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CSVにおける信頼性保証とは

「信頼性保証」は、日本の医薬品・医療機器規制に固有の重みを持つ言葉である。承認申請資料が正確・完全であり、根拠資料が保存されていること――薬機法施行規則が定めるこの「申請資料の信頼性の基準」を、コンピュータ化システムの側から支えるのが CSV における信頼性保証である。本記事では、日本の申請資料の信頼性基準を軸に、CSV が何を保証すべきかを整理し、2026年8月時点の規制環境(FDA の CSA 最終ガイダンス、GAMP 5 Second Edition、PIC/S PI 041-1)を踏まえた対応を示す。CSV で作成する文書そのものの管理は CSVにおける成果物の種類と管理方法 で扱う。

CSV はなぜ生まれたか

米国では1980年代に、医療機器のソフトウェアの不具合に起因して患者の死傷事故が発生した。それ以降、FDA はヘルスケア企業が製造する製品そのものだけでなく、企業が使用するソフトウェアについても品質保証を行うことを求めるようになった。すなわち、システムの開発・導入時においても独立した QA が品質保証を行うことを要求したのである。これが現在の CSV の元になる考え方である。

日本ではこの考え方の浸透が遅れた。多くの企業における QA は業務プロセスに注力しており、システムの QA を実施できる部門やスキルを持つ人材の養成が進んでいない。QA と QC の役割分担そのものについては 品質保証(QA)とは を参照されたい。

「信頼性保証」の法令上の意味

日本において信頼性保証という語が最も強い意味を持つのは、承認申請資料の文脈である。医薬品医療機器等法施行規則は、承認申請書に添付すべき資料が満たすべき基準を定めており、医薬品では第43条、医薬部外品・化粧品では第61条、医療機器では第114条の22、体外診断用医薬品では第114条の42、再生医療等製品では第137条の25および第137条の42がこれにあたる。PMDA はこれらを総称して「申請資料の信頼性の基準」と呼び、適合性書面調査および GCP 実地調査を通じて確認している。

施行規則第43条は三つの号から成る。この三原則は、CSV が保証すべき対象をそのまま示している。

三原則施行規則第43条の要求(趣旨)CSVで担保する仕組み
正確性(第1号)資料は、それを作成する目的で行われた調査または試験で得られた結果に基づき、正確に作成されたものであること入力値の検証、計算処理の検証、転記を伴わないデータフロー、監査証跡による変更の追跡
完全性・網羅性(第2号)品質・有効性・安全性を疑わせる調査結果や試験成績が得られた場合も、検討および評価を行い、その結果を資料に記載していること削除・除外・再測定の記録が残る設計、条件抽出の再現性、抽出条件そのものの記録
保存性(第3号)資料の根拠になった資料を、承認を与えるまたは与えない旨の処分の日まで保存していること(性質上その保存が著しく困難と認められるものを除く)電子記録の長期保存、媒体・フォーマットの陳腐化対策、移行時の同一性検証、可読性の維持

第2号は実務上もっとも見落とされる。都合の悪い結果を「なかったこと」にせず、検討・評価した過程まで残すことを求めている。システム設計の観点では、データを物理削除せず論理削除とし、除外理由を必須入力とする設計がこの要求に応える。

電子的に作成する場合の追加要求

申請資料を電磁的記録で作成・保存する場合、厚生労働省の ER/ES指針(医薬品等の承認又は許可等に係る申請等における電磁的記録及び電子署名の利用について、平成17年4月1日 薬食発第0401022号)が適用される。同指針は廃止・改正されておらず、2026年8月時点でも有効である。指針が求める真正性・見読性・保存性は、施行規則第43条の三原則と次のように対応する。

ER/ES指針要求の趣旨施行規則第43条との対応実装上の要点
真正性記録が作成者の意図したものであり、改ざん・消去が防止・検知できること正確性(第1号)アクセス制御、権限分離、監査証跡、電子署名
見読性必要に応じて肉眼で読める状態に出力できること完全性・網羅性(第2号)閲覧・印刷機能、ソフトウェア依存の低減、帳票の再出力
保存性保存期間にわたり真正性と見読性が維持されること保存性(第3号)媒体劣化対策、バックアップ・リストア検証、移行時の同一性検証

