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ER/ES指針関連

厚労省ER/ES指針対応ポリシー(抜粋)

厚労省ER/ES指針(平成17年4月1日 薬食発第0401022号)に対応するには、個別のシステムに手を入れる前に、全社の考え方を定めたポリシーが要る。ポリシーは指針の条文を写すものではなく、指針が示す要求を自社の言葉で引き受け、以下に続くガイドライン・SOPへ橋渡しする文書である。本稿は、そうしたポリシーの構成例(抜粋)を2026年8月時点の法令名・規制環境に合わせて示すものである。あくまでサンプルであり、指針に完全対応したものではない。必要な事項のうちいくつかは割愛している。

1. ポリシーを書く前に直すべき「古い記載」

既存のER/ES指針対応ポリシーには、2005年前後に作成されたまま更新されていないものが多い。改訂に着手する前に、以下の点を機械的に洗い出しておくとよい。

旧ポリシーによくある記載2026年8月時点の正しい記載根拠
薬事法/薬事法等 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法) 平成25年法律第84号による改称。2014年(平成26年)11月25日施行
行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律 情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律(デジタル手続法。法律番号は平成14年法律第151号のまま) 令和元年法律第16号による改称、2019年12月16日施行
e-文書法のみを根拠として記載 e-文書法(平成16年法律第149号)に加え、平成17年厚生労働省令第44号(厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令)を併記 電磁的保存の可否は同省令で判断する
承認・許可申請書等への押印を前提とした記述 薬事関係省令の押印欄は原則削除済み。ただしOECD-GLP等との整合が必要な領域では記名押印のみ不要とし署名は存置 令和2年厚生労働省令第208号(2020年12月25日公布・施行)、令和2年12月25日 薬生発1225第3号
データインテグリティへの言及なし ALCOA+の考え方および監査証跡レビューを盛り込む PIC/S PI 041-1(2021年7月1日発効、ALCOA+は7.5節)、FDA「Data Integrity and Compliance With Drug CGMP: Questions and Answers」(2018年12月最終版)
自社内サーバのみを想定した記述 クラウド/SaaS、外部委託先が保持する記録の扱いを明記 ER/ES指針に直接の記述がないため、指針の趣旨から導いた自社基準として定義する
施行日「2005年4月1日」のまま 改訂版の施行日に更新し、改訂履歴を残す

ER/ES指針そのものは2005年の発出以来廃止も改正もされておらず、現在も有効である。したがって「指針が古いから対応不要」という整理は成り立たない。古いのは指針を引用した自社文書の側である。
2. ER/ES指針対応ポリシー(サンプル・抜粋)

以下は構成例である。○○の箇所は自社の名称・組織名に置き換えること。条文の引き写しではなく、自社が何を約束するのかを述べる文体にしてある。

1. 目的

本文書の目的は、○○株式会社(以下「当社」という)における「医薬品等の承認又は許可等に係る申請等に関する電磁的記録・電子署名利用のための指針」(平成17年4月1日 薬食発第0401022号。以下「ER/ES指針」という)に従った電磁的記録および電子署名の使用に関する方針を定め、規制当局が要求する品質を確保することである。

2. 背景

当社において、電磁的記録は多様なビジネスプロセスに使用され、品質と作業効率の維持・向上および書類の削減に寄与している。電磁的記録や電子署名が紙の記録および紙に実行された手書き署名と同等の効力を持つためには、それらの完全性、正確性および機密性を確保しなければならない。

3. 適用範囲

本ポリシーの適用範囲を以下とする。

(1) 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「薬機法」という)および関連法令に基づく申請、届出、報告(以下「申請等」という)にあたって、電磁的記録を用いて提出する場合。
(2) 薬機法および関連法令により保存が義務づけられている資料および原資料等(以下「資料等」という)を、電磁的記録により保存する場合。
(3) 上記(1)(2)の資料等を紙媒体で作成する過程において、電磁的記録を利用する場合。
(4) 上記(1)〜(3)の資料等を作成する過程において、電子署名を利用する場合。
(5) 上記(1)〜(4)に該当する記録を、クラウドサービスその他の外部事業者が管理する環境で作成・保存する場合。

