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ISO-14971:2019

【医療機器企業リスクマネジメント】ISO 14971:2019逐条解説

医療機器のリスクマネジメントを規定する国際規格が ISO 14971:2019 である。2019年12月10日に第3版として発行され、2025年3月7日の定期見直しで「確認(Confirmed、ステージ90.93)」となった現行版である。本稿は、この規格が箇条ごとに何を要求しているのかを箇条1から箇条10まで通しで整理する。2007年版から何が変わったのかは ISO 14971:2019改定のポイントで扱う。

1. 規格の素性と国内対応

「1990年代に ISO 14971 が制定された」という説明を見かけるが、これは正確ではない。ISO/TC 210 のカタログで確認できるとおり、1998年に発行されたのはリスク分析だけを扱う前身規格 ISO 14971-1:1998 であり、現在の体系の第1版 ISO 14971:2000 が出たのは2000年である。

表1 ISO 14971 の版の系譜(iso.org および ISO/TC 210 カタログで確認)
規格番号発行年状態位置づけ
ISO 14971-11998Withdrawnリスク分析のみを対象とした前身規格
ISO 149712000Withdrawnリスクマネジメント全体を扱う第1版
ISO 14971/Amd 12003Withdrawn要求事項の根拠を追加した追補
ISO 149712007Withdrawn第2版。全82頁
ISO 149712019Published第3版。全36頁。2025年に確認

国内では、これを一致(IDT)で翻訳した JIS T 14971:2020 が対応する。日本産業標準調査会(JISC)のデータベースによれば、JIS T 14971 は2003年8月25日制定、最新改正が2020年10月1日、最新確認が2025年10月27日であり、主務大臣は厚生労働大臣及び経済産業大臣である。規格本文は ISO 14971:2019 に対して技術的内容及び構成を変更せずに作成されているため、以下で述べる箇条番号は ISO と JIS で共通である。

本稿での引用の扱い

ISO 14971 及び JIS T 14971 は有償で頒布される著作物である。本稿では条文を逐語で引用せず、箇条番号・箇条の表題・要求の趣旨のみを記述する。適用にあたっては正規に入手した規格原本を参照されたい。

2. 箇条構成の全体像

ISO 14971:2019 は箇条1から箇条10までの本体と、参考(informative)の附属書A・B・Cからなる。箇条4以降が実際のプロセス要求であり、規格が描くリスクマネジメントプロセスの骨格をそのまま反映している。

表2 ISO 14971:2019(JIS T 14971:2020)の箇条構成
箇条表題(JIS の訳)その箇条が求めていること
1適用範囲ソフトウェア及び体外診断用医療機器を含む医療機器の用語・原則・プロセスを規定する。受容可能なリスクの水準そのものは規定しない
2引用規格第3版で新設。JIS 版では引用規格は置かれていない
3用語及び定義ハザード、危険状態、危害、残留リスク、ベネフィットなど31の用語を定義する
4リスクマネジメントシステムの一般要求事項プロセス、経営者の責任、要員の力量、計画、ファイルという五つの土台
5リスク分析意図する使用と誤使用の明確化からリスク推定までの一連の分析
6リスク評価推定したリスクを計画の判断基準に照らし、コントロールの要否を決める
7リスクコントロール手段の選択・実施・検証、残留リスクの評価、完了確認
8全体的な残留リスクの評価残留リスクの総和としての受容可能性を判定する
9リスクマネジメントのレビュー出荷前に計画の実行結果をレビューし、報告書にまとめる
10製造及び製造後の活動情報の収集、レビュー、必要な処置によりプロセスを閉ループにする