GxP 業務全般については、厚生労働省の「医薬品・医薬部外品製造販売業者等におけるコンピュータ化システム適正管理ガイドライン」(平成22年10月21日 薬食監麻発第1021011号、平成24年4月1日適用)が、開発から運用・廃棄までのライフサイクルにわたる管理を求めている。

信頼性保証の核心は「再現性の判定」である

それでは、システムの信頼性保証は具体的に何をすることか。バリデーションマスタープランの承認、PQ計画書・報告書の承認、バリデーション報告書の承認など、プロジェクト期間中のオンゴーイングなレビューと助言がそれにあたる。

その際に重要なのは、文書中の誤字や体裁の不整合を指摘することではない。第三者による再現性を判定することである。バリデーションチームによって作業が行われている記録や文書を照査し、もし自分が同じ手順で行ったとしても同様の結果や判定が得られただろうか、という点を検討しなければならない。

ここでいう再現性とは、「たまたまやったらたまたまうまくいきました」というような偶然性ではないこと――つまり誰がやっても同じ品質結果(基準)が得られるということを、第三者的に保証することである。

再現性を判定するための問い

照査の場では、次の問いを順に立てるとよい。第一に、判定基準は実施前に決まっていたか(後から基準を合わせていないか)。第二に、実施者以外の者が記録だけを見て同じ合否判断に至れるか。第三に、実施環境・データ・バージョンが特定できるか。第四に、逸脱があった場合、その正当化の論拠が記録に残っているか。いずれかに「否」があれば、それは誤字ではなく信頼性の欠落である。

トレーサビリティは、この再現性を支える最低限の要求事項である。ユーザ要求から機能仕様、設計、テストケース、テスト結果までが双方向にたどれること。要求が一つも欠けずにテストで確認され、テストされた項目がどの要求に由来するかが分かること。これが確保されていなければ、バリデートされたという主張の根拠がない。

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2026年の規制環境 ―― CSA と CSV

CSV を語るうえで、2026年8月時点で避けて通れないのが FDA の CSA(Computer Software Assurance)である。

FDA は “Computer Software Assurance for Production and Quality System Software” の最終ガイダンスを公表し、その入手可能性は2025年9月24日付の連邦官報で告示された(Docket FDA-2022-D-0795)。ドラフトは2022年9月13日に公表されている(87 FR 56059)。医療機器の製造または品質システムの一部として使用されるコンピュータおよび自動データ処理システムについて、リスクに基づくアプローチで確信を確立する方法を示すものである。

CSA について最も多い誤解

CSA は 21 CFR Part 11 を置き換えるものではない。CSA が supersede するのは、”General Principles of Software Validation” の Section 6(Validation of Automated Process Equipment and Quality System Software)のみである。原文にも “supersedes Section 6” と明記されている。加えて、FDA のガイダンスは法的拘束力を持たず(”not binding”)、代替の手法をとることも妨げられない。21 CFR Part 11 は現行有効であり、その適用範囲についての考え方を示した Scope and Application ガイダンス(2003年9月)も有効である。「CSA になったから Part 11 対応は不要」という理解は誤りである。

観点従来型の CSV 実務CSA が示す考え方
出発点すべてのシステム・機能を一律に文書化して検証する傾向意図する使用と患者・製品品質・データ完全性への影響を先に評価する
労力の配分文書作成に多くの時間を割く高リスク機能の検証に労力を集中し、低リスク機能は軽い保証で足りるとする
テストの手法スクリプト化されたテストを網羅的に実施スクリプトなしテスト、探索的テスト、アドホックテスト、自動テストも活用し得る
証跡手順の完全な再現を目的とした大量の記録結論を支えるのに必要十分な記録に絞る
Part 11 との関係Part 11 対応を含むPart 11 を置き換えない。電子記録・電子署名の要求は別途適用される
法的性格――ガイダンスであり法的拘束力はない(not binding)

