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品質管理(QC)とは

品質管理(QC)は、Quality Control の略である。Quality Check ではない。この一語の取り違えが、日本の製薬企業・医療機器企業の品質部門で長く続いてきた誤解の出発点である。本記事では、QC が「製品・結果を見る活動」であることを GMP省令・QMS省令の条文に即して整理し、2026年8月時点で品質管理担当者が取るべき対応を示す。プロセス・仕組みの側を保証する品質保証(QA)との違いは 品質保証(QA)とは で、原因分析と是正処置の実務は 根本的原因の重要性とは で扱う。

Check ではなく Control である

日本の多くの製薬企業では、データの入力に際してダブルエントリーを用い、読み合わせを数回行うことで入力ミスを修正している。この作業は精緻であり、実際、日本企業が作成する申請資料の精度は高いと評価されてきた。しかしながら、これはあくまで Check であって、QC の C が意味する Control ではない。

Control とは、標準作業手順書(SOP)などの標準に沿って業務プロセスが管理運営されており、そこから逸脱した場合に正常な状態へ戻す機能をいう。つまり Control の対象は「作業の結果」ではなく「作業が標準どおりに回っているかどうか」である。誤りを見つけて直すのが Check、標準からの乖離を検知して標準へ引き戻すのが Control である。

観点Check(点検)Control(管理)
対象個々のデータ・成果物そのものデータ・成果物を生み出す業務プロセス
問いこの値は正しいかこの値は正しい手順から生まれたか
典型的な行為ダブルエントリー、読み合わせ、目視照合基準との照合、逸脱の検知、標準への復帰
不適合時の動き誤りを訂正する逸脱を記録し、原因究明と是正処置につなぐ
効果の持続性その回限り。次回も同じ誤りが起こり得るプロセスが改善されれば再発しにくくなる
担い手手順を知っていれば誰でも実施できる基準・手順・判定権限を持つ組織

Manage と Control の違い

Manage と Control は、いずれも邦訳すると「管理」となるため混同されやすい。両者は野球にたとえると分かりやすい。Manage は監督にあたる。全体を指揮し統制する役割であり、たとえば敬遠を指示する。Control は投手にあたる。指示されたとおりに業務を遂行する役割であり、たとえばストライクを投げる。

ここから分かるように、QC担当者の役割は、業務プロセスが SOP から逸脱した(またはしそうな)場合にそれを指摘し、正しいプロセスへと誘導することである。他部門のデータ入力ミスを見つけて代わりに直してあげることではない。入力に責任を持つ部門ではなく QC 部門が誤りを修正していると、データを生み出す側の品質意識は育たず、プロセス中のデータ品質はいつまでも向上しない。原則は、データソース側がデータの品質に責任を持つことである。

QC部門が代行してはならないこと

入力誤りの発見と訂正を QC 部門が肩代わりすると、三つのことが同時に起こる。第一に、発生源の工程が改善されない。第二に、誤り率という重要な品質指標が見かけ上改善し、実態が見えなくなる。第三に、監査証跡上、記録の作成者と訂正者が乖離し、データインテグリティの観点から説明が難しくなる。QC が担うべきは、誤りが出続けている工程そのものを問題として顕在化させることである。

法令上の QC ―― どこに書かれているか

「QC は Check ではない」という主張は精神論ではない。日本の法令上、品質管理に係る業務は明確に定義されている。

医薬品では、GMP省令(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令、平成16年厚生労働省令第179号)第4条が、製造所ごとに製造部門と品質部門を置き、品質部門は製造部門から独立していなければならないと定めている。さらに同条第3項は、品質部門に「品質保証に係る業務を担当する組織」と「試験検査に係る業務を担当する組織」の二つを置くことを求めている。狭義の QC にあたるのは後者である。

試験検査の具体的な業務は同令第11条に列挙されている。検体の採取と記録、標準品の保管、ロットごと・管理単位ごとの試験検査と記録、参考品・保存品の保管、試験検査に関する設備・器具の点検整備と計器の校正、そして試験検査結果の判定と製造部門への文書報告である。注目すべきは第11条第1項第8号で、規格に適合しない結果となった場合には、その原因を究明し、所要の是正処置および予防処置をとるとともに、その記録を作成し保管することが求められている。規格外を見つけて終わり、ではないことが条文上明記されている。

医療機器・体外診断用医薬品では、QMS省令(医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令、平成16年厚生労働省令第169号。令和3年厚生労働省令第60号により ISO 13485:2016 と整合化された)が、「測定、分析及び改善」の節に相当する条文群を第54条から第64条までに置いている。

QCの活動GMP省令(医薬品)QMS省令(医療機器・体外診)
組織の設置と独立性第4条(品質部門は製造部門から独立。試験検査に係る業務を担当する組織を置く)第6条(責任及び権限)、第7条(品質管理監督システム基準書)
工程の監視・測定第8条(製造管理)、第11条(品質管理)第57条(工程の監視及び測定)
製品の試験検査第11条第1項第1号〜第4号第58条(製品の監視及び測定)
測定機器の校正第11条第1項第7号第53条(監視機器及び測定機器の管理)
不適合が出たとき第11条第1項第8号(原因究明・是正処置・予防処置)第60条(不適合製品の管理)、第60条の2〜第60条の4
出荷の可否判定第12条(品質保証に係る業務を担当する組織が決定)第58条(出荷可否決定等基準への適合性の実証と出荷の決定)
記録の信頼性確保第20条第2項(欠落・不正確・不整合の継続的管理)第9条(記録の管理。完全性の確保を定義)

QMS省令第9条第2項は、記録の「完全性の確保」を「当該記録が正確であり、記録が作成された時点から不適切な改変がない状態を保つこと」と定義している。データインテグリティの考え方が法令用語として条文に取り込まれている点は、実務上見落とされやすい。

