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ISO-13485:2016

ISO-13485:2016

ISO 13485:2016 は、もはや「任意で取る認証」ではない。2026年2月2日に施行された米国の QMSR(21 CFR Part 820)は、§820.7 において ISO 13485:2016(E) 第3版を参照取り込み(incorporation by reference)している。本邦の QMS省令(平成16年厚生労働省令第169号)は令和3年改正で ISO 13485:2016 と整合化され、その経過措置は2024年3月25日で終了、現在は全面適用である。本稿は、2026年時点で ISO 13485:2016 に対して実務として何をすべきかを、日本・米国・欧州・MDSAP の四つの文脈から整理する。規格の箇条構成そのものは【徹底解説】ISO-13485:2016 対応セミナー【第1講】、2003年版からの改定経緯はISO-13485改定の要点で扱う。

2026年時点で ISO 13485:2016 はどこに効いているか

まず、規制上の位置づけを整理する。同じ「ISO 13485:2016 に適合している」という状態でも、法域によって何を求められるかが異なる。

法域・制度ISO 13485:2016 の位置づけ2026年8月時点の状況実務上の帰結
日本(QMS省令)QMS省令が ISO 13485:2016 と整合化されている。国内規格は JIS Q 13485:2018(IDT)令和3年厚生労働省令第60号(令和3年3月26日公布・施行)。経過措置は2024年3月25日で終了し、全面適用QMS省令に適合していれば ISO 13485:2016 の要求の大部分を満たす。ただし省令固有の要求(製品標準書、国内品質業務運営責任者等)は別途必要
米国(QMSR)21 CFR §820.7 で ISO 13485:2016(E) を参照取り込み。ISO 9000:2015(E) 箇条3も同様2024年2月2日公布(89 FR 7496)、2026年2月2日施行。Subpart C〜O は Reserved規格の条文が米国連邦規則の一部として直接適用される。規格を持っていなければ規制を読めない状態になる
欧州(MDR / IVDR)MDR・IVDR は製造業者に QMS の確立を求める。適合性評価はノーティファイドボディが規則に照らして行うMDR(規則(EU)2017/745)は2021年5月26日、IVDR(同2017/746)は2022年5月26日適用開始ISO 13485 認証は QMS の基盤として広く用いられるが、認証だけで MDR 適合が完結するわけではない
MDSAP監査モデルが ISO 13485 をベースに構成されている日本は2015年6月に参加。PMDA は2022年4月1日から調査結果を本格的に受け入れている一回の監査で複数国の要求に対応できる。ただし各国固有要求は上乗せで審査される

ISO 13485 の認証を持っていても、FDA の査察は免除されない。FDA は適合証明書を発行せず、認証書の提出を求めることもしない。QMSR が ISO 13485:2016 を取り込んだのは要求事項の内容についてであって、第三者認証を米国の適合手段として認めたわけではない。「ISO 13485 を取ったので米国はこれで済む」という理解は誤りである。

日本 ― QMS省令への実務対応

すでに経過措置は終わっている

QMS省令の令和3年改正(令和3年厚生労働省令第60号、令和3年3月26日公布・施行)は、ISO 13485:2016 との整合化を目的としたものである。その経過措置は2024年(令和6年)3月25日で終了しており、2026年8月現在は全面適用である。「2024年3月までに対応を」といった期限訴求はすでに意味を持たない。現時点で未対応の部分があるとすれば、それは猶予期間中の課題ではなく、単なる不適合である。

改正の内容と逐条の解釈については、厚生労働省の施行通知(薬生発0326第10号)および取扱い通知(薬生監麻発0326第4号)が一次情報源となる。

参照すべき日本語規格は JIS Q 13485:2018

ISO 13485:2016 の日本語版は JIS Q 13485:2018 である。日本医療機器産業連合会(JFMDA)からの申出により、日本工業標準調査会の審議を経て 2018年3月1日に改正され、JIS Q 13485:2005 を置き換えた。ISO 13485:2016(2016年発行の第3版)を基に、技術的内容および構成を変更することなく作成された規格(IDT)である。2022年10月25日の確認を経て、現在も有効である。

