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医療機器ソフトウェアの製造・販売をするためには

医療機器となるソフトウェアを日本で製造・販売するには、「業(製造販売業許可・製造業登録)」「品目(承認・認証・届出)」「品質システム(QMS省令)」の三つを揃える必要がある。単体プログラムが医療機器として規制対象になったのは2014年11月25日であり、そこから10年以上が経過した2026年8月現在、当時の「これから始まる」という前提で書かれた解説はほぼすべて過去形になっている。本稿は、プログラム医療機器(SaMD)を市場に出すために現在何が必要かを、業許可・登録から規格適合、サイバーセキュリティ、実用化促進制度まで通しで整理したものである。

1.前提の確認 ― 「薬事法」はもう存在しない

2014年(平成26年)11月25日、平成25年法律第84号により薬事法が改正・改称され、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法、医薬品医療機器等法)となった。社内SOPや教育資料に「薬事法」という表記が残っている場合、それは12年前の法令名である。

この改正が医療機器ソフトウェアに与えた影響は、大きく二点である。

2014年11月25日改正の要点(ソフトウェア関連)
論点改正前(薬事法)改正後(薬機法・現行)
ソフトウェアの位置づけハードウェアに組み込まれた形でのみ医療機器として扱われたプログラム単体(医療機器プログラム)が医療機器となる。施行令別表第一に疾病診断用プログラム・疾病治療用プログラム・疾病予防用プログラムを規定
製造業許可制登録制(法第23条の2の3)。有効期間5年
QMS適合性調査製造所ごとに個別調査製造販売業者の品質管理監督システムを製品群単位で包括的に調査
法令名薬事法医薬品医療機器等法(薬機法)

なお、直近の薬機法改正は令和7年法律第37号(令和7年5月21日公布、施行は段階的)である。同法にプログラム医療機器を対象とする新設制度は置かれていない。「令和6年改正薬機法」という法律は存在しないので、社内資料に見かけたら誤記である。

2.市場に出すために必要な三つの手続

医療機器プログラムを業として市場に出すには、次の三系統の手続を並行して進める。どれか一つが欠けても出荷はできない。

プログラム医療機器を市場に出すために必要な手続
区分手続根拠権限者プログラムでの留意点
業(責任体制)医療機器製造販売業許可法第23条の2都道府県知事クラスに応じて第一種/第二種/第三種。法人単位で一つ
業(製造所)医療機器製造業登録法第23条の2の3都道府県知事(外国製造業者は厚生労働大臣)設計を行う事業所が登録対象。有効期間5年
品目製造販売承認/認証/届出法第23条の2の5/23条の2の23/23条の2の12厚生労働大臣(PMDA審査)/登録認証機関/届出クラスIVおよびIII・IIの一部は承認、認証基準のあるクラスII等は認証、クラスIは届出
品質システムQMS適合性調査法第23条の2の5第7項ほかPMDA/登録認証機関/都道府県QMS省令(平成16年厚生労働省令第169号)への適合を製品群単位で調査

2-1.製造販売業許可の種類

製造販売業許可は、取り扱う医療機器のクラスに応じて三種類に分かれる。第一種を持っていれば下位のクラスも扱えるため、第一種と第三種を同時に保有するという事態は生じない。

製造販売業許可の種類(法第23条の2第1項)
許可の種類対象おおむね対応するクラス
第一種医療機器製造販売業許可高度管理医療機器クラスIII・IV
第二種医療機器製造販売業許可管理医療機器クラスII
第三種医療機器製造販売業許可一般医療機器クラスI

2-2.製造業登録 ― ソフトウェアは「設計」が登録対象

見落とされやすい点

医療機器プログラムの場合、製造業登録の対象範囲は設計のみである。プログラムを記録した記録媒体たる医療機器の場合は、設計および国内における最終製品の保管が対象となる(法第23条の2の3、施行規則第114条の8)。物理的な生産設備を持たないソフトウェア開発会社であっても、設計を行う以上は製造所として登録が必要になる、という点が実務上もっとも見落とされやすい。

