【徹底解説】(全5講)ISO-13485:2016対応セミナー【第1講】
ISO 13485 の現行版は 2016年版(第3版)である。2016年3月1日に発行され、2025年10月31日に完了した定期見直し(systematic review)でも「確認(Confirmed)」と判定された。すなわち、2026年8月現在、ISO 13485 の改定作業は進行していない。本稿は、この規格がどのような箇条で構成され、それぞれの箇条が何を要求しているのかを、箇条番号に沿って通しで解説する。規格は有償の著作物であるため、本稿では条文の逐語引用を行わず、箇条番号と要求の趣旨のみを示す。
「ISO 13485:2015」という版は存在しない。本記事の旧版には、この表記が複数箇所に残っていた。ISO 13485 の版は 1996年版・2003年版・2016年版の三つであり、2015年版は発行されていない。2015年は、ISO 13485 の DIS(国際規格案)第2版が投票に付され、FDIS が発行された年である。一方、ISO 9001 には 2015年版が存在するため、両規格を並べて論じる文脈で「:2015」と「:2016」が混線しやすい。ISO 13485 と書いたときの現行版は、常に 2016 である。
本稿の位置づけ ― ISO 13485 関連3記事の役割分担
ISO 13485 については、当社サイトに用途の異なる3本の記事がある。重複を避けるため、それぞれの守備範囲を以下のとおり分けている。本稿は「規格の箇条構成そのもの」を担当する。
| 記事 | 扱う内容 | こんなときに読む |
|---|---|---|
| 本稿(第1講) | ISO 13485:2016 の箇条構成と、各箇条が要求していることの趣旨 | 規格を初めて通読する/自社 QMS 文書を箇条に紐づけたい |
| ISO-13485:2016(要点と実務対応) | QMS省令・FDA QMSR・MDSAP との関係、実務で何を作り何を運用するか | 手順書・記録の整備方針を決めたい/査察対応を考えたい |
| ISO-13485改定の要点(改定経緯) | 2003年版から2016年版への改定の経緯と、何がどう変わったか | 旧版を知っている読者が差分だけ押さえたい |
規格の全体像
ISO 13485:2016 は、序文(箇条0)に続き、箇条1〜3の一般部分と、箇条4〜8の要求事項本体、そして参考としての附属書A・Bから構成される。本文は36ページである。要求事項が置かれているのは箇条4以降であり、審査や査察で「どの箇条に対する指摘か」と問われるのも箇条4〜8である。
| 箇条 | 表題 | 要求の趣旨(要約) |
|---|---|---|
| 0 | 序文 | 規格の考え方を示す。0.2 で「適切な場合」「リスク」「文書化する」といった用語の読み方を規定し、0.3 でプロセスアプローチ、0.4 で ISO 9001 との関係を述べる。要求事項ではないが、条文の解釈を左右する重要部分である。 |
| 1 | 適用範囲 | 医療機器のライフサイクルのいずれかの段階に関与する組織が対象。供給者・外部パーティも使用できる。適用できない要求事項の扱い(除外・非適用の考え方)もここに規定される。 |
| 2 | 引用規格 | 用語の基礎として ISO 9000 を引用する。 |
| 3 | 用語及び定義 | 3.1〜3.20 の20語を定義する。ISO 9000 の用語に加え、医療機器分野に固有の用語を置く。 |
| 4 | 品質マネジメントシステム | QMS の一般要求事項と文書化要求。組織の役割の明確化、プロセスの管理、アウトソース、ソフトウェアのバリデーション、品質マニュアル、医療機器ファイル、文書・記録の管理。 |
| 5 | 経営者の責任 | コミットメント、品質方針、品質目標、責任と権限、管理責任者、内部コミュニケーション、マネジメントレビュー。 |
| 6 | 資源の運用管理 | 資源の提供、人的資源(力量)、インフラストラクチャ、作業環境及び汚染管理。 |
| 7 | 製品実現 | 製品実現の計画、顧客関連プロセス、設計・開発、購買、製造及びサービスの提供、監視機器及び測定機器の管理。規格の分量の中心。 |
