまうのです。
そこでFDAは、2003年に新しい医薬品監視指導方針として「リスクベースドアプローチ」という方法を発表しました。

FDAの最新のPart11の期待と指導はどのようになっているのでしょうか。
またFDAの査察官は、どのように電子記録の不正を見破るのでしょうか。

2015年には、イギリスのMHRAが「MHRA Data Integrity Definitions and Expectations」と呼ばれるガイダンスを発行し、2018年に改定されました。
その内容は非常に参考になります。
今後は世界の規制当局が同じようにデータインテグリティに関する期待を述べる機会が増えると思われます。
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データインテグリティ手順書は企業で1冊作成すれば良いのではありません。
すべての組織、手順書の中にデータインテグリティの要件を追記することを求めています。
では、いったいどのような要件と手順を各SOPに記載すれば良いのでしょうか。
本データインテグリティ規程・手順書のひな形は、貴社の各手順書にデータインテグリティの要件を追記するためルールを規定しています。また要件を追記するための手順と要件を明らかにしています。”]

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しかしながら,多くの製薬企業・医療機器企業で業務を行っている方々から,講演・書籍を執筆しているコンサルタントに至るまで,適切にデータインテグリティを理解している人は少ないと思われる。本書は,データインテグリティの真意を適確に解説し,多くの思い込みや勘違いを正すために執筆した。

筆者は,多くの場合,データインテグリティは,「不正」に焦点が当てられているように感じている。しかしながら,データインテグリティにおいて焦点を当てるべきは,不正のみではないのである。 ・・・中略・・・

データインテグリティの目的の1つとして,データが改ざんされていないことを保証することが挙げられる。上述の通り,患者の安全性にとって,故意によるデータの改ざんも入力ミスや転記ミスといった事故による改ざんも等しく問題となる。
多くのデータインテグリティに関するセミナーや書籍においては,悪意のある不正な改ざんに焦点が当たり過ぎている感がある。
しかしながら,不正による改ざんがそんなに多いわけではない。製薬企業として確立し対応しなければならないのは,不正よりも悪意のない改ざんである。 ・・・中略・・・

本書では,データインテグリティを正しく理解した上で,患者の安全性を担保できるよう,データインテグリティの要求事項を適切に反映したSOP の作成方法についてわかりやすく解説した。本書が製薬業界における安全性担保の一助になれば光栄である。”]

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