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ISO-14971:2019

なぜIEC 81001-5-1が必要か

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「なぜIEC 81001-5-1が必要か」という問いに対する2026年時点の答えは、きわめて即物的である。日本では基本要件基準第12条第3項の適合手段として通知に名指しされており、その経過措置は令和6年4月1日で終了しているからだ。もはや「今後求められるようになる規格」ではなく、承認・認証申請で適合資料の添付が求められる規格である。本稿は、この規格を自社の開発プロセスと申請資料にどう組み込むかという導入の実務を扱う。規格そのものが何を要求しているかは、姉妹記事「なぜIEC 81001-5-1:2021が必要か」で箇条ごとに整理している。
1.必要性の三つの根拠

IEC 81001-5-1 / JIS T 81001-5-1 が必要になる理由
根拠内容時期
日本の規制要件基本要件基準(平成17年厚生労働省告示第122号)第12条第3項。JIS T 81001-5-1等への適合により適合を示す令和5年4月1日適用、経過措置は令和6年4月1日で終了
米国の法定要件FD&C Act 第524B条。「cyber device」の市販前申請でサイバーセキュリティ情報(SBOMを含む)の提出が法律上の要件2023年3月29日から効力
調達側の要請医療機関側でも「医療機関における医療機器のサイバーセキュリティ確保のための手引書」(令和5年3月31日)が示され、調達・運用の両面で製造販売業者への要求が具体化している令和5年〜

2.日本で「いつ・誰に・何が」必要か

基本要件基準第12条第3項の適用通知(令和5年3月31日 薬生機審発0331第8号)は、適合性の確認と資料添付の要否をクラスごとに整理している。

クラス・申請区分別に必要なもの
区分適合性の確認申請資料への添付
高度管理医療機器(承認申請)必要必要(JIS T 81001-5-1等への適合性を示す資料)
管理医療機器(認証申請)必要必要
一般医療機器(届出)必要不要

既承認品目の扱い

令和6年3月31日以前に承認・認証を受けた、または届出された医療機器について、改めて申請・届出を行う必要はない。ただし、承認認証事項または届出事項に変更が生じ、令和6年4月1日以降に一部変更申請が必要になる場合は、改正後の基本要件基準への適合を確認したうえで、適合を示す資料を添付する必要がある。また、令和6年4月1日以降に製造販売する医療機器については、適合を確認したうえで、求めに応じて資料を提示できる状態にしておくことが求められる。「既存品だから対象外」と整理してしまうと、次の一変申請で行き詰まる。

JIS T 81001-5-1のほか、IEC 81001-5-1等の国際的に用いられている適切な規格等への適合性の確認をもって代えることも認められている。ただしその場合、申請に際して当該規格を用いることの妥当性を説明する必要がある。英語版の規格で社内運用している場合は、この説明文を申請資料に用意しておく。

3.適合性確認のチェックリスト

「適合を示す資料」として何を用意すればよいかは、令和5年5月23日の通知(薬生機審発0523第1号)が具体的に示している。同通知は、確認結果を示すか、または結果をまとめた社内文書等を特定することを求めており、承認申請書添付資料の書き方を規定していると言ってよい。

