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医療機器ソフトウェア開発に関する規制要件について

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医療機器ソフトウェアの開発に「規制要件」が存在するのか、という問いは、2026年8月現在すでに過去のものである。日本では基本要件基準第12条第2項により、平成29年11月25日以降に製造販売されるプログラムを用いた医療機器はJIS T 2304への適合が求められ、令和5年からは第12条第3項によりサイバーセキュリティも要件に加わった。本稿では、医療機器ソフトウェア開発に課される規制要件を、日本・米国それぞれについて根拠通知レベルまで下ろして整理する。

1.なぜソフトウェアが規制の焦点になったか

医療機器の回収・不具合において、設計に起因するものの比率は高く、そのうちソフトウェアの欠陥が占める割合はさらに高い。ハードウェアの不具合が個体に留まりやすいのに対し、ソフトウェアの欠陥は同一バージョンを搭載した全出荷品に同時に現れる。この「欠陥が水平展開する」という性質が、当局がソフトウェアのライフサイクルプロセスそのものを規制対象に据えた理由である。

加えて、プログラム単体が医療機器となったこと(2014年11月25日の薬機法施行)により、物理的な製造工程を持たない事業者が製造販売業者・製造業者になるケースが生まれた。設計プロセスの妥当性以外に品質を担保する手段がない以上、プロセス規格への適合が事実上唯一の入口となる。

2.日本の規制要件 ― 基本要件基準第12条

旧来の解説記事では「医薬品医療機器等法第12条第2項」と書かれていることがあるが、これは誤りである。根拠は法律の条文ではなく、基本要件基準(平成17年3月29日厚生労働省告示第122号)第12条第2項である。

基本要件基準第12条の構成とソフトウェア開発への要求
要求の趣旨適合を示す規格根拠通知・適用時期
第1項使用目的に照らし、システムの再現性・信頼性・性能が確保されるよう設計されていること。故障から生じ得る危険性を合理的に実行可能な限り除去・低減すること認知された基準(QMS省令、JIS T 14971 等)
第2項最新の技術に基づく開発のライフサイクル、リスクマネジメント、適切に動作させるための確認および検証の方法を考慮し、品質および性能の検証が実施されていることJIS T 2304(現行版はJIS T 2304:2017)薬生機審発0517第1号(平成29年5月17日)。平成29年11月25日から適用(経過措置期間終了日は平成29年11月24日)
第3項他の機器・ネットワーク等と接続する医療機器等について、動作環境・ネットワーク使用環境を踏まえた要件を特定し、サイバーセキュリティに係る危険性を特定・評価し、低減する管理を行うこと。ライフサイクル全体の計画に基づく設計・製造JIS T 81001-5-1(JIS T 81001-5-1:2023)薬生機審発0331第8号・同0523第1号(令和5年)。令和5年4月1日適用、経過措置は令和6年4月1日で終了

第2項について通知は、JIS T 2304のほかに国際的に用いられている適切な規格等がある場合は、それらへの適合性の確認をもって代えて差し支えないとしている。ただしその場合、承認申請または認証申請に際して当該規格を用いることの妥当性を説明することが求められる。IEC 62304の英語版で運用している企業は、この説明を申請資料に用意しておく必要がある。

経過措置終了日以前に設計が完了している製品

通知は、経過措置期間終了日までに設計が完了している医療機器についても、JIS T 2304等への適合に必要な事項を特定し、それを満たすための措置を講じることを求めている。具体的には、規格の要求事項と利用可能な情報との差分を分析し、リスクが受容可能になるようリスクマネジメントの中で対応し、記録を残すことである。レガシー製品を抱える企業にとっては、ここがギャップ分析の出発点になる。

3.IEC 62304 / JIS T 2304 が要求していること
IEC 62304の現行版はIEC 62304:2006+AMD1:2015(第1.1版)であり、国内版はJIS T 2304:2017である。第2版の開発は進行しているが、2026年8月時点で適用すべきは第1.1版である。

この規格は特定のソフトウェア開発方法論を要求していない。ウォーターフォールでもアジャイルでも、規格が定めるプロセス・アクティビティ・タスクをライフサイクルモデルに割り付けられていればよい。要求されているのは方法論ではなく、プロセスの存在と、その実施記録である。

JIS T 2304 の箇条構成と社内で用意すべきもの
箇条プロセス典型的に求められる社内文書・記録
箇条4一般要求事項QMS(QMS省令)との接続、リスクマネジメント手順(JIS T 14971)、ソフトウェア安全クラス分類を決定する手順、実施体制・要員の規定
箇条5ソフトウェア開発プロセス開発計画書、ソフトウェア要求仕様、アーキテクチャ設計仕様、詳細設計、ユニット検証、結合試験、システム試験、リリース記録
箇条6ソフトウェア保守プロセス保守計画、問題報告の分析、変更の実施と検証
箇条7ソフトウェアリスクマネジメントプロセスソフトウェアに起因する危険状態の分析、リスクコントロール手段とその検証、既製品ソフトウェア(SOUP)の扱い
箇条8ソフトウェア構成管理プロセス構成品目の識別、バージョン管理、変更管理の承認プロセス、変更履歴
箇条9ソフトウェア問題解決プロセス問題報告の受付基準、傾向分析、影響範囲の特定、市販後の検証手順