開発を外部委託している場合、設計を実質的に行っている事業所がどこかを整理し、登録の要否を判断する必要がある。委託先が設計そのものを担っているのであれば、その事業所が登録対象になり得る。

3.体制の整備 ― 三役と管理監督者・管理責任者

製造販売業許可の要件として、品質保証と安全管理の体制を整えることが求められる。求められる役職は、法・体制省令(平成26年厚生労働省令第94号)・QMS省令・GVP省令(平成16年厚生労働省令第135号)にまたがって規定されている。

プログラム医療機器の製造販売業者に必要な役職
役職主な職務要件のポイント
医療機器等総括製造販売責任者製品の出荷決定その他の製造管理・品質管理業務を統括。国内品質業務運営責任者を監督。必要な意見は文書で述べ、その写しを5年間保管施行規則第114条の49。クラスII以上は同条第1項、クラスIは同条第2項に基準が置かれている
国内品質業務運営責任者国内の品質管理業務の統括、市場への出荷の決定、品質情報の収集と報告、回収時の業務品質保証部門の責任者であること、品質管理業務等に3年以上従事していること、販売部門に属さないこと
医療機器等安全管理責任者安全確保業務の統括(安全管理統括部門の責任者)安全確保業務等に3年以上従事、販売部門に属さないこと。第一種製造販売業者は安全管理統括部門の設置が必要
管理監督者QMSの確立・実施・維持に関する最終責任QMS省令上の経営者に相当する役割
管理責任者工程の確立・実施・実効性の維持、QMSの実施状況と改善の必要性を管理監督者へ報告役員・管理職の地位にある者等が就く
医療機器責任技術者登録製造所における製造管理製造業登録を行う製造所に設置

プログラム医療機器のみを扱う事業者に対する特例として、特別講習の修了をもって3年以上の業務経験があるものとみなす経過措置が置かれていたが、これは平成29年11月24日で終了している。2026年現在、この経過措置に依拠した人員配置はできない。「国内品質業務運営責任者」は旧QMS省令で「品質保証責任者」と呼ばれていた役職であり、社内文書で旧称を併記すること自体は差し支えない。

4.QMS省令 ― 経過措置はすでに終了している

QMS省令(医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令、平成16年厚生労働省令第169号)は、令和3年厚生労働省令第60号により令和3年3月26日に公布・施行され、ISO 13485:2016と整合化された。

2026年時点のステータス

この令和3年改正の経過措置は2024年(令和6年)3月25日で終了し、現在は改正後のQMS省令が全面適用されている。「2024年3月までに対応を」という趣旨のセミナー訴求や社内計画が残っているなら、それは期限を過ぎた記述である。いま必要なのは移行計画ではなく、改正後QMS省令に対する適合状態の維持と、その証拠の提示である。

なお、参照元であるISO 13485は2016年版(第3版)が現行であり、2025年10月31日の定期見直しでも「確認(Confirmed)」とされている。改訂を前提とした準備は不要である。

5.基本要件基準 ― ソフトウェアとサイバーセキュリティ

製品そのものが満たすべき要件は、基本要件基準(平成17年3月29日厚生労働省告示第122号、最新改正は令和5年厚生労働省告示第67号)に規定されている。ソフトウェアに直接効いてくるのは第12条である。

基本要件基準第12条とソフトウェア
要求の趣旨適合の示し方適用時期
第12条第1項プログラムを用いた医療機器は、使用目的に照らしてシステムの再現性・信頼性・性能が確保されるよう設計されていること認知された基準に適合することを示す
第12条第2項開発のライフサイクル、リスクマネジメント、確認および検証の方法を考慮し、品質および性能の検証が実施されていることJIS T 2304への適合をもって適合を確認したものとする(薬生機審発0517第1号)平成29年11月25日から適用(経過措置期間終了日は平成29年11月24日)
第12条第3項他の機器・ネットワーク等と接続する医療機器等について、サイバーセキュリティに係る危険性を特定・評価し、ライフサイクル全体の計画に基づいて設計・製造することJIS T 81001-5-1等への適合を示す(薬生機審発0331第8号、同0523第1号)令和5年4月1日適用、経過措置は令和6年4月1日まで(すでに終了)

