各国規制当局マップ
「どこか一つの大きな国で承認を取れば、他の国もそれに追随して通るはずだ」ーーグローバル展開を初めて手がける企業が、しばしば抱く幻想である。残念ながら、そんな世界共通の承認は存在しない。医療機器の規制は、国ごとに当局があり、それぞれの物差しで独立に判断する。
まずは主要な当局の顔ぶれを、地図として頭に入れておきたい。米国はFDA(食品医薬品局)、その中のCDRH(医療機器・放射線保健センター)が医療機器を所管する。欧州は少し特殊で、単一の承認当局がない。
EU共通の規則(MDR)のもとで、実際の適合性評価を、加盟国が指定したNotified Body(ノーティファイドボディ)が担う。日本はクラス分類によって経路が分かれ、届出、登録認証機関による認証、PMDA(医薬品医療機器総合機構)の審査を経た厚生労働大臣の承認がある。急速に存在感を増す中国は、NMPA(国家薬品監督管理局)が所管する。
この四極が、世界市場のおおよその骨格をなしている。同じ「医療機器規制」でも、制度の建て付けは驚くほど違う。米国は当局が直接審査するが、欧州は民間のNotified Bodyに検証を委ねる。
日本は入口の審査が重く、中国は国内代理人の選任や、独自の登録・試験要件への対応を求める。名前だけ覚えても実務は動かない。それぞれの国で「誰が」「どこで」「何を基準に」判断するかまで掴んで、はじめて地図は使えるものになる。

地図を眺めるとき、単に当局の名前を覚えるのではなく、規制の思想の違いまで読み取りたい。日本のPMDAは、市場に出す前の審査をじっくり行う入口管理の色が濃い。対して米国のFDAは、510(k)など比較的速い経路を持ちつつ、市販後の査察や警告レター、リコールへの関与で締める出口管理の色が濃い。
同じ「規制が厳しい」でも、厳しさが効いてくる場所が違うのだ。どの国のどの局面に力点があるかを掴めば、各国でどこに資源を割くべきかが見えてくる。当局マップとは、名前の一覧ではなく、力点の分布図なのである。
近年は、国際的に規制を揃えようという動きも進んでいる。IMDRF(国際医療機器規制当局フォーラム)のもとで、主要国の当局が用語や文書の様式をすり合わせ、後の回で扱うMDSAP(医療機器単一監査プログラム)のように、QMS監査の結果を複数の当局で活用する試みも広がってきた。とはいえ、それは各国の主権を一つに束ねるものではない。
あくまで独立した当局どうしが、重なり合う部分を少しずつ歩み寄らせているにすぎない。土台が近づいても、最後の判断は各国が握っている。そして、この地図から導かれる最も実務的な教訓は一つーー少なくとも四極については、各国の承認は互いに独立している、ということだ。
FDAのclearanceは日本の承認を代替せず、CEマーキングは米国市場を開かない。(オーストラリアのように他国の承認を審査に活用する国もあるが、自国での手続きそのものが不要になるわけではない。)国ごとに、分類も、必要な書類も、審査ルートも組み直しになる。
グローバル展開とは、一枚の万能パスを取る作業ではなく、四極それぞれの入口を一つずつ開けていく地道な旅である。その旅程を読み違えないために、まずは地図を正しく持つことだ。
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