ISO 13485の認証取得・遵守は必須か
ISO 13485の認証取得は必須か
筆者はしばしば医療機器のスタートアップ企業などから、ISO 13485の認証取得の支援コンサルテーションを依頼される。
しかしである。日米欧においてはISO 13485の認証取得は必須ではない。
ただし、国によってはISO 13485等の認証取得を医療機器承認申請の条件としている場合があるので、注意が必要である。
医療機器業界には、「ISO 13485の認証を取得しなければ、医療機器は売れない」「ISO 13485認証書は法的な義務である」という根強い思い込みがある。品質保証の担当者でさえ、そう信じている場合が少なくない。
しかし、ISO認証機関が規格への適合を証明して発行する通常の第三者認証書そのものが、すべての市場で一律に要求されているわけではない。ISO自身も、ISO 13485認証は規格上の要求事項ではなく、認証を受けずに規格を実装できると説明している。認証書の取得は、規格が課す義務ではないのである。

各国の規制が実際に求める中核は「準拠」である。日本の場合、QMS省令(厚生労働省令第169号)に適合してQMSを構築・運用していれば良い。QMS省令はISO 13485:2016に整合するよう整備されているが、義務づけているのはQMS省令への適合であって、任意のISO 13485認証書の取得ではない。
米国の場合は21 CFR Part 820に準拠してQMSを構築・運用していれば良い。FDAはISO 13485:2016を引用により取り込んだQMSRを2026年2月2日に発効させたが、これもISO 13485認証書の保有を求めるものではなく、ISO 13485を組み込んだ米国規制要求への適合を求めるものである。
本邦においては、ISO 13485の認証を取得していれば、品目申請時の実地調査が軽減(または免除)されることがあり、ISO 13485の認証を取得するメリットはある。

欧州においてもISO 13485の認証取得は必須ではない。
なぜならば、欧州のCEマーキング制度は自己宣言であるためである。
EN ISO 13485を遵守して医療機器の設計・製造を実施している旨を適合宣言書として自己宣言すれば良いのである。(ただし、多くの医療機器は第三者認証機関の認証が必要である。)
カナダのMDSAP証明書とEU MDRのNB証明書
EUやカナダは、市場アクセスの条件として第三者による証明を求めている。ただし、それらは通常の任意ISO 13485認証書とは別物である点に注意が必要である。
カナダでは、Class II〜IV医療機器のMedical Device Licenceの取得・維持に、有効なMDSAP証明書が求められる。これはISO 13485:2016を基盤とするQMS証明であるが、通常の任意ISO 13485認証書ではなく、Health Canadaが受け入れる規制目的のMDSAP証明書である。
EU MDRでも、Class Iの一部を除く多くの機器で、認証機関(notified body)がMDR(Annex IX)に基づきQMSと技術文書を評価し、EU QMS certificate等を発行する。
これはMDRに基づく適合性評価の結果であって、任意規格の認証とは制度上の根拠と効力が異なる。
「認証は必須」という誤解が広がった理由
「認証は必須」という誤解が広がった理由は三つある。
第一に、ISO 13485への準拠が実質的に必須であるため、準拠と認証が混同されやすいこと。第二に、前述のカナダのMDSAP証明書やEU MDRのNB証明書のような規制目的のQMS証明と、通常の任意ISO 13485認証書との違いが見過ごされ、「ISO認証が要る」という誤解に転化したこと。第三に、取引先やOEM契約が、商取引上の条件として認証取得を求める場面が多いことである。これは規制上の義務ではなく、商業上の要求である。

「準拠」と「認証」を切り分ける
正確な理解はこうである。各国規制が求める中核は、ISO 13485に整合したQMS要求への適合である。通常の任意ISO 13485認証書そのものは、多くの市場で直接の法的要件ではない。
しかし、カナダのMDSAP証明書やEU MDRのNB証明書のように、ISO 13485を基盤とした規制目的のQMS証明が市場アクセス要件となる場合がある。要するに、「準拠」と「認証」を切り分け、さらに「認証」を、通常の任意ISO 13485認証・MDSAP証明書・EU MDRのNB証明書へと切り分けて捉えることが重要である。