日本の法令はすでにリスクベースを求めている

CSA を「米国の新しい話」として片づけるのは適切でない。QMS省令(平成16年厚生労働省令第169号)は、令和3年厚生労働省令第60号による改正で、ソフトウェアのバリデーションについて三つの条文を持つに至った。

  1. 第5条の6(ソフトウェアの使用)品質管理監督システムにソフトウェアを使用する場合、その適用に係るバリデーションの手順を文書化し、初めて使用するときおよび変更するときにあらかじめバリデーションを行うことを求めている。第3項は、使用に伴うリスクに応じてバリデーションを行うことを明記している。
  2. 第45条第4項〜第6項製造およびサービスの提供にソフトウェアを使用する場合について、同様にリスクに応じたバリデーションおよび再バリデーションを求めている。
  3. 第53条第8項〜第11項監視および測定のためにソフトウェアを使用する場合について、同様の要求を置き、バリデーションの結果および結論の記録の作成・保管を求めている。

すなわち、リスクに応じて検証の厚みを変えるという考え方は、日本の QMS省令にすでに条文として存在する。CSA はその考え方を FDA が体系的に整理したものと理解するのが実態に近い。

GAMP 5 の版に注意する

製薬・医療機器業界で広く参照される ISPE の GAMP 5 は、Second Edition(2022年7月刊)が現行版である。初版は2008年2月刊であり、初版のみを前提とした社内手順書やスライドが残っている場合は改訂が必要である。Second Edition では、クリティカルシンキング(批判的思考)に基づいて検証の労力を配分するという考え方、および記録とデータの完全性が扱いを増している。なお GAMP 5 は有償の刊行物であるため、本記事では逐語引用を行わない。詳細は原本を参照されたい。

データインテグリティとの接続

申請資料の信頼性は、そのもとになる日常の記録の信頼性を超えることはない。PIC/S の PI 041-1(2021年7月1日発効)は、その7.5節で ALCOA+ の9属性を整理している。国内では、GMP省令(平成16年厚生労働省令第179号)が令和3年厚生労働省令第90号による改正(2021年4月28日公布、同年8月1日施行)で第20条第2項を設け、手順書等および記録について、欠落がないこと、正確な内容であること、他の手順書等・記録との不整合がないことを継続的に管理し、これらが判明した場合には原因を究明して是正処置および予防処置をとることを明文で求めている。

QMS省令第9条第2項は、記録の「完全性の確保」を「当該記録が正確であり、記録が作成された時点から不適切な改変がない状態を保つこと」と定義している。信頼性保証とは、この状態がシステムのライフサイクル全体にわたって維持されることを、第三者の立場から裏づける活動にほかならない。日々の記録に対する監視・測定の実務は 品質管理(QC)とは、記録の欠落や不整合が見つかったときの原因分析は 根本的原因の重要性とは を参照されたい。

2026年時点で取るべき対応

  1. 社内の CSV 手順書に GAMP 5 の記載がある場合、Second Edition(2022年7月刊)を前提とした記述に改める。初版のみを引用している箇所は改訂する。
  2. CSA に言及する社内文書では、CSA が置き換えるのは General Principles of Software Validation の Section 6 のみであること、Part 11 は現行有効であること、ガイダンスに法的拘束力はないことを明記する。
  3. QMS省令第5条の6・第45条第4項〜第6項・第53条第8項〜第11項を根拠に、自社のソフトウェアバリデーション手順がリスクに応じた厚みの調整を許す構造になっているかを点検する。
  4. 申請資料の信頼性の基準(施行規則第43条ほか)の三原則を、システム要件へ翻訳した対応表を作成する。特に第2号(不利な結果も検討・評価して記載する)に対応する設計になっているかを確認する。
  5. QA の照査を「誤字の指摘」から「再現性の判定」へ切り替える。判定基準の事前設定、第三者による合否判断の再現、環境・バージョンの特定、逸脱の正当化という四点を照査チェックリストに入れる。
  6. 要求から仕様、テスト、結果までの双方向トレーサビリティを維持する仕組みを整える。成果物の版管理と保存の実務は CSVにおける成果物の種類と管理方法 を参照されたい。

出典

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