医療機器の設計・開発・申請における規制要件入門 ~品質、有効性及び安全性の確保~ 3講 医療機器と品質
医療機器における「品質が良い」とは、部品が高級であることでも、仕上げが美しいことでもない。実際の医療現場で、実際の使用者が、実際の使い方をしたときに、その機器の仕様が使用目的に適合していることを指す。本稿は「医療機器の設計・開発・申請における規制要件入門」の第3講として、品質の四つの側面、ISO 13485:2016が求める顧客重視の考え方、そして「目的への適合性(fitness for purpose)」という品質の本質を整理する。あわせて、2026年8月時点における日米欧の品質マネジメントシステム要求の対応関係も確認する。QMS省令の令和3年改正に伴う経過措置は2024年(令和6年)3月25日で終了しており、現在は全面適用である点を前提とする。
医療機器開発の目的はQOLの改善である
医療機器開発の目的は、患者およびユーザーのQOL(Quality of Life)を改善することにある。より侵襲度の低い機器、より精度の高い機器、より使いやすい機器、より安全な機器——これらはすべてQOL改善という一つの方向を向いている。
たとえば血糖値の測定において、毎回ランセット針で穿刺して採血する方式よりも、非侵襲で測定できる方式のほうが患者の負担は小さい。技術の進歩に伴って機能・性能が改良されていくこと自体が、患者・ユーザーのQOL改善である。医療機器が「一度承認を得たら完成」ではなく、継続的な改良を前提とする製品であるのは、この点に理由がある。
品質には四つの側面がある
品質という語は多義的である。医療機器の実務では、少なくとも次の四つを区別して扱うと議論が整理される。
| 種類 | 内容 | 失敗したときに起きること |
|---|---|---|
| 企画の品質 | 製品で実現しようとする特性が、顧客(医療従事者・患者)の要求に合致していること | 誰も必要としない機能を作り込み、現場で使われない機器になる |
| 設計の品質 | 企画段階で検討された特性の水準や品質仕様が、設計に正しく落とし込まれていること | 要求は正しいのに実現できない。あるいは仕様が曖昧で検証できない |
| 製造の品質 | 図面・仕様書などの設計文書どおりに、何度繰り返しても同じ品質で製造できること | 設計が適切でも、不良品が市場に流出する |
| サービスの品質 | 据付け・調整、消耗品の供給、不良品対応、定期保守、校正、教育訓練が顧客要求を満たすこと | 使用期間中に性能が劣化し、誤使用や事故につながる |
実際の医療現場の医療従事者や患者が、どのような機能・性能を持つ機器を望んでいるかという要求事項を収集することは、開発の起点として決定的に重要である。顧客の要求を満たした企画を立てること、これが企画の品質である。
設計の品質には二つのゴールがある。ひとつは図面を出して製造できること、もうひとつは設計資料を整えて申請し、審査を通過することである。この二つは別のゴールであり、片方だけを満たしても製品は市場に出ない。
製造の品質は、設計が適切であっても製造でミスが生じれば品質の悪い機器が市場に流れる、という単純な事実に基づく。逆もまた真であり、製造が適切でも設計が誤っていれば安全な機器にはならない。医療機器において設計の品質管理と製造の品質管理の双方が重視されるのは、この対称性による。
医薬品との決定的な違い
医薬品は患者が服用すればそこで完結するが、医療機器は使用され続ける。その間に生じる使用エラー、経年劣化、故障に対応し、安全性を維持し続けなければならない。サービスの品質が医療機器において独立した論点となるのはこのためである。なお、リスクマネジメント規格の国内版であるJIS T 14971:2020では、従来の「誤使用」が「使用エラー」に用語変更されている。社内文書の用語が更新されているか確認されたい。
顧客重視——ISO 13485:2016が求めるもの
ISO 13485:2016は、箇条5.2「顧客重視」において、トップマネジメントに対し、顧客要求事項と適用される規制要求事項の双方が決定され、満たされていることを確実にするよう求めている(要求の趣旨。有償規格のため逐語の引用は行わない)。
ここで重要なのは、「顧客要求」と「規制要求」が並列で置かれていることである。医療機器を設計するうえで満たすべきものは二つある。ユーザーの要求を満たすことと、規制要件を遵守することである。どちらか一方だけでは製品にならない。
顧客要求は、通常「次の機器にはこういう機能が欲しい」「この性能をもう少し上げてほしい」というポジティブな形で表明される。一方、安全に関する要求は顧客からは提示されないことが多い。顧客要求のなかに安全要求は含まれないと考えておくべきであり、安全設計は設計者側が主体的に組み立てなければならない。要求された機能・性能を実現するために、どのような安全設計を組み合わせるか——それが設計者の職責である。
| 箇条 | 領域 | 設計品質との関係 |
|---|---|---|
| 箇条4 | 品質マネジメントシステム | 文書化された情報、品質マニュアル、医療機器ファイルの整備 |
| 箇条5 | 経営者の責任 | 顧客重視(5.2)、品質方針、責任・権限、管理監督者照査 |
| 箇条6 | 資源の運用管理 | 力量、教育訓練、作業環境。設計審査を行う者の力量もここに関わる |
| 箇条7.3 | 設計・開発 | 設計インプット・アウトプット、設計審査、検証、バリデーション、設計変更の管理 |
| 箇条8 | 測定、分析及び改善 | 苦情処理、是正処置・予防処置、内部監査、市販後のフィードバック |
箇条7.3の重みは、2026年2月2日の米国QMSR施行によってさらに増した。米国では21 CFR 820.30(Design controls)が削除され、設計管理の根拠は§820.10(c)を経由してISO 13485の箇条7.3に移っている。「820.30に基づく設計管理」という記述が社内手順書に残っていれば、改訂が必要である。
品質とは何か——「要求事項を満たす程度」
ISO 9000は、品質を「本来備わっている特性の集まりが、要求事項を満たす程度」という趣旨で定義している(要求の趣旨。有償規格のため逐語の引用は行わない)。この定義の核心は、品質が絶対値ではなく、要求事項との関係で決まる相対的な概念であるという点にある。
