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医療機器の設計・開発・申請における規制要件入門 ~品質、有効性及び安全性の確保~ 6講 医療機器申請と当局査察

承認や認証を早く取りたい——医療機器メーカーであれば誰もが抱く要求である。しかし、審査の入口で速度を決めるのは申請書の書き方ではなく、その前段にある申請戦略と、日々の設計管理である。本稿は「医療機器の設計・開発・申請における規制要件入門」の第6講として、申請資料の構造、設計と設計管理の違い、クラス分類とQMS適合性調査の関係、そして日米欧の審査・査察の枠組みを整理する。2026年8月時点では、米国の査察プログラムが2026年2月2日にQSITからCP 7382.850へ切り替わり、国内では承認申請の添付資料に関する通知が令和8年3月31日付で改正されている。査察対応の前提そのものが更新されている点に留意されたい。

まず「申請戦略」を作る

申請を早く通したいという要求に対して、最初に着手すべきは申請戦略の策定である。どの申請区分で、どの国から、どのクラスとして、どのエビデンスで通すのか。これを決めてから、エビデンスを揃え、申請資料を作成する。

3講 医療機器と品質および5講 医療機器と有効性で述べたとおり、ユーザーの要求と規制要求を集めて有効性を証明し、安全情報に基づく安全要求から安全性を証明する。加えて、先行機種や類似機種に対してどのような特性・特質があるのかを明示する必要がある。新たな特性を付与すれば新たなハザードが生まれ、そこから生じるリスクをマネジメントする必要が出てくる。少なくとも先行品に対する同等性を評価し、同等以上であることを示さなければならない。

申請区分を後から変えるのは高くつく

改良医療機器として申請する計画だったにもかかわらず、開発途中で新しい機能を追加した結果、新医療機器として扱われることになった。クラスIIで収めるつもりが、仕様の変更によりクラスIIIに該当することになった——こうした事態は、必要な試験の追加、臨床評価の水準の引き上げ、承認取得時期の後ろ倒しを一度に引き起こす。申請戦略は、設計インプットを確定する段階で立て、設計変更のたびに見直すべきものである。

申請資料の構造とSTED

申請資料は、鏡となる申請書と、その下に置かれるSTED(Summary Technical Documentation:申請概要)、さらにその根拠となる技術文書(設計文書)という三層構造で理解するとよい。

申請資料の三層構造
内容提出・確認のされ方
申請書品目の基本情報を記載する「鏡」申請時に提出
STED(申請概要)技術文書のサマリー文書。承認申請でも認証申請でも作成が必要申請時に提出。作成の留意事項は通知で示されている
技術文書(設計文書)仕様書、設計資料、試験記録、外部試験機関の成績証明書、検証・バリデーション記録など原則として全量は提出しない。信頼性調査においてランダムに指定されたものを提示する

STEDはGHTFが整備した様式を起源とし、その成果は2011年10月に発足したIMDRFに継承されている。国内では、平成27年1月20日 薬食機参発0120第9号が添付資料の作成に関する留意事項を示しており、この通知は令和8年3月31日 医薬機審発0331第7号により一部改正されている。改正では添付資料の項目「へ」にリアルワールドデータが明文化された。整備省令(令和7年厚生労働省令第117号)の施行日である令和8年5月1日以降の申請に適用される。

平成17年2月16日 薬食機発第0216003号「添付資料概要作成の手引き」は、薬食機参発0120第9号により廃止されている。法令データベースに全文が残るため誤引用が起きやすい。社内の申請手順書が古い通知を参照していないか点検されたい。

「どの資料を求められるか分からない」ことを前提に揃える

信頼性調査では、STEDを踏まえて当局側が確認対象の資料を選定する。どの資料が指定されるかは事前に分からないため、すべての根拠資料を揃えておく必要がある。調査依頼を受けてから作成しても、審査期間には間に合わない。必要な資料を期限内に提示できなければ、審査そのものが立ち行かなくなる。

設計と設計管理は別物である

実務でもっとも誤解が多いのが、「設計」と「設計管理」の違いである。この二つは、見られる場面も、見る主体も、評価の観点も異なる。

設計と設計管理の違い
観点設計設計管理
問われることどのような機能・仕様・性能で、どのような結果が得られたか。安全設計によりリスクが回避・低減されているか設計計画を作成したか、計画を遵守したか、結果が管理され記録として残っているか、記録が改ざんされていないか
見られる場面承認審査・認証審査QMS適合性調査
結論として得られるもの当該医療機器に有効性・安全性があること品質マネジメントシステムが機能していること
根拠薬機法に基づく承認・認証の要件QMS省令(平成16年厚生労働省令第169号)。米国では21 CFR 820(QMSR)§820.10(c)経由のISO 13485箇条7.3

