コンピュータ化システムとは
「コンピュータ化システム」(Computerized System)とは、コンピュータそのものを指す言葉ではない。ハードウェアとソフトウェアの集合体である「コンピュータシステム」に、それを使って行われる業務プロセス、周辺機器、手順、要員までを含めたより広い範囲を指す用語である。この範囲の取り方を誤ると、バリデーションの対象を機器だけに限定してしまい、運用手順や要員の教育訓練が管理の外へ落ちる。本稿では、コンピュータ化システムの定義、コンピュータシステムとの違い、GxP該当性の判断、システムの分類と例、そしてライフサイクルの考え方を整理する。バリデーションの具体的な進め方はコンピュータ化システムのバリデーションとはで扱う。
コンピュータ化システムの定義
国内でこの用語を定義しているのは、厚生労働省の「医薬品・医薬部外品製造販売業者等におけるコンピュータ化システム適正管理ガイドライン」(平成22年10月21日 薬食監麻発1021第11号、平成24年4月1日適用)の用語集である。
コンピュータ化システム(Computerized System)
コンピュータシステムで統合された工程又は作業、及びコンピュータシステムにより実現される機能を利用する業務プロセス。
コンピュータシステム
特定の機能又は一連の機能を実行するために、設計し、組み立てられたハードウェア及び関連するソフトウェアのグループ。
2つの定義を並べると、境界がはっきりする。コンピュータシステムは「もの」であり、コンピュータ化システムは「ものを使って回る業務」である。サーバとアプリケーションだけを見るのではなく、そのアプリケーションが動かしている製造工程、そこで作成される記録、記録を確認して承認する人、承認の手順までを一体として捉えるのが、コンピュータ化システムという概念である。
コンピュータシステムとの違い
| 比較項目 | コンピュータシステム | コンピュータ化システム |
|---|---|---|
| 指すもの | ハードウェアと関連ソフトウェアのグループ | コンピュータシステムで統合された工程・作業と、その機能を利用する業務プロセス |
| 含まれる要素 | サーバ、端末、周辺機器、OS、アプリケーション、ネットワーク機器 | 左記に加えて、業務手順、標準操作手順書、運用管理体制、要員とその教育訓練、対象となる工程そのもの |
| 問われること | 設計どおりに作られ、据え付けられ、動作するか | その業務が意図した結果を継続的に生み出すか |
| 不具合の典型 | ハードウェア故障、プログラムの欠陥、設定誤り | 左記に加えて、手順の不備、権限設定と業務実態の乖離、教育訓練の不足、他システムとの連携の断絶 |
| ガイドラインでの扱い | 「8.コンピュータシステムの廃棄」のように、物としての処分を論じる場面で用いられる | 開発・検証・運用管理の対象として、ガイドライン全体を通じて用いられる |
用語の使い分けはガイドライン自身が行っている
適正管理ガイドラインは、第4章から第7章まで一貫して「コンピュータ化システム」を用いているが、第8章の表題だけは「コンピュータシステムの廃棄」である。廃棄されるのはハードウェアとソフトウェアという物であり、業務プロセスは廃棄されるのではなく別の形へ移るからである。同じガイドラインの中で語を使い分けている以上、社内文書でも両者を混同して使わないほうがよい。
この違いが実務で効いてくる場面を1つ挙げる。試験機器に付属する測定ソフトウェアを更新したとする。コンピュータシステムの視点だけで見れば、新しいバージョンがインストールされ、機器が正しく測定値を返せば作業は完了である。しかしコンピュータ化システムの視点では、更新によって出力ファイルの形式が変わっていないか、その形式を前提にしていた後工程のシステムが受け取れるか、標準操作手順書の画面説明が古くなっていないか、操作する要員に周知と教育訓練が必要か、までが検討対象になる。後者を落とすことで生じる問題が、実務上の逸脱の多くを占める。
GxP該当性をどう判断するか
社内のすべてのシステムに同じ管理を課す必要はない。まず判断すべきは、そのシステムが規制の対象となる業務(GxP業務)に関わっているかどうかである。適正管理ガイドライン2.は、その適用範囲を「コンピュータ化システムを使用してGQP省令及びGMP省令が適用される業務を行う製造販売業者等に適用する」と定め、対象となるコンピュータ化システムの例として7類型を挙げている。
| 類型 | ガイドラインが挙げる対象システムの例 | 身近な例 |
|---|---|---|
