医療機器の供給と安定確保
「たった一つの小さな部品が入らないだけで、製品全体の生産が止まった」ーー近年、多くの医療機器メーカーが味わった悪夢である。半導体不足、感染症の世界的流行、地政学的な混乱、災害ーー理由はさまざまだが、共通するのは、複雑に張り巡らされた供給網(サプライチェーン)のどこか一点が切れると、製品が患者に届かなくなる、という現実だ。医療機器の安定供給は、いまや品質と並ぶ経営課題になっている。
供給網の弱さは、平時にはまったく見えない、という点が厄介だ。すべてが順調に流れているときには、一社調達も一拠点生産も、むしろ効率的な優等生に見える。危うさが姿を現すのは、危機が来たそのときだけである。
だから安定供給の備えは、問題が起きていない平時にこそ、コストを払って進めておかねばならない。「今は困っていない」は、備えを怠る理由にはならない。現代の医療機器は、世界中から集めた部品で組み上げられている。
効率を追い求めた結果、特定の部品を一社だけに頼ったり、遠く離れた一拠点に生産を集中させたりする構造が広がった。平時にはこれが最も安く、速い。だが、ひとたびその一点が止まると、代わりがきかない。効率化が進むほど、供給網は細く、切れやすくなるーーこの皮肉が、近年いっせいに露呈した。
ここで思い出したいのが、CAPA(是正処置)の考え方に通じる「選別」の発想だ。筆者はかねて、すべての不適合に一律で対応するのではなく、影響度で優先順位をつけよ、と説いてきた。供給網の管理も同じである。
すべての部品を等しく守ろうとすれば、資源が分散し、結局どこも守れない。止まったとき患者への影響が最も大きい部品、代替の効かない部品はどれかーーそれを見極め、そこに複数の調達先や在庫の備えを重点的に配する。守るべき急所を選び抜けるかどうかが、供給網の強さを決める。数を守るのではなく、要を守るのである。

もう一つ、見落とされがちなのが「終わらない責任」の視点だ。製品を売って終わり、ではない。市場に出した機器は、修理され、消耗品を補われながら、何年も使われ続ける。
ある日その補修部品が供給できなくなれば、現に使われている機器が止まり、患者が困る。だから安定供給は、新規生産の話にとどまらない。長く使われる製品を、最後まで支え続けられるかーーその体力まで含めて、供給の責任なのである。
サポート終了をどう設計するかも、この責任の一部だ。供給網は、最も細いところと同じ強さしか持たない。効率だけを追えば、その一点はますます細くなる。
急所を見極め、そこにあえて余裕を持たせておくーーその備えの厚みが、いざというとき患者と自社を守る。どこにどれだけの在庫や代替先を持つかは、常に費用との綱引きになる。過剰な備蓄は資金を寝かせ、原価を押し上げるが、切り詰めれば供給が途切れる。この最適点に唯一の正解はなく、止まったとき患者にどれだけの危害が及ぶかを軸に、製品ごとに見極めるほかないのである。
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