CEマーキングとは
CE マーキングは「認証マーク」でも「品質のお墨付き」でもない。製造業者が、当該製品に適用される EU 法の要求事項に適合していることを自らの責任で宣言し、その証として貼付する標章である。医療機器の場合、その根拠法は EU 医療機器規則 MDR(Regulation (EU) 2017/745)であり、2021年5月26日から適用されている。本稿では、クラス分類と Notified Body の関与、技術文書と EU 適合宣言、UDI、EU 代理人と PRRC、EUDAMED、そして MDD からの移行がどこまで進んだかを、条文に沿って整理する。
CE マーキングの法的な位置づけ
MDR 第20条は、カスタムメイド機器及び治験機器を除き、本規則の要求事項に適合すると認められる機器は附属書 V に示す CE マーキングを付さなければならないと定める。貼付は上市前に行い、Notified Body が適合性評価に関与した場合は、その識別番号を CE マーキングに続けて表示する。識別番号は、CE 適合を謳う販促資料にも表示しなければならない。
ここで注意すべきは、CE マーキングが「誰かに与えられるもの」ではなく「製造業者が自ら付すもの」だという点である。Notified Body は適合性評価の一部を担い証明書を発行するが、CE マーキングそのものを発行するわけではない。なぜ医療機器に CE マーキングが要求されるのかという制度趣旨については なぜ医療機器には「CEマーキング」が必要なのか を参照されたい。
MDR は「規則(Regulation)」である
旧 MDD(93/42/EEC)や AIMDD(90/385/EEC)は「指令(Directive)」であり、各加盟国が国内法へ置き換えて運用していた。MDR は「規則」であるため、加盟国の国内法化を待たずに全加盟国で直接適用される。加盟国ごとの解釈差が原理的に生じにくくなった一方、経過措置や解釈の運用は MDCG(Medical Device Coordination Group)文書に委ねられている部分が大きい。
クラス分類と Notified Body の関与
MDR 第51条は、機器を使用目的と内在するリスクに応じてクラス I・IIa・IIb・III に区分し、分類は附属書 VIII に従って行うと定める。附属書 VIII は規則1から規則22までの分類規則を置いており、複数の規則が該当する場合は最も厳しい分類が適用される。分類が決まれば、第52条により適合性評価の経路が決まる。
| クラス | 適合性評価の主な経路 | Notified Body の関与 |
|---|---|---|
| I(下記以外) | 附属書 II・III の技術文書を作成し、EU 適合宣言を発行する | なし |
| I(滅菌状態で上市/計測機能を有する/再使用可能な外科用器具) | 附属書 IX 第I章・第III章、又は附属書 XI Part A | あり。ただし滅菌状態の確立・維持、計量要求への適合、再使用に係る事項に限定される |
| IIa | 附属書 IX 第I章・第III章(機器カテゴリごとに代表機器1品目以上の技術文書評価を含む)、又は附属書 II・III の技術文書と附属書 XI 第10節若しくは第18節の組合せ | あり |
| IIb | 附属書 IX 第I章・第III章(一般機器グループごとに代表機器1品目以上の技術文書評価を含む)、又は附属書 X と附属書 XI の組合せ | あり |
| III | 附属書 IX、又は附属書 X と附属書 XI の組合せ | あり |
クラス IIb のうち植込み型機器については、縫合糸、ステープル、歯科充填材、歯科矯正装置、歯冠、ねじ、くさび、プレート、ワイヤ、ピン、クリップ及びコネクタを除き、代表品ではなく全品目について技術文書評価が行われる(第52条(4)第2段)。クラス IIb を一括りに考えると工数見積りを誤る。
技術文書と EU 適合宣言
技術文書の要求事項は附属書 II(技術文書)と附属書 III(市販後調査に関する技術文書)に分かれている。附属書 III が独立している点は MDD と大きく異なり、市販後調査計画、PSUR、市販後臨床フォローアップ(PMCF)の計画と評価報告が技術文書の一部として明示的に位置づけられた。
EU 適合宣言(EU declaration of conformity)は第19条に基づく文書で、最低限の記載事項は附属書 IV に定められている。製造業者は適合宣言を継続的に更新する義務を負い、機器が上市される加盟国が要求する公用語へ翻訳しなければならない。第19条(3)は、適合宣言を作成することにより製造業者が本規則及び当該機器に適用される他の EU 法の遵守について責任を引き受ける旨を明記している。
整合規格(harmonised standards)への適合は、対応する要求事項への適合性の推定を与える。2026年8月時点で EN ISO 14971:2019+A11:2021(リスクマネジメント)や EN ISO 10993-1:2025(生物学的評価)は MDR 整合規格として収載されている一方、EN IEC 62366-1 は未収載である。整合規格に収載されていない規格を用いること自体は妨げられないが、その場合は適合性の推定が働かないため、要求事項との紐付けを自ら論証する必要がある。EN 規格の位置づけは EN規格(European Norm)とは を参照されたい。