なお、ファクシミリのような電子的手段で伝送したにすぎないの記録書類には適用しない。また、ワードプロセッサ等を用いて作成したのち印刷し、紙を正本として承認・維持している記録書類にも適用しない。ただし、紙を正本とする旨が手順書で明確に定められていることを条件とする。

適用範囲の判定結果は、システム一覧に対して対象/対象外および判定理由を記録し、○○が承認する。

4. 基本ルール

(1) 電磁的記録や電子署名を改ざんし、または捏造しないこと。
(2) 電磁的記録による申請資料等の信頼性を確保すること。
(3) 電磁的記録の真正性、見読性および保存性を確保すること。
(4) 電磁的記録は完全、正確であり、かつ信頼できること。
(5) 電磁的記録の作成、変更、削除の責任の所在が明確であること。
(6) 電磁的記録の内容を人が読める形式で出力(ディスプレイ装置への表示、紙への印刷、電磁的記録媒体へのコピー等)できること。
(7) 保存期間内において、真正性および見読性が確保された状態で電磁的記録を保存できること。
(8) オープン・システムを利用する場合は、電磁的記録が作成されてから受け取られるまでの間の真正性および機密性を確保するために必要な追加手段を適切に実施すること。
(9) 電子署名を利用する場合は、電子署名の信頼性を確保すること。
(10) 電磁的記録および電子署名の利用のために必要な責任者、管理者、組織、設備および教育訓練に関する事項を規定すること。
(11) 記録は、帰属性、判読性、同時性、原本性、正確性を備え、かつ完全、一貫、永続、利用可能であること(ALCOA+の考え方に基づく)。

5. コンピュータ・システム・バリデーション

電磁的記録または電子署名を利用する電子データ処理システム(以下「システム」という)は、利用に先立ち、コンピュータ・システム・バリデーションによりシステムの信頼性が確保されていなければならない。バリデーションの範囲と深さは、製品品質および患者安全へのリスクに応じて定める。実施方法は「医薬品・医薬部外品製造販売業者等におけるコンピュータ化システム適正管理ガイドライン」(平成22年10月21日 薬食監麻発第1021011号)に基づき、別途SOPに定める。

6. 電子署名の取り扱い

(1) 電子署名を割り当てる前に、個人の身元を確認しなければならない。
(2) いかなる電子署名も特定の一個人に限定され、複数の者に割り当て、または別の者に再割り当てしてはならない。
(3) 電子署名された電磁的記録には、署名者の氏名、署名の日時、署名の意味(作成、確認、承認等)が含まれ、かつ判読可能な形式で出力できなければならない。この3項目は画面表示のみならず印刷物および電子的な出力にも現れなければならない。
(4) 偽造目的での署名の削除、複製、他の記録への移転ができないよう、電子署名と対応する電磁的記録をリンクさせなければならない。
(5) 電子署名は、署名の都度、本人のみが実行できる操作を伴わなければならない。ログオン時の認証をもってこれに代えてはならない。

7. アクセス権限

システムへのアクセスは、権限のある個人に限定しなければならない。権限のある者だけが電磁的記録や電子署名にアクセスできるよう、適切に権限チェックを行わなければならない。IDコードとパスワードは、その安全性と完全性を確実なものとするよう管理しなければならない。権限付与状況は、少なくとも年1回、○○が照査する。

8. 監査証跡

電磁的記録としてデータが確定した後は、データの作成、変更、削除の記録を監査証跡として残さなければならない。監査証跡には、システムにより自動的に作成されたタイムスタンプが付与されていなければならない。監査証跡は対象記録と同等以上の期間保存し、変更は従前に記録された情報を覆い隠してはならない。
監査証跡のレビューは、対象、頻度および実施者を定めたうえで実施し、その記録を残す。レビューの頻度はリスクに応じて定める。

