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Mythosは誰の味方か ー 査察側もAIを使う時代が来るか

筆者がClaude Mythosの事例に強く惹かれるのは、それがAIの「立ち位置」を逆転させうるからである。おさらいしよう。Anthropic社が2026年4月7日に公表したMythos Previewは、危険すぎるとして一般公開されず、防御目的に限定された。

報じられているところでは、このモデルは、セキュアとされてきたOpenBSDに1998年から27年近く潜み続けたTCP SACK実装の脆弱性を暴き、FFmpegでは自動テストが当該箇所に500万回以上到達しても検出できなかった16年もののH.264脆弱性を見つけ出した。これらはベンダー発表に基づく二次報道だが、人間の数十年の監査も自動テストの膨大な反復もすり抜けた穴だという構図は重い。AIは既存システムの欠陥を「暴く側」にも立つ、ということだ。

長年正しく動いてきたシステムが、AIによって未知の欠陥を暴かれる。これがCSVに突きつける問いは重い。筆者たちは規制要件に従ってCSVを実施し、バリデーション報告書で適格性を認め、運用フェーズに入ってきた。

だが、ここで一点を取り違えてはならない。適格性とは、意図する用途に対する妥当性の証明であって、欠陥が存在しないことの証明ではない。長年無事に動いてきたという稼働実績も、欠陥の不在を保証しない。「動いているから問題ない」という過信は、そろそろ改めるべき時に来ている。

そのうえで、筆者が見据えておきたい構図がある。これまで、システムの欠陥を探す側(被監査側)と、それを突く側(監査・査察側)とでは、利用できる時間と情報に差があった。被監査側は内部を熟知し、査察側は限られた時間の中で要点を突く。

ところが、査察・監査側もAI解析を手にすれば、この差は崩れる。被監査側がAIで文書を整えるなら、監査側もAIで矛盾を突く。検証能力の天秤が、揺れ動くのである。

誤解のないように言えば、査察は適合性を確かめる営みであって敵対行為ではない。被監査側がAIで文書を整えはじめている、という変化は確かに起きつつある。一方、査察側がそれに応じてAIを使うかは、現時点では筆者の予測の域を出ない。

ここははっきり申し上げておくが「査察官自身がAI解析を用いる」というのは、確立した規制動向ではなく、筆者の予測である。だが、人間の目にも自動テストにも限界がある以上、医療機器ソフトウェア(SaMD)やソフトウェアを組み込んだ医療機器(SiMD)の脆弱性診断にAIを用いたか否かが、いずれ審査の観点に入ってくる可能性は十分にあると筆者は見ている。そうなれば、私たちのテスト戦略も再設計を迫られる。

境界値分析や同値分割といった従来のテストケース設計は、AIが論理構造そのものから人間の想定しなかった境界条件を導き出す時代を前提にしていない。先のFFmpegの欠陥は、現実の動画ではありえない数万のスライスを持つ細工データが引き金だったと報じられている。ランダムな入力を生成するだけの自動テストでは、こうした条件を偶然引き当てるのはほぼ不可能だ。

届かせるのは、コードの論理そのものを理解して仮説を立てる解析であって、列挙ではない。GAMP 5に基づくCSV/CSAのテスト戦略も、テスト回数を増やす発想から、テストアプローチそのものを問い直す発想へ転換すべき局面にある。構造的な盲点こそが問題だからだ。

あわせて、ベンダー監査の設計も見直しが要る。「ベンダーが動作確認しました」という稼働実績の提示が、AI時代の検証に耐えるとは限らない。SOUP/OTS等の既製ソフトウェア部品を組み込んだ医療機器なら、その部品に何十年も潜む欠陥が、ある日AIに暴かれないとは言い切れない。ベンダーの保証を鵜呑みにする監査から、AI解析の可能性を織り込んだ監査へと、問いの立て方を改めねばならない。

Mythosは誰の味方か。それは、先にAIを使いこなした側の味方である。AIとハサミは使いようーーその言葉は、攻める側にも、守る側にも、そして将来は査察する側にも、等しく当てはまるだろう。

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