滅菌バリデーションの要点
滅菌工程は、結果を後から測って合否を判定できない工程である。だからこそ規制は、工程そのものが所定の結果を与えることをあらかじめ立証せよと求める。滅菌バリデーションとは装置の性能試験ではなく、製品・包装・載荷形態・微生物学的条件を含めた「工程の妥当性」を文書化する営みである。本稿では国内の基準体系、IQ/OQ/PQの役割分担、滅菌条件の設計法、再バリデーションの契機を実務の順序で整理する。SALやD値など滅菌そのものの概念は滅菌の基本知識を前提とする。
要求の出発点はQMS省令第45条にある
医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(QMS省令、平成16年厚生労働省令第169号)は、バリデーションの対象となる工程を次のように定めている。
滅菌工程はこの条件にそのまま当てはまる。無菌性は全数試験できず、抜取りの無菌試験では滅菌の到達水準を検証できないからである。プロセスバリデーション一般の考え方が、滅菌では例外なく適用される。
さらに第46条は、滅菌工程および無菌バリアシステムに係る工程のバリデーション手順を文書化し、当該工程を初めて実施する場合または変更する場合にはあらかじめバリデーションを行うこと、その結果・結論の記録を保管することを求める。第44条は、各滅菌ロットの工程指標値の記録を製造ロットまで追跡可能とすることを求める。ISO 13485:2016(第3版)にも滅菌プロセスおよび無菌バリアシステムに関する特別要求事項が置かれており、両者の構造は整合している。
国内の基準体系と、ISO現行版とのずれ
滅菌バリデーションの国内基準は、「滅菌バリデーション基準の制定について」(令和4年10月17日 薬生監麻発1017第1号)である。平成29年2月15日付け薬生監麻発0215第13号は本通知により廃止され、その後、令和4年10月21日付け薬生監麻発1021第5号で別紙が差し替え訂正されている。
同基準が引用するのはJISであり、そのJISが基づくISOの版は、必ずしもISOの現行版と一致しない。設計文書や承認申請資料で規格を引用する際は、この差を意識する必要がある。
| 適用範囲 | 国内基準が引用するJIS | 対応するISO規格の現行版 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| エチレンオキサイド(EOG) | JIS T 0801:2016 | ISO 11135:2014/Amd 1:2018 | ISOでは改訂作業が最終段階にあり、次版への置換えが見込まれる |
| 放射線(要求事項) | JIS T 0806-1:2022 | ISO 11137-1:2025 | JISは2006年版に追補を加えた内容に基づく。ISOは2025年に版が改まった |
| 放射線(滅菌線量の確立) | JIS T 0806-2:2014 | ISO 11137-2:2013/Amd 1:2022 | 線量設定方法の追補がJISに未反映である |
| 湿熱 | JIS T 0816-1:2010 | ISO 17665:2024 | ISOは分割されていた規格群を単一規格に統合した。JISとの隔たりが最も大きい |
| 乾熱 | — | ISO 20857:2010 | 国内基準の対象外。脱パイロジェンの要求も含む |
| 低温過酸化水素蒸気 | — | ISO 22441:2022 | 国内基準の対象外。EOGからの切替え検討時に参照する |
| 一般要求事項 | — | ISO 14937:2009 | 個別規格のない滅菌剤に適用する。追補が審議中である |
| 微生物学的方法 | — | ISO 11737-1:2018/ISO 11737-2:2019 | バイオバーデンの測定と、バリデーション時の無菌性の試験 |
JISとISOの版ずれをどう扱うか
国内の適合性調査で問われるのは基準が引用するJISへの適合であり、海外申請ではISOの現行版が参照される。両方を扱う企業は、どちらの版に基づく判断なのかを文書上で明示する運用にしておく必要がある。IQ/OQ/PQの役割分担
滅菌バリデーション基準は、適格性確認を据付適格性確認(IQ)、運転適格性確認(OQ)、稼働性能適格性確認(PQ)の三段階で構成する。ここを混同すると、装置の据付記録でPQを済ませたつもりになる、あるいは無負荷試験だけで製品の無菌性を語る、といった破綻が起きる。
| 段階 | 確認する対象 | 代表的な確認項目 | 成果物 |
|---|---|---|---|
| IQ(据付適格性確認) | 装置および附属設備が予定どおり据え付けられたこと | 仕様との照合、材質・配管・気密の検査、ユーティリティ接続、計装ループチェック、重要計器の校正 | 据付適格性確認報告書、校正記録 |
| OQ(運転適格性確認) | 装置がプロセスを運用できること | 各部の単体動作、無負荷での温度分布、プログラム動作と異常処理、チャンバーリークテスト、連動動作 | 運転適格性確認報告書、運転パラメータの確定記録 |
| PQ(稼働性能適格性確認) | 日常の滅菌装置で製品が所定の滅菌プロセスを実現できる能力 | 実負荷での熱分布・熱浸透、載荷形態ごとの最冷点特定、指標菌を用いた微生物学的評価 | 稼働性能適格性確認報告書、滅菌条件の設定根拠 |
