医療機器規制における購買管理入門
医療機器の構成部品、原材料、滅菌や試験の外部委託、そして製造そのものの外部委託まで、現代の医療機器は供給者なしには成立しない。規制当局は「外に出した業務の責任は出した側に残る」という前提を崩していない。本稿ではQMS省令(平成16年厚生労働省令第169号)第37条から第39条、ISO 13485:2016箇条7.4、および2026年2月2日施行の米国QMSR(21 CFR Part 820)を対照し、供給者の評価・再評価、購買情報、購買物品等の検証という三本柱を整理する。
1. 購買管理の三極対照
QMS省令は令和3年改正でISO 13485:2016と整合化され、購買管理は第37条(購買工程)・第38条(購買情報)・第39条(購買物品等の検証)の三条構成となった。ISO 13485の7.4.1・7.4.2・7.4.3にそのまま対応する。
| 要求事項の内容 | QMS省令 | ISO 13485:2016 | 米国QMSR |
|---|---|---|---|
| 供給者の評価・選定、監視、再評価 | 第37条 | 7.4.1 | §820.10(a)によりISO 13485の要求に適合することを求める。購買管理に関するQMSR独自の条文は置かれていない |
| 購買情報に含めるべき要求事項 | 第38条 | 7.4.2 | |
| 購買物品等の検証 | 第39条 | 7.4.3 |
米国では「§820.50 Purchasing controls」がなくなった
QSR時代の購買管理条文であった21 CFR 820.50は、QMSRではSubpart C〜Oのreserved化に伴い姿を消した。現在の根拠は§820.10(a)を介したISO 13485箇条7.4である。社内SOPに「21 CFR 820.50」を引用したままにしている企業は、参照先の差し替えが必要である。QMSR全体の移行論点はFDA QMSR(21 CFR 820)対応の要点を参照されたい。
2. 供給者の評価・選定 ― 第37条第2項
QMS省令第37条第2項は、供給者の評価・選定基準を定めるにあたって考慮すべき事項を四つ挙げる。購買物品等要求事項に適合する購買物品等を供給する能力、購買物品等の供給に係る実績、購買物品等が製品の品質に及ぼす影響、そして医療機器等の意図した用途に応じた機能・性能および安全性に係るリスクである。
ここで重要なのは、後半二つが「供給者の属性」ではなく「その物品が自社製品にもたらす影響とリスク」を問うている点である。つまり評価基準は供給者ごとに一律ではなく、供給される物品の性質に応じて重み付けが変わる。同じ商社から買う汎用ねじと、植込機器の生体接触部材とを同じチェックリストで評価している運用は、条文の趣旨から外れている。
| 考慮事項(第37条第2項各号) | 実務で確認すべきこと |
|---|---|
| 要求事項に適合する物品を供給する能力 | 設備・工程能力・人員・品質システムの有無。書面調査で足りるか、現地監査を要するか |
| 供給に係る実績 | 納期遵守率、受入不適合の発生履歴、是正措置の応答性。新規供給者では代替となる情報の取得方法 |
| 物品が製品の品質に及ぼす影響 | 最終製品の重要特性に直結するか。工程内で検出可能か、それとも市販後にしか顕在化しないか |
| 意図した用途に応じた機能・性能・安全性に係るリスク | リスクマネジメントの結果と紐づいているか。リスクの高い部材ほど評価と検証を厚くする設計になっているか |
3. 監視と再評価 ― 「一度評価したら終わり」は認められない
第37条第3項は供給者に対する監視および再評価に係る計画の策定を、第4項はその計画に基づく実績の監視と、監視結果を考慮した再評価を求める。すなわち、供給者管理は初回選定時の一点作業ではなく、計画に沿って回り続ける循環である。再評価の頻度・トリガー・判定基準が計画として文書化されていなければ、第3項の時点で不足となる。
さらに第5項は、供給された購買物品等に購買物品等要求事項への不適合が判明した場合、当該不適合によるリスクに応じて、供給者と協力して必要な措置をとらなければならないと定める。「不適合品を返品して終わり」ではなく、供給者側の原因究明に関与することが求められている。なお、供給者監査の進め方そのものについては購買管理・供給者管理の作り方|評価・再評価・受入検証および品質の悪い会社に、監査に行ってはいけないで扱っている。
QMSRで供給者監査報告書の「閲覧除外」が消えた
旧QSRの§820.180(c)には、内部監査・供給者監査の報告書および管理監督者照査の記録をFDA査察官の閲覧対象から除外する規定があった。この除外規定はQMSRに承継されていない。供給者監査報告書の書きぶり、保管場所、社内での取扱いを従来の前提のまま運用していると、2026年2月2日以降の査察で想定外の開示を求められる可能性がある。
4. 購買情報 ― 第38条
購買情報とは、購買物品等に関する情報であり、平たくいえば発注書や仕様書として供給者に渡す要求の束である。第38条第1項は、そこに含めるべき購買物品等要求事項として、購買物品等の仕様、購買物品等の受入れ・供給者の事業所における手順、工程並びに設備及び器具に係る要求事項、供給者の構成員の適格性の確認に係る要求事項、供給者の品質管理監督システムに係る要求事項の四つを挙げる(物品の特性から該当しないものを除く)。
実務上とくに効くのが第3項である。購買物品等要求事項への適合性に影響を及ぼす変更を、供給者があらかじめ自社に通知することについて、書面で合意した内容を購買情報に含めなければならない。いわゆる変更通知合意(change notification agreement)であり、これが取れていないと、供給者側の材料変更や工程変更が黙って自社製品に流れ込む。医療機器の市場回収の少なからぬ部分が、この経路で起きている。
