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ER/ES指針関連

医薬品等の承認又は許可等に係る申請等における電磁的記録及び電子署名の利用について(平成17年4月1日)

「医薬品等の承認又は許可等に係る申請等における電磁的記録及び電子署名の利用について」(平成17年4月1日 薬食発第0401022号)は、いわゆる厚労省ER/ES指針の正式名称である。発出から20年以上が経過した2026年8月現在も、廃止も改正もされずに有効であり、日本国内で電磁的記録と電子署名を薬事の申請・保存に用いる際の唯一の横断的な行政指針であり続けている。本稿は、この通知そのものを条項単位で読み解く「原典編」である。指針を自社のシステムと手順にどう落とし込むかという実務は、実務対応編で扱う。

1. この通知の基本情報

項目内容
正式名称医薬品等の承認又は許可等に係る申請等における電磁的記録及び電子署名の利用について
発出日・発番平成17年4月1日 薬食発第0401022号
発出者厚生労働省医薬食品局長
宛先各都道府県知事
別紙の名称医薬品等の承認又は許可等に係る申請等に関する電磁的記録・電子署名利用のための指針(=ER/ES指針)
適用開始平成17年4月1日以降に提出又は保管される資料
2026年8月時点の状態廃止・改正なく有効

通知の本文は、発出以来一度も改正されていない。したがって原文には「薬事法」の語がそのまま残る。2026年時点の読者は、原文の「薬事法」を「薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)」と読み替える必要がある。詳細は第2章で述べる。

2. 通知が引用する法令名は、その後変わっている

本通知の「1.趣旨」は、電磁的記録による申請・保存の根拠として二つの法律を引く。いずれも通知発出後に名称または位置づけが変わっており、原文をそのまま引用すると現行法令名と食い違う。以下に対照を示す。

通知原文の記載2026年8月時点の正しい名称・状態変更の根拠
薬事法 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法) 平成25年法律第84号により改称。2014年(平成26年)11月25日施行
行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律(平成14年法律第151号) 情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律(通称:デジタル手続法。法律番号は平成14年法律第151号のまま) 令和元年法律第16号による改称。2019年12月16日施行
民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律(平成16年法律第149号。e-文書法) 名称・法律番号とも変更なし。2005年4月1日施行で現行
コモン・テクニカル・ドキュメントの電子化仕様に関する当時の通知 その後のeCTD関連通知群に承継され、改正が重ねられている。現行の運用はPMDAのeCTD国内情報提供ページで確認すること

e-文書法の実装は厚生労働省令にある

e-文書法は「電磁的記録による保存を認める」という枠組法であり、どの書面をどう電磁化してよいかは各省令に委ねられている。厚生労働省所管分については「厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令」(平成17年厚生労働省令第44号、2005年3月25日公布)が定めている。ER/ES指針を語る際に、この省令をあわせて押さえていない企業は多い。

3. 通知本体(5項)の読み方

1.趣旨

電磁的記録による申請・保存は既に法令上可能であることを確認したうえで、「電磁的記録による申請資料等の信頼性を確保するため」に留意事項を定めるという建て付けである。つまり本通知は、電磁化を認めるための通知ではなく、電磁化した際に品質を落とさないための通知である。この順序を取り違えると、指針全体の趣旨を読み誤る。

2.電磁的記録及び電子署名を利用する際の要件

申請等に係る資料および原資料を作成する際に電磁的記録・電子署名を用いる場合は、別紙の指針に基づくこと、とだけ述べる。実体的な要件はすべて別紙に置かれている。

3.適用範囲

(1) 承認・許可等の申請、届出、報告に際して提出する資料として電磁的記録・電子署名を用いる場合、(2) 原資料その他法令により保存が義務づけられている資料として電磁的記録・電子署名を用いる場合、の二つが適用対象である。
さらに、紙媒体で作成する過程で電磁的記録・電子署名を利用する場合にも「可能な限り本指針に基づくことが望ましい」とされている点が重要である。最終成果物が紙であっても、途中の作成過程が電子であれば指針の射程に入り得る、という広い読み方が示されている。

4.適用期日

原則として平成17年4月1日以降に提出又は保管される資料に適用。以後の改正がないため、この適用期日は現在も生きている。

5.指針の見直し

「技術的な進歩及び海外の規制状況等の変化を考慮して、必要に応じて見直す」とされているが、2026年8月時点まで見直しは行われていない。この20年余の間に、クラウド、SaaS、PIC/Sデータインテグリティガイダンス、FDAのCSA最終ガイダンスなど環境は大きく変わったが、指針本文は当時のままである。したがって現代的な論点は、指針の条文からではなく指針の趣旨から演繹して対応を組み立てざるを得ない。