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QCの結果は、どこへ流れるべきか

QC が検出した規格外・逸脱・不適合は、その場の訂正で完結させてはならない。GMP省令第11条第1項第8号、QMS省令第60条から第64条までの条文構成が示すとおり、検出結果は次の三方向へ流れる。

  1. 当該ロット・当該製品への措置不適合製品の識別と隔離、特別採用の可否判断、出荷可否の決定である。QMS省令では第60条から第60条の4までがこれにあたる。なお同令は「修正」(発見された不適合を除去するための措置)と是正処置を明確に区別している。目の前の不適合を取り除くだけでは是正処置とはいえない。
  2. 傾向としての分析個別の不適合は、傾向として見ると別の姿を見せる。QMS省令第61条(データの分析)は、製品受領者の意見、製品要求事項への適合性、工程および製品の特性・傾向、購買物品等の供給者、監査、附帯サービス業務の記録を分析の入力とすることを求めている。GMP省令では第11条の3(製品品質の照査)が対応する。
  3. 原因究明と是正処置根本原因を除去しなければ、同じ不適合は必ず再発する。QMS省令第63条・第64条、GMP省令第15条(逸脱の管理)・第16条(品質情報及び品質不良等の処理)がこれにあたる。原因分析の実務は 根本的原因の重要性とは を参照されたい。

データインテグリティ時代の QC

紙の記録を目視で照合していた時代と異なり、現在の QC はほぼすべて電子記録を対象とする。ここで問われるのが、記録そのものの信頼性である。

PIC/S のデータインテグリティに関するガイダンス PI 041-1 は2021年7月1日に発効し、その7.5節で ALCOA+ の9属性を整理している。日本国内では、GMP省令が令和3年厚生労働省令第90号による改正(2021年4月28日公布、同年8月1日施行)で第20条第2項を設け、手順書等および記録について、欠落がないこと、正確な内容であること、他の手順書等・記録との不整合がないことを継続的に管理し、欠落・不正確・不整合が判明した場合には原因を究明して是正処置および予防処置をとることを明文で求めている。

この条文は、まさに「Check ではなく Control」を法令の言葉で書いたものである。記録を突き合わせて誤りを直すこと(Check)だけでは第20条第2項を満たさない。欠落や不整合がなぜ生じたのかを究明し、生じない仕組みに変えること(Control)までが求められている。

電子記録に対する QC の要点

監査証跡(audit trail)のレビューを QC の日常業務に組み込むことである。誰が、いつ、何を、なぜ変更したのかが追跡できるかを確認する。監査証跡が存在していても、レビューされていなければ管理されているとはいえない。厚生労働省の ER/ES指針(平成17年4月1日 薬食発第0401022号)は現在も廃止・改正なく有効であり、真正性・見読性・保存性の確保を求めている。電子記録の信頼性をどう担保するかは CSVにおける信頼性保証とは で詳述する。

よくある誤解の整理

よくある理解2026年8月時点の正しい理解
QC は Quality Check であるQuality Control である。標準どおりに業務プロセスが回っているかを管理し、逸脱を標準へ戻す機能をいう。
QC 部門が他部門の入力ミスを直すのが親切であるデータの品質はデータソース側が責任を負う。QC が代行すると発生源の工程が改善されない。
試験検査で規格外が出たら再試験すればよいGMP省令第11条第1項第8号により、原因究明と是正処置・予防処置、およびその記録の作成・保管が必要である。
QC と QA はどちらも「品質の部署」であるQC は製品・結果を、QA はプロセス・仕組みを対象とする。GMP省令第4条第3項は品質部門の中で両者を別の組織として位置づけている。
ダブルチェックを増やせば品質が上がるチェック回数の増加は工数を増やすが、発生源の工程は変わらない。傾向分析と是正処置につながらないチェックは投資対効果が低い。
QC は紙の記録を見る仕事である現在の QC 対象はほぼ電子記録である。監査証跡レビューを含めなければ、記録の完全性は確認できない。

2026年時点で取るべき対応

  1. 自社の QC 手順書を読み返し、記載されている活動が Check に偏っていないかを点検する。逸脱の検知、標準への復帰、原因究明への引き渡しが手順として書かれているかを確認する。
  2. QC 部門が他部門の記録の誤りを訂正している実務が残っていないかを確認する。残っている場合は、訂正権限を発生源の部門へ戻し、QC は検出と傾向報告に徹する体制へ改める。
  3. GMP省令第11条第1項第8号・第20条第2項、QMS省令第60条〜第64条を条文どおりに手順書へ落とし込む。特に「修正」と「是正処置」を区別して定義する。
  4. 電子記録に対する監査証跡レビューを QC の定常業務に組み込む。レビューの頻度・範囲・記録方法を手順書に定める。
  5. QC の検出結果が QA・CAPA へ流れる経路を図に描き、途中で滞留していないかを確認する。滞留している場合、QC の努力は品質システムの改善に転換されていない。

出典

  • 厚生労働省令「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」(平成16年厚生労働省令第179号)https://laws.e-gov.go.jp/law/416M60000100179
  • 厚生労働省令「医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」(平成16年厚生労働省令第169号)https://laws.e-gov.go.jp/law/416M60000100169
  • 厚生労働省「医薬品等の承認又は許可等に係る申請等における電磁的記録及び電子署名の利用について」(平成17年4月1日 薬食発第0401022号)https://www.mhlw.go.jp/
  • PIC/S “Good Practices for Data Management and Integrity in Regulated GMP/GDP Environments” PI 041-1(2021年7月1日発効)https://picscheme.org/en/publications

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