| (1) | 医薬品、医薬部外品の市場への出荷の可否の決定に係るシステム及び市場への出荷に係る記録を作成、保存管理するためのシステム | 出荷判定ワークフロー、出荷記録管理システム |
| (2) | 製造指図書、製造に関する記録等を作成及び保存管理するためのシステム | 電子バッチレコード、製造指図・記録システム |
| (3) | 製造工程を制御又は管理するためのシステム及びその管理データを保存管理するためのシステム | 製造装置の制御システム、工程監視システム |
| (4) | 原材料及び製品(中間製品を含む)の保管、出納等の生産を管理するシステム | 倉庫管理システム、生産管理システムの在庫機能 |
| (5) | 品質試験に用いる機器を制御又は管理するためのシステム並びに品質試験結果及び管理データを保存管理するためのシステム | 分析機器の制御・データ収集システム、試験データ管理システム |
| (6) | 空調、製造用水製造設備など、製品の品質に重大な影響を及ぼす可能性のある製造支援設備・施設を制御又は管理するためのシステム及びその管理データを保存管理するためのシステム | 空調監視システム、製造用水の水質監視システム |
| (7) | 文書(手順書類、品質標準書、製品標準書等)を作成、承認、保存管理するためのシステム | 文書管理システム、電子承認ワークフロー |
この7類型を眺めると、判断の軸が見えてくる。製品の品質を左右する判断・制御を担うか、規制上保存が必要な記録を作成・保存するかのいずれかに該当すれば、対象と考えるのが安全である。逆に、これらのいずれにも当たらないシステム、たとえば人事給与や社内広報のシステムは対象外となる。ガイドライン2.は、対象外となるコンピュータ化システムを別紙2に記載するとしている。
判断に迷いやすいのが、表計算ソフトで作成したファイルである。単なる計算の下書きであれば対象外だが、規格判定の計算を行い、その結果が試験成績書の根拠になっているなら、上記(5)に該当するコンピュータ化システムの一部として扱う必要がある。ファイル1つが対象になるかどうかは、ソフトウェアの種類ではなくその出力が何に使われるかで決まる。実務上の留意点はExcelを使用する場合の管理留意点にまとめている。
システムの分類──ソフトウェアカテゴリ
GxP該当性が確認できた次の段階が、システムの分類である。適正管理ガイドライン1.3は、開発・検証・運用の各段階で実施する内容を決定するために、「システムを構成するソフトウェアの種類に応じて、あらかじめソフトウェアカテゴリを決定する」ことを求めている。カテゴリの分類基準とカテゴリごとの一般的な対応の例は、別紙2「カテゴリ分類表と対応例」に置かれている。
ここで注意したいのは、カテゴリだけでは検証範囲が決まらない点である。ガイドライン4.3のシステムアセスメントは、次の3つを実施するよう求めている。
| アセスメント | 問うこと | 結果が影響する範囲 |
|---|---|---|
| ソフトウェアカテゴリ分類 | そのソフトウェアはどの程度カスタマイズされているか。市販品をそのまま使うのか、設定して使うのか、一から作ったのか | 作成すべき仕様書の種類と、テストの深さ |
| 製品品質に対するリスクアセスメント | そのシステムが誤動作したとき、製品品質・患者安全・データの信頼性にどのような影響が及ぶか | 検証の厚み、重点を置くべき機能の特定 |
| 供給者アセスメント | 供給者の品質保証体制と実績はどうか。供給者監査が必要か、その方法は実地か書面か | 供給者の成果物をどこまで引用できるか、監査の要否 |
ガイドラインの用語集は、システムアセスメントを「ソフトウェアの複雑性や開発方法、当該システムにより製造される製品の安全性や品質への影響の度合い、又は当該システムにより作成、保存される電子記録の重要度、供給者のシステム開発過程での品質保証の状況等を総合的に評価すること」と定義している。「総合的に」という語が示すとおり、カテゴリという1つの軸で機械的に決めるものではない。この点の詳細はコンピュータ化システムのバリデーションとはを参照されたい。
コンピュータ化システムのライフサイクル
適正管理ガイドライン1.1は、「コンピュータ化システムの開発から、検証、運用管理及び廃棄までの流れを総合してコンピュータ化システムのライフサイクルという」と定義し、その全体構成を別紙1「コンピュータ化システムのライフサイクルモデル」に示している。ライフサイクルとして捉えることの意味は、導入時に検証すれば終わりではないという点にある。
| 段階 | 主な活動 | 作成する主な文書 |
|---|---|---|