| 8 | 測定、分析及び改善 | フィードバック、苦情処理、規制当局への報告、内部監査、プロセス及び製品の監視・測定、不適合製品の管理、データの分析、是正処置・予防処置。 |
| 附属書A(参考) | 2003年版との内容比較 | ISO 13485:2003 と ISO 13485:2016 の内容を対比した参考情報。旧版から移行した組織のギャップ分析に使える。 |
| 附属書B(参考) | ISO 9001:2015 との関係 | ISO 13485:2016 と ISO 9001:2015 の対応関係を示した参考情報。両規格の認証を併せ持つ組織にとって実用的である。 |
箇条0〜3 ― 条文を読む前提を決める部分
0.2 概念の明確化 ― 助動詞と条件語の読み方
0.2 は、条文中の表現をどう読むかを規定している。実務上とりわけ重要なのは次の2点である。
1. 「適切な場合」は、原則として「適用される」と読む
要求事項が「適切な場合」という条件付きで書かれていても、組織が他の方法によることの正当性を示せない限り、その要求事項は適用されるものとみなされる。すなわち、適用しないと判断するのであれば、その正当化を文書として残さなければならない。「適切な場合」を「やらなくてよい場合がある」と読むのは誤りである。
2. 「文書化する」は、確立・実施・維持の三点セットである
条文が「文書化する」と要求している場合、手順を確立し、それを実施し、さらに維持することまでが求められる。手順書を作っただけでは要求を満たさない。逆に言えば、審査では手順書の有無ではなく、実施の記録と改訂の履歴が見られる。
0.4 ISO 9001 との関係
ISO 13485:2016 は独立した規格であるが、その土台は ISO 9001:2008 である。序文 0.4 は、ISO 9001:2008 が既に ISO 9001:2015 に置き換えられていることを認めたうえで、利用者の便宜のために附属書Bで ISO 9001:2015 との対応を示す、という構成をとっている。
この結果、ISO 13485:2016 は、ISO のマネジメントシステム規格に共通の上位構造(Annex SL / High Level Structure)を採用していない。ISO 9001:2015 で導入された「組織の状況」「リスク及び機会」といった箇条は ISO 13485:2016 には存在しない。両方の認証を維持する組織は、単一の品質マニュアルで両規格を同時に満たそうとすると構造がねじれるため、対応表(附属書Bに相当するもの)を自社で作り、文書体系と規格箇条を切り離して管理するのが現実的である。
なお、ISO 13485 に適合していても、除外した ISO 9001 の要求事項を満たしていなければ ISO 9001 への適合を主張することはできない旨が、0.4 に明記されている。
箇条1 適用範囲 ― 「除外」と「非適用」を混同しない
箇条1には、二種類の外し方が規定されている。実務でしばしば混同されるため、区別して押さえておきたい。
| 種別 | 対象 | 条件 | 宣言上の扱い |
|---|---|---|---|
| 設計・開発の管理の除外 | 箇条7.3 | 適用される規制要求事項が、設計・開発の管理を除外してよいとしている場合に限る | 規格への適合宣言に、除外している旨を反映させる責任が組織にある |
| 要求事項の非適用 | 箇条6〜8のうち、組織の活動や医療機器の性質上、適用できない要求事項 | 適用できないと判断した根拠を示すこと | QMS に含める必要はないが、判断の記録が求められる |
| アウトソース(4.1.5) | 製品の適合性に影響するプロセス | 外部委託しても要求事項からは外れない | 組織が管理を維持し、責任を負う。委託先との書面による取決めが必要 |
とりわけ誤解が多いのが三行目である。プロセスを外部に委託しても、そのプロセスに対する要求事項が消えるわけではない。「外注しているので当社の QMS 外である」という説明は成立しない。
箇条3 用語及び定義 ― 20語
