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医療機器の設計・開発・申請における規制要件入門 ~品質、有効性及び安全性の確保~ 1講 医療機器と規制要件

医療機器は、人の生命と健康に直接影響する製品である。それゆえ、品質(Quality)・有効性(Efficacy)・安全性(Safety)の三つを証明できなければ市場に出すことはできない。本稿は「医療機器の設計・開発・申請における規制要件入門」の第1講として、なぜ医療機器が規制されるのか、日本の薬機法と三つの省令がどのような構造で企業に義務を課しているのか、そして2026年8月時点で規制の地図がどこまで書き換わったのかを整理する。とりわけ、QMS省令の令和3年改正に伴う経過措置は2024年(令和6年)3月25日で終了しており、現在は全面適用の段階にある。米国では2026年2月2日にQMSR(Quality Management System Regulation)が施行された。「これから対応する」段階はすでに終わっている、という前提で読み進めていただきたい。

そもそも、医療機器はなぜ規制されるのか

医療機器は、診断・治療・予防のために人体に対して直接用いられる。効かない機器は患者から治療機会を奪い、危険な機器は患者と医療従事者を傷つける。したがって医療機器として認められるためには、品質・有効性・安全性の三要素を証明した資料を規制当局または認証機関に提出し、その評価に合格しなければならない。

規制の目的は、日本の厚生労働省、米国FDA、欧州のいずれにおいても共通している。ひとつは「良質で高度な医療製品を国民に届ける」という推進の側面であり、もうひとつは「品質・有効性・安全性を規制することで保健衛生上の危害を防止する」という規制の側面である。自動車のアクセルとブレーキの関係に例えられることが多い。アクセルだけでは事故が起き、ブレーキだけでは前に進まない。規制要件を「面倒な障害物」とだけ捉えると、この構造を見誤る。

規制要件は「証明の手順書」である

規制要件は、企業に対して「安全で有効であることを、どのような証拠で、どのような記録で示すか」を定めたものである。設計が優秀であっても、それを証明する文書と記録がなければ、規制上は「証明されていない」と扱われる。設計そのものと、設計を管理し記録する仕組み(設計管理)は別物である。この点は6講 医療機器申請と当局査察で詳述する。

薬事法から薬機法へ

日本の医薬品・医療機器規制の基本法は、かつて「薬事法」と呼ばれていた。名称が「薬事」であるために医薬品を中心とした法律という印象が強く、医療機器の位置づけが見えにくいという問題があった。

そこで、薬事法等の一部を改正する法律(平成25年法律第84号)により、法律の題名が「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(以下、薬機法)へ改められた。この改正法は2014年(平成26年)11月25日に施行されている。特徴は二点ある。題名に「医療機器」の語が明記されたこと、そして「品質、有効性及び安全性」という三要素が題名そのものに書き込まれたことである。

薬事法から薬機法への主な転換点
観点改正前(旧薬事法)2014年11月25日施行以降(薬機法)
題名薬事法医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
医療機器の位置づけ医薬品と同じ枠組みの中で扱われる部分が多かった医療機器・体外診断用医薬品に関する規定が独立して整理された
製造業許可制登録制へ移行
単体プログラム機器に組み込まれたソフトウェアが中心単体プログラム(ソフトウェア単独)も医療機器の対象に
再生医療等製品独立の区分なし新たな区分として追加

なお、薬機法はその後も改正されている。直近の改正は令和7年法律第37号(令和7年5月21日公布)であり、施行は段階的で、一部が令和8年(2026年)5月1日から施行されている。実務では「いつ公布されたか」ではなく「自社に関係する条項がいつ施行されるか」を確認する必要がある。

しばしば「令和6年改正薬機法」という表現を見かけるが、そのような改正法は存在しない。直近の改正は上記の令和7年法律第37号である。社内資料や教育資料に誤った呼称が残っていないか確認されたい。

薬機法の対象と二つの目的

薬機法が規制する製品は、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品の五つである。各区分の内容は2講 医療機器の種類で扱う。

薬機法の目的も二つに整理できる。第一に、品質、有効性及び安全性の確保、ならびにこれらの使用による保健衛生上の危害の発生・拡大の防止のために必要な規制を行うこと(ブレーキ)。第二に、医療上とくに必要性が高い医薬品・医療機器・再生医療等製品の研究開発の促進を図ること(アクセル)である。承認審査と市販後の規制を担う実務機関がPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)であり、研究開発の促進策は厚生労働省・経済産業省が担っている。

製造販売業に求められる三つの体制

医療機器を市場に出すには、製品ごとの承認・認証・届出だけでは足りない。企業そのものが「製造販売業許可」を得ていなければならず、その許可要件として厚生労働省令で定める基準への適合が求められる。