PQは物理的PQと微生物学的PQに分けて計画するのが実務上の定石である。前者は温度・圧力・線量・ガス濃度が載荷形態の全体で規格内に収まることを示し、後者は最も滅菌されにくい位置の指標菌が所定の水準まで死滅することを示す。
滅菌条件をどう設計するか
「最終滅菌法による無菌医薬品の製造に関する指針」は、製品の無菌性保証水準を確保する方法として四つの設計法を示している。これらは湿熱・EOGなど「時間で殺滅量を積み上げる」滅菌に共通する考え方である。
| 方式 | 考え方 | 必要となるデータ | 向く場面 |
|---|---|---|---|
| ハーフサイクル法 | 初期菌数10の6乗CFUの指標体が全滅する時間を求め、その2倍を滅菌時間とする。オーバーキルの一種で、結果として14D~16D相当となる | 指標体の全滅時間 | 耐熱性・耐性に余裕があり、条件を厚めに設定できる製品 |
| オーバーキル法 | バイオバーデンの抵抗性によらず、指標菌を12桁減少させるに等しい条件で滅菌する | 指標体のD値(通例1.0以上) | バイオバーデンの変動が大きく、条件を固定したい製品 |
| BIとバイオバーデン併用法 | 滅菌抵抗性が公知の指標体と、実際のバイオバーデン情報を組み合わせて条件を定める | 指標体のD値、バイオバーデン菌数と菌叢 | 過度な熱負荷や線量を避けたい製品 |
| 絶対バイオバーデン法 | 被滅菌物や製造環境から検出された最も抵抗性の高い菌を用いて条件を定める | 分離菌のD値、継続的なバイオバーデン監視 | 品質劣化のため処理量を最小化したい製品 |
表3の考え方は「最終滅菌法による無菌医薬品の製造に関する指針」11.1および参考情報A.3による。放射線滅菌は体系が異なり、JIS T 0806-2(ISO 11137-2)が、バイオバーデン情報を用いる方法と、累加線量照射した製品の無菌性試験の陽性率を用いる方法の二系統を定めている。
微生物学的試験の位置づけ
バリデーションで用いる微生物学的試験は、出荷判定の無菌試験とは目的が異なる。ISO 11737-1はバイオバーデンの測定、ISO 11737-2は通常より弱めた滅菌処理を受けた製品に対する無菌性の試験を規定しており、後者は滅菌プロセスの定義・バリデーション・維持のために行う。この区別を曖昧にしたまま「無菌試験に合格したから滅菌は妥当」と結論づける記述は、査察・審査で必ず問われる。
また、バイオバーデンは一度測って終わりではない。傾向が上振れすれば、設定した滅菌条件の前提が崩れる。菌数だけでなく菌叢の変化も監視の対象である(バイオバーデンとは)。
再バリデーションの契機
QMS省令第45条第3項は、バリデーション手順に定めるべき事項として、再バリデーション(製造手順を変更した場合等において、再度バリデーションを行うこと)とその判定基準、および工程変更の承認を挙げている。さらに滅菌バリデーション基準は、製造販売承認取得後および輸出用医療機器の製造開始後、5年ごとに受ける適合性調査に当たって適格性の再確認を行うこととしている。
実務上、次の事象は再バリデーションの要否判定を必ず起動させるべきである。
- 製品の材質・形状・寸法の変更、および構成部品の供給者変更
- 包装形態、無菌バリアシステム、包装材料の変更
- 載荷形態・積載量・トレー構成の変更
- 滅菌装置の改造、移設、主要部品の交換、受託滅菌施設の変更
- バイオバーデンの菌数または菌叢の傾向逸脱
- 引用規格の改訂により要求事項が変わった場合
まとめ
滅菌バリデーションの骨格は五点に集約できる。後段で検証できない工程だからバリデーションが要求されること(QMS省令第45条・第46条)。国内では滅菌バリデーション基準が引用するJISが判断の基礎となるが、そのJISとISO現行版には版のずれがあること。IQ/OQ/PQは装置から製品へと確認対象が移る階段であり、PQは物理的評価と微生物学的評価の両輪で成り立つこと。滅菌条件の設計法は四つあり、選択は製品の耐性とバイオバーデンの安定性で決まること。そして再バリデーションは「変更」と「定期」の二つの契機で起動することである。2026年時点で取るべき対応
- 引用規格の棚卸しを行う滅菌バリデーション手順書・報告書・承認申請資料が引用している規格の版を一覧化し、JIS T 0801:2016/T 0806-1:2022/T 0806-2:2014/T 0816-1:2010と、ISO 11135・ISO 11137シリーズ・ISO 17665:2024の現行版との対応を明示する。
- 湿熱滅菌の差分を先に評価するISO 17665:2024はISO 17665-1:2006からの再編であり、JIS T 0816-1:2010との隔たりが最も大きい。海外申請を予定する製品から順に差分評価に着手する。
- EOG採用製品は次版への備えを始めるISO 11135は改訂作業が最終段階にある。現行版に基づく文書のどこが版依存の記述かを洗い出し、差替え箇所を特定しておく。
- PQを物理と微生物に分けて再構成する報告書が装置の温度分布だけで終わっていないか、載荷形態ごとの最冷点・最難滅菌位置の特定根拠が残っているかを点検する。