箇条3では、3.1 から 3.20 までの20語が定義されている。列挙すると次のとおりである(定義文は規格本体を参照されたい)。
3.1 通知書/3.2 指定代理人/3.3 臨床評価/3.4 苦情/3.5 ディストリビュータ/3.6 埋込み医療機器/3.7 輸入業者/3.8 ラベリング/3.9 ライフサイクル/3.10 製造業者/3.11 医療機器/3.12 医療機器ファミリ/3.13 性能評価/3.14 市販後監視/3.15 製品/3.16 購買製品/3.17 リスク/3.18 リスクマネジメント/3.19 無菌バリアシステム/3.20 滅菌医療機器
用語の読みどころ
「リスク」(3.17)の定義は ISO 14971 系である。ISO 9001:2015 が採用する「諸目的に対する不確かさの影響」ではなく、危害の発生確率とその重大さの組合せとして定義されている。ISO 9001 の「リスクに基づく考え方」と ISO 13485 の「リスク」は同義ではないため、両規格の文書を共用する際は定義の置き換えに注意すること。
「苦情」(3.4)は顧客からの申出に限られない。組織の管理下からリリースされた医療機器について寄せられた申立てが広く対象となる。製造工程からの情報や附帯サービス(サービスレポート)に含まれる情報も苦情処理の入口になり得る。「顧客から書面で来たものだけが苦情」という運用は、この定義に照らして成り立たない。
製造業者・ディストリビュータ・輸入業者が区別されている。組織はまず、自らが適用される規制要求事項の中でどの役割に当たるのかを明確にしたうえで、その役割に適用される要求事項を QMS に取り込むことが求められる(箇条0.1・4.1.1)。
箇条4 品質マネジメントシステム
4.1 一般要求事項
4.1 は 4.1.1 から 4.1.6 に細分されている。QMS を文書化し、有効性を維持することに加え、次の点が要求の柱である。
- 役割の明確化(4.1.1) ― 適用される規制要求事項における自組織の役割を明確にし、その役割に適用される規制要求事項を特定し、QMS の中に取り込むこと。
- プロセスの特定と管理(4.1.2〜4.1.4) ― QMS に必要なプロセス、その順序と相互関係、判断基準と方法、リスクに基づく管理の適用。
- アウトソース(4.1.5) ― 外部委託したプロセスの管理を維持し、リスクと委託先の能力に応じた管理を行う。書面による取決めを結ぶこと。
- ソフトウェアのバリデーション(4.1.6) ― QMS で使用するコンピュータソフトウェアの適用について、バリデーションの手順を文書化する。対象は製造設備に組み込まれたソフトウェアに限られず、文書管理システム、CAPA・逸脱管理システム、教育訓練管理システムなど QMS を支えるシステム全般に及ぶ。ソフトウェアの使用に伴うリスクに応じたアプローチを取ること。
4.2 文書化に関する要求事項
| 箇条 | 表題 | 要求の趣旨 |
|---|---|---|
| 4.2.1 | 一般 | 品質方針・品質目標、品質マニュアル、要求される手順・記録、その他組織が必要と判断した文書、適用される規制要求事項が要求する文書を QMS 文書に含める。 |
| 4.2.2 | 品質マニュアル | 適用範囲と除外・非適用の詳細とその正当化、QMS 手順(またはその参照)、プロセス間の相互関係の記述を含む。文書体系の概要も示す。 |
| 4.2.3 | 医療機器ファイル | 医療機器の型式または医療機器ファミリごとに、仕様、製造・測定・監視、据付け、附帯サービス等に関する文書一式を特定・維持する。FDA の DMR(Device Master Record)、本邦の製品標準書に対応する概念である。 |
| 4.2.4 | 文書管理 | 承認、改訂、識別、配付、廃止文書の誤用防止、外部文書の管理、保管期間の設定。「文書」には「記録」が含まれることが明確化されている。 |
| 4.2.5 | 記録の管理 | 読みやすく、識別可能で、検索可能であること。保管期間は製品の寿命等を考慮して定める。健康に関する機密情報の保護が要求されている点が特徴である。 |