すなわち、申請に係る医療機器または体外診断用医薬品の製造管理・品質管理に係る業務を行う体制が省令の基準に適合しない場合、および、申請に係る医療機器または体外診断用医薬品の製造販売後安全管理の方法が省令の基準に適合しない場合には、許可を与えないことができるとされている。ここで参照される省令が、体制省令とGVP省令である。

製造販売業者が構築すべき三つの体制と根拠省令
体制根拠省令主な要求の趣旨
製造管理・品質管理の基準QMS省令(平成16年厚生労働省令第169号)設計開発から製造、出荷、是正処置までの品質マネジメントシステムを文書化し、運用し、記録すること
製造販売業者の体制体制省令(平成26年厚生労働省令第94号)製造販売業者側に、製造所を含めた品質管理業務を統括する体制を置くこと
製造販売後安全管理GVP省令(平成16年厚生労働省令第135号)市販後の安全管理情報の収集・検討・措置を行う体制と手順を持つこと

用語の誤記に注意

実務資料で頻出する誤記として、「QMS省令」(正しくはQMS省令)、「GVP省令」(正しくはGVP省令。Good Vigilance Practice)、「体外診断用医薬品」(正しくは体外診断用医薬品)がある。手順書や教育資料に誤記が残っていると、査察時に文書管理の質そのものを疑われかねない。

これら三つの体制が整っていることが、製造販売業許可の「取得」と「維持」の要件である。許可は一度取れば終わりというものではなく、体制が崩れれば維持できない性質のものである。

医療機器を規制する三つの要素

医療機器の規制は、大きく三つの要素で構成される。

  1. 市販前適合性評価(承認・認証・届出)製品(品目)そのものが、有効性と安全性に関する要求事項を満たしていることを、上市前に評価する仕組みである。国(PMDA)が審査して大臣が承認するもの、登録認証機関が認証するもの、届出のみで流通できるものがある。承認と認証で申請の手順自体は基本的に同じである。
  2. 品質の確保(QMS適合性調査)承認・認証の審査に際して、QMS省令に基づくQMS適合性調査が行われる。製品ライフサイクル全体の管理が適切に実施され、良質な製品が継続的に出荷される仕組みになっているかを確認する。製造所を訪問する実地調査と、文書に基づく書面調査の二通りがある。
  3. 市販後安全管理(GVP省令)上市後の安全性情報を収集・分析・評価し、必要な措置(回収、不具合報告、注意喚起文書の配布、行政への報告など)を講じる。根拠はGVP省令である。PMDAの医療機器安全対策関連通知も日常的に確認すべき情報源である。
クラス分類と市販前手続の関係(日本)
クラスリスクの考え方市販前手続QMS適合性調査
クラスI(一般医療機器)不具合が生じても人体へのリスクが極めて低い届出原則として不要
クラスII(管理医療機器)リスクが比較的低い認証基準があるものは登録認証機関の認証。認証基準がないものは大臣承認必要
クラスIII(高度管理医療機器)リスクが比較的高い原則として大臣承認。認証基準が整備されたものは認証となる場合がある必要
クラスIV(高度管理医療機器)侵襲性が高く、生命の危険に直結し得る大臣承認必要

クラス分類は国際的なリスク分類の考え方(GHTFの成果を継承した、2011年10月発足のIMDRFの枠組み)を踏まえているが、同一の製品であっても日本・米国・欧州でクラスが一致するとは限らない。上市を予定する各国の分類規則を個別に確認する必要がある。

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品質システム規制の歴史と、現在地

医療機器の品質システムに関する規制は、日米欧でそれぞれ独自に形成され、その後に国際規格への収束が進んだ、という経緯をたどっている。

医療機器の品質システム規制の変遷(2026年8月時点)
時期日本米国国際規格・欧州
1990年代医療用具GMPを運用1996年10月7日にQSR(Quality System Regulation, 21 CFR Part 820)を公布し、1997年6月1日に施行ISO 9001を基礎に、医療機器向け品質システム規格の整備が進む
2000年代QMS省令(平成16年厚生労働省令第169号)を制定し、ISO 13485:2003と整合QSRの運用が定着。査察手法としてQSITを使用ISO 13485:2003が発行
2016年ISO 13485:2016(第3版)が発行
2021年令和3年厚生労働省令第60号を令和3年3月26日に公布・施行。ISO 13485:2016と整合EU MDR(規則(EU)2017/745)が2021年5月26日に適用開始
2024年2024年3月25日で経過措置が終了し、改正QMS省令が全面適用2024年2月2日、QMSR最終規則を公布(89 FR 7496)IVDR(規則(EU)2017/746)は2022年5月26日に適用開始済み
2026年改正QMS省令の全面適用が定着2026年2月2日、QMSRが施行。QSITは同日で運用終了ISO 13485は2025年10月31日の定期見直しで「確認(Confirmed)」となり、2016年版が現行