3. 箇条4 リスクマネジメントシステムの一般要求事項

4.1 は、ライフサイクル全体にわたるリスクマネジメントプロセスの確立・文書化・維持を求める。ここでいうライフサイクルは設計・製造で終わらず、製造後の段階まで続く。4.2 の経営者の責任は形式的な承認行為ではない。附属書Aは、十分な資源の確保、力量ある要員の参画、リスクの受容可能性をどう決めるかという方針の確立、活動の定期的なレビューを眼目として挙げている。規格自体が受容可能なリスク水準を規定していない以上、その基準を決める責任はトップマネジメントに帰属する。リスクを一律に高く見積もる運用の弊害も、この方針の設計次第で生じる。4.3 の要員の力量については、機器がどう構成され、どう作動し、どう製造され、実際にどう使われるかという知識・経験が求められており、設計者だけで完結しない。

4.4 のリスクマネジメント計画には a)〜g) の項目が求められる。実務では、この7項目がそのまま計画書の目次になる。

表3 リスクマネジメント計画に求められる項目(4.4)
項目置かれた理由
a)計画の適用範囲対象機器と、ライフサイクルのどの段階に適用するかを特定するため
b)責任及び権限の割当て責任の所在が不明確になるのを防ぐため
c)活動のレビューの要求事項レビューはマネジメントの責任と位置づけられるため
d)リスクの受容可能性の判断基準分析を始める前に決めないと、評価が事後の追認になるため
e)全体的な残留リスクの評価方法と判断基準箇条8の評価を客観的に行うため。第3版で明示された項目
f)検証活動7.2 が求める検証に必要な資源をあらかじめ確保するため
g)製造及び製造後情報の収集・レビュー箇条10のフィードバックを正式な仕組みとして回すため

4.5 はリスクマネジメントファイル(RMF)を求める。RMF は一冊のバインダーである必要はなく、リスクマネジメントによって作成された記録及びその他の文書の集合である。要点は、計画・分析結果・リスクコントロール手段とその検証記録・残留リスクの評価・報告書・製造後情報のレビュー結果までを追跡可能な形で参照できるようにしておくことである。RMF は設計履歴ファイル(DHF)や技術文書とは目的が異なるが内容は重なる。設計側の記録体系は なぜ設計履歴ファイル(DHF)が必要なのか設計管理規程の作り方を参照されたい。

4. 箇条5 リスク分析

箇条5は 5.1 リスク分析プロセス、5.2 意図する使用及び合理的に予見可能な誤使用、5.3 安全に関する特質の明確化、5.4 ハザード及び危険状態の特定、5.5 リスク推定の五つからなる。

5.2 が分析の出発点である。意図する使用には、意図する医学的適応、患者集団、接触する身体の部位や生体組織の種類、ユーザープロファイル、使用環境、動作原理といった要素を含めることが望ましい。第3版では、これと並んで合理的に予見可能な誤使用を明確にすることが同じ細分箇条に置かれた。「使用エラー」は使用者が意図された結果と異なる結果に至る行為または不作為を指し、機器の故障や患者の予期しない生理的反応は含まれない。使用性の側面は 医療機器におけるユーザビリティエンジニアリングの重要性で扱っている。

5.4 では、ハザードを列挙するだけでは足りない。ハザードが危害に至るには、一連の事象または周囲の状況を経て「危険状態」が生じる必要がある。この関係を整理せずハザードと危害を直結させた分析は、リスクコントロールの打ちどころを見失う。5.5 のリスク推定は、危害の発生確率と重大さの組合せとして行う。両者の重み付けは なぜ発生頻度よりも重大性を重視するのかを参照されたい。

5. 箇条6 リスク評価と箇条7 リスクコントロール

箇条6は、推定したリスクを 4.4 d) で定めた判断基準に照らし、リスクコントロールが必要かどうかを判断する箇条である。附属書Aは、この箇条が置かれた理由を「利用者が不必要な作業を行わなくてよいようにするため」と説明している。すべてのリスクに一律の低減作業を課す運用は規格の意図するところではない。この発想は リスクベースアプローチとはと地続きである。

