品質保証(QA)とは
品質保証(QA)は Quality Assurance の略である。Quality Audit ではない。日本の製薬企業・医療機器企業では、完成した成果物に対して事後(Retrospective)に抜き取りで監査を行うことを QA と呼ぶ実務が長く残ってきた。しかしそれは被監査部門が行った Check を繰り返しているにすぎず、業務プロセスの品質を保証したことにはならない。本記事では、QA が「プロセス・仕組みを保証する活動」であることを整理し、製品・結果を見る 品質管理(QC)とは との違いを明確にしたうえで、2026年8月時点で QA 担当者が取るべき対応を示す。
QA は Quality Audit ではない
海外から、日本では QA 部門が QC を行っていると揶揄されることがある。皮肉なことに、日本の製薬企業が新薬申請で提出するデータは Check を繰り返し行っているために最も精度が高いとされる。しかしながら、業務プロセスの品質保証がなされていないと指摘されてきたのである。
QA で本質的に大切なことは、システムや業務の企画・設計・開発・運用の各フェーズにおいて、第三者の観点から規制要件・自社のポリシー・手順書と照らし合わせてレビューすることである。システムの完成後に監査を行い不足事項を指摘しても、それでは後の祭りである。QA 部門は被監査部門と協力し合い、業務の節目節目でプロセスの品質保証を与えることが求められる。
「独立性」は「非協力」ではない
QA に求められる独立性とは、判断が被監査部門の利害に左右されないことである。実務から距離を置くことではない。QMS省令第56条第6項は、内部監査員に自らの業務を内部監査させてはならないと定めているが、これは自己監査の禁止であって、QA が開発プロセスに早期から関与することを妨げるものではない。むしろ節目ごとの照査によって手戻りを防ぐほうが、規制上も経営上も合理的である。
QC と QA の違い
両者は品質部門という同じ屋根の下にありながら、対象も、問いも、判断の時点も異なる。この違いを組織として言語化できていない企業は、QA が QC の二重チェック機関になりやすい。
| 観点 | QC(品質管理) | QA(品質保証) |
|---|---|---|
| 対象 | 製品・ロット・データ・成果物そのもの | それらを生み出すプロセス・仕組み(QMS) |
| 中心的な問い | この製品・データは規格に適合しているか | この製品・データを生む仕組みは信頼できるか |
| 時点 | 事後(作られたものを測る) | 事前・並行(作り方を決める段階から関与する) |
| 主な手段 | 試験検査、監視・測定、校正、判定 | 手順の照査・承認、内部監査、供給者監査、管理監督者照査、データの分析 |
| 不適合への関わり | 検出して隔離・判定する | 原因分析と是正処置の妥当性を評価し、実効性を照査する |
| GMP省令上の位置 | 第4条第3項第2号「試験検査に係る業務を担当する組織」、第11条 | 第4条第3項第1号「品質保証に係る業務を担当する組織」、第12条、第11条の3、第18条 |
| QMS省令上の位置 | 第53条、第57条、第58条、第60条 | 第8条、第9条、第56条、第61条、第62条、第63条、第64条 |
| 成果 | 合否の判定と記録 | プロセスが要求どおりに機能しているという裏づけ |
法令上の QA ―― 誰が、何を保証するのか
GMP省令(平成16年厚生労働省令第179号)は、第4条第2項で品質部門が製造部門から独立していなければならないと定め、同条第3項第1号で品質部門に「品質保証に係る業務を担当する組織」を置くことを求めている。令和3年厚生労働省令第90号による改正で、この組織の役割は大きく拡張された。
- 医薬品品質システムの運用(第3条の3)製造管理者または品質保証に係る業務を担当する組織に、品質方針に基づいた製造所における品質目標を文書により定めさせることが求められている。品質を個別の検査ではなくシステムとして扱う起点である。
- 品質リスクマネジメント(第3条の4)令和3年改正で新設された。リスクに応じて管理の厚みを変えるという発想が、条文として日本の GMP に入った。
- 製造所からの出荷の管理(第12条)品質保証に係る業務を担当する組織が、製造・品質関連業務が適切に行われたかどうかをロットごとに評価し、出荷の可否を決定する。試験検査の合否ではなく、プロセスが適切に回ったかどうかを評価する点が要である。