4.2.5 の「健康に関する機密情報の保護」は見落とされやすい
修理や返却で回収した医療機器のメモリに患者の検査結果が残っている、苦情調査の過程で患者情報を含む記録を入手する、といった場面が該当する。記録管理手順の中に、当該情報の取扱い(アクセス制限、匿名化、消去、保管場所)を定めておく必要がある。国内では個人情報保護法制との整合も併せて検討することになる。
箇条5 経営者の責任
5.1 経営者のコミットメント、5.2 顧客重視、5.3 品質方針、5.4 計画(5.4.1 品質目標、5.4.2 品質マネジメントシステムの計画)、5.5 責任・権限及びコミュニケーション(5.5.1 責任及び権限、5.5.2 管理責任者、5.5.3 内部コミュニケーション)、5.6 マネジメントレビュー(5.6.1 一般、5.6.2 インプット、5.6.3 アウトプット)から成る。
ISO 9001:2015 が管理責任者の指名を必須としなくなったのに対し、ISO 13485:2016 は 5.5.2 で管理責任者の指名を維持している。国内の QMS省令における管理監督者・管理責任者の枠組みとも整合する部分である。
5.6.2 のインプットと 5.6.3 のアウトプットは、それぞれ項目が列挙されている。マネジメントレビューの議事録がこの列挙項目を網羅していないことは、審査で最も指摘を受けやすい類型のひとつである。インプット項目には、フィードバック、苦情処理、規制当局への報告、監査、プロセス及び製品の監視・測定、是正処置、予防処置、前回のレビューのフォローアップ、QMS に影響する変更、改善の提案、適用される新規または改訂された規制要求事項が含まれる。是正処置と予防処置が別項目として分けて置かれている点にも注意されたい。
箇条6 資源の運用管理
6.1 資源の提供、6.2 人的資源、6.3 インフラストラクチャ、6.4 作業環境及び汚染管理(6.4.1 作業環境、6.4.2 汚染管理)から成る。
6.2 では力量の確保が要求される。教育訓練の有効性の評価が求められており、「受講記録があること」ではなく「その教育訓練が効いたか」を確認する仕組みが必要である。設計・開発に従事する要員の力量も、この箇条と 7.3 の双方から要求される。
6.4.2 汚染管理は、作業環境から独立した箇条として置かれている。製品・要員・作業環境の汚染管理、および滅菌医療機器については微生物・微粒子の汚染管理が対象となる。クリーンルームを持たない組織であっても、汚染管理の考え方を適用しないと判断した根拠は残しておく必要がある。
箇条7 製品実現 ― 規格の中核
7.1 製品実現の計画/7.2 顧客関連のプロセス
7.1 では、製品実現の計画にあたってリスクマネジメントの要求事項を文書化することが求められる。7.2 は 7.2.1 製品に関連する要求事項の明確化、7.2.2 そのレビュー、7.2.3 コミュニケーションから成り、7.2.3 では顧客とのコミュニケーションに加えて規制当局とのコミュニケーションが要求されている。照会や報告の窓口・記録の残し方を手順に落としておくこと。
7.3 設計・開発 ― 10の箇条
7.3 は 7.3.1 から 7.3.10 までの10箇条で構成される。ISO 13485:2016 の中で最も詳細に書き込まれた領域であり、FDA が重視してきた設計管理の要求と対応する。
| 箇条 | 表題 | 要求の趣旨と実務上の成果物 |
|---|---|---|
| 7.3.1 | 一般 | 設計・開発の手順を文書化する。 |
| 7.3.2 | 設計・開発の計画 | 段階、レビュー、検証、バリデーション、移管、責任と権限、トレーサビリティ、必要な資源(要員の力量を含む)を計画に定め、進行に応じて維持・更新する。成果物は設計・開発計画書。 |
| 7.3.3 | 設計・開発へのインプット | 機能・性能・使用性・安全に関する要求、適用される規制要求事項、適用可能な場合はリスクマネジメントのアウトプット。使用性(ユーザビリティ)がインプットとして明示されている。要求は完全かつ曖昧でなく、相互に矛盾しないこと。 |