箇条7の 7.1 には、明示された優先順位がある。

表4 リスクコントロール手段の優先順位(7.1)
順位手段この順位に置かれた理由
1設計及び製造による本質的な安全機器の特性に本来備わる解決策であり、継続して有効である可能性が最も高い
2保護手段(防壁、アラームなど)うまく設計しても故障・破壊され得るため、本質安全の次に置かれる
3安全に関する情報(警告、禁忌など)従われないことが経験上示されているため最後に置かれる

7.2 は手段の実施と有効性の検証を、7.3 は個々の残留リスクの評価を求める。7.4 のベネフィット・リスク分析は、残留リスクが受容可能でないと判断された場合に、期待されるベネフィットがそれを上回るかを検討する箇条である。7.5 はリスクコントロール手段そのものが新たなハザードや危険状態を生んでいないかを見る箇条、7.6 は特定したすべての危険状態が検討されたことを確認する完了判定である。

6. 箇条8 全体的な残留リスクの評価

箇条5から箇条7までを回して個々のリスクコントロール手段を実施した後、製造業者はいったん立ち止まり、残留リスクすべての組合せによる影響を検討する。個々の残留リスクが受容可能であっても、その総和が判断基準を上回ることがある。多数のリスクを伴う複雑なシステムほど起こりやすい。

評価の方法と判断基準は 4.4 e) で計画にあらかじめ定めておく必要がある。この評価には、全体的な残留リスクと機器のベネフィットとのバランスをとることが含まれる。リスクは高いが臨床上きわめて有益な機器を上市してよいかという判断は、ここで行われる。残留リスクの情報を使用者に提供する責任もこの段階に集約されており、どこまで開示するかは製造業者が決定するが、附属資料に含めることが求められる。

7. 箇条9 リスクマネジメントのレビューと報告書

箇条9でレビューされるのは個々のリスクではなく、リスクマネジメント計画が適切に実行されたかどうかである。その結果はリスクマネジメント報告書に含められ、RMF の中核をなす。注意したいのは、報告書が出荷前に一度作られて終わるものではない点である。附属書Aは、製造及び製造後の活動の結果として、計画実行後のレビューと報告書の更新がライフサイクルを通じて必要になり得るとしている。

8. 箇条10 製造及び製造後の活動

箇条10は 10.1 一般、10.2 情報の収集、10.3 情報のレビュー、10.4 処置に分かれる。設計段階のリスク推定は、実際の使用者が機器をどう使うかまでは推定しきれない。だからこそ製造及び製造後の情報を収集し、レビューし、安全との関係を評価する必要がある。情報源には、自社の製造工程からの情報、一般に認められた最新の技術水準に関する情報に加え、サプライチェーンからのフィードバックが含まれる。ここには部品やサブシステムの供給者だけでなくサードパーティ製ソフトウェアの供給者も含まれる。フォローアップの処置を検討すべき状況も、新しい医療機器や治療方法が市場で利用可能になった場合、リスクの認知や受容可能性に変化があった場合などに広がっている。

用語の注意:ISO 14971/JIS T 14971 の 10.4 は「処置」である。一方、QMS省令(平成16年厚生労働省令第169号)が定義する「不適合の再発を防止するために不適合の原因を除去する措置」は「是正措置」と表記される。規格の箇条を論じる文脈と省令の要求を論じる文脈で表記が異なるため、社内文書では使い分けたい。

9. 参考附属書と指針文書

第3版の本体に残された参考附属書は、附属書A(要求事項の根拠)、附属書B(医療機器のリスクマネジメントプロセス。第2版と第3版の箇条対応表と概要図を含む)、附属書C(リスクの基礎的な概念)の三つだけである。2007年版にあった多くの参考附属書は本体から外れ、適用の指針 ISO/TR 24971(国内では TR T 24971)へ移された。経緯は改定のポイント側で扱う。