EU 代理人(Authorised Representative)と PRRC
製造業者が EU 域内に所在しない場合、第11条(1)により唯一の EU 代理人を指名しなければ機器を EU 市場に上市できない。指名は委任状(mandate)となり、EU 代理人が書面で受諾して初めて有効となる。委任には、技術文書と EU 適合宣言の写しの保管、第31条に基づく登録義務の履行、当局への情報提供、是正措置への協力などが最低限含まれる(第11条(3))。
実務上見落とされやすいのが第11条(5)である。製造業者が EU 域内に所在せず第10条の義務を履行していない場合、EU 代理人は欠陥製品について製造業者と連帯して法的責任を負う。EU 代理人の選定は、事務代行の外注ではなく責任の共有先の選定である。
もう一つが第15条の PRRC(person responsible for regulatory compliance、規制遵守責任者)である。製造業者は、医療機器分野に必要な専門知識を有する PRRC を組織内に少なくとも1名有していなければならない。要求される資格は、法学・医学・薬学・工学その他関連科学分野の学位等に加え規制業務又は QMS の実務経験1年以上、又は同分野の実務経験4年以上のいずれかである。
PRRC の緩和は「かつ」と「又は」を取り違えると誤る
第15条(2)は、Commission Recommendation 2003/361/EC にいう零細企業(micro)及び小企業(small)については、PRRC を組織内に置くことを要さず、常時利用できる状態(permanently and continuously at their disposal)にすれば足りると定める。同勧告の小企業は「従業員50人未満で、かつ年間売上高又は年間貸借対照表合計が1,000万ユーロ以下」である。したがってこの緩和を受けられないのは「従業員50人以上、又は売上高と貸借対照表合計のいずれもが1,000万ユーロ超」の場合である。ここを「及び」で結ぶと該当判定を誤る。
なお EU 代理人の側も、第15条(6)により PRRC を常時利用できる状態に置く義務を負う。製造業者側の PRRC と EU 代理人側の PRRC は別個の要求である。
UDI
第27条は、カスタムメイド機器及び治験機器を除くすべての機器に UDI システムを適用する。UDI は、製造業者と機器に固有の UDI-DI(機器識別子)と、製造単位を識別する UDI-PI(製造識別子)から構成され、ラベル又は包装への表示、経済事業者等による保管、第28条の UDI データベースへの登録が求められる。MDR ではさらに、機器モデルの上位概念を束ねる Basic UDI-DI が導入され、技術文書や EU 適合宣言、証明書の紐付けの鍵となっている。
| 機器区分 | ラベル・包装への表示 | 再使用機器の本体直接表示 |
|---|---|---|
| 植込み型機器・クラス III | 2021年5月26日 | 2023年5月26日 |
| クラス IIa・クラス IIb | 2023年5月26日 | 2025年5月26日 |
| クラス I | 2025年5月26日 | 2027年5月26日 |
UDI の構造や日米の制度差については UDI(機器固有識別子)とは何か に詳しいので、本稿では深入りしない。
EUDAMED の段階的義務化
EUDAMED(欧州医療機器データベース)は第33条(2)により7つの電子システムから構成される。当初は全体が一括で稼働することを前提としていたが、Regulation (EU) 2024/1860 により、モジュールごとに機能が確認された時点から段階的に義務化する方式へ改められた。具体的には、欧州委員会が第34条(3)の告示を行った日から6か月後に、当該電子システムに関する義務が適用される(第123条(3)(d))。
欧州委員会は2025年11月26日付の Commission Decision (EU) 2025/2371(官報公示2025年11月27日)で、経済事業者登録(Actor)、UDI/機器登録、Notified Body 及び証明書、市場監視の4モジュールが機能要件を満たしたことを告示した。これにより2026年5月28日から最初の4モジュールの利用が義務となっている。さらに第123条(3)(e)(ea)により、機器登録は告示から12か月以内、Notified Body による証明書情報の入力は18か月以内という期限が置かれている。
「EUDAMED は任意」という前提は既に失効している
2026年8月時点で、最初の4モジュールの利用義務は既に発効済みである。Actor 登録を行っていない、あるいは SRN(Single Registration Number)を取得していない状態は、そのまま義務違反となり得る。登録手続の実際は EUDAMEDの登録方法は?関連情報まとめ を参照されたい。
MDD からの移行はどこまで来たか
MDR は2021年5月26日から適用され、MDD 及び AIMDD は廃止された。ただし Notified Body の能力不足による供給途絶を避けるため、Regulation (EU) 2023/607 が第120条を改正し、旧指令の証明書に基づくレガシー機器の上市期限を延長した。延長は無条件ではなく、第120条(3c)の条件を満たすことが前提である。
| 対象 | 期限 |
|---|---|