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4. 別紙指針の逐条

4.1 用語の定義(第2項)

用語指針上の定義(要旨)読解上の注意
電磁的記録媒体磁気ディスク、光ディスク、磁気テープ等、電磁的記録を保管するためのもの2005年当時の列挙。クラウドストレージは列挙にないが「等」に含まれると解するのが実務上の通例である
電子署名手書き署名又は捺印と同等のものとして行われる署名で、個人又は法人が作成、採用、確認、承認する一連の記号を電子化して構成したデータ「作成、採用、確認、承認」と明記されており、承認行為に限定されていない
デジタル署名署名者認証の暗号化技術等に基づく電子署名電子署名の下位概念。指針は両者を区別している
クローズド・システムシステム内の電磁的記録に責任を持つ者によって、システムへのアクセスが管理されているシステム21 CFR Part 11 §11.3(b)(4) の closed system とほぼ同義
オープン・システム上記の管理がなされていないシステム「インターネットを使うか否か」ではなく「記録の責任者がアクセスを管理しているか否か」で判定する
監査証跡正確なタイム・スタンプ(コンピュータが自動的に刻印する日時)が付けられた一連の操作記録タイムスタンプがコンピュータにより自動付与であることが定義に組み込まれている

4.2 電磁的記録の三要件(第3.1項)

指針は、電磁的記録に真正性・見読性・保存性の三つを求める。前提として「電磁的記録利用システムはコンピュータ・システム・バリデーションによりシステムの信頼性が確保されている事を前提とする」と明記されており、CSVは三要件の外側にある前提条件として位置づけられている。

要件指針の定義指針が挙げる具体的手当て
真正性(3.1.1) 電磁的記録が完全で、正確で、信頼できるとともに、作成・変更・削除の責任の所在が明確であること ①セキュリティ保持の規則・手順の文書化と実施 ②作成者の明確な識別、変更時は変更前情報の保存と変更者の識別(監査証跡の自動記録と手順に基づく確認は「望ましい」) ③バックアップ手順の文書化と実施
見読性(3.1.2) 内容を人が読める形式で出力できること ディスプレイ表示、紙への印刷、電磁的記録媒体へのコピー等
保存性(3.1.3) 保存期間内において、真正性および見読性が確保された状態で保存できること ①媒体管理等、保存性確保の手順の文書化と実施 ②他媒体・他方式への移行時も移行後の記録について三要件が確保されていること

監査証跡は「望ましい」だが、事実上は必須である

指針3.1.1は監査証跡の自動記録を「望ましい」と表現しており、この一語だけを捉えて「監査証跡は任意」と解する誤読がある。しかし同項本文は「一旦保存された情報を変更する場合は、変更前の情報も保存されるとともに、変更者が明確に識別できること」を必要な要件として掲げている。変更前情報の保存と変更者の識別を人手の台帳で担保するのは現実的でないため、実装上は監査証跡以外の選択肢がほぼない。加えて、GMP領域では医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(GMP省令)がデータインテグリティ業務を明文化しており、PIC/SのデータインテグリティガイダンスPI 041-1(2021年7月1日発効)も監査証跡レビューを求めている。「望ましい」を理由に監査証跡を実装しない判断は、2026年においては通らないと考えるべきである。

4.3 クローズド/オープン・システム(第3.2・3.3項)
クローズド・システムでは3.1の要件を満たせばよい。オープン・システムでは、3.1に加えて「電磁的記録が作成されてから受け取られるまでの間の真正性、機密性を確保するために必要な手段」を実施することが求められ、追加手段の例として暗号化とデジタル署名が挙げられている。

4.4 電子署名の要件(第4項)

電子署名及び認証業務に関する法律(平成12年5月31日法律第102号)に基づき、電子署名の管理・運用に係る手順が文書化されており、適切に実施していること。電子署名は、各個人を特定できる唯一のものとし、他の誰にも再使用、再割当しないこと。(中略)電磁的記録に付された電子署名は、不正使用を防止するため、通常の方法では削除・コピー等ができないように、対応する各々の電磁的記録とリンクしていること。

出典:厚生労働省医薬食品局長通知「医薬品等の承認又は許可等に係る申請等における電磁的記録及び電子署名の利用について」(平成17年4月1日 薬食発第0401022号)別紙 第4項