社内文書の規格参照を点検する

品質マニュアルや手順書の冒頭にある「適用規格」の記載を確認されたい。次の記述が残っていれば、いずれも要修正である。

  • 「ISO 13485:2015」そのような版は存在しない。ISO 13485 の版は 1996 / 2003 / 2016 の三つのみである。ISO 9001:2015 との混同と思われる誤記が業界内に散見される。
  • 「ISO 13485:2003」「JIS Q 13485:2005」 ― いずれも旧版であり、現行ではない。
  • 「21 CFR 820.30 に基づく設計管理」§820.30 は QMSR で削除された。設計管理の根拠は §820.10(c) を経由して ISO 13485 箇条7.3 へ移っている。
  • 「QSR(Quality System Regulation)」 ― 名称が Quality Management System Regulation(QMSR)に変わっている。

米国 ― QMSR 施行後に何が変わったか

2024年2月2日に公布された最終規則(89 FR 7496、Docket FDA-2021-N-0507)により、21 CFR Part 820 は全面改正された。施行日は 2026年2月2日である。さらに 2025年12月4日には技術的修正(90 FR 55978)が公布され、18パート179条にわたる QSR 参照が QMSR へ置き換えられた(同じく 2026年2月2日発効)。

論点旧 QSR(〜2026年2月1日)QMSR(2026年2月2日〜)実務対応
規則の構造Subpart A〜O に要求事項を自前で規定Subpart A・B のみ存置、Subpart C〜O は Reserved。§820.1/820.3/820.5[Reserved]/820.7/820.10/820.35/820.40[Reserved]/820.45条文番号での引用がほぼ使えなくなる。社内文書のトレーサビリティ表を、ISO 13485 の箇条番号へ張り替える
要求事項の本体21 CFR 820 の条文そのもの§820.7 で ISO 13485:2016(E) 第3版ISO 9000:2015(E) 箇条3 を参照取り込み規格を正規に入手し、社内で参照可能な状態にする。要員が箇条番号で会話できるようにする
設計管理§820.30 Design controls§820.30 は削除。§820.10(c) 経由で ISO 13485 箇条7.3 が適用される設計管理手順の根拠条文を書き換える。DHF は 7.3.10 設計・開発ファイル、DMR は 4.2.3 医療機器ファイルへ読み替える
査察プログラムQSIT(4サブシステム)QSIT は2026年2月2日で運用終了CP 7382.850(2026年2月2日発行、78ページ)へ移行。CP 7382.845・CP 7383.001 も同日で使用終了社内の模擬査察・査察対応手順を CP 7382.850 の構成に合わせて改訂する
査察時の記録の閲覧§820.180(c) により、内部監査記録・供給者監査報告・管理監督者照査の記録は査察官の閲覧対象外この閲覧除外は QMSR に承継されていない内部監査報告書・供給者監査報告書・マネジメントレビュー議事録が、査察で提示を求められ得る前提で作成する

CP 7382.850 の構成に合わせた自己点検

新しい査察プログラム CP 7382.850 は、六つの QMS 領域と四つの OAFR(Other Areas for Regulatory Focus)で構成される。模擬査察のスコープ設計はこの区分に合わせるのが合理的である。

区分領域主に対応する ISO 13485:2016 の箇条
6つの QMS 領域Change Control(変更管理)4.1.4、4.2.4、7.3.9、7.5.6
Design and Development(設計・開発)7.3.1〜7.3.10
Management Oversight(経営者の監督)箇条5全体(特に5.6 マネジメントレビュー)
Measurement, Analysis and Improvement(測定・分析・改善)箇条8全体
Outsourcing and Purchasing(外部委託・購買)4.1.5、7.4.1〜7.4.3
Production and Service Provision(製造・サービス提供)7.5.1〜7.5.11、7.6
4つの OAFRMDR(不具合報告)8.2.3
Corrections and Removals(回収・是正)8.3.3
Tracking(機器追跡)7.5.9
UDI7.5.8

最も影響が大きいのは「内部監査記録の閲覧除外の消滅」である

旧 §820.180(c) が存在した時代、内部監査報告書は「査察官には見せなくてよい記録」として運用されてきた。そのため、内部監査報告書に率直な問題提起を書き、社内改善のドライバーとして使う運用が成立していた。QMSR にこの除外は承継されていない。