「2024年3月26日までに新QMS省令へ対応」という記述は失効している

QMS省令の令和3年改正(薬生発0326第10号薬生監麻発0326第4号)の経過措置は2024年(令和6年)3月25日をもって終了している。2026年8月現在、改正QMS省令は全面適用であり、「期限までに対応が必要」という段階ではない。すでに適用されている要求に自社のQMSが適合しているか、という現在形の問いに置き換えるべきである。

米国:QSRからQMSRへ

米国では、21 CFR Part 820が2024年2月2日公布の最終規則(89 FR 7496)により全面的に改正され、名称もQuality Management System Regulation(QMSR)に改められた。施行は2026年2月2日である。旧称であるQuality System Regulation(QSR)はもはや用いられない。

QSRからQMSRへ:実務に効く変更点
観点QSR(〜2026年2月1日)QMSR(2026年2月2日〜)
規則の構造Subpart A〜Oに要求事項を自前で記述Subpart A・Bのみ存置し、Subpart C〜OはReserved
国際規格との関係ISO 13485とは別建て§820.7でISO 13485:2016(E)およびISO 9000:2015(E)箇条3を参照取り込み(incorporation by reference)
設計管理§820.30(Design controls)§820.30は削除。§820.10(c)を経由してISO 13485の箇条7.3が根拠となる
記録の閲覧除外旧§820.180(c)により、内部監査・供給者監査・管理監督者照査の記録は査察官の閲覧対象外同等の除外規定は承継されていない
査察プログラムQSITCP 7382.850(2026年2月2日発行)。QSIT、CP 7382.845、CP 7383.001は同日で使用終了

規則本文はeCFRの21 CFR Part 820で確認できる。あわせて、2025年12月4日公布の技術的修正(90 FR 55978)により、18パート179条にわたるQSR参照がQMSRへ置き換えられている。社内手順書のなかに「QSR」「820.30」という参照が残っていれば、改訂の対象である。

ISO 13485認証はFDA査察を免除しない

QMSRがISO 13485:2016を参照取り込みしたことをもって、「ISO 13485の認証を取得していればFDAの査察は不要になる」と理解するのは誤りである。FDAは適合証明書を発行せず、認証書の提出を求める仕組みも持たない。査察はFDA自身の権限で実施される。

日米欧の要求は「近づいた」が「同一」ではない

ISO 13485:2016を軸として、日本のQMS省令、米国のQMSR、欧州MDR/IVDRの品質マネジメントシステム要求は、かつてより格段に近づいた。しかし、これはあくまで品質マネジメントシステムの領域の話である。安全性・有効性の証明に用いる規格や、市販後の報告義務、技術文書の構成は各極で異なる。ひとつのQMSで三極をカバーする設計は可能だが、「ISO 13485に適合していれば各国要求をすべて満たす」という理解は成り立たない。

安全性・有効性の証明で参照される主な規格(現行版・2026年8月時点)
規格現行版備考
ISO 134852016(第3版)2025年10月31日の定期見直しで「確認(Confirmed)」。改訂作業は進行していない
ISO 14971(リスクマネジメント)2019(第3版)ISO/TR 24971:2020を併用。EU整合規格はEN ISO 14971:2019+A11:2021。国内はJIS T 14971:2020
IEC 62366-1(ユーザビリティエンジニアリング)2015+AMD1:2020国内はJIS T 62366-1:2022
ISO 10993-1(生物学的評価)2025(第6版)2018年版(第5版)は廃止
JIS T 0601-1(ME機器の基礎安全・基本性能)2023「2017年版」としている社内資料は更新が必要

2026年時点で取るべき対応

  1. 「期限訴求」型の記述を社内から一掃する改正QMS省令の経過措置は2024年3月25日に終了している。「2024年3月26日までに対応」という表現が手順書・教育資料・販促資料に残っていれば、現在形(全面適用)の記述に改める。
  2. 米国向け手順書のQSR参照をQMSRへ改訂するとくに「21 CFR 820.30に基づく設計管理」という記述は根拠条文が変わっている。§820.10(c)経由でISO 13485箇条7.3を参照する構成へ置き換える。
  3. 内部監査・供給者監査・管理監督者照査の記録の扱いを見直す旧§820.180(c)の閲覧除外がQMSRに承継されていないことを前提に、記録そのものの作成品質を引き上げる。
  4. 三つの体制(QMS省令・体制省令・GVP省令)の役割分担を再確認する許可の維持要件であることを踏まえ、責任者の配置、手順書の版、教育訓練記録の整合を点検する。
  5. 参照規格の版を棚卸しするISO 10993-1は2025年版、JIS T 0601-1は2023年版が現行である。設計文書・技術文書に古い版の引用が残っていないか確認する。
  6. 誤記を修正するQMS省令、GVP省令、体外診断用医薬品といった誤記は、文書管理の信頼性に対する評価に直結する。全社文書を横断検索して置換することを勧める。

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