- 製品品質の照査・供給者管理・外部委託業者の管理(第11条の3〜第11条の5)いずれも品質保証に係る業務を担当する組織に行わせることが明記されている。自社の外側にあるプロセスまで保証の範囲に含まれる。
- バリデーション結果の受領(第13条第1項第2号)バリデーションの計画および結果は、品質保証に係る業務を担当する組織に対して文書により報告しなければならない。QA はバリデーションの外部にいるのではなく、その適否を判断する立場にある。
医療機器・体外診断用医薬品では、QMS省令(平成16年厚生労働省令第169号)が同等の枠組みを置いている。第56条(内部監査)は、あらかじめ定めた間隔での内部監査、監査の判定基準・範囲・頻度・方法の設定、客観性および公平性の確保、そして内部監査された領域に責任を有する責任者に対して修正および是正処置を遅滞なくとらせ、その検証結果を報告させることを求めている。第61条(データの分析)と第62条(改善)は、監査結果・市販後監視・データの分析・是正処置・予防処置・管理監督者照査を通じて、品質管理監督システムの適切性・妥当性・実効性を維持するための変更を明らかにし実施することを求めている。
QMS省令第62条が列挙する入力――品質方針、品質目標、監査の結果、市販後監視、データの分析、是正処置、予防処置、管理監督者照査――は、そのまま QA の年間業務の骨格になる。個別の監査を実施しているだけで、これらを統合した改善のループが回っていない場合、条文上の要求を満たしているとはいい難い。
フェーズごとに保証を与える
「システムの完成後に監査を行っても後の祭りである」という指摘は、コンピュータ化システムに限らず、あらゆるプロジェクトに当てはまる。QA の関与を工程の節目に配置する考え方を、フェーズ別に整理すると次のようになる。
| フェーズ | QAが見る対象 | QAが与える保証 |
|---|---|---|
| 企画・計画 | 実施体制、役割と責任、スケジュール、適用する規制要件の特定 | 計画が実行可能であり、規制要件の抜けがないこと |
| 要求定義 | ユーザ要求仕様書、リスクアセスメントの前提 | 要求が検証可能な形で書かれていること |
| 設計・開発 | 仕様書間の整合、トレーサビリティ、供給者の適格性 | 要求が漏れなく設計へ落ちていること |
| テスト | テスト計画・スクリプト・実行記録・逸脱の処理 | 第三者が同じ判断に至れる証跡が残っていること |
| 移行・稼働開始 | データ移行の検証、手順書、教育訓練、報告書の逸脱記載 | 逸脱が正当化され、残存リスクが受容されていること |
| 運用・保守 | 変更管理、逸脱管理、定期照査、監査証跡レビュー | 稼働後もバリデートされた状態が維持されていること |
| 廃止 | 記録の保管・移行、可読性の確保 | 法定保管期間にわたり記録が読み出せること |
ここで QA が行うレビューは、誤字や体裁の指摘ではない。第三者が同じ資料と記録から出発したときに、同じ結論に到達できるかどうかを判定することである。この「再現性の判定」という考え方は、コンピュータ化システムの文脈では信頼性保証と呼ばれる。詳細は CSVにおける信頼性保証とは を参照されたい。
2026年、QA を取り巻く最大の変化
米国では、21 CFR Part 820 が Quality Management System Regulation(QMSR)へ全面改正された。最終規則は2024年2月2日公布(89 FR 7496、Docket FDA-2021-N-0507)、施行は2026年2月2日である。§820.7 において ISO 13485:2016(E) 第3版と ISO 9000:2015(E) の箇条3が incorporation by reference により取り込まれた。
QA にとって実務上最も重いのは、旧 §820.180(c) が QMSR に承継されていないことである。旧規則では、内部監査の報告書、供給者監査の報告書、管理監督者照査の記録は、FDA 査察官の閲覧対象から除外されていた。この除外規定が QMSR には置かれていない。内部監査記録が「見られない前提」で書かれてきた企業にとっては、記載方針そのものの見直しが必要になる。
査察プログラムも変わった。QSIT は2026年2月2日で運用を終了し、Compliance Program 7382.850 へ移行した。同プログラムは、変更管理、設計開発、管理監督(Management Oversight)、測定・分析・改善、外部委託と購買、製造およびサービス提供という六つの QMS 領域に沿って構成されている。従来の四つのサブシステムを前提とした査察準備は、この六領域に置き換える必要がある。
