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ユーザビリティ

IEC 62366-1 ユーザビリティ

「不注意」で片づけないために

「操作を間違えたのは、使う人の不注意だ。うちの機器は悪くない」ーー使用時のトラブルを、こう片づけていないだろうか。IEC 62366-1(医療機器へのユーザビリティエンジニアリングの適用。

現行は2015年版に Amendment 1:2020 を統合した Ed.1.1)は、その見方をとらない。規格の解説(Annex A)は、適用範囲の根拠を述べたくだりで「ユーザーエラー(使用者の誤り)」や「ヒューマンエラー」ではなく「ユースエラー(使用エラー)」という語を選んだ理由を、こう説明している。機器の使用に伴う誤りのすべてが使用者の見落としや不注意の結果ではなく、はるかに多くの場合、ユースエラーはユーザーインタフェース設計の不備の直接的な結果だから、と。

定義(3.21)もユースエラーを、使用者・ユーザーインタフェース・タスク・使用環境の特性の「不一致」から生じ得るものと位置づける。原因を使う人の資質に還元せず、四者の噛み合わせで捉えるわけだ。紛らわしい表示、取り違えやすいボタン、直感に反する操作手順ーー不一致がそこにあるのなら、直すべきは使う人の頭ではなく、機器のほうである。

なお、この定義3.21の根拠文自体は、AMD1:2020で「ユースエラーは、しばしばユーザーインタフェース設計上の欠陥の兆候であり得る」という、より留保的な表現に改められている。原因を一足飛びに設計へ帰すのではなく、設計を見直す手がかりとして扱うーー現行版のニュアンスは、そちらに近い。境界も押さえておきたい。

機器の故障による予期しない結果は、ユースエラーには含まれない。62366-1が扱うのは正常使用(正しい使用+ユースエラー)に伴うリスクの評価と低減であり、意図的な逸脱である異常使用(abnormal use)は、特定はしても評価・低減の対象外とされている。ここを混ぜないことが、実務では効いてくる。

この発想は、航空業界が先に通った道と重なる。1994年4月26日、名古屋空港で中華航空140便(A300B4-622R)が墜落し、264名が亡くなった。事故調査委員会が認定したのは、副操縦士が誤ってゴー・レバーを作動させ、ゴー・アラウンド・モードが解除されないまま自動操縦が係合し、その状態で操縦輪を押し続けたために水平安定板が機首上げ一杯まで作動して異常なアウト・オブ・トリムに陥った、という連鎖である。

注目すべきはその先だ。同委員会は仏国の耐空性管理当局に対し、自動飛行システム(AFS)の機構、自動操縦の解除・マニュアル・オーバーライド機能、アウト・オブ・トリム防止機能、警報・認識機能の改善を求めたうえで「緊急時・異常時における操縦士の対応や人間の認知過程を考慮したAFS(機能、モード表示方式、警報・認識機能)のあり方」について検討を行うよう勧告した。操縦士の操作の背後にある設計を問い直すーーそれが勧告として明文化された例である。

自動車でも同じ流れがある。国土交通省は2025年6月17日に道路運送車両の保安基準等を改正し、AT乗用車への「ペダル踏み間違い時加速抑制装置」の搭載を義務づけた(新型乗用車は2028年9月1日、輸入車は2029年9月1日から適用)。2026年1月9日には対象を貨物自動車に広げ、検知対象に歩行者を加え、停止状態だけでなくクリープ走行状態からの急加速も抑制対象とする基準強化が公表された。踏み間違いは、精神論ではなく装置で抑える対象になったのである。

ここで強調したいのは「使いやすさ」は快適さの問題ではなく、安全性そのものだ、ということである。医療機器において、使いにくさは単なる不便では終わらない。国内では、輸液ポンプ・シリンジポンプの流量入力を誤り、指示の10倍の速度で薬剤が投与された事例が11件報告されている(2016年1月〜2021年2月/日本医療機能評価機構 医療安全情報No.173)。

83 mL/h を 830 mL/h、4.1 mL/h を 41 mL/hーー桁の入力誤り、小数点の見落としである。警報の見落としも深刻で、米国の The Joint Commission は2009年1月〜2012年6月にアラーム関連事象98件の報告を受け、うち80件が死亡に至ったとし、最も多い寄与要因を「アラーム疲労」としている。機器が正常に動作していても、使用の誤りは重大な危害を招き得る。故障だけを見ていては、この領域は落ちる。