| 7.3.4 | 設計・開発からのアウトプット | インプットに対する検証が可能な形式であること。購買・製造・サービス提供に必要な情報、製品受入基準、安全な使用に不可欠な特性を含む。 |
| 7.3.5 | 設計・開発のレビュー | 計画した段階で体系的なレビューを実施し、参加者と結果を記録する。 |
| 7.3.6 | 設計・開発の検証 | 検証の計画(方法、受入基準、必要な場合は統計的手法とサンプルサイズの根拠)を文書化する。他機器との接続・インターフェースを意図する場合はその状態での検証を含む。 |
| 7.3.7 | 設計・開発のバリデーション | 計画に従い、代表的な製品で実施する。臨床評価または性能評価が適用される規制要求事項で求められる場合はそれを含む。結果(記録)だけでなく結論(報告)を残すこと。 |
| 7.3.8 | 設計・開発の移管 | 設計アウトプットを製造仕様へ移管する手順を文書化する。移管前に妥当性が検証され、製造に適することを確認し、結果を記録する。設計移管は量産移行そのものではない点に注意。 |
| 7.3.9 | 設計・開発の変更管理 | 変更の識別、レビュー、検証・バリデーション、承認を経て実施する。医療機器の機能・性能・使用性・安全性、規制要求事項への影響を評価し、記録する。 |
| 7.3.10 | 設計・開発ファイル | 医療機器の型式または医療機器ファミリごとに設計・開発ファイルを維持する。FDA の DHF(Design History File)に対応する概念であり、設計変更を含む一連の記録を追跡可能な形で保持する。 |
7.4 購買
7.4.1 購買プロセス、7.4.2 購買情報、7.4.3 購買製品の検証から成る。供給者の評価・選定・再評価の基準を文書化し、購買製品が製品の品質に及ぼす影響と、それに伴うリスクに応じた管理を行う。7.4.2 では、購買情報において、該当する場合に購買製品の変更を組織へ事前に通知する旨の取決めを含めることが求められる。海外サプライヤからの原材料調達で、予告のない材質変更や工程変更が最終製品の不具合につながる事例があるため、契約書・品質取決め書のレベルで担保しておくべき条項である。
7.5 製造及びサービスの提供
7.5 は 7.5.1 から 7.5.11 で構成される。7.5.1 製造及びサービス提供の管理、7.5.2 製品の清浄性、7.5.3 据付け活動、7.5.4 附帯サービス活動、7.5.5 滅菌医療機器に対する特別要求事項、7.5.6 製造及びサービス提供に関するプロセスのバリデーション、7.5.7 滅菌及び無菌バリアシステムのプロセスのバリデーションに対する特別要求事項、7.5.8 識別、7.5.9 トレーサビリティ(7.5.9.1 一般、7.5.9.2 埋込み医療機器に対する特別要求事項)、7.5.10 顧客の所有物、7.5.11 製品の保存である。
実務上の要点は次のとおりである。
- 7.5.6 ― アウトプットが後続の監視・測定で検証できないプロセスはバリデーションの対象となる。ソフトウェアを使用する場合は、その適用のバリデーション手順も文書化する。
- 7.5.8 識別 ― 旧版で「識別」と「製品状態の識別」に分かれていた要求が統合されている。UDI 等、適用される規制要求事項に基づく識別もここで扱う。
- 7.5.9 トレーサビリティ ― 埋込み医療機器については 7.5.9.2 で追加要求がある。
- 7.5.11 製品の保存 ― 処理、保管、取扱い、流通の全期間にわたり適合状態を保つ。輸送中の振動・温湿度・包装の健全性まで含めて考える必要があり、いわゆる GDP(Good Distribution Practice)的な管理が読み込まれる箇条である。
7.6 監視機器及び測定機器の管理
校正・検証、識別、調整の防止、取扱い・保管・輸送における損傷防止に加え、計測に用いるソフトウェアの適用についてもバリデーションが求められる。校正切れの機器で測定していた場合の遡及評価(過去の測定結果の妥当性の再評価)を手順に定めておくこと。
箇条8 測定、分析及び改善
| 箇条 | 表題 | 要求の趣旨 |
|---|---|---|
