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GMP省令改正(2021年)関連

製造装置の「分解・洗浄」は医薬品工場の日常

交叉汚染防止は省令の要求

製造装置を分解し、何時間もかけて洗浄し、また組み立てる。以前、そうした工程を「品質へのこだわり」として紹介するテレビCMを見たことがある。丁寧な仕事ぶりには頭が下がる。

ただ、医薬品の製造に携わる人から見ると、それは毎日の当たり前の風景でもある。本稿では、医薬品工場の洗浄が法令の要求である理由を解説する。

一つの設備で、いくつもの製品を作る

医薬品工場では、同じ製造設備で複数の品目を作ることが多い。とくに他社から製造を請け負う受託製造の工場では、あるロットは睡眠薬、次のロットは胃腸薬というように、品目を切り替えながら設備を使う。ロットとは、同じ条件でまとめて製造した製品の単位である。

このとき怖いのが交叉汚染(こうさおせん)である。交叉汚染とは、ある製品の成分や異物が、別の製品に混入してしまうことをいう。英語ではcross-contaminationと呼ぶ。

錠剤の原料の多くは粉である。細かい粉は、装置のすき間や配管の内側、部品の継ぎ目に入り込む。見た目にはきれいでも、前の製品の成分が残っていれば、次の製品に混ざってしまう。

飲んだ患者にとっては、処方されていない薬を知らずに飲むのと同じことである。品目ごとに設備を専用にすれば、交叉汚染の心配は減る。しかし、すべての品目に専用の設備を用意するのは現実的ではない。だからこそ、共用する設備をいかに清浄に保つかが問われる。

省令は交叉汚染の防止を求めている

医薬品の製造所が守るべきGMP省令(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令)は、交叉汚染の防止をはっきり求めている。2021年の改正で新設された第8条の2は、製造業者などに、交叉汚染を防止するため製造手順などについて所要の措置をとるよう定めている。第10条も、構造設備の清浄を確認し、その結果の記録を作成して保管することを求めている。

構造設備を定めた第9条では、飛散しやすく過敏症反応を起こしうる製品や、強い薬理作用や毒性を持つ製品について、専用の作業室や別系統の空気処理システムなど、漏出を防ぐ措置を求めている。医薬品以外の物と設備を共用することも、原則として認めていない。つまり、医薬品工場で装置を分解して洗浄するのは、会社独自の特別な努力というより、省令が求める基本的な管理なのである。

洗浄は「やった」だけでは足りない

医薬品の洗浄には、さらに厳しい考え方がある。洗浄したという事実だけでなく、その方法で本当に残留物を取り除けることを示さなければならない。そのために、洗浄の手順を文書で定め、残留物が基準以下になることを科学的に検証する。

これは一般に洗浄バリデーションと呼ばれる。手順書には、分解の範囲、洗浄剤の種類や濃度、すすぎの回数、乾燥や確認の方法などを具体的に書く。そのうえで毎回、決められた手順で洗浄し、清浄を確認し、記録を残す。

筆者の経験では、洗浄の記録は査察や監査で必ずといってよいほど確認される。使い終わってから洗浄を始めるまでの時間や、洗浄後に次に使うまでの保管期間を定めておくのも一般的である。品目を切り替えるときには、前の製品の原料や資材、表示材料などがラインに残っていないことを確かめるラインクリアランスも行う。

製品を汚すのは、前の製品の成分だけではない。空気中を漂う微粒子や微生物も汚染の原因になる。とくに注射剤のような無菌医薬品では影響が大きく、GMP省令は無菌医薬品の製造所の構造設備(第23条)や製造管理(第24条)に追加の要求を定めている。

製薬工場で微粒子の数や微生物を定期的に測る環境モニタリングが行われているのは、このためである。なお、GMP省令が適用されるのは医薬品と医薬部外品である。それ以外の製品であれば、同じような洗浄の徹底は自主的な取り組みであり、正当に評価されるべきものである。

小林化工事件は交叉汚染だったのか

筆者は講演で、交叉汚染の典型例として小林化工の事件を挙げてきた。2020年12月、同社の抗真菌薬(真菌による感染症の治療薬)の錠剤に、睡眠導入剤の成分リルマザホンが混入していたことが明らかになった事件である。服用した患者に意識消失などの健康被害が相次ぎ、死亡例も報告された。

しかし改めて経緯を確認すると、この事件は設備の洗浄不足による交叉汚染とは性質が異なる。報道などによれば、製造の途中で有効成分を追加投入する際に、別の原料であるリルマザホンを誤って投入したとされる。承認された手順では追加投入自体が認められておらず、2人で行うはずの確認も1人で行われていた。

つまり原因は、原料の取り違えと、承認書と異なる手順での製造である。福井県は2021年2月、同社に116日間の業務停止を命じている。この事件ではほかにも、承認されていない手順書での製造や、出荷前の品質試験に関わる不正などが明らかになったと報じられている。

とはいえ、別の製品の成分が混ざれば、原因が何であれ患者への影響は変わらない。一つのミスが、多くの患者の健康被害につながりうる。医薬品工場には、洗浄による交叉汚染の防止と、原料の識別や投入時の確認による取り違えの防止、その両方が求められているのである。

筆者は講演で、重要な作業は必ずダブルチェックすると繰り返し話している。原料の秤量や投入は、その代表である。手順を省略したくなるのは、忙しいときや作業に慣れたときである。

容器の表示を読み上げて確認する、投入前にバーコードで原料を照合する、といった仕組みがあれば、取り違えは防ぎやすくなる。人の注意だけに頼らない仕組みが大切なのである。

装置メーカーに問われること

製薬企業に製造装置や周辺機器を納める企業にとって、洗浄は他人事ではない。装置の構造そのものが、洗浄のしやすさを左右するからである。例えば、分解に特殊な工具が要る、部品の継ぎ目に粉がたまりやすい、洗浄後に乾きにくい、といった構造は、顧客の洗浄作業の負担を増やす。

負担が増えれば、手順の省略という別のリスクも生まれる。洗浄に使う薬剤や温度に部品が耐えられるか、洗浄後の清浄を目で確かめやすいかも、大切な情報である。また、部品の材質や推奨する洗浄方法を変えると、顧客が行った洗浄バリデーションの前提が崩れることがある。

仕様の変更は、事前に顧客へ知らせることが望ましい。環境モニタリングに使う測定機器も同じで、測定値の信頼性は、そのまま清浄度の判断の信頼性につながる。

まとめ

  • 医薬品工場は同じ設備で複数の品目を作るため、交叉汚染の防止が欠かせない
  • GMP省令は第8条の2で交叉汚染の防止を、第10条で構造設備の清浄の確認と記録を求めている
  • 小林化工事件は、洗浄不足による交叉汚染ではなく、原料の誤投入と承認外の手順による混入であった

医薬品の世界では、分解と洗浄は誇るべき特別な努力というより、患者に対する最低限の約束である。筆者の経験では「どう分解し、どう洗い、どう確かめるか」まで説明できるメーカーは、製薬企業から厚く信頼されている。

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