デザインレビュー(設計審査)を実施していても、審査に加わった者に力量がなければ意味をなさない。素人がレビューしても、品質の良い機器にも安全性の高い機器にもならない。したがって、設計審査に誰が加わり、その者がどのような力量を有しているかを管理し、記録として残す必要がある。設計検証、設計バリデーション、臨床評価、必要に応じた臨床試験が、計画に沿って正しく管理され、記録されているか——これを確認するのがQMS適合性調査である。

QMS省令が規制しているのは「設計管理」であって「設計」ではない

QMS省令、ISO 13485、米国QMSRが規制するのは設計管理である。どのような設計をするかを規制しているわけではない。実務で問題が起きるのは、設計そのものよりも設計管理が機能していない場合が圧倒的に多い。とくに、大学や外部機関が保有する要素技術を導入する場合、アルゴリズムや原理はあっても設計文書が存在せず、規制上は「設計していない」と評価されるという事態が起こりやすい。

要素技術は、多くの場合は有効性の側に寄っており、安全設計は施されていない。したがって、要素技術を医療機器設計へと拡張し、さらに規制要件・国際規格に沿ってその設計を管理する枠組み(設計管理のフレームワーク)を用意しなければならない。

クラス分類と承認・認証・QMS適合性調査

日本におけるクラス分類と手続の関係を整理すると、次のようになる。要点は単純で、クラスIを除けば、クラスII・III・IVのいずれもQMS適合性調査が必要であるということである。

クラス分類・市販前手続・QMS適合性調査(日本)
クラス区分市販前手続審査・認証の主体QMS適合性調査
クラスI一般医療機器届出原則として不要
クラスII管理医療機器認証基準があるものは認証。ないものは承認登録認証機関(認証基準がない場合はPMDAの審査を経て大臣承認)必要
クラスIII高度管理医療機器原則として承認。認証基準が整備されたものは認証PMDAの審査を経て大臣承認(一部は登録認証機関)必要
クラスIV高度管理医療機器承認PMDAの審査を経て大臣承認必要

クラスIIIであっても、長期の使用実績があり安全性が十分に確認された品目(コンタクトレンズ、一部のインプラント等)には認証基準が整備され、登録認証機関の認証によって上市できるものがある。逆に、認証基準が存在しない新規性の高い機器は、クラスIIであっても大臣承認となり得る。クラスと手続は一対一で対応しないという点は、申請戦略上の重要な論点である。

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QMS適合性調査は「製造販売業者」に対して行われる

2014年(平成26年)11月25日に施行された薬機法により、QMS適合性調査は製造販売業者を対象として実施される仕組みとなった。製造販売業者が各製造所を監視・監督していることを確認する構造である。製造販売業者は、各製造所が保有する製品標準書を集約して管理することが原則となる。

この仕組みには理由がある。たとえば機構部品を神奈川県で、電子回路を群馬県で、ソフトウェアを千葉県で製造している場合、それぞれを個別に監査しても、医療機器としての安全性・有効性は確認できない。医療機器として組み上がって初めて品質が担保されていることを確認できるからである。

製造販売業者への調査を起点として、そこから製造所(主に最終組立工程、滅菌前工程、包装工程など、医療機器として動作する形に仕上げる工程)に対して実地調査が入ることがある。実地調査が行われるか否かは調査当局の判断による。ISO 13485の認証を取得している場合に実地調査が省略されることもあるが、必ず省略されるわけではない。

MDSAPの活用

日本はMDSAP(Medical Device Single Audit Program)に2015年6月に参加しており、PMDAは2022年4月1日からMDSAPの調査結果を本格的に受け入れている。複数国での上市を計画する企業にとって、監査の重複を減らす有力な選択肢である。

米国の査察:QSITからCP 7382.850へ

米国では、2026年2月2日にQMSR(21 CFR Part 820)が施行されたことに伴い、査察プログラムも切り替わった。長年用いられてきたQSITは2026年2月2日で運用を終了し、同日発行のCP 7382.850へ移行している。CP 7382.845、CP 7383.001も同日で使用が終了した。

