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バリデーションと適格性評価 用語の定義

「バリデーション」と「適格性評価(クオリフィケーション)」は、実務でしばしば混用される。さらに厄介なのは、日本のGMP省令・施行通知、PIC/S GMPガイド、ICH Q7/Q8/Q10、FDAのプロセスバリデーション・ガイダンスの間で、同じ英語に別の訳語が当てられ、似た日本語が別の概念を指していることである。本稿は用語の定義と資料間の対応関係に絞って整理する。令和3年改正で実務上何をすべきかは改正GMP省令 バリデーションの要点で扱う。

1.日本の法令上の定義

出発点はGMP省令(平成16年厚生労働省令第179号)第2条第13項である。

この省令で「バリデーション」とは、製造所の構造設備並びに手順、工程その他の製造管理及び品質管理の方法(以下「製造手順等」という。)が期待される結果を与えることを検証し、これを文書とすることをいう。 出典:GMP省令 第2条第13項(e-Gov法令検索・現行版)

注目すべきは二点である。第一に、定義の中核が「検証し、これを文書とする」ことにある。検証しただけでも、文書化しただけでも足りない。第二に、GMP省令には「適格性評価」の定義がない。適格性評価は省令ではなく、令和3年4月28日 薬生監麻発0428第2号の「第4 バリデーション指針」に定義が置かれている。条文だけを読んでDQ/IQ/OQ/PQの根拠を探しても見つからないのはこのためである。

2.validation と qualification はどう違うか

指針は適格性評価を、新たに据え付ける又は変更する設備、装置又はシステムについて適格性を評価し文書とすることと定める。対象が「モノ」に限定されている点が要である。一方バリデーションは、設備だけでなく製造工程、洗浄作業、試験検査の方法まで含む上位概念である。

この関係はICH Q7(Step 4:2000年11月10日)の用語集が明快に述べている。同用語集は適格性評価を、設備や付帯システムが適切に据え付けられ正しく作動し実際に期待される結果に至ることを証明・文書化する行為と定義したうえで、適格性評価はバリデーションの一部であるが、個々の適格性評価の段階だけではプロセスバリデーションを構成しないという趣旨の注記を置く。

表1 バリデーションと適格性評価の対比
観点バリデーション(validation)適格性評価(qualification)
対象構造設備、手順、工程、洗浄作業、試験検査の方法など製造手順等の全般設備、装置又はシステム(モノ)
問いこの方法で、求める品質の製品が恒常的に得られるかこの設備は、意図した用途どおりに据え付けられ作動するか
包含関係適格性評価を包含する上位概念バリデーションの一部。単独ではPVを構成しない
日本での根拠GMP省令第2条第13項に定義、第13条に実施義務省令に定義なし。施行通知のバリデーション指針が定義

3.DQ/IQ/OQ/PQ——三つの資料の対応
四段階の名称は共通だが、定義文には差がある。とくにIQで「利用者要求」に触れるかどうかが分かれる。

表2 適格性評価の各段階(各資料の定義の要旨)
段階日本 バリデーション指針ICH Q7 12.3PIC/S Annex 15 用語集
DQ設計が目的とする用途に適しているかを確認し文書とする提案された設計が意図した目的に適することの文書化された検証同左(施設・システム・設備が対象)
IQ適格性が確認された設計と製造業者等の要求に見合うことを確認し文書とする承認された設計、製造業者の推奨事項、及び/又は利用者要求への適合の検証承認された設計及び製造業者の推奨事項への適合の検証(利用者要求はURSとして別建て)
OQ予期した運転範囲で意図するように作動することを確認し文書とする予期される運転範囲全体で意図どおり作動することの検証同左
PQ良好な再現性を保って効果的に機能することを確認し、製品標準書の製造方法・規格等に従って製品が製造されることを保証する接続された状態で、承認された工程方法と規格に基づき効果的かつ再現性をもって機能することの検証承認された工程方法と製品規格に基づき効果的かつ再現性をもって機能することの検証