10. 国内規制要求との接続

表5 国内規制におけるリスクマネジメントの位置づけ
根拠条項要求の内容
QMS省令(平成16年厚生労働省令第169号)第26条第3項・第4項製品実現に係るすべての工程における製品のリスクマネジメントの要求事項を明確化・文書化し、記録を作成・保管する
QMS省令第31条第1項第三号設計開発への工程入力情報に、第26条第3項のリスクマネジメントの工程出力情報たる要求事項を含める
基本要件基準(平成17年厚生労働省告示第122号)第2条危害の識別と危険性の評価、本質的な安全設計・製造による除去、防護手段による低減、残存する危険性の提示を、この順序で適用する

基本要件基準第2条が示す順序は、ISO 14971 の 7.1 の優先順位と実質的に同じ構造である。規格に沿ってリスクコントロールを設計しておけば、基本要件適合性の説明もそのまま組み立てられる。逆に「注意喚起で対応する」という結論を先に置いた設計は通りにくい。

まとめ

計画(4.4)で判断基準を定め、分析(箇条5)・評価(箇条6)・コントロール(箇条7)を回し、全体的な残留リスク(箇条8)を判定し、出荷前にレビューして報告書にまとめ(箇条9)、製造後の情報でプロセスを閉じる(箇条10)。ISO 14971:2019 はこの一本の流れで読める。その痕跡をすべて残す器がリスクマネジメントファイルである。箇条を個別の要求事項の羅列として読むと、この流れが見えなくなる。

2026年時点で取るべき対応

  1. 参照している版数を棚卸しする手順書・様式・教育資料が ISO 14971:2007/JIS T 14971:2012 を参照したままになっていないかを確認する。2019年版は2025年3月の定期見直しで確認されており、当面この版が現行である。
  2. 計画に 4.4 e) を明記する全体的な残留リスクの評価方法と受容可能性の判断基準が計画に書かれているかを点検する。個々のリスクの基準を流用しただけでは箇条8の評価を客観的に行えない。
  3. 箇条10の情報源にサプライチェーンを含める製造後情報の収集手順に、部品・サブシステムの供給者に加えてサードパーティ製ソフトウェアの供給者からの経路を組み込む。
  4. 報告書を「更新する文書」として扱う出荷前に一度作って凍結する運用をやめ、製造後の活動の結果を受けてレビューし直す仕組みを手順に落とす。
  5. 国内規制との対応表を作るQMS省令第26条第3項・第31条第1項第三号、基本要件基準第2条と自社手順の箇条との対応を1枚にまとめておくと、査察・審査の説明が短くなる。
  6. 用語の使い分けを統一する省令の要求を述べる箇所の「是正措置」と、ISO/JIS の箇条を述べる箇所の「処置」を混同しない。

出典

  • ISO「ISO 14971:2019」Edition 3、発行 2019-12-10、Published、ステージ 90.93(2025-03-07 confirmed)、36頁、ISO/TC 210 — iso.org/standard/72704.html
  • ISO「ISO 14971:2007」Edition 2、発行 2007-03、Withdrawn、ステージ 95.99、82頁 — iso.org/standard/38193.html
  • ISO/TC 210 標準カタログ(ISO 14971-1:1998、ISO 14971:2000、Amd 1:2003 の状態) — iso.org/committee/54892
  • ISO「ISO/TR 24971:2020」Edition 2、発行 2020-06、ステージ 90.92 — iso.org/standard/74437.html
  • 日本産業標準調査会「JIS T14971 医療機器-リスクマネジメントの医療機器への適用」制定 2003/08/25、最新改正 2020/10/01、最新確認 2025/10/27 — jisc.go.jp
  • 厚生労働省「医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」(平成16年厚生労働省令第169号)e-Gov法令検索 — laws.e-gov.go.jp/law/416M60000100169
  • 厚生労働省「薬機法第41条第3項の規定により厚生労働大臣が定める医療機器の基準」(平成17年3月29日厚生労働省告示第122号、最終改正 令和5年厚生労働省告示第67号) — mhlw.go.jp

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