薬生機審発0523第1号が求める確認事項(箇条別)
箇条規格に関連する確認事項既存通知等に基づく追加の確認事項
箇条4
一般要求事項
サイバーセキュリティ確保の活動がQMSに基づくこと/規制当局および顧客への脆弱性の適時通知活動を確立すること/リスクマネジメントが脆弱性・脅威等を考慮したものであること脆弱性の適時通知は、平成30年7月24日付け薬生機審発0724第1号等が求めるとおり、QMSにおいてセキュリティに対する対応方針問い合わせ窓口を明確化し、顧客に対する脆弱性等の開示手順が定められていることで確認する
箇条5
ソフトウェア開発プロセス
開発計画でセキュリティ更新・開発環境等のセキュリティを考慮/セキュリティ要求事項の特定/信頼境界・多層防御等を考慮したアーキテクチャー設計/ベストプラクティスを考慮した設計・実装/システム試験による有効性の確認セキュリティ要求事項の特定は、動作環境およびネットワークの使用環境等を踏まえて行う必要があり、意図する使用環境をシステム構成図やネットワーク構成図等を用いて明示することで確認する
箇条6
ソフトウェア保守プロセス
顧客に対するセキュリティ更新の通知方針を定めることソフトウェア保守計画においてサポート終了等の製品寿命に対して計画し、脆弱性の監視・セキュリティ更新等の将来的な脆弱性対策の実施計画をあらかじめ定め、その一環として顧客への通知方針を明確化する
箇条7
リスクマネジメントプロセス
意図する使用および使用環境を考慮して脆弱性を特定、脅威を推定・評価、リスクコントロール手段で脅威をコントロールし、その有効性を監視すること
箇条8
構成管理プロセス
開発・保守・サポートのための、変更管理および変更履歴を伴う構成管理プロセスを確立すること構成管理プロセスは、当該医療機器のソフトウェア部品表(SBOM)を適切に作成することによって確認する
箇条9
問題解決プロセス
脆弱性に関する情報伝達および処理の手順を定め、情報開示を含めて手順に従って実施すること

右列の4項目は、規格を読んだだけでは出てこない日本固有の上乗せ要求である。導入プロジェクトでは、ここが抜けやすい。

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4.既存プロセスへの組み込み手順

IEC 81001-5-1はIEC 62304のプロセスに追加する形式を採っている。したがって導入作業の実態は、新規SOPの一斉整備ではなく、既存文書への追記と、不足している手順の新設である。

既存文書と追加すべき記述の対応
既存の文書・記録追加・新設すべき内容
品質マニュアル/QMS文書体系サイバーセキュリティ確保の活動をQMSの一部として位置づける記述。セキュリティ対応方針、問い合わせ窓口の明確化
ソフトウェア開発計画書セキュリティ更新の計画、開発環境のセキュリティ(ソースコード管理、ビルド環境、アクセス権)に関する記述
ソフトウェア要求仕様書セキュリティ要求事項(認証、認可、暗号化、監査ログ、更新機構等)を機能要求と並べて特定
アーキテクチャ設計書意図する使用環境、信頼境界、多層防御の設計。システム構成図・ネットワーク構成図
リスクマネジメント文書(JIS T 14971)脆弱性の特定、脅威の推定・評価、リスクコントロール手段とその有効性の監視。脅威モデリングの記録
ソフトウェアシステム試験仕様・報告書セキュリティ要求事項が満たされていること、脅威への対応方法が実装され有効であることの確認
構成管理手順書SBOMの作成・維持手順。第三者コンポーネント(OSS・既製品ソフトウェア)のバージョンと脆弱性情報の追跡
ソフトウェア保守計画書サポート終了時期、脆弱性監視の方法、セキュリティ更新の提供計画、顧客への通知方針
問題解決手順書(不具合処理)脆弱性情報の受付・伝達・処理、情報開示(脆弱性ディスクロージャ)の手順

SBOMは「作れば終わり」ではない

通知はSBOMを構成管理プロセスの確認手段として位置づけている。つまり、SBOMは提出用の一枚物ではなく、構成管理プロセスが機能していることの証拠である。作成した後、含まれるコンポーネントの脆弱性情報を継続的に監視し、更新が必要になった際に変更管理プロセスに乗せられる状態になっていなければ、要求を満たしたことにならない。米国のFD&C Act 第524B条もSBOMの提出を要件としており、日米で同じ成果物を使い回せる領域である。

5.部門間の共通言語としての価値

規制対応という側面を離れても、この規格には実務上の効用がある。セキュリティの専門人材にとって、IEC 62304の用語も、医療機器固有の用語も、ISO 14971のリスクマネジメント用語も、日常的なものではない。逆に、医療機器の開発者や薬事担当者にとって、脅威モデリングや信頼境界といった語彙は馴染みが薄い。