| クラス III、及びクラス IIb 植込み型機器(縫合糸・ステープル・歯科充填材・歯冠・ねじ・プレート等の列挙品目を除く) | 2027年12月31日 |
| 上記以外のクラス IIb、クラス IIa、並びに滅菌状態で上市する又は計測機能を有するクラス I | 2028年12月31日 |
| MDD では Notified Body の関与が不要だったが MDR では必要となる機器(2021年5月26日より前に適合宣言を作成したもの) | 2028年12月31日 |
条件として、当該機器が引き続き旧指令に適合していること、設計及び使用目的に重大な変更がないこと、2024年5月26日までに第10条(9)に適合する QMS を整備していること、同日までに Notified Body へ正式申請を行い、2024年9月26日までに Notified Body と書面合意を締結していることが求められる(第120条(3c))。これらの期日は既に経過しており、条件を満たさなかった機器には延長は及ばない。また第120条(3d)により、市販後調査・市場監視・ビジランス・経済事業者及び機器の登録については、レガシー機器であっても MDR の規定が適用される。
IVDR も同じ構造で動いている
体外診断用医療機器は IVDR(Regulation (EU) 2017/746)が規律し、2022年5月26日から適用されている。IVDR も第110条で移行措置を置き、Regulation (EU) 2024/1860 による改正を経て、旧 IVDD の下で Notified Body の関与が不要だった機器の上市期限をクラス D は2027年12月31日、クラス C は2028年12月31日、クラス B 及び滅菌状態で上市するクラス A は2029年12月31日としている。分類の考え方も適合性評価の経路も MDR とは異なるため、MDR の知識をそのまま流用してはならない。
2026年時点で取るべき対応
- EUDAMED の登録状況を確認する最初の4モジュールは2026年5月28日から義務化されている。Actor 登録と SRN の有無、機器登録の進捗を棚卸しし、告示から12か月・18か月の期限に間に合う計画へ落とし込む。
- レガシー機器の残存期限を品目ごとに確定する2027年12月31日と2028年12月31日のいずれに当たるかを分類ごとに整理し、2024年5月26日・9月26日の条件を満たしているかを証拠付きで確認する。満たしていない品目は延長の対象外である。
- クラス IIb 植込み型の技術文書評価を全品目前提で見積もる除外列挙品目に該当しない限り、代表品評価では済まない。Notified Body の枠取りは早いほどよい。
- PRRC の該当判定をやり直す零細・小企業の緩和は「従業員50人未満かつ売上高又は貸借対照表合計が1,000万ユーロ以下」である。事業拡大により緩和を外れていないかを確認し、外れているなら組織内に PRRC を置く。
- EU 代理人の委任状を第11条(3)の項目に照らして点検する連帯責任(第11条(5))を前提に、情報提供・苦情連絡・委任解除の条件までが書面化されているかを確認する。
- 整合規格リストと自社の適合根拠を突き合わせる整合規格に収載されていない規格に依拠している箇所は、要求事項との紐付けを技術文書上で自ら論証する。
- 附属書 III の市販後調査文書を技術文書に組み込むPMS 計画、PSUR、PMCF 計画・評価報告が技術文書の一部として維持されているかを確認する。
まとめ
CE マーキングは製造業者の自己宣言の標章であり、その裏付けとなるのが MDR の適合性評価である。クラス分類が Notified Body の関与範囲を決め、技術文書と EU 適合宣言がその成果物となり、UDI と EUDAMED が上市後の追跡可能性を支える。2026年は、EUDAMED 最初の4モジュールの義務化(5月28日)が始まり、レガシー機器の最終期限(2027年12月31日/2028年12月31日)が視野に入る年である。「MDR 対応はまだ猶予がある」という前提の計画は、既に条件面でも日程面でも成り立たない。
出典
- Regulation (EU) 2017/745(MDR)EUR-Lex/統合版(2024年7月9日時点)EUR-Lex
- Regulation (EU) 2017/746(IVDR)EUR-Lex/統合版(2024年7月9日時点)EUR-Lex
- Regulation (EU) 2023/607(レガシー機器の移行期限の延長)EUR-Lex
- Regulation (EU) 2024/1860(EUDAMED の段階的ロールアウト等)EUR-Lex
- Commission Decision (EU) 2025/2371(2025年11月26日。EUDAMED 4モジュールの機能確認告示、官報公示2025年11月27日)EUR-Lex
- 欧州委員会 保健総局「The EUDAMED four first modules will be mandatory to use as from 28 May 2026」health.ec.europa.eu
- 欧州委員会 EUDAMED 概要ページhealth.ec.europa.eu
- Commission Recommendation 2003/361/EC(零細・小・中企業の定義)EUR-Lex
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