だからといって、内部監査を形骸化させて当たり障りのない報告書に書き換えるのは本末転倒である。とるべき対応は、指摘を書かないことではなく、指摘に対する是正処置が期限内にクローズしている状態を維持することである。8.5.2 是正処置にはタイムフレームの管理が求められており、未クローズの CAPA が積み上がっている状態こそが査察上の弱点になる。

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欧州・MDSAP ― 認証をどう使うか

欧州では、MDR(規則(EU)2017/745、2021年5月26日適用開始)および IVDR(同2017/746、2022年5月26日適用開始)のもとで、製造業者に品質マネジメントシステムの確立が求められる。適合性評価はノーティファイドボディが規則そのものに照らして実施するため、ISO 13485 の認証書があれば MDR 適合が自動的に認められるわけではない。実務上は、ISO 13485 に基づく QMS を土台として、MDR 固有の要求(臨床評価、市販後臨床フォローアップ、PSUR、EUDAMED 登録、PRRC の指名等)を上乗せする構成をとることになる。なお、医療機器分野の欧州整合規格は、Commission Implementing Decision (EU) 2021/1182(2021年7月16日)とその改正によって告示されており、最新の収載状況は欧州委員会が公表する一覧で確認されたい。

MDSAP については、日本は2015年6月に参加し、PMDA は2022年4月1日から調査結果を本格的に受け入れている。監査モデルが ISO 13485 をベースに構成されているため、ISO 13485:2016 に沿って QMS を整備しておくことが、そのまま複数国対応の効率化につながる。

実務で何を作り、何を運用するか

ここからが本稿の中心である。ISO 13485:2016 の要求を、実際の成果物と運用のレベルに落とし込む。以下は、2003年版から2016年版への移行で新たに、あるいは明示的に必要になった項目を中心にまとめたものである。

箇条作るもの(文書・記録)運用でよく落ちる点
4.1.1適用される規制要求事項における自社の役割を特定した文書(仕向地別)製造業者・輸入業者・ディストリビュータの役割が仕向地ごとに違うことを整理していない
4.1.5外部委託先との書面による取決め(品質取決め書)「外注しているので当社の管理外」という説明は成立しない。委託先の評価・再評価記録が欠けている
4.1.6QMS で使用するソフトウェアのバリデーション手順と記録製造設備のソフトウェアしか対象にしていない。文書管理システム、CAPA 管理システム、教育訓練管理システム、表計算による品質データ集計等が漏れている
4.2.3医療機器ファイル(型式または医療機器ファミリごと)本邦の製品標準書と統合できるが、対応関係を文書化していないため二重管理になっている
4.2.5記録管理手順(健康に関する機密情報の保護を含む)返却・修理品のメモリに残る患者データ、苦情調査で取得する患者情報の取扱いが手順に書かれていない
5.6.2マネジメントレビュー議事録(インプット項目を網羅)是正処置と予防処置が分けて記載されていない。新規・改訂された規制要求事項のレビューが入っていない
6.2力量表・力量マップ、教育訓練の有効性評価の記録受講記録はあるが、有効性を評価した記録がない。設計・開発要員の力量が定義されていない
6.4.2汚染管理の手順(滅菌医療機器では微生物・微粒子の管理を含む)クリーンルームを持たない組織で、汚染管理を適用しない根拠が残されていない
7.3.2設計・開発計画書計画書に定めた資源・成果物と、実際の成果物が食い違っている。計画書が着手時のまま更新されていない
7.3.3設計インプット仕様書(使用性、他機器とのインターフェースを含む)使用性がリスクマネジメントと切り離されている。ネットワーク接続機器のセキュリティ要求がインプットに入っていない
7.3.6 / 7.3.7検証計画書・検証報告書、バリデーション計画書・バリデーション報告書「記録書兼報告書」で済ませており、結果(データ)と結論(判定)が分離されていない。サンプルサイズの根拠が示されていない
7.3.8設計移管の手順と記録設計移管と量産移行を同一視している。移管前に製造適性を確認した記録がない
7.3.10設計・開発ファイル(DHF 相当)プロジェクト管理フォルダのままで、設計変更を含む時系列の追跡ができない
7.4.2購買情報・購買仕様書、変更の事前通知を定めた契約条項海外サプライヤとの契約に、材質・工程変更の事前通知義務が明記されていない
7.5.11製品の保存に関する手順(輸送条件を含む)包装・輸送の妥当性を確認した記録がない
8.2.2苦情処理手順(受付・評価・調査要否の判断・記録)調査を行わなかった場合の正当性が記録されていない。サービスレポートが苦情の入口として扱われていない
8.2.3規制当局への報告手順各国の報告期限と判断基準が一本の手順に統合されておらず、仕向地ごとの判断が属人化している
8.3.3引渡し後の不適合製品の処置手順、通知書の発行手順回収手順はあるが、回収に至らない通知書の発行フローが定義されていない
8.4データの分析手順(統計的手法を含む)件数を数えているだけで傾向分析になっていない。マネジメントレビューのインプットが生データの束になっている
8.5.2 / 8.5.3CAPA 手順(タイムフレーム管理を含む)是正処置と予防処置が区分されていない。起票からクローズまでの期限管理がされておらず、長期未クローズ案件が滞留している