第12条第3項は、IMDRFのN47文書およびN60文書を踏まえ、(1) 製品の全ライフサイクルにわたってサイバーセキュリティを確保する計画を備えること、(2) サイバーリスクを低減する設計および製造を行うこと、(3) 適切な動作環境に必要となるハードウェア・ネットワーク・ITセキュリティ対策の最低限の要件を設定すること、の三つの観点から追加されたものである。高度管理医療機器または管理医療機器の承認申請・認証申請では、JIS T 81001-5-1等への適合性を示す資料の添付が必要であり、一般医療機器についても同様の確認は必要(届出時の資料添付は不要)とされている。

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6.準拠すべき規格の現在地

「どの規格の、どの版か」を取り違えると、申請資料の参照規格一覧がそのまま指摘対象になる。2026年8月時点の現行版は次のとおりである。

医療機器ソフトウェア関連規格の現行版(2026年8月時点)
領域国際規格国内規格備考
ソフトウェアライフサイクルIEC 62304:2006+AMD1:2015(第1.1版)JIS T 2304:2017第2版が開発中。現時点で適用すべきは第1.1版
リスクマネジメントISO 14971:2019(第3版)JIS T 14971:2020ISO/TR 24971:2020を併用。国内経過措置は2023年9月30日終了
ユーザビリティIEC 62366-1:2015+AMD1:2020JIS T 62366-1:2022「IEC 62366の国内版はJIS T 62366:2011」という記述は誤り
サイバーセキュリティIEC 81001-5-1:2021JIS T 81001-5-1:2023基本要件基準第12条第3項の適合手段
品質マネジメントISO 13485:2016(第3版)QMS省令(令和3年改正)2025年10月31日の定期見直しで確認(Confirmed)

7.海外展開を前提とするなら

7-1.米国 FDA

米国におけるソフトウェア関連の主な規制・ガイダンス
文書・条文現行の状態実務上の意味
21 CFR Part 8202024年2月2日公布の最終規則(89 FR 7496)によりQuality Management System Regulation(QMSR)へ全面改正。2026年2月2日施行§820.7でISO 13485:2016を参照取り込み。旧§820.30(設計管理)は削除され、根拠はISO 13485箇条7.3へ移った
General Principles of Software Validation(GPSV)Version 2.0、2002年1月11日発行(ドラフトVersion 1.1は1997年6月9日)2025年9月24日に連邦官報告示されたCSA最終ガイダンスが置き換えるのはSection 6のみ。GPSV全体が失効したわけではない
Content of Premarket Submissions for Device Software Functions2023年6月14日 final。2005年5月11日版を置き換え提出資料の水準をBasic/Enhancedの2段階のDocumentation Levelで判断する
FD&C Act 第524B条2022年12月29日成立のConsolidated Appropriations Act, 2023 第3305条により追加。2023年3月29日から効力「cyber device」に該当する製品の市販前申請では、SBOMの提出を含むサイバーセキュリティ要件への対応が法律上の要件となる
査察プログラムQSITは2026年2月2日で運用終了。CP 7382.850へ移行Change Control/Design and Development等6領域+4つのOAFRの構成。ISO 13485認証はFDA査察を免除しない

旧記事にあった「FDAは1987年にGPSVを発行した」という記述は誤りである。GPSVはドラフト(Version 1.1)が1997年6月9日、最終版(Version 2.0)が2002年1月11日である。放射線治療装置のソフトウェア欠陥による過大照射事故(1985〜1987年)が医療機器ソフトウェア規制の契機になったこと自体は事実だが、GPSVの発行年とは切り分けて記述すべきである。

7-2.欧州
欧州は規則(EU)2017/745(MDR)が2021年5月26日から適用されており、旧MDD 93/42/EECは置換済みである。レガシーデバイスの移行期限は(EU)2023/607により2027年12月31日/2028年12月31日とされている。なお、EN ISO 14971:2019+A11:2021はMDR整合規格に収載されているが、EN IEC 62366-1は収載されていない点に注意が必要である。