| 方針の設定 | 基本方針、システム台帳の作成、責任体制と役割の明確化 | コンピュータ化システム管理規定 |
| 開発 | 開発計画、要求仕様の作成、システムアセスメント、機能仕様・設計仕様の作成、プログラム作成とテスト、システムテスト、受入試験(FAT・SAT) | 開発計画書、要求仕様書、機能仕様書、設計仕様書、各テスト計画書・記録 |
| 検証 | DQ・IQ・OQ・PQの実施、適格性評価の一部省略と引用の判断 | バリデーション計画書、各適格性評価計画書・報告書、バリデーション全体報告書 |
| 運用管理 | 操作、保守点検、セキュリティ管理、バックアップ及びリストア、変更の管理、逸脱(システムトラブル)の管理、教育訓練、自己点検 | 運用管理基準書、標準操作手順書、各記録 |
| 廃棄 | データ移行、セキュリティ確保、ハードウェア・ソフトウェア・データ・文書類の廃棄、完了判断 | 廃棄計画書、廃棄記録 |
この5段階のうち、実務で手薄になりやすいのが最初と最後である。
最初の「方針の設定」でつまずくと、システムごとに検証の深さがばらつく。ガイドライン3.は、コンピュータ化システム管理規定に、目的・適用範囲・システム台帳の作成・基本的な考え方(ソフトウェアのカテゴリ分類、製品品質に対するリスクアセスメント、供給者アセスメント、各段階で実施すべき項目、廃棄に関する事項)・責任体制と役割・作成すべき文書とその管理方法・業務完了の確認及び承認の手続きを記載するよう求めている。個々のシステムのバリデーション計画書を書き始める前に、この規定があるかどうかを確認したい。
最後の「廃棄」は、ガイドラインが第8章として独立させている段階である。廃棄計画書には、責任体制と役割、廃棄対象とするコンピュータシステム、データの移行に関する事項、セキュリティに関する事項、廃棄方法(ハードウェア、ソフトウェア、データ、手順書・記録・契約書等の文書類)、廃棄完了の判断基準を記載する。とくにデータの移行は、GMP省令が定める記録の保管期間との関係で問題になりやすい。システムを止めた後も記録の保管義務は残るため、旧システムでしか読めない形式のまま保管していないか、移行後も見読性が確保されているかを、廃棄計画の段階で確かめておく必要がある。
変更の管理はライフサイクルを再び回す起点になる
ガイドライン6.6は、変更の影響を評価した結果バリデーションが必要と判断された場合には、「リスクの程度に応じて『4.開発業務』及び『5.検証業務』に戻ってバリデーションを実施すること」と定めている。ライフサイクルは一方向の直線ではなく、変更のたびに開発・検証の段階へ戻る循環構造である。なお同項は、GMP省令に係るシステムの変更管理はGMP省令の変更管理手順に従って運用してよいとしつつ、ガイドラインが挙げる4項目の内容を含むことを条件としている。逸脱(システムトラブル)の管理についても同様の関係が置かれている。
「コンピュータ化システム」を広く取ることの意味
ここまで見てきたように、コンピュータ化システムという概念は意図的に広い。その理由は、品質問題の原因が機器の外側にあることが多いという経験にある。
システムそのものは仕様どおり動いていても、権限設定が退職者を含んだままになっていれば記録の信頼性は損なわれる。バックアップは取れていても、リストアを試したことがなければ障害時に復旧できない。手順書が更新されていなければ、画面と手順が食い違ったまま要員が独自の操作を続ける。これらはいずれもコンピュータシステムの不具合ではないが、コンピュータ化システムの不備である。
適正管理ガイドラインが運用管理業務(第6章)に、保守点検・セキュリティ管理・バックアップ及びリストア・変更の管理・逸脱の管理・教育訓練という6つの領域を並べているのは、この認識の反映である。CSVを「導入時のテスト」と捉えている組織と、「ライフサイクル全体の管理」と捉えている組織とでは、5年後のシステムの状態が大きく異なる。
まとめ
コンピュータ化システムとは、ハードウェアとソフトウェアの集合である「コンピュータシステム」に、それが統合した工程・作業と、その機能を利用する業務プロセスまでを含めた概念である。GxP該当性は、製品品質を左右する判断・制御を担うか、規制上保存が必要な記録を作成・保存するかで判断し、適正管理ガイドラインは対象システムの例を7類型示している。検証範囲はソフトウェアカテゴリ分類・製品品質へのリスクアセスメント・供給者アセスメントの3つを総合して決める。ライフサイクルは方針設定・開発・検証・運用管理・廃棄の5段階で、変更が生じるたびに開発・検証へ戻る循環構造をなす。
2026年時点で取るべき対応
