なぜ法律は変わったのかーー二つの事件が照らした弱点
法律が大きく変わるとき、その背後には、変わらざるを得なかった現実がある。2025年5月21日に公布された改正薬機法(令和7年法律第37号)は、不正事案の発生に伴う医薬品供給不足、創薬環境の変化、医薬品等の品質・安全性確保の強化といった複数の課題を背景としている。その中でも、小林化工および日医工の事案は、承認書遵守、GMP運用、経営ガバナンスの弱点を社会に強く印象づけた事案であった。

一つは、2020年12月に発覚した小林化工の事件である。同社が製造した抗真菌剤「イトラコナゾール錠50『MEEK』」に、睡眠導入剤の成分が誤って混入していた。全国39都道府県の237施設に納入され、ふらつき、意識消失、自動車事故など215症例の健康被害が報告された。
死亡例も2例報告されているが、その因果関係は公的資料上「調査中」とされている。問題の本質は、単なる混入ミスではなかった。承認書では有効成分を1回で投入すると定められていたにもかかわらず、実際には「裏手順書」に基づき2回に分けて投入する違反が長年常態化していた。
本来二人体制で行うべき相互確認は形骸化し、離席していた者が「確認済み」のサインを記入していた。出荷前検査で異常データが出ても、上司が「問題なし」と判定して再検査せずに合格としていた。組織的なGMP違反であった。
もう一つは、2021年3月に業務停止命令を受けた日医工の事件である。こちらは試験結果の改ざんが中心であった。規格不適合の試験結果が出ると適切な対応をせず製品を作り直し、手順書と異なる方法で試験を実施して虚偽の記録を作成していた。
承認書に記載のない添加剤の使用や、承認外の再造粒工程も、行政処分の理由とされている。同社の供給停止は先発品にまで波及し、医薬品不足を長期化させた。そして、これらは二社だけの問題にとどまらなかった。行政資料によれば、その後も複数の企業で「承認書と異なる製造方法」の常態化が判明し、単一企業の問題ではなく、業界の構造的な問題として認識されるに至った。
これらの事案が浮き彫りにしたのは、従来の品質保証体制が抱える弱点であった。責任者の権限が不明確で、経営陣の関与は薄く、監視体制の実効性も乏しかった。GQP・GVP省令レベルの管理では、組織的な不正を防ぎきれなかったのである。
改正薬機法は、この反省を踏まえ、品質保証の要求を省令レベルから法律レベルへと引き上げる方向へ舵を切った。それは、企業の経営陣の責任を制度上明確化する、大きな転換点であったといえる。次回から、その具体的な中身を見ていく。
出典1. 厚生労働省「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」概要資料(厚生労働省、令和7年法律第37号、2025年5月21日公布)。改正趣旨は不正事案・供給不足・創薬環境の変化等を含む。2. 小林化工・日医工の事案に関する行政資料(厚生労働省 品質確保関連資料、富山県による日医工に対する行政処分のまとめ等)
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