署名された電磁的記録に明示すべき情報として、指針は次の3項目を列挙する。

ER/ES指針 第4項が求める署名の表示項目21 CFR Part 11 の対応条項
署名者の氏名§11.50(a)(1) The printed name of the signer
署名が行われた日時§11.50(a)(2) The date and time when the signature was executed
署名の意味(作成、確認、承認等)§11.50(a)(3) The meaning (such as review, approval, responsibility, or authorship)
電子署名と電磁的記録のリンク(削除・コピー等の防止)§11.70 Signature/record linking
各個人に唯一、再使用・再割当の禁止§11.100(a)

ER/ES指針が挙げる署名の意味は「作成、確認、承認等」であり、Part 11 §11.50(a)(3) も “review, approval, responsibility, or authorship” と列挙する。日米いずれの規制も、電子署名の対象を承認行為に限定していない。この点は電子署名についての解説記事で詳しく扱う。

4.5 その他(第5項)

電磁的記録・電子署名を利用しようとする者は、そのために必要な責任者、管理者、組織、設備及び教育訓練に関する事項を規定しておくこととされる。技術要件ではなく組織要件を最後に置いている点が、この指針の特徴である。システムを導入しただけでは指針適合とはならない。

5. ER/ES指針と 21 CFR Part 11 の構造比較

観点厚労省ER/ES指針21 CFR Part 11
法的性格通知(行政指導)。それ自体は罰則を伴わない連邦規則(法規範)。違反は指摘・警告書の対象
根拠・発効平成17年4月1日 薬食発第0401022号62 FR 13430(規則本文は62 FR 13464)、1997年3月20日公布/1997年8月20日発効
適用範囲薬機法および関連法令に基づく申請等の資料・原資料FDA規則上の記録要件に基づき電子形式で作成・保持等される記録全般(§11.1(b))
中心概念真正性・見読性・保存性の三要件closed/open system の管理(§11.10/§11.30)と電子署名(Subpart C)
バリデーション三要件の前提としてCSVを要求§11.10(a) の一要件として規定
監査証跡3.1.1で「望ましい」(ただし変更前情報の保存と変更者識別は必須)§11.10(e) で明示的に要求
当局への事前届出規定なし§11.100(c) により、電子署名が手書き署名と法的に等価である旨をFDAに証明(certification)する必要がある
改正・見直し2005年の発出以来なし§11.1・§11.100(c)等が複数回改正。2003年9月のScope and Applicationガイダンスで運用方針を提示

「通知だから守らなくてよい」は成り立たない

ER/ES指針は形式上は通知であるが、電磁的記録によって作成・保存された申請資料の信頼性は、最終的に薬機法上の申請資料の信頼性の基準(いわゆる信頼性基準)や、GMP/QMS/GLP/GCPといった各基準省令の下で評価される。指針に適合していない電磁的記録は、これらの基準適合性調査の場で「記録の信頼性が担保されていない」と評価され得る。指針の法的性格と、実務上の拘束力は別物である。

6. 2026年時点で取るべき対応

2026年時点で取るべき対応

  1. 指針が現行有効であることを、社内文書で明示的に確認する。「古い通知だから」という理由で参照文書から外している手順書は、根拠の欠落として指摘対象になり得る。
  2. 社内文書に残る「薬事法」を「薬機法」に置き換える。ただし通知原文を引用する箇所は原文どおりとし、引用であることを明示したうえで読み替えの注記を添える。原文の改変は引用として不適切である。
  3. 「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律」の表記を「情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律(デジタル手続法)」に更新する。法律番号(平成14年法律第151号)は変わっていない。
  4. e-文書法だけでなく、平成17年厚生労働省令第44号をあわせて参照する。電磁的保存の可否は同省令で判断する。
  5. 監査証跡を「望ましい」扱いのまま放置しない。変更前情報の保存と変更者の識別は指針上の必須要件であり、実装手段として監査証跡を選ばない合理的理由は乏しい。
  6. 指針が20年間見直されていないという事実を前提に、空白領域を自社の方針で埋める。クラウド、SaaS、外部委託先の記録などは指針本文に手がかりがないため、指針の趣旨(真正性・見読性・保存性)に立ち返って社内基準を定め、その導出根拠を文書化しておく。

本稿の記載は2026年8月時点の情報に基づく。解釈の誤り等がありましても当社では責任を負いかねる。本文書の改訂は予告なく行われることがある。

出典・一次情報源

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