リスクとは? ハザード・危害・確率
「リスクが高い部品」「ハザードを潰す」「危害を評価する」ーー会議では、これらの言葉がほぼ同じ意味で飛び交う。だが、リスク・ハザード・危害は、厳密には別の概念である。この三つを区別できないと、リスクマネジメントの議論はいつまでも噛み合わない。
ハザード(危険源)とは、危害を引き起こす「潜在的な源」である。電気エネルギー、鋭利な刃、高温、放射線ーーそれ自体は、まだ誰も傷つけていない。危害(harm)とは、人の健康に対する傷害・損傷、あるいは財産や環境への損害そのものだ。
電撃による熱傷、切創、放射線被曝による組織障害などが該当する。そして両者の間には「予見可能な一連の事象」と「危険状態」がある。危険状態とは、人・財産・環境が一つ以上のハザードにさらされている状況をいう。
たとえば、電気エネルギーというハザードから、絶縁劣化による通電部の露出などの事象を経て、人が通電部に接触し、電気エネルギーにさらされる危険状態が生じる。その結果、電流値、通電時間、電流経路などの条件によって、熱傷や心室細動といった危害に至る可能性がある。ハザードが存在するだけで直ちに危害が生じるわけではない。ハザード → 予見可能な一連の事象 → 危険状態 → 危害という経路を明らかにすることが、リスク分析の基本となる。

では、リスクとは何か。リスクとは、危害の発生確率と、その危害の重大性との「組合せ」である。「どれだけ起きやすいか」と「起きた場合にどれだけ深刻か」ーーこの二軸で捉える。
重大だが滅多に起きないもの、軽微だが頻発するもの、両者をあらかじめ定めたリスク受容基準に照らして評価するための枠組みが、リスクなのである。組織によっては確率と重大性に数値を割り当て、その積でリスク水準を表す場合もある。ただし、リスクが常に数学的な掛け算で定義されるわけではない。
重大性区分や確率区分はしばしば順序尺度であり、区分値を単純に掛ければよいとは限らない。したがって、重大性または発生確率の一方だけを見て、リスクの受容可能性を判断することはできない。両者を組み合わせ、あらかじめ定めた基準に照らして評価する必要がある。

たとえば、絶縁劣化によって通電部が露出しても、人が接触しなければ、電気エネルギーにさらされる危険状態には至らない。
FMEAだけでは足りない理由
ここで注意したいのが、リスク分析をFMEA(故障モード影響解析)だけで済ませてはならない、という点だ。FMEAは、構成要素・機能・工程などの故障モードを起点として、その原因と影響を分析する有用な手法である。
しかし、危険状態は、何も壊れていなくても生じ得る。電気手術器は意図どおりに作動していても、使用条件、電極の配置、使用環境、合理的に予見可能な誤使用によって、患者や使用者に熱傷を起こしうる。故障を出発点にするFMEAだけでは、こうした「壊れていないのに生じる危害」や使用関連の事象を十分に抽出できないことがある。
だから設計リスク分析は、FMEAを唯一の手法とせず、ハザード・予見可能な一連の事象・危険状態・危害の関係そのものを起点に据える発想(ハザードベース)で補う必要がある。現に、ソフトウェアの異常動作や、合理的に予見可能な誤使用による事故には、物理的な部品故障を伴わずに危害へ至るものもある。壊れていない状態から危害へ至る経路を見つけるには、故障の裏側だけでなく、ハザードの側からも光を当てることが有効なのである。
もう少し踏み込むと、危害の発生確率は、概念的には二段階に分けて考えられる。
- 一つは、一連の事象を経て危険状態が生じる確率。
- もう一つは、その危険状態が生じたという条件の下で、特定の危害に至る確率である(概念的には P(危害) = P(危険状態) × P(危害|危険状態))。

対策の打ち方には、優先順位がある。まず設計および製造における本質的安全によってリスクを低減し、次に機器自体または製造工程に防護手段を実装する。その上で、安全に関する情報を提供し、必要に応じて使用者を教育するーーこの優先順位で検討するのが原則だ。ハザードそのものを除去できない場合でも、危険状態が生じる可能性を下げる、人がハザードにさらされる可能性を下げる、危害の重大性を低減する、といった選択肢がある。

実務では、この連鎖を逆にたどる訓練が効く。想定される危害から「なぜ」を遡り、どのような危険状態を経て、どのハザードに行き着くのか。連鎖の各段階を確認すれば、リスクコントロールを適用できる箇所が見えてくる。
一つの対策だけで十分に低減できないなら、複数の段階に対策を組合せればよい。リスク分析で捉えるべきなのは、孤立した故障や危害ではなく、ハザードから危険状態を経て危害に至る複数の経路である。そして、それぞれの危害について発生確率と重大性の組合せを評価したものーーそれがリスクなのである。
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