9. 電子署名の責任

電子署名の下で行った行為は手書き署名と同等の効力を有し、署名者本人が責任を負う。電子署名を使用する者は、この旨を了解した記録を残さなければならない。

10. オープン・システム

オープン・システムを利用する場合は、クローズド・システムの管理要件に加えて、電磁的記録の暗号化およびデジタル署名の利用その他の必要な追加手段を実施しなければならない。

11. クラウドサービス等の利用(追加項目)

クラウドサービスその他外部事業者が管理する環境で本ポリシーの適用対象となる記録を扱う場合は、次を満たさなければならない。
(1) 責任分界(当社が担う統制と事業者が担う統制)を契約または合意文書で明確にすること。
(2) 当社が監査証跡および記録を、保存期間を通じて取得・出力できること。
(3) 契約終了時に記録および監査証跡を返還または移行できること、およびその移行後も真正性、見読性、保存性が確保されること。

12. 教育訓練

システムを開発する従業員、システム管理責任者、利用者等は、ER/ES指針および本ポリシーに関する教育を受講しなければならない。責任者は教育の記録を作成し、保存する。

13. 供給者・外部業者の管理

システムを提供する外部業者については、リスクに応じた評価(供給者アセスメント)を実施し、必要と判断した場合は監査を実施する。評価の方法および監査の要否判断の基準は別途SOPに定める。

14. 対応計画および対応記録

ER/ES指針遵守のための対応計画およびその実施記録を作成する。ER/ES指針に適合していない電磁的記録または電子署名がある場合は、その内容、リスク評価、暫定措置および是正の期限を対応計画に記載しなければならない。

15. システム文書の管理

システムの運用、操作、保守に関する文書は、適切に作成し管理しなければならない。

16. 手順書等

本ポリシーの実施にあたっての具体的事項は、ガイドライン、SOP等を別途定める。

17. 参考

「医薬品等の承認又は許可等に係る申請等に関する電磁的記録・電子署名利用のための指針」(平成17年4月1日 薬食発第0401022号)
「医薬品・医薬部外品製造販売業者等におけるコンピュータ化システム適正管理ガイドライン」(平成22年10月21日 薬食監麻発第1021011号)
電子署名及び認証業務に関する法律(平成12年法律第102号)
民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律(平成16年法律第149号)および平成17年厚生労働省令第44号
21 CFR Part 11(米国向けに電子記録・電子署名を用いる場合)

18. 改廃

本ポリシーの改廃は○○が立案し、社長の承認を得る。少なくとも○年ごとに内容の妥当性を照査する。

19. 附則

本ポリシーは○年○月○日より施行する。改訂履歴は別表に記載する。

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3. ポリシー条項と規制要求の対応

ポリシーの各条項が、どの規制のどの要求に対応しているかを一覧にしておくと、査察・調査での説明が容易になる。以下は上記サンプルに対する対応表である。

ポリシー条項厚労省ER/ES指針21 CFR Part 11
3. 適用範囲通知3項(適用範囲)§11.1(b)(電子的手段で伝送されただけの紙の記録は対象外)
4. 基本ルール(3)〜(7)指針3.1.1〜3.1.3(真正性・見読性・保存性)§11.10(b)(c)(e)
4. 基本ルール(8)指針3.3(オープン・システム)§11.30
5. CSV指針3.1(三要件の前提)§11.10(a)
6. 電子署名の取り扱い(1)(2)指針4項(一意性、再使用・再割当の禁止)§11.100(a)(b)
6. 電子署名の取り扱い(3)指針4項(氏名・日時・意味)§11.50(a)(b)
6. 電子署名の取り扱い(4)指針4項(記録とのリンク)§11.70
6. 電子署名の取り扱い(5)―(指針に明文なし)§11.200(a)(1)
7. アクセス権限指針3.1.1(セキュリティ規則・手順)§11.10(d)(g)、§11.300
8. 監査証跡指針3.1.1(変更前情報の保存・変更者の識別。自動記録は「望ましい」)§11.10(e)
9. 電子署名の責任指針5項(責任者・組織)§11.10(j)、§11.100(c)
11. クラウドサービス等―(指針に明文なし。趣旨から導く)§11.10、§11.30(自社が責任を負う統制として)
12. 教育訓練指針5項(教育訓練)§11.10(i)
13. 供給者・外部業者の管理―(指針に明文なし。自社方針として設定)―(Part 11 に明文なし)