| 8.1 | 一般 | 監視・測定・分析・改善のプロセスを計画し、実施する。統計的手法を含め、方法とその適用範囲を定める。 |
| 8.2.1 | フィードバック | 製造および製造後の活動から品質に関する情報を収集・監視する仕組みを文書化する。市販後監視の入口となる。 |
| 8.2.2 | 苦情処理 | 適用される規制要求事項に従い、タイムリーな苦情処理の手順を文書化する。受付、記録、評価、調査の要否判断(調査しない場合はその正当性の記録)、規制当局への報告要否の判断を含む。 |
| 8.2.3 | 規制当局への報告 | 不具合報告や回収等、規制当局への通知が必要な場合の手順を文書化し、記録する。 |
| 8.2.4 | 内部監査 | 計画された間隔で実施し、監査基準・範囲・頻度・方法を定める。監査員は自らの業務を監査しない。 |
| 8.2.5 | プロセスの監視及び測定 | QMS プロセスが計画どおりの結果を出しているかを監視する。 |
| 8.2.6 | 製品の監視及び測定 | 製品要求事項が満たされていることを検証する。リリース許可者を記録する。 |
| 8.3.1〜8.3.4 | 不適合製品の管理 | 8.3.1 一般/8.3.2 引渡し前に発見した不適合製品における処置/8.3.3 引渡し後に発見された不適合製品における処置/8.3.4 手直し。8.3.3 では、必要な場合に通知書(advisory notice)の発行手順が求められる。 |
| 8.4 | データの分析 | フィードバック、製品の適合性、プロセス・製品の傾向、供給者、監査、附帯サービスの報告に関するデータを分析する。適切な統計的手法を含む方法を手順に定める。 |
| 8.5.1 | 改善 | 品質方針・品質目標、監査結果、市販後監視、データの分析、是正処置・予防処置、マネジメントレビューを通じて QMS の適切性・妥当性・有効性を維持する。 |
| 8.5.2 | 是正処置 | 不適合の原因を除去する処置を、遅滞なく実施する。処置の検証と、当該処置が規制要求事項への適合や医療機器の安全・性能に悪影響を与えないことの確認を含む。 |
| 8.5.3 | 予防処置 | 潜在的な不適合の原因を除去する処置。ISO 13485:2016 は予防処置を独立の箇条として維持している。 |
箇条8で押さえるべき三つの分離
「修正」と「是正処置」の分離。目の前の不適合を直すこと(修正/Correction)と、原因を除去して再発を防ぐこと(是正処置/Corrective Action)は別概念である。CAPA 記録が実質的に「修正」しか書かれていない例は極めて多い。
「是正処置」と「予防処置」の分離。マネジメントレビューのインプットでも箇条が分けられている。指摘の宛先を明確にするための構成であり、社内の CAPA 帳票でも区分しておくと審査対応が容易になる。
「引渡し前」と「引渡し後」の分離。8.3.2 と 8.3.3 は要求の内容が異なる。同一の不適合品管理手順で両方を扱うのであれば、手順書の中で両者を明確に区分すること。
附属書A・附属書B ― 参考情報だが使い道がある
附属書A は 2003年版と 2016年版の内容比較、附属書B は ISO 13485:2016 と ISO 9001:2015 の対応関係を示す。いずれも参考(informative)であり要求事項ではないが、次の用途で実用的である。
- 附属書A ― 旧版時代に作られた社内文書がまだ生きている場合、どの箇条が動いたのかを追跡する起点になる。改定の中身についてはISO-13485改定の要点を参照されたい。
- 附属書B ― ISO 9001 と ISO 13485 の両認証を維持する組織が、文書体系を一本化する際の対応表の下敷きになる。
箇条構成から自社 QMS を点検する
箇条構成を理解する目的は、規格を暗記することではなく、自社の文書と記録が箇条に漏れなく紐づいているかを確認することにある。次の順序で点検するとよい。
1. 役割の特定(4.1.1)
自社が製造業者・ディストリビュータ・輸入業者・供給者のいずれに当たるかを、仕向地ごとに整理する。日本・米国・欧州で役割の定義が異なることがある。
2. 除外・非適用の棚卸し(箇条1、4.2.2)