よくある誤解を正す

誤解1:「ISO 13485 認証があれば FDA 査察は免除される」

免除されない。FDA は適合証明書を発行せず、認証書の提出も求めない。QMSR が取り込んだのは規格の要求事項であって、第三者認証制度ではない。

誤解2:「QMS省令に対応していれば ISO 13485:2016 対応は完了している」

令和3年改正により整合化されたのは事実だが、完全一致ではない。製品標準書、国内品質業務運営責任者、登録製造所の扱いなど、省令固有の枠組みは ISO 13485 側には存在しない。逆に、ISO 13485 側の要求で省令の条文と一対一に対応しないものもある。両者の対応表を自社で持つことが実務上の解である。

誤解3:「「適切な場合」と書かれた要求はやらなくてよい」

逆である。規格の 0.2 により、組織が他の方法によることの正当性を示せない限り、その要求事項は適用されるとみなされる。適用しないのであれば、その判断の正当化を文書として残す必要がある。

誤解4:「QSR は1997年以来一度も改定されていない」

誤りである。1996年10月7日公布(61 FR 52602)・1997年6月1日施行の QSR は、2024年2月2日公布の最終規則により QMSR へ全面改正され、2026年2月2日に施行された。この記述が残っている社内資料・教育資料は差し替えが必要である。

2026年時点で取るべき対応

  • 規格参照の一斉点検。社内文書を全文検索し、「ISO 13485:2015」(存在しない版)、「ISO 13485:2003」「JIS Q 13485:2005」(旧版)、「QSR」「21 CFR 820.30」(QMSR で改称・削除)の記述を洗い出して差し替える。
  • QMSR 対応のトレーサビリティ表を作り直す。Subpart C〜O が Reserved になったため、条文番号ベースの対応表は使えない。ISO 13485:2016 の箇条番号を軸に張り替える。設計管理は §820.30 ではなく §820.10(c) 経由の箇条7.3 である。
  • 査察対応手順を CP 7382.850 の構成へ更新する。QSIT の4サブシステムを前提とした模擬査察シナリオは、6つの QMS 領域+4つの OAFR の構成に組み替える。
  • 内部監査報告書・供給者監査報告書・マネジメントレビュー議事録を、査察で提示され得る前提で見直す。旧 §820.180(c) の閲覧除外は QMSR に承継されていない。指摘を薄めるのではなく、CAPA を期限内にクローズする運用を確立する。
  • QMS省令の対応は「猶予中」ではなく「全面適用中」である。経過措置は2024年3月25日で終了している。未対応箇所は不適合であるという前提で優先順位を付ける。
  • 4.1.6 のソフトウェアバリデーションの対象範囲を再定義する。製造設備だけでなく、QMS を支えるシステム全般(文書管理、CAPA、教育訓練、品質データ集計)を棚卸しし、リスクに応じた検証の深さを決める。過剰なコンプライアンスコストをかけないことも要求の趣旨に含まれる。
  • 規格原本を正規に入手する。QMSR 施行により、ISO 13485:2016 は米国では法規制の実体そのものである。要約や解説記事だけで対応することはできない。

出典

※本稿は ISO 13485:2016 および JIS Q 13485:2018 の条文を逐語引用していない。箇条番号と要求の趣旨のみを記載している。正確な要求事項は必ず規格原本を参照されたい。

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  1. 2021年 8月 05日

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