だから62366-1は、評価を二段構えで求める。開発の途中で強み・弱み・想定外のユースエラーを探る形成的評価を、用いる手法・技法を「適切に(as appropriate)」選びながら反復し、開発の最後に、選定したハザード関連使用シナリオごとに総括的評価を行って「安全に使用できる」という客観的証拠を得る。ここは書き分けが要る。

試作機を使用者に近い人に使ってもらって観察するのは形成的評価の典型であり、総括的評価は最終または量産同等のユーザーインタフェースで行うのが原則だ。ただし規格は同じ5.9の中で、等価のユーザーインタフェースを持つ製品の総括的評価データを、そのデータがどう適用できるかの技術的根拠とともに用いることも認めている。派生機種やプラットフォーム展開では、この規定をどう使うかが実務上の勘所になる。

評価手法もユーザビリティテストに限られず、専門家レビューやヒューリスティック分析等を含み得る。ユーザビリティテストを用いる場合には、参加者の特性が意図する使用者プロファイルをどう代表するか、試験環境が意図する使用環境をどう代表するか、観察されたユースエラーや使用困難のデータをどう収集するかを、計画に定めることが求められる(AMD1:2020で明確化)。

対策の順序も規格が定めている。使用に関連するリスクを下げる手段は、a) 本質的な安全設計b) 機器自体または製造工程における保護手段c) 安全に関する情報(適切な場合には使用者への訓練)ISO 14971:2019 7.1 に対応するこの優先順位で用いなければならない。規格が「注意書きは最も弱い対策だ」と書いているわけではないが、情報提供は明確に優先順位の最後に置かれている。

FDAのヒューマンファクター指針はもう一歩踏み込み、使用関連ハザードには「機器とそのユーザーインタフェースの設計変更が一般に最も効果的な手段である」とし、ラベリングや訓練は「使用者が情報を覚えているか参照し直すことに依存し、ラベリングは使用時に手元にないことがあり、訓練で得た知識は時間とともに減衰するため、最も好ましい方策ではない」と述べる。この評価に照らせば「注意して使え」と説明書に書き足すのは、対策としては最後に来る手段だ。注意で防げるなら、そもそも事故は起きていない。

ただし、ここは誤解されやすい。同じ指針は、設計変更でユースエラーの可能性を完全に除去できない限り、ラベリングや訓練も併せて修正すべきだとしている。「間違えようがない形にすれば注意書きは要らない」のではない。

設計で除去できた分だけ、注意書きへの依存を減らせるーーそう言うのが正確だ。しかも、安全に関する情報をリスクコントロールとして用いるなら、その情報自体が意図する使用者・使用環境において知覚可能・理解可能であり、正しい使用を支援することを確認しなければならない(4.1.3)。注意書きもまた、検証の対象なのである。

実務で効くのは「誰が、どんな環境で使うか」を具体的に描くことだ。規格はプロセスの出発点として「使用仕様(use specification)」の作成を求め、意図する医療上の適応、患者集団、適用部位、意図する使用者プロファイル、使用環境、動作原理を含めることを要求する。解説では使用環境の例として、病院使用か在宅使用か、救急車内か一般病棟か手術室か、周囲の照明や騒音、個人用保護具の使用などが挙げられ、AMD1:2020では、チームか個人か、混乱した現場か平静な現場か、ストレスや勤務時間といった社会的な要素も加えられた。同じ機器でも、訓練された専門職が静かな手術室で使うのか、慌ただしい救急の現場で使うのか、高齢の患者が自宅で一人で使うのかで、間違えどころはまるで変わる。

範囲の話も、ここで一度整理しておきたい。ISO 14971:2019 のいう「合理的に予見可能な誤使用」ーー製造業者が意図しない使い方だが、容易に予測できる人間の行動から生じ得るものーーは、ユースエラーだけでなく、異常使用のうち予見可能な部分も含む上位概念である。先に「異常使用は評価・低減の対象外」と書いたのは、あくまで62366-1の適用範囲の話だ。

リスクマネジメントの土俵では、予見できる逸脱は扱うべき対象に入る。対象外になるのは、真に予見不可能な異常使用だけである。二つの規格の役割分担を取り違えると、ここで穴が空く。

使用者と使用状況を曖昧にしたまま「使いやすさ」を語っても、それは机上の空論にすぎない。使う人を責めても、次の使用者がまた同じところで間違える。FDA自身が「他の使用者が同じユースエラーを、同等かより悪い結果を伴って起こし得る」と述べている。人を変えようとするのではなく、間違えにくい設計へ、優先順位に沿って資源を投じるーーこれがユーザビリティエンジニアリングの本質である。

出典

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