- システム台帳に「業務プロセス」の欄を設ける台帳がサーバ名とアプリケーション名だけの一覧になっていないか確認する。そのシステムがどのGxP業務を支えているか、どの記録を作成しているかを併記して初めて、コンピュータ化システムの台帳になる。
- GxP該当性の判断根拠を記録に残す「対象外」と判断したシステムこそ、その根拠を書き残す。ガイドライン2.の7類型のいずれにも該当しないという判断は、後から説明を求められる。該当性判定シートを台帳と対にして運用する。
- クラウドサービスの範囲を定義し直すSaaSやクラウド基盤では、供給者が管理する範囲と自社が管理する範囲の境界が契約で決まる。コンピュータ化システムとして自社が保証すべき範囲がどこまでかを、供給者アセスメントと合わせて文書化する。GAMP 5はSecond Edition(2022年7月)でクラウドを扱っている。
- アクセス権限の棚卸しを定期業務に組み込むガイドライン6.4は、アクセス権限の設定と不正アクセスの防止、識別構成要素の機密保護、記録の作成・保管を求めている。人事異動や退職に追随できているかは、システムの機能ではなく運用の問題である。
- リストアを実際に試すバックアップの取得記録はあってもリストアの実施記録がない組織は多い。ガイドライン6.5はバックアップとリストアの双方を求めている。年に一度は実際に復元してみて、記録に残す。
- 廃棄予定システムの記録保管を先に設計する更新や統廃合を予定しているシステムについて、GMP省令が求める保管期間中、記録の見読性をどう確保するかを廃棄計画書に書く。移行後の形式で読めることを確認してから旧システムを止める。
出典
- 「医薬品・医薬部外品製造販売業者等におけるコンピュータ化システム適正管理ガイドラインについて」(平成22年10月21日 薬食監麻発1021第11号、平成24年4月1日適用)/厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb6573(2026年8月20日取得。定義・適用範囲・章構成は同ガイドライン本文による)
- 「医薬品・医薬部外品製造販売業者等におけるコンピュータ化システム適正管理ガイドラインに関する質疑応答集(Q&A)について」(平成22年10月21日 事務連絡)/厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb6574
- 医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成16年厚生労働省令第179号)第20条・第22条・第30条(記録の保管期間)/e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/416M60000100179(2026年8月20日に法令APIで取得)
- 医薬品、医薬部外品、化粧品及び再生医療等製品の品質管理の基準に関する省令(平成16年厚生労働省令第136号)/e-Gov法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/416M60000100136
- ISPE GAMP 5: A Risk-Based Approach to Compliant GxP Computerized Systems, Second Edition(2022年7月、404頁)/International Society for Pharmaceutical Engineering https://ispe.org/publications/guidance-documents/gamp-5-guide-2nd-edition
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しかしながら、GAMP 5 は難解です。GAMP 5 は、ちゃんと理解できる専門家が、専門的知識によって解釈してはじめてSOP に書き下ろすことができます。
間違ってはならないことは、GAMP 5 のフレーズをコピー&ペーストしてもSOP にはならないということです。
意外なことに、本書を発行して以降、GAMP 5 に関する解説本は出版されていないように思います。
改定版では、GAMP 5 の解説に重点を置き、全面的に改定を行いました。
たとえば、GAMP 5 では、DQ、IQ、OQ、PQ といった、適格性評価に関する用語が使われていない理由や、リスクベースアプローチを採用している理由などです。それらの経緯について、また意義についてもできるだけ詳しく解説を行っています。
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