各段階の実務上の使い分けはDQ・IQ・OQ・PQとは何か – 適格性評価の本質に詳しい。

4.validation と verification の違い

日本語ではどちらも「検証」と訳されがちだが、両者は時制が違う。バリデーションはこれから作るものが恒常的に要求を満たすことを、事前に一般化して示す。ベリフィケーションは個別の対象が要求を満たしていたことを、実測で示す。この対比はバリデーションとベリフィケーション〜未来形と過去形の違いで扱っているため、ここでは具体例を一つだけ挙げる。

cleaning validation と cleaning verification

PIC/S GMPガイド Annex 15の用語集は、この二つを別項目として定義している。洗浄バリデーションは、承認された洗浄手順が科学的に設定された最大許容キャリーオーバー値未満まで前製品や洗浄剤を再現性をもって除去することの文書化された証拠である。これに対し洗浄ベリフィケーションは、バッチ又はキャンペーンごとに化学分析により残留物が同じ限度値未満であることを示す証拠の収集を指す。前者は手順の一般的妥当性、後者は個別ロットの実測結果であり、どちらか一方で他方を代替できるものではない。

なお日本の法令は、validation の定義の内側に「検証」という語を組み込んでいる。日本語の「検証」が必ずしも verification の訳語ではない点は、英文資料と突き合わせるときに意識しておきたい。

5.資料によって食い違う点

継続的工程確認と日常的工程確認

もっとも混乱を招くのがこの一対である。英語では continuous と continued(又は ongoing)の違いにすぎないが、指す概念は別物である。

表3 紛らわしい二概念の対応関係
概念英語表記日本語典拠
従来型PVの代替として、工程の稼働性能を継続的にモニタし評価する手法continuous process verification継続的工程確認ICH Q8(R2)用語集。PIC/S Annex 15も同定義を引用。日本ではGMP事例集(2022年版)GMP13―50〜54
商業生産の全期間を通じ、工程が管理状態にあり続けることを確認する活動ongoing process verification/continued process verification日常的工程確認PIC/S Annex 15の5.28〜5.32及び用語集。FDAガイダンスのStage 3

PIC/S Annex 15の5.28は、日常的工程確認が従来型・continuous・ハイブリッドの三つのアプローチすべてに適用されると明記している。つまり継続的工程確認を採用したからといって日常的工程確認が不要になるわけではない。日本のGMP事例集GMP13―52も、「製剤開発に関するガイドライン」等に関する質疑応答集(平成22年9月17日 事務連絡)1.1 Q3を引き、工程デザイン・工程の適格性確認・日常的工程確認の各段階を製品ライフサイクルにわたって運用すべきとしている。

遡及的(回顧的)バリデーションの扱い

ICH Q7は12.44で、確立された工程について一定の条件下で遡及的バリデーションを例外的に認め、12.50で10〜30の連続バッチのデータ検討を目安として示している。これに対しPIC/S GMPガイド Annex 15は5.3で遡及的バリデーションはもはや受け入れられるアプローチではないと明言している。日本のバリデーション指針も、プロセスバリデーションとして予測的バリデーションとコンカレントバリデーションの二つしか挙げていない。原薬について古い社内文書が遡及的バリデーションを前提にしている場合は、PIC/S側の要求との齟齬を点検する必要がある。

ロット数の書きぶり

表4 プロセスバリデーションのロット数に関する各資料の記述
資料記述の要旨
日本 バリデーション指針原則として商業生産スケールで製品3ロットを繰り返し製造した結果に基づく、又はそれと同等以上の手法による
GMP事例集(2022年版)GMP13―37は原則3ロット連続適合を求める。GMP13―53は継続的工程確認を導入した工程には3ロットPVを必ずしも求めない
ICH Q712.50で、予測的・コンカレントについては3連続ロットを目安とするが、工程の複雑さに応じ追加も要り得るとする
PIC/S Annex 155.19でロット数は品質リスクマネジメントに基づき各社が正当化すべきとしたうえ、5.20で3連続ロットが一般に許容されるとする
FDA プロセスバリデーション・ガイダンスロット数を特定の数値で示さず、Stage 2の工程適格性確認として位置づける