8.プログラム医療機器の実用化を早める枠組み

SaMDについては、通常の承認プロセスに加えて複数の枠組みが用意されている。名称と法的位置づけを取り違えている資料が多いため、整理しておく。

プログラム医療機器に関係する主な枠組み
枠組み正確な位置づけ根拠・時期
DASH for SaMD正式名称は「プログラム医療機器実用化促進パッケージ戦略」令和2年11月24日、厚生労働省公表
DASH for SaMD 2正式名称は「プログラム医療機器実用化促進パッケージ戦略2」令和5年9月6日、厚生労働省および経済産業省が公表
二段階承認の考え方「二段階承認制度」という法定制度は存在しない。リバランス通知を根拠とする運用上の解釈であり、第一段階=製造販売承認、第二段階=承認事項一部変更承認という組み立て令和5年11月16日 医薬機審発1116第2号。令和6年6月5日にガイダンス第二版、同6月12日にQ&Aが事務連絡で示されている
IDATEN(変更計画確認手続制度)二段階承認とは別の法定制度。あらかじめ確認を受けた変更計画に従って承認事項を変更できる法第23条の2の10の2、施行規則第114条の45の2・45の3。令和2年9月1日施行
条件付承認制度法定制度令和2年9月1日法制化(令和元年改正薬機法)
優先的な審査等の対象品目指定革新的なプログラム医療機器を指定し、優先的な相談・審査等を行う運用PMDAが対象品目一覧を公表。令和8年度から随時募集

相談窓口の正式名称

開発初期の相談先は「医療機器プログラム総合相談」であり、PMDAの「SaMD一元的相談窓口」で受け付けている。「プログラム医療機器総合相談」は誤った名称である。また、PMDAの審査体制は令和6年7月1日にプログラム医療機器審査室からプログラム医療機器審査部へ改編され、2チーム体制となっている。

9.該当性の判断は最初にやる

ここまでの手続は、そもそも開発中のプログラムが医療機器に該当する場合の話である。該当性の判断は「プログラムの医療機器該当性に関するガイドライン」(令和3年3月31日、令和5年3月31日一部改正/薬生機審発0331第1号・薬生監麻発0331第4号)に従う。該当性は製造販売業者等による表示・説明資料・広告等に基づき、使用目的とリスクの程度から判断されるため、同じ機能でも標ぼう次第で結論が変わる。開発の企画段階で使用目的を確定させておくことが、後戻りを避ける最大のポイントである。

10.2026年時点で取るべき対応

2026年8月時点のチェックリスト

  1. 社内文書の法令名を点検する。「薬事法」「製造業許可」という表記が残っていれば、それぞれ「薬機法(医薬品医療機器等法)」「製造業登録」に改める。
  2. 設計を行う事業所の製造業登録を確認する。プログラム医療機器の登録範囲は設計のみ。委託開発の場合は、実質的に設計を担っている事業所を特定する。
  3. QMS省令は移行計画ではなく維持の段階。令和3年改正の経過措置は2024年3月25日で終了している。全面適用下での適合証拠が提示できる状態を保つ。
  4. 基本要件基準第12条第3項への適合資料を整える。経過措置は令和6年4月1日で終了済み。JIS T 81001-5-1等への適合を示す資料の添付が必要である。SBOMの作成は構成管理プロセスの確認手段として明示されている。
  5. 参照規格一覧を現行版に更新する。JIS T 2304:2017、JIS T 14971:2020、JIS T 62366-1:2022、JIS T 81001-5-1:2023。
  6. 米国向けはQMSR前提に切り替える。2026年2月2日施行。設計管理の根拠条文は§820.30ではなくISO 13485箇条7.3である。査察はCP 7382.850に基づく。
  7. 制度名を正確に使う。「二段階承認制度」という法定制度はない。IDATENと混同しない。相談窓口は「医療機器プログラム総合相談」。
  8. 該当性判断を開発の最上流で終わらせる。使用目的と標ぼうを確定し、判然としない場合は監視指導・麻薬対策課またはPMDAの一元的相談窓口を使う。

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