したがって、「品質が良い」とは、顧客の要求と製品の仕様が合致している状態を指す。高級であることや、使い勝手が優れていることは、それ自体では品質の良し悪しを決めない。
最高級のナイフは、手術には使えない
手術に際してメスがなかったとして、非常に品質の良い最高級のナイフを持ってきたとしよう。それは「ナイフとしての品質」は高いが、手術という使用目的には適合していない。意図した使用(intended use)と当該機器の仕様が合っていなければ事故が起きる。これは品質が良い状態とは言えない。
もう一つ例を挙げる。家庭でプラスネジを締めたいがプラスドライバーがないとき、マイナスドライバーで代用することは物理的には可能である。しかし、ネジ穴が潰れる可能性があり、繰り返せばドライバー自体も破損しかねない。「プラスネジを締める」という使用目的に対して、マイナスドライバーは適合していない。
この考え方を目的への適合性(fitness for purpose)という。医療機器の品質とは、その機器そのものの製品品質だけを指すのではない。実際の医療現場において、実際の患者・ユーザーが、実際の使用方法で用いたときに、当該機器の仕様が使用目的に適合しているか——それが品質の定義である。
そもそもユーザー要求自体が誤っている場合もある。現場が「こうしてほしい」と述べた内容が、必ずしも安全で有効な解であるとは限らない。だからこそ、実使用環境における設計バリデーションが必要になる。設計検証(verification)が「仕様どおりに作れたか」を確認するのに対し、設計バリデーション(validation)は「使用目的を満たしているか」を確認する。この二つを混同しないことが実務の基本である。
品質を規定する規制の対応関係(2026年8月時点)
品質マネジメントシステムに関する要求は、ISO 13485:2016を軸として日米欧が収束してきた。現在の対応関係は次のとおりである。
| 地域 | 根拠 | ISO 13485との関係 | 現在の状態 |
|---|---|---|---|
| 日本 | QMS省令(平成16年厚生労働省令第169号) | 令和3年厚生労働省令第60号(令和3年3月26日公布・施行)によりISO 13485:2016と整合 | 経過措置は2024年3月25日で終了。全面適用 |
| 米国 | 21 CFR Part 820(QMSR) | §820.7でISO 13485:2016(E)およびISO 9000:2015(E)箇条3を参照取り込み | 2026年2月2日施行。Subpart C〜OはReserved |
| 欧州 | MDR(規則(EU)2017/745)/IVDR(規則(EU)2017/746) | 品質マネジメントシステムの構築を要求。EN ISO 13485が整合規格として用いられる | MDRは2021年5月26日、IVDRは2022年5月26日に適用開始 |
「ISO 13485に適合していれば、どこでも通る」わけではない
三極の要求は接近したが、同一ではない。FDAは適合証明書を発行せず、認証書の提出を求める仕組みも持たない。ISO 13485の認証はFDA査察を免除しない。また、安全性・有効性の証明に用いる規格、技術文書の構成、市販後の報告義務は各極で異なる。品質マネジメントシステムの共通化と、各極固有の要求への対応は、分けて計画すべきである。
企画の品質を外すと、後工程では取り返せない
どのような要求がなされているのか、どういう環境で、誰が、実際にどのような使い方をするのか。これを理解しないまま医療機器を開発すれば、品質の良い機器にはならず、結果として安全な機器にもならない。企画の品質が崩れた状態で設計・製造の品質だけを高めても、目的への適合性は回復しない。
顧客要求の収集、使用環境の把握、使用者の力量の想定、そして安全設計。これらを設計インプットとして文書化し、設計審査(デザインレビュー)で妥当性を確認していく——これが医療機器の設計プロセスの骨格である。設計そのものと、それを管理する仕組み(設計管理)の違いについては、6講 医療機器申請と当局査察で詳しく扱う。
2026年時点で取るべき対応
- QMS省令は「全面適用」を前提に点検する経過措置は2024年3月25日に終了している。「期限までに対応」という前提で作られた社内資料・教育資料は、現在形の記述に改める。
- 設計管理の根拠条文を米国向けに更新する21 CFR 820.30は削除された。設計管理の根拠は§820.10(c)経由のISO 13485箇条7.3である。
- 企画の品質を工程として定義する顧客要求の収集方法、使用環境の調査、想定使用者の力量の定義を、設計インプットの前段の正式な工程として手順化する。
- 安全要求は設計者が起票する顧客要求に安全要求は含まれない。リスクマネジメント(ISO 14971:2019/JIS T 14971:2020)の出力を設計インプットへ確実に接続する。
- 検証とバリデーションを分けて計画する「仕様どおりか」と「使用目的を満たすか」は別の問いである。実使用環境でのバリデーション計画を早期に立てる。
- 用語を最新化するJIS T 14971:2020で「誤使用」は「使用エラー」に変更されている。手順書・様式・教育資料の用語を統一する。
出典
- 厚生労働省 薬生発0326第10号(医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令の一部を改正する省令の施行について)
- 厚生労働省 薬生監麻発0326第4号
- 厚生労働省「医薬品・医療機器」
- ISO 13485:2016 Medical devices — Quality management systems — Requirements for regulatory purposes
- eCFR 21 CFR Part 820(Quality Management System Regulation)
- Federal Register「Medical Devices; Quality System Regulation Amendments」(89 FR 7496、2024年2月2日)
- PMDA「信頼性保証業務」

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