省令と通知の間の小さな不一致

細かいが実害のある例を一つ挙げる。GMP省令第2条第13項は「期待される結果を与えることを検証し」と書く。ところが令和3年施行通知のバリデーション指針(1)は、同項を参照しつつ「期待される効果を与えることを検証し」と書いている。指針の(2)以降も一貫して「効果」である。社内SOPで定義を引用する際は、どちらの文書を引いているのかを明示するのが安全である。

6.FDAの三段階と日本の用語

FDAの Process Validation: General Principles and Practices(2011年1月。連邦官報告示は2011年1月25日、76 FR 4360、Docket No. FDA-2008-D-0559)は、1987年5月の旧ガイドラインを改訂・置換したものである。同告示は、プロセスバリデーションを Stage 1 Process Design、Stage 2 Process Qualification、Stage 3 Continued Process Verification の三段階で記述すると説明している。

ここで注意したいのは、Stage 2 の「Process Qualification」は、DQ/IQ/OQ/PQ の「Qualification」と同じ語だが同じ範囲ではないという点である。FDAのStage 2は施設の設計と設備・ユーティリティの適格性確認に加え、工程性能適格性確認(PPQ)を含む。日本の指針でいう適格性評価(設備・装置・システムが対象)よりも広い。英文資料を訳出して社内文書に取り込む際、この語だけを「適格性評価」と置換すると範囲がずれる。

是正措置と是正処置:GMP省令は第2条第14項・第15項で「是正措置」「予防措置」を定義し、条文でも一貫して「是正措置」を用いる。令和3年施行通知も同様である。一方、ISO 9001やISO 13485の日本語訳(JIS)では「是正処置」の語が用いられる。省令の要求を述べる箇所は「是正措置」、ISO/JISの箇条を述べる箇所は「是正処置」であり、どちらも誤字ではない。文書全体を一括置換してはならない。

まとめ

適格性評価はバリデーションの一部であり、対象は設備・装置・システムに限られる。DQ/IQ/OQ/PQの名称は共通でも、IQで利用者要求に触れるかなど定義文には差がある。もっとも危険なのは「継続的工程確認」と「日常的工程確認」で、前者はICH Q8のcontinuous process verification、後者はPIC/Sのongoing/FDAのStage 3に対応する別概念である。遡及的バリデーションの可否、ロット数の書きぶり、省令と通知の「結果/効果」の差も含め、引用元を明示する習慣が誤解を防ぐ。

2026年時点で取るべき対応

  1. 用語集を社内に一本化するバリデーション、適格性評価、DQ/IQ/OQ/PQ、継続的工程確認、日常的工程確認について、定義とその出典(省令か、指針か、ICHか、PIC/Sか)を併記した用語集を作り、SOP間で参照させる。
  2. 「継続的」と「日常的」を書き分ける両者を混用している文書を洗い出す。継続的工程確認はQbDに基づく管理戦略が前提であり、日常的工程確認はどのアプローチでも必要である。
  3. 定義の引用元を明記する省令の「期待される結果」と指針の「期待される効果」のように、参照先で文言が異なる場合がある。引用文の直後に条項番号と文書名を添える。
  4. 遡及的バリデーションの残存を点検する原薬側の古い手順書がICH Q7の遡及的バリデーションを前提にしていないか。PIC/S Annex 15は明確に否定している。
  5. 英文からの訳出ルールを決めるProcess Qualification をそのまま「適格性評価」と訳すと範囲がずれる。訳語対照表を作り、翻訳者と査読者が同じ表を使う。
  6. 是正措置/是正処置の一括置換を禁じる文書管理手順に、文脈依存の用語について機械的置換を行わない旨を明記する。

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