設計・開発の管理を除外しているか、箇条6〜8で適用できない要求事項があるか。その根拠は品質マニュアルに書かれているか。
3. 箇条と文書のマッピング
箇条4〜8の各箇条に対し、対応する手順書・様式・記録を一覧化する。空欄になっている箇条が、そのままギャップである。
4. 「文書化する」と書かれた箇条の確認
0.2 のとおり、「文書化する」は確立・実施・維持を含む。手順書はあるが直近の実施記録がない箇条を洗い出す。
2026年時点で取るべき対応
- ISO 13485 の現行版は 2016年版のみである。2025年10月31日の定期見直しで「確認」とされており、改定は当面ない。社内文書の規格参照は「ISO 13485:2016」に統一し、「:2015」「:2003」といった誤記が残っていないか全文検索で洗い出すこと。
- 国内規格は JIS Q 13485:2018 である。ISO 13485:2016 と技術的内容・構成を変更せずに作成された(IDT)。2022年10月25日の確認を経て現行である。日本語で箇条を参照する場合はこちらを用いるのが正確である。
- 米国では 2026年2月2日から QMSR が施行された。21 CFR 820 は §820.7 において ISO 13485:2016(E) を参照取り込みしている。すなわち、本稿で解説した箇条が米国の法規制の一部として機能する。詳細はISO-13485:2016(要点と実務対応)を参照されたい。
- 箇条と文書のマッピング表を持っていない組織は、まずそれを作ること。QMS省令・QMSR・MDSAP のいずれの調査でも、出発点は「どの要求がどの文書で満たされているか」の説明である。
- 規格本文は必ず正規に入手すること。ISO 13485:2016 および JIS Q 13485:2018 は著作権法上の保護対象である。要約や解説記事のみに依拠して QMS を構築してはならない。
出典
- ISO — ISO 13485:2016 Medical devices — Quality management systems — Requirements for regulatory purposes(第3版、刊行 2016-03、36ページ、Stage 90.93 International Standard confirmed 2025-10-31)https://www.iso.org/standard/59752.html
- ISO — ISO 13485:2003(Withdrawn)https://www.iso.org/standard/36786.html
- 日本規格協会 — JIS Q 13485:2018 医療機器―品質マネジメントシステム―規制目的のための要求事項(改正 2018年3月1日、確認 2022年10月25日、ISO 13485:2016 と IDT)https://webdesk.jsa.or.jp/books/W11M0090/index/?bunsyo_id=JIS+Q+13485:2018
- 米国連邦官報 — Medical Devices; Quality System Regulation Amendments(89 FR 7496、2024年2月2日公布、2026年2月2日施行)https://www.federalregister.gov/documents/2024/02/02/2024-01709/medical-devices-quality-system-regulation-amendments
- eCFR — 21 CFR Part 820(Quality Management System Regulation)https://www.ecfr.gov/current/title-21/chapter-I/subchapter-H/part-820
※本稿は ISO 13485:2016 および JIS Q 13485:2018 の条文を逐語引用していない。箇条番号と要求の趣旨のみを記載している。正確な要求事項は必ず規格原本を参照されたい。
この分野の解説動画

この記事へのコメントはありません。