3-1.ソフトウェア安全クラス

IEC 62304 / JIS T 2304 のもっとも特徴的な要素は、ソフトウェアシステムを安全性の観点でクラスA・B・Cに分類し、クラスに応じて実施すべきアクティビティの範囲を変える点である。クラスが上がるほど、アーキテクチャ設計・詳細設計・ユニット検証まで要求が及ぶ。逆に言えば、分類を誤ると必要な設計文書が丸ごと欠落する。

FDAのGPSVとの決定的な違い

FDAの General Principles of Software Validation(GPSV)が、リスクコントロール手段を講じるのリスクをもって安全性の水準を測るのに対し、IEC 62304は、ソフトウェア以外の手段(機構設計、電気設計、ハードウェアによるインターロック等)によってリスクが低減される場合、その低減後のリスクを用いてソフトウェア安全クラスを分類することを認めている。この差は、同じ製品でも日米で要求される設計文書の量が変わることを意味する。IEC 62304への適合を証明していても、FDAから設計の妥当性について指摘を受けることがあるのはこのためである。

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4.米国の規制要件

米国側の文書は、2023年から2026年にかけて大きく入れ替わっている。古い記事に載っているガイダンス名やURLはほぼ失効しているため、そのまま社内資料に転記しないよう注意が必要である。

米国の医療機器ソフトウェア関連文書(2026年8月時点)
文書現行の状態要点
21 CFR Part 820(QMSR)2024年2月2日公布(89 FR 7496)、2026年2月2日施行§820.7でISO 13485:2016を参照取り込み。設計管理の根拠は削除された§820.30ではなくISO 13485箇条7.3
General Principles of Software ValidationVersion 2.0、2002年1月11日発行(ドラフトVersion 1.1は1997年6月9日)2025年9月24日に連邦官報告示されたCSA最終ガイダンスが置き換えるのはSection 6のみ
Content of Premarket Submissions for Device Software Functions2023年6月14日 final。2005年5月11日版を置き換え提出資料をBasic/Enhancedの2段階のDocumentation Levelで判断する簡素化された枠組み
FD&C Act 第524B条2022年12月29日成立のConsolidated Appropriations Act, 2023 第3305条で追加、2023年3月29日から効力「cyber device」の市販前申請(510(k)、PMA、De Novo等)にSBOM提出を含むサイバーセキュリティ要件が法定化
査察プログラムQSITは2026年2月2日で運用終了、CP 7382.850へ移行Change Control/Design and Development等6つのQMS領域+4つのOAFRで構成

なお「ISO 13485認証を取得しているのでFDA査察は免除される」という理解は誤りである。FDAは適合証明書を発行せず、認証書の提出も求めていない。QMSRがISO 13485:2016を参照取り込みしたことは、査察が不要になることを意味しない。

5.ソフトウェア開発を取り巻く周辺規格

併せて適用が必要になる規格(2026年8月時点の現行版)
領域国際規格国内規格
リスクマネジメントISO 14971:2019(第3版)/ISO/TR 24971:2020JIS T 14971:2020
ユーザビリティエンジニアリングIEC 62366-1:2015+AMD1:2020JIS T 62366-1:2022
サイバーセキュリティIEC 81001-5-1:2021JIS T 81001-5-1:2023
ソフトウェアライフサイクルIEC 62304:2006+AMD1:2015JIS T 2304:2017

リスクマネジメントについては、JIS T 14971:2020で「誤使用」が「使用エラー」に改められ、「合理的に予見可能な誤使用」の定義が新設されている。ソフトウェアのリスク分析でFMEAを用いること自体は差し支えないが、FMEAは単一故障の影響を追う手法であり、ユーザーインタフェースに起因する使用エラーや、複数条件の組合せで顕在化するソフトウェア固有の危険状態を拾いきれない。ハザード分析やフォールトツリー解析と組み合わせる設計が実務的である。

6.2026年時点で取るべき対応

医療機器ソフトウェア開発の実務チェックリスト

  1. 根拠条文の表記を正す。「薬機法第12条第2項」ではなく「基本要件基準第12条第2項」。社内SOPやセミナー資料に誤記が残っていないか確認する。
  2. 参照規格を現行版に揃える。JIS T 2304:2017/JIS T 14971:2020/JIS T 62366-1:2022/JIS T 81001-5-1:2023。申請資料の参照規格一覧は指摘を受けやすい箇所である。
  3. IEC 62304英語版で運用しているなら妥当性説明を用意する。通知は「それらの規格等を用いることの妥当性を説明すること」を明示している。
  4. ソフトウェア安全クラス分類の手順を文書化する。クラス判定の根拠と、リスクコントロール手段による低減をどう反映したかを記録に残す。米国向けはリスクコントロール前で評価される点を織り込む。
  5. レガシー製品のギャップ分析を残す。経過措置期間終了日以前に設計が完了した製品については、差分分析とリスクマネジメント上の対応記録が求められる。
  6. サイバーセキュリティを開発プロセスに統合する。基本要件基準第12条第3項の経過措置は令和6年4月1日で終了済み。SBOMの作成は構成管理プロセスの確認手段として通知に明示されている。
  7. 米国向けはQMSR前提に切り替える。2026年2月2日施行。設計管理の根拠は§820.30ではない。市販前提出資料はDocumentation Level(Basic/Enhanced)で組み立てる。

出典

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