米国の査察プログラムの変更(2026年2月2日)
観点QSIT(〜2026年2月1日)CP 7382.850(2026年2月2日〜)
査察の構造4つのサブシステム(Management Controls、Design Controls、CAPA、Production and Process Controls)を中心に構成6つのQMS領域:Change Control/Design and Development/Management Oversight/Measurement, Analysis and Improvement/Outsourcing and Purchasing/Production and Service Provision
追加の確認領域4つのOAFR:MDR/Corrections and Removals/Tracking/UDI
設計管理の根拠21 CFR 820.30§820.10(c)を経由したISO 13485箇条7.3
記録の閲覧除外旧§820.180(c)により内部監査・供給者監査・管理監督者照査の記録は閲覧対象外同等の除外規定は承継されていない

内部監査記録の「見られない前提」は成り立たなくなった

旧QSRの§820.180(c)にあった閲覧除外がQMSRに承継されていない以上、内部監査・供給者監査・管理監督者照査の記録は、査察で読まれることを前提に作成しなければならない。「社内向けだから率直に書いてよい」という運用は、記録の質と是正処置の実行状況の両面でリスクとなる。指摘事項の記載と、それに対する是正処置の完了記録が対で残っているかを点検されたい。

QMSRがISO 13485:2016を参照取り込みしたことをもって、ISO 13485の認証があればFDA査察が免除されると理解するのは誤りである。FDAは適合証明書を発行せず、認証書の提出を求める仕組みも持たない。

日米欧で異なる「誰が市販前評価を行うか」

市販前の適合性評価を誰が担うかは、地域によって設計思想が異なる。

市販前評価の主体(日米欧の比較・2026年8月時点)
地域市販前評価の主体規制当局の役割
日本PMDAの審査を経た大臣承認と、登録認証機関による認証の二本立て承認審査、登録認証機関の登録・監督、QMS適合性調査、市販後安全対策
米国FDAによる審査(510(k)、De Novo、PMA等)。低・中リスクの一部品目については第三者レビューの仕組みも設けられている審査、査察(CP 7382.850)、市販後の監視・執行
欧州(MDR/IVDR)ノーティファイドボディ(NB)による適合性評価。自己適合宣言のみで足りるのは最も低リスクの区分に限られるNBの指定・監督、市販後surveillanceおよびvigilance、市場監視。「当局が一切関与しない」わけではない

「欧州は自己認証が基本で当局は関与しない」という説明は、旧医療機器指令(MDD)時代の理解が残ったものであり、現行のMDR(規則(EU)2017/745、2021年5月26日適用開始)およびIVDR(規則(EU)2017/746、2022年5月26日適用開始)の下では正確でない。MDRではNBの関与範囲が拡大し、加盟国当局によるNBの指定・監督と市場監視の仕組みも強化されている。なお、旧指令に基づくレガシーデバイスの移行期限は、(EU)2023/607により2027年12月31日/2028年12月31日とされている。

2026年時点で取るべき対応

  1. 米国向けの査察対応手順をCP 7382.850へ更新するQSITの4サブシステムを前提とした社内の模擬査察・準備資料は、6つのQMS領域と4つのOAFRの構成に組み替える。
  2. 設計管理の根拠条文を差し替える21 CFR 820.30は削除された。§820.10(c)経由でISO 13485箇条7.3を参照する構成に、手順書とトレーサビリティマトリクスを改訂する。
  3. 内部監査・供給者監査・管理監督者照査の記録を見直す閲覧除外は承継されていない。指摘と是正処置の完了記録が対で残る運用に改める。
  4. 申請添付資料の手順を令和8年改正に合わせる令和8年5月1日以降の申請には、RWDが明文化された改正後の通知(令和8年3月31日 医薬機審発0331第7号)が適用される。廃止済みの旧通知を参照していないか点検する。
  5. MDSAPの活用可否を検討する日本は2015年6月に参加し、PMDAは2022年4月1日から調査結果を本格受入している。複数国展開の場合、監査負荷の低減効果を試算する。
  6. 欧州向け説明資料を現行のMDR/IVDRに合わせる「自己認証が基本」という旧MDD時代の説明は改める。レガシーデバイスの移行期限(2027年12月31日/2028年12月31日)も社内計画に反映する。

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