よくある誤解
ISO 13485 の認証を取得していても、FDA の査察が免除されるわけではない。FDA は適合証明書を発行せず、認証書の提出を求めることもない。QMSR が ISO 13485:2016 を参照取り込みしたことは、認証の代替を認めたことを意味しない。
国際的な枠組みとの対応
QA の役割を国際的な枠組みに位置づけると、ICH Q10「Pharmaceutical Quality System」(Step 4 到達日 2008年6月4日)が挙げられる。同ガイドラインの第3.2節は医薬品品質システムの要素として、工程稼働性能および製品品質のモニタリングシステム(3.2.1)、CAPA システム(3.2.2)、変更マネジメントシステム(3.2.3)、工程稼働性能および製品品質のマネジメントレビュー(3.2.4)の四つを掲げている。品質リスクマネジメントについては ICH Q9(R1) が2023年1月に成立している。日本の GMP省令が令和3年改正で第3条の3(医薬品品質システム)と第3条の4(品質リスクマネジメント)を新設したのは、この国際的な枠組みとの整合を図ったものである。
2026年時点で取るべき対応
- QA の業務記述書を見直し、「完成した成果物の抜き取り監査」以外の活動がどれだけ書かれているかを数える。書かれていなければ、それが現在の QA の姿である。
- プロジェクトの節目に QA レビューを組み込む。企画・要求定義・設計・テスト・移行・稼働開始の各フェーズについて、QA の関与時点と判定基準を手順書に定める。
- QMS省令第62条が列挙する入力(品質方針、品質目標、監査の結果、市販後監視、データの分析、是正処置、予防処置、管理監督者照査)が、一つの改善サイクルに統合されているかを確認する。
- 米国向け製品を扱う企業は、内部監査報告書・供給者監査報告書・管理監督者照査記録の記載方針を見直す。旧 §820.180(c) の閲覧除外は QMSR に承継されていない。
- 査察対応資料を Compliance Program 7382.850 の六つの QMS 領域に沿って再編する。QSIT の四サブシステム前提の索引は使えない。
- QA が指摘した事項が是正処置へつながり、その実効性が照査されているかを追跡する。実効性の照査は QMS省令第63条第2項第6号の要求である。原因分析の実務は 根本的原因の重要性とは を参照されたい。
出典
- 厚生労働省令「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」(平成16年厚生労働省令第179号)https://laws.e-gov.go.jp/law/416M60000100179
- 厚生労働省令「医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」(平成16年厚生労働省令第169号)https://laws.e-gov.go.jp/law/416M60000100169
- Federal Register “Medical Devices; Quality System Regulation Amendments”(89 FR 7496、2024年2月2日)https://www.federalregister.gov/documents/2024/02/02/2024-01709/
- eCFR “21 CFR Part 820 Quality Management System Regulation”https://www.ecfr.gov/current/title-21/chapter-I/subchapter-H/part-820
- ICH “Pharmaceutical Quality System Q10″(Step 4、2008年6月4日)https://database.ich.org/sites/default/files/Q10%20Guideline.pdf
- ICH “Quality Risk Management Q9(R1)”(2023年1月)https://www.ich.org/page/quality-guidelines
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