そのうえで、通常のISO 13485認証は義務ではなく、市場アクセス、取引先の要求、審査の効率化に照らして取得の要否を判断すべき「手段」だと理解すること。それが、業界に根付いた思い込みを解く鍵となる。
各国における国際規格の取り扱い
本邦においては、ISO/IEC等の国際規格は、JISに取り込まれた後に省令や基本要件基準に採用される。
2021年に改正されたQMS省令は、JIS Q 13485:2018に基づくものである。
米国においてはそもそもISOに対する認証は官民ともに関心が薄い。
ただし、FDAがConsensus Standard(認知規格)としてISO/IECを指定することがある。
しかしながら、FDAはこれまでISO 13485をConsensus Standardとして認めて来なかった歴史がある。
そのFDAが、QSRをISO 13485に整合させ、ISO 13485:2016を引用により取り込んだQMSR(Quality Management System Regulation)として改定した。QMSRは2024年2月2日に公示され、2026年2月2日に発効している。
欧州においては、ISO/IECは、日本におけるJIS規格と同様にEN ISO/IEC(EN規格)に取り込まれる。
ENとはEuropean Normのことである。Normはノルマのことで達成すべき基準のことである。
一般に国際規格は各国で本文や付属資料を改訂することは許されていない。
EN規格には国際規格に関するEU独自の付属書であるAnnex Zsが付随することがある。
Annex Zsには、規格要求事項への適合が、MDR等の規制要求事項への適合となるか否かを明示した情報や、規格要求事項とMDR等の規制要求事項の差分が示される場合もある。
EU MDR遵守の上では、EN規格のAnnex Zsの確認が非常に重要である。
MDR(欧州医療機器規制)における整合規格とは
MDRでは、欧州整合規格(機器が整合規格に準拠して採択した国家規格)またはCommon Specification(CS:共通仕様)に適合しているならば、安全性と性能の要求事項(GSPR)に適合しているとみなされる。
GSPRを満たすことを示す上で、もし適用可能な欧州整合規格またはCSがある場合は、それを使用することがほぼ必須である。
適用可能な欧州整合規格があるかどうかは、欧州整合規格のリストにより、製造業者として調査する必要がある。
2022年1月4日付で新たに9つの規格が欧州整合規格として認定され、EN ISO 13485:2016がMDRの整合規格となった。実にMDR施行後5年経ってからのことである。
なお、欧州MDRの下で認定された整合規格は2022年6月時点で16規格である。
整合規格に準拠するメリット
欧州整合規格への準拠は「Voluntary」とされている。
欧州整合規格に準拠することのベネフィットは「関連する法的要件への適合が推定(presumption)される」ことである。
製造業者は、欧州整合規格以外の規格(整合規格化されていないEUの規格、その他の国際規格等)を自主的に選択することも可能である。
ただし、適用可能な欧州整合規格があるにもかかわらず、他の方法でGSPRへの適合性を証明(法規へのコンプライアンスを証明)する場合は、少なくとも、該当の欧州整合規格の内容を調査した上でそれと同等以上の安全性を保証していることをエビデンスに基づいて説明できることが求められる。
出典
1. ISO「ISO 13485 Medical devices」(国際標準化機構)。ISO 13485認証は規格上の要求事項ではなく、認証を受けずに規格を実装できる旨の説明。
2. FDA “Medical Devices; Quality System Regulation Amendments”(21 CFR Part 820/QMSR、2024年2月2日公示・2026年2月2日発効。ISO 13485:2016を引用取り込み。認証書の保有は要件としない)。
3. 日本/QMS省令(厚生労働省令第169号、ISO 13485:2016整合)。義務は省令適合であり、ISO 13485認証書の取得ではない。
4. カナダ Health Canada:Class II〜IVのMedical Device Licence取得・維持にMDSAP証明書を要求(ISO 13485:2016を基盤とする規制目的のQMS証明)。
5. EU MDR(規則2017/745)Annex IX:認証機関がMDRに基づきQMS・技術文書を評価し、EU QMS certificate等を発行(Class Iの一部を除く多くのクラスで必要)。任意のISO 13485認証とは区別される。
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