また第2項は、購買物品等要求事項を供給者に提示するに先立ち、その妥当性を確認せよと求める。要求できていない仕様は、後から不適合として供給者を責める根拠にならない。
5. 購買物品等の検証 ― 第39条
第39条第1項は、購買物品等が要求事項に適合している状態を確保するための試験検査その他の検証手順の確立と実施を求めたうえで、供給者の評価の結果に基づき、購買物品等に係るリスクに応じて検証の範囲を定めよと定める。ここに「供給者評価」と「受入検証」の連動が明文で書かれている。評価が高い供給者からの低リスク部材は検証を軽くし、逆は厚くする。この連動が設計されていない受入検査は、全品同一基準の形式作業になりやすい。
第2項は購買物品等の変更に際して、その変更が製品実現に係る工程または医療機器等に及ぼす影響を検証せよと求める。第38条第3項の変更通知合意と対になる規定であり、両者は一体で運用しなければ機能しない。
第3項は、自社または製品受領者が供給者の事業所において検証を行う場合、その方法と供給者からの出荷可否の決定方法を購買情報の中で明確にすることを求める。ソースインスペクションを行うなら、それは発注時点で合意しておくべき事項だということである。受入検査の実務は供給者からの受入検査で詳述している。
| 記録 | 根拠条文 |
|---|---|
| 供給者の評価および選定の結果、ならびに監視および再評価の結果(所要の措置をとった場合はその記録を含む) | 第37条第6項 |
| 購買情報が記載された文書および記録 | 第38条第4項 |
| 購買物品等の検証の記録 | 第39条第4項 |
6. 外部委託と「責任は移らない」という原則
製造や滅菌、試験検査を外部に委託しても、製造販売業者としての品質管理監督システム上の責任が委託先に移ることはない。QMS省令は購買工程の中で供給者を管理せよと求め、ISO 13485は外部委託した工程の管理を品質マネジメントシステムの中で維持することを求める。米国QMSRについても、FDAが2026年2月2日から運用する査察プログラムCP 7382.850が「Outsourcing and Purchasing」を六つのQMS領域の一つとして独立に立てている点に、当局の関心の所在が表れている。査察の枠組みの変化はQSITはこう変わった|FDAの新査察プログラムで解説している。
本稿は購買管理の範囲に絞っている。購買情報の源流となる設計出力の作り方は医療機器規制における設計管理入門、受け入れた物品を用いる工程の管理は医療機器規制における製造及びサービスの提供入門、受入後の識別・保管・追跡可能性は医療機器規制におけるラベリング・UDI・保管入門で扱う。
まとめ
購買管理の骨格は、評価(第37条第2項)、監視・再評価(同条第3項・第4項)、購買情報の明確化と変更通知合意(第38条)、リスクに応じた検証(第39条)の四点に集約される。三極ともISO 13485箇条7.4を共通の基礎としており、米国では§820.50が消滅した一方、供給者監査報告書の閲覧除外もなくなった。制度上の後退ではなく、供給者管理の実質が問われる方向への変化である。
2026年時点で取るべき対応
- 参照条文の差し替え購買管理SOPおよび供給者向け品質協定書に残る「21 CFR 820.50」の記載を洗い出し、§820.10(a)およびISO 13485箇条7.4への参照に改める。
- 供給者監査報告書の取扱い見直し旧§820.180(c)の閲覧除外がQMSRに承継されていないことを前提に、監査報告書の記載粒度、保管場所、開示手順を再設計する。
- 評価基準のリスク連動化供給者評価基準が、供給される物品ごとの品質影響とリスクを反映した重み付けになっているかを点検し、一律チェックリストになっていれば区分を設ける。
- 再評価計画の文書化再評価の頻度・トリガー・判定基準を計画として文書化し、監視指標(納期、受入不適合、苦情のうち供給者起因のもの)と接続する。
- 変更通知合意の総点検主要供給者との間で、要求事項への適合性に影響する変更の事前通知が書面で合意されているかを確認する。合意のない供給者を洗い出し、優先順位をつけて締結する。
- 受入検証の範囲の再設定受入検査の項目・抜取水準が、供給者評価結果と物品のリスクに応じて差がつく設計になっているかを検証し、全品同一基準になっていれば見直す。
出典
- 医療機器及び体外診断用医薬品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成16年厚生労働省令第169号、令和3年厚生労働省令第60号による改正)/e-Gov法令検索
- 21 CFR Part 820 Quality Management System Regulation/eCFR
- Medical Devices; Quality System Regulation Amendments(最終規則、2024年2月2日公布、89 FR 7496、施行2026年2月2日)/Federal Register
- ISO 13485:2016 Medical devices — Quality management systems — Requirements for regulatory purposes(第3版、2016-03-01。国内対応規格はJIS Q 13485:2018)/ISO
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