QA最大の権限は「出荷停止」
営業から独立していなければならない理由
「このロットを出荷しないと、今期は赤字になる」。そんな声が社内に響く中で、品質に疑問があるからと出荷を止められる部門が、あなたの会社にあるだろうか。製薬企業では、その役割を法令で担わされているのが品質保証部門である。本稿では、QA(Quality Assurance:品質保証)の最大の権限である出荷判定と、それを支える「独立」の意味を解説する。
品質保証部門の最終判断は「出荷してよいか」
筆者は研修で「QAの最大の権限は出荷判定である」と話している。裏返せば、品質に問題があれば出荷を止める、つまり出荷停止の権限である。医薬品の場合、出荷の判定には二つの段階がある。
- 一つ目は、製品を製造所から出荷してよいかの判定である。医薬品の製造所には、GMP省令(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令)が適用される。その第12条は、製造業者に次のことを求めている。品質保証を担当する組織に、製造や試験が適切に行われたかをロットごとに評価させ、出荷の可否を決定させることである。そして、その決定が適正に行われるまで出荷してはならないとしている。
- 二つ目は、製品を市場に出してよいか、つまり医療機関や薬局などへ流通させてよいかの判定である。これを定めているのが、GQP省令(医薬品、医薬部外品、化粧品及び再生医療等製品の品質管理の基準に関する省令)である。第9条は、製造販売業者(製品を市場に出す責任を負う事業者)に義務を課している。品質保証部門があらかじめ指定した者などに、ロットごとに市場への出荷の可否を決定させることである。
なお、GQP省令の正式名称のとおり、その対象に医療機器は含まれない。医療機器には、QMS省令(医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令)が適用される。その第72条は、国内品質業務運営責任者にロットごとの市場への出荷の決定を行わせると定めている。
法令が求める「販売部門からの独立」
これほど重い判断を、誰の影響も受けずに下せるようにするため、法令は品質保証部門の独立を求めている。GQP省令第4条は、品質保証部門が「医薬品等又は医療機器の販売に係る部門」その他、品質管理業務の適正な遂行に影響を及ぼす部門から独立していることを求めている。品質保証の責任者についても、販売部門に属する者でないことを要件としている。
医療機器のQMS省令第72条も、国内品質業務運営責任者が医療機器等の販売に係る部門に属する者でないことを求めている。また、GMP省令第4条は、製造所の品質部門が製造部門から独立していることを求めている。なぜ販売部門からの独立なのか。
営業部門には、営業部門の正当な事情がある。「出荷しなければ利益が出ない」「欠品すれば取引先に迷惑がかかる」。こうした声は、会社にとって決して軽くない。
しかし、その事情に引きずられて品質の判断が曲がれば、被害を受けるのは患者である。出荷判定は、品質だけを見て行わなければならない。出荷しなければ大きな損失が出る場面でも、それでも出荷を止められる。
その権限を与えられているのが品質保証部門なのである。GMP省令第12条は、出荷の可否を決める者が業務に支障なく当たれるようにすることも、製造業者に求めている。これも、この考え方の表れと言える。
経営者に押さえつけられた品質保証は機能しない
仕組みの上で品質保証部門を置いていても、経営の意向に逆らえなければ、出荷停止の権限は形だけになる。そのことを示したのが、近年の二つの事件である。
一つは、一般財団法人化学及血清療法研究所(化血研)の事件である。2015年12月、第三者委員会の報告書が公表された。血液製剤などを国の承認と異なる方法で製造し、記録を偽装して隠していたことが明らかになった。
一部は約40年前から続いていたとされる。報道によれば、報告書は歴代の経営陣が不正を認識しながら放置していたと指摘した。厚生労働省は2016年1月、110日間の業務停止命令を出した。
もう一つは、小林化工の事件である。2020年12月、経口の抗真菌薬に睡眠導入剤の成分が混入していたことが判明し、死亡例を含む健康被害が生じた。福井県は2021年2月、同社に116日間の業務停止命令を出した。
県は、承認と異なる製造、二重帳簿の作成、品質試験結果のねつ造などを確認した。2021年4月に公表された特別調査委員会の報告書では、経営陣が承認書と製造実態の食い違いを把握しながら是正を先送りしていたことが指摘された。従業員からは、上位者の指示は絶対で、下から問題提起できない社風だったという証言が出たと報じられている。

筆者は、どちらの事件でも、品質を守る側が経営の圧力に抗えなかったことが根本にあると考えている。品質保証部門が機能するかどうかは、組織図ではなく、経営者がその判断を尊重するかどうかにかかっている。
査察の場で「後ろから指示する」QAではいけない
品質保証部門の責任は、出荷判定だけではない。製薬企業には、規制当局の査察がある。日本ではPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)や都道府県、米国ではFDA(米国食品医薬品局)が査察を行う。
EUでは加盟国の規制当局が査察を行い、EMA(欧州医薬品庁)がそれを調整している。筆者が見てきた中で好ましくないのは、査察の場で品質保証部門が実施部門の後ろに控え「ちゃんと説明してね」と促す姿である。品質保証部門は、実施部門に成り代わってお墨付きを与えた立場である。したがって、規制当局に対して説明責任を負うのは品質保証部門自身である。

そのためには、実施部門とどのような協議をし、何を確認して合意したのかを記録に残しておく必要がある。記録があれば、品質保証部門が自らの言葉で説明できる。出荷を止める判断に説得力を持たせるのも、この日頃の関与と記録である。
独立とは「対立」ではない
誤解のないように付け加えると、独立とは、営業部門や製造部門と対立することではない。品質保証部門は、苦情や市場の情報を得るために営業部門の協力を必要とする。製造部門とも、日頃から密に連携しなければならない。
目指すべきは、出荷停止を振りかざすことではなく、止めずに済むように早い段階からプロセスに関与することである。そして、いざ止めるべきときには、誰にも遠慮せずに止める。経営者の役割は、その判断を支持し、必要な人員や設備を与えることである。
製薬企業に機器を納める企業も、この考え方と無縁ではない。出荷前の最終判定が、営業の納期の都合で左右されない仕組みになっているか。筆者の経験では、製薬企業の監査で、そうした点に関心が向けられることがある。
まとめ
- QAの最大の権限は出荷判定であり、品質に疑問があれば出荷を止めることである
- 医薬品ではGQP省令が品質保証部門の販売部門からの独立を求め、医療機器ではQMS省令が国内品質業務運営責任者に同様の要件を課している
- 経営の意向に逆らえない品質保証は機能しない。化血研や小林化工の事件がそれを示している
出荷を止める権限は、使わずに済むのが一番である。しかし、使うべきときに使えない権限は、権限とは呼べない。自社の品質保証部門は、本当に止められる部門になっているだろうか。
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