電磁的記録を作成、変更、維持、保管、取出または配信をするためにオープン・システムを利用する場合は、3.1に記載された要件に加え、電磁的記録が作成されてから受け取られるまでの間の真正性、機密性を確保するために必要な手段を適切に実施すること。追加手段には、電磁的記録の暗号化やデジタル署名の技術の採用などが含まれる

出典:「医薬品等の承認又は許可等に係る申請等に関する電磁的記録・電子署名利用のための指針」(平成17年4月1日 薬食発第0401022号 別紙)3.3

指針より厳しい条項は「自社方針」であることを明示する

サンプルの第10項は、オープン・システムについて暗号化とデジタル署名を義務としている。ER/ES指針3.3の原文は、追加手段の例として「電磁的記録の暗号化やデジタル署名の技術の採用などが含まれる」と述べており、両者を一律に義務づけてはいない。第13項の供給者監査も、指針には明文がない。
自社方針として指針より厳しく定めること自体は差し支えないが、どこまでが規制要求で、どこからが自社の上乗せかを社内で共有していないと、後年「この監査は法定要求だ」という誤った理解が固定化し、コストだけが残る。上記のような対応表を添え、規制根拠の欄が空欄である条項は自社方針であることが読み取れるようにしておくとよい。

4. 2026年時点で取るべき対応

2026年時点で取るべき対応

  1. 既存ポリシーの「薬事法」を全文検索し、「薬機法」に置き換える。薬事法は平成25年法律第84号により2014年11月25日に薬機法へ改称されている。ただしER/ES指針の原文を引用する箇所は原文どおりとし、読み替えの注記を添える。
  2. 引用法令名を点検する。「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律」は2019年12月16日に「情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律」へ改称されている。
  3. e-文書法とあわせて平成17年厚生労働省令第44号を参照文書に加える。電磁的保存の可否は同省令で判断する。
  4. 適用範囲の判定を「文書」にする。システム一覧に対象/対象外と理由を記録し、承認者を定める。対象外判定の根拠こそが問われる。
  5. 監査証跡レビューの条項を新設する。指針本文は監査証跡の自動記録を「望ましい」としているが、変更前情報の保存と変更者の識別は必須要件であり、現在のデータインテグリティ要求(PIC/S PI 041-1、FDAのDI Q&A)の下ではレビューの運用まで求められる。
  6. クラウド/SaaSおよび外部委託先の記録に関する条項を追加する。ER/ES指針は2005年以来見直されておらず直接の記述がないため、指針の趣旨から導いた自社基準として明記し、導出根拠を残す。
  7. 押印廃止後の署名運用を条項に反映する。令和2年厚生労働省令第208号で薬事関係の押印欄は原則削除されたが、GLP等では署名が引き続き求められる領域がある。
  8. 規制要求と自社上乗せを区別した対応表を添付する。後年の過剰対応と誤解の固定化を防ぐ。
  9. 米国向けに電子署名を用いる場合は、§11.100(c) のFDAへの証明が済んでいるかを確認する。これは社内の誓約書取得(§11.10(j) 対応)とは別の手続である。

本文書はあくまでサンプル(抜粋)であり、厚労省ER/ES指針に完全対応したものではない。必要な事項のうちいくつかは割愛して掲載している。記載は2026年8月時点の情報に基づく。解釈の誤り等がありましても当社では責任を負いかねる。本文書の改訂は予告なく行われることがある。

ER/ES指針そのものの逐条解説は原典編、システムへの実装は実務対応編、電子署名の要求事項は電子署名についての解説を参照されたい。

出典・一次情報源

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