IEC 81001-5-1は、既存の医療機器開発プロセスの各段階にセキュリティのアクティビティを対応づけることで、両者に共通の座標系を与える。セキュリティレビューの指摘が設計変更として設計管理プロセスに乗り、リスクマネジメントファイルに反映され、市販後の脆弱性情報が問題解決プロセスを通って是正処置につながる——この一連の流れを組織として回せるようにするのが、規格導入の本質的な目的である。

6.関連通知の全体像

日本の医療機器サイバーセキュリティ関連通知は数が多く、どれが生きているのか分かりにくい。基本要件基準第12条第3項の制定を境に整理すると見通しがよい。

押さえておくべき主要通知
日付通知番号表題
平成30年7月24日薬生機審発0724第1号・薬生安発0724第1号医療機器のサイバーセキュリティの確保に関するガイダンスについて
令和2年5月13日薬生機審発0513第1号・薬生安発0513第1号IMDRFによる医療機器サイバーセキュリティの原則及び実践に関するガイダンスの公表について
令和5年3月31日薬生機審発0331第8号医療機器の基本要件基準第12条第3項の適用について
令和5年3月31日薬生機審発0331第11号・薬生安発0331第4号医療機器のサイバーセキュリティ導入に関する手引書の改訂について
令和5年3月31日医政参発0331第1号・薬生機審発0331第16号・薬生安発0331第8号医療機関における医療機器のサイバーセキュリティ確保のための手引書について
令和5年5月23日薬生機審発0523第1号医療機器の基本要件基準第12条第3項の適合性の確認について
令和5年7月20日事務連絡医療機器の基本要件基準第12条第3項の適用に関する質疑応答集(Q&A)について
令和6年1月15日医薬安発0115第2号医療機器サイバーセキュリティに関する不具合等報告の基本的考え方について
令和6年3月28日医薬機審発0328第1号・医薬安発0328第3号医療機器のサイバーセキュリティを確保するための脆弱性の管理等について
令和6年1月31日事務連絡医療機器のサイバーセキュリティに関する質疑応答集(Q&A)について
令和7年4月17日医薬機審発0417第1号・医薬安発0417第1号医療機器のサイバーセキュリティ対策に関連する情報提供について

基本要件基準第12条第3項は、IMDRFのN47文書(Essential Principles of Safety and Performance of Medical Devices and IVD Medical Devices)およびN60文書(Principles and Practices for Medical Device Cybersecurity)を踏まえて追加されたものである。国内要求の背景を理解するうえで、この2文書は押さえておきたい。

7.2026年時点で取るべき対応

導入プロジェクトのチェックリスト

  1. 対象品目を洗い出す。USB・保守PC・電子カルテ連携を含め、他の機器やネットワークと接続して電磁的情報のやり取りをする製品はすべて対象になり得る。「インターネットに接続しない」は除外理由にならない。
  2. 既承認品目の一変予定を確認する。令和6年4月1日以降の一部変更申請では、改正後基本要件基準への適合資料の添付が必要になる。
  3. 薬生機審発0523第1号を確認項目表に展開する。箇条4〜9の確認事項と、日本固有の上乗せ4項目(脆弱性開示窓口、使用環境の図示、保守計画へのサポート終了時期の織り込み、SBOM)を漏らさない。
  4. 新規SOPを別建てしない。既存のJIS T 2304対応文書に追記する形で整備し、二重管理を避ける。
  5. SBOMを構成管理プロセスに組み込む。作成して終わりではなく、脆弱性監視と変更管理に接続する。米国第524B条への対応と共通化できる。
  6. 脆弱性の受付・開示の窓口を社外に公開する。QMS上の手順として文書化し、規制当局と顧客への通知経路を定める。
  7. 用語の対応表を社内で統一する。ハザード↔脆弱性、危険状態↔脅威。危害は患者・使用者への健康被害であり、攻撃類型の名称ではない。
  8. 規格の版と番号を正しく記載する。IEC 81001-5-1:2021/JIS T 81001-5-1:2023。英語版で運用する場合は妥当性説明を用意する。

規格の箇条ごとの要求内容そのものについては、「なぜIEC 81001-5-1:2021が必要か」を参照されたい。

出典

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