- 再バリデーションのトリガーを変更管理に組み込む上記の契機一覧を変更管理手順の判定表に落とし込み、5年ごとの適合性調査に向けた適格性の再確認の計画を年度計画に明記する。
- 前工程との接続を確認する滅菌条件はバイオバーデンを前提に成り立つ。洗浄・組立環境の管理が滅菌の前提を崩していないかを、洗浄バリデーションとISO 13485との関係と併せて確認する。
出典
- 医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成16年厚生労働省令第169号)第44条・第45条・第46条・第63条 https://laws.e-gov.go.jp/law/416M60000100169
- 厚生労働省「滅菌バリデーション基準の制定について」(令和4年10月17日 薬生監麻発1017第1号)https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc7110
- 厚生労働省「『滅菌バリデーション基準の制定について』の訂正について」(令和4年10月21日 薬生監麻発1021第5号)https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc7109
- 厚生労働省医薬食品局監視指導・麻薬対策課「最終滅菌法による無菌医薬品の製造に関する指針」(平成24年11月9日事務連絡・全面改訂版)https://www.pmda.go.jp/files/000157068.pdf
- ISO 11135:2014/Amd 1:2018 Ethylene oxide https://www.iso.org/standard/56137.html
- ISO 11137-1:2025 Radiation — Part 1 https://www.iso.org/standard/81721.html
- ISO 11137-2:2013/Amd 1:2022 Radiation — Part 2 https://www.iso.org/standard/62442.html
- ISO 17665:2024 Moist heat https://www.iso.org/standard/80271.html
- ISO 14937:2009 General requirements https://www.iso.org/standard/44954.html
- ISO 20857:2010 Dry heat https://www.iso.org/standard/39778.html
- ISO 22441:2022 Low temperature vaporized hydrogen peroxide https://www.iso.org/standard/73214.html
- ISO 11737-1:2018 / ISO 11737-2:2019 Microbiological methods https://www.iso.org/standard/66451.html/https://www.iso.org/standard/70801.html
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そこで今回ISO11607 “最終的に滅菌される医療機器の包装”が2019年に改訂されたことを機に、この規格のポイント、2006年版とのGAP解析など規格の概要だけではなく、試験方法として紹介されているEN868シリーズ、それに関連する国際規格、要求されている資料入手の考え方について解説する。また、新たに本格的に導入されたリスクマネジメント、ユーザビリティの基本的な考え方、要求事項、具体的な進め方、そのポイントについても分かり易く解説する。
最後にこのセミナーのまとめとして、みなさんが見かけることもある輸液セットを例に、リスクマネジメントによる製品要求事項の抽出、その対策とサポートするデータの決定、シールプロセスのバリデーション、開封時のユーザビリティテストについて再度説明し、理解度を深めていただきます。”]
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この第1種滅菌技師は日本医療機器学会により「医療施設内における滅菌器の基本的バリデーションがおこなえる知識と技術とを兼ね備え者に認定を与える」とされており、前段階の「滅菌供給に関わる業務等の実践に通算3年以上携わっていること」が認定条件となる第2種滅菌技士を取得した者のみに受験資格が与えられる。
滅菌バリデーションの作業を日常業務として行っている製造・産業施設勤務者に対し、この第1種滅菌技師の認定を取得することを最終目標に、第1種滅菌技師及び第2種滅菌技士認定講習会で使用されるテキストや「医療現場における滅菌保証のガイドライン2015」「手術医療の実践ガイドライン(改訂第三版)2019」及び厚労省通知「滅菌バリデーション基準の改正について(薬生監麻発0215第13号)」を活用して、医療現場と製造現場の被滅菌物の違いを交えて「滅菌の基礎」について学んでいく。
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