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Self Inspectionの重要性 ―「自己点検」という訳語への疑問

PIC/S GMPの第9章はSelf Inspectionである。本邦の規制要件等(GMP省令、GVP省令等)ではSelf Inspectionを「自己点検」と訳している。しかし、筆者はこの訳は適切ではないと感じている。
当局による査察であるAuthority Inspectionに対して Self Inspection は企業が自らを査察することである。つまり「自己点検」ではなく「自己査察」、すなわち「内部監査」のことである。
Self Inspectionは、内部監査の他、外部監査、定期レビュ、マネージメントレビュなどからなる。

国際的にもSelf Inspectionという語は用いられており、例えばWHO(世界保健機関)の医薬品GMPガイドライン(2014年版)には「Self-inspection, quality audits and suppliers’ audits and approval」という章がある。inspectionという言葉は、規制当局が企業に立ち入って調べる、いわゆる「査察」にも使われる。筆者はいつも、Self Inspectionとは「当局の目で自分たちを見ることだ」と説明している。

当局査察は数年おきで、しかも数日間実施されるのみである。そこで指摘された事項のみを改善したとしても、患者の安全性や製品の品質は担保できない。
大事なことは、当局査察がなくとも、自らが自らを“査察”し、“指摘”し、“改善”することである。
Self Inspectionの重要性を再認識されたい。

「査察」という言葉と薬機法

では、なぜ日本の省令は「自己査察」ではなく「自己点検」なのか。実は「査察」という語は、消防組織法の「防火査察」や外務公務員法など、いくつかの法令に登場する。しかし、薬機法には「査察」という語が出てこない。

国や都道府県の職員が工場などに立ち入って調べる権限は、薬機法第69条で「立ち入り」「検査させ」と書かれている。業界で「GMP査察」と呼んでいるものは、法令上は立入検査や適合性の調査に当たる。例えば、医薬品の承認や更新の際に、製造所がGMP省令に適合しているかを確かめる手続きは、適合性調査と呼ばれる。

調査には書面によるものと、調査員が製造所を訪れる実地のものがあり、事前の連絡なしに行われる立入検査もある。いずれにしても、外から来る調査は限られた時間での抜き取りにすぎない。当局の目で自分たちを見るSelf Inspectionが重要になるのは、そのためである。

Self Inspectionに当たる日本語として「自己点検」が選ばれた経緯は、筆者が調べた範囲では確認できなかった。薬事の法令に「査察」という言葉がなかったことが影響した可能性はある、と筆者は考えている。

「点検」という言葉が生む誤解

「点検」と聞くと、チェックリストを片手に、機械や書類を一つずつ確かめる作業を思い浮かべる人が多いだろう。この言葉の印象のせいで、誤解が生まれやすい。筆者がこれまで見てきた中にも、自己点検を「記録の記入漏れ探し」や「設備の日常点検」と同じようにとらえている例があった。

担当者が自分の部署の記録をめくり、押印漏れの数を数えて終わり、というものである。内部監査の目的は、個々の誤りを探すことではなく、仕組みに潜むリスクを見つけることにある。記入漏れが多いなら、なぜ漏れるのか、手順や様式に問題はないのかを問う。そこまで踏み込んで初めて、自己点検の名に値する。

筆者は講演で、QC・QA・監査を次のように整理している。間違いを見つけて指摘するのはQC(品質管理)であり、間違いがないことを確認し、保証するのはQA(品質保証)である。そして監査は、リスクを見つける活動である。

この整理に立つと、QC部門もQA部門も監査を受ける側になる。品質保証部門が日常業務の延長で記録をチェックしているだけなら、それは監査とは言えない。

監査員の力量
筆者は製薬企業にかかわらず、医療機器企業や医療機関、諸外国の原薬工場等の査察・監査に対するコンサルティングをするが、監査員の能力が非常に低いことに驚く。
例えば、監査員に製造経験がなく、製造に関するリスクの指摘が全くできないケースがあった。
監査報告書を見ていると教育記録についてのみ指摘していた。
これでは製造プロセスの品質向上やリスクの低減は望めない。
ひどいケースでは、転記ミスやエラーの指摘ばかり行っている監査があるが、これでは本末転倒である。
文書の書き方を修正したところで品質保証にはならない。これらの指摘は、患者の生命・健康の担保にはまったく関係のないことであり、そのような指摘を出すような企業では規制当局は安心できない。
したがって、監査員は当該プロセスのプロでなければならない。
つまり、製造を監査する監査員は製造の経験者でなければならない。
また品質試験を監査する監査員は品質試験の経験者でなければならない。
その上で最新の規制要件等の要求事項を適切に理解していなければならない。

洞察力を持って指摘し、根本的原因を発見し、それらをつぶして再発を防止する。
またたとえ問題が起きていなくとも、品質システムや組織などに潜むリスクを発見し指摘しなければならない。
監査員にはこのように非常に多くの能力が必要である。

監査員に適した人材
最近でこそ日本の企業も色々な会社から異動・転職してくる方が増えたが、生え抜きの人間には監査は困難である。
なぜならば自らの経験したやり方しか知らないからである。つまり、自社のプロセスを是としているためである。

規制当局の査察官、筆者のようなコンサルタントは多くの企業のプロセスを見てきている。そのため、他社とのベンチマークにより、問題点やリスクの発見が比較的容易である。他社(Best Practice)と比べ足りていない箇所があればそれがリスクであると判断できる。
また転職者には、前職でのプロセスと比較することが出来る。
適切な監査の実施のためには、こういった比較対象の有無や、さらに洞察力も必要となるため、生え抜きの人には難しいのである。
また、監査員はきちんと指摘して改善をさせるという能力も必要となる。

そのためには監査員は、他人に批判されることを恐れず、上下関係に問わず皆に平等でなければならない。
監査は常に独立性と公平性が求められるのである。

点検する人の客観性も欠かせない。医療機器の品質マネジメント規格ISO 13485も、内部監査について「監査員は自らの仕事を監査してはならない」と定めている。自分の部署を自分で点検しても、仕組みの弱点は見えにくい。

GMP省令における自己点検
GMP省令の第18条が自己点検である。
下記の要求がある。

製造業者等は、あらかじめ指定した者に、手順書等に基づき、次に掲げる業務を行わせなければならない。

一 製造・品質関連業務について定期的に自己点検を行うこと。
二 自己点検の結果を品質保証に係る業務を担当する組織および製造管理者に対して文書により報告すること。
三 自己点検の結果の記録を作成し、これを保管すること。
2 製造業者等は、前項第1号の自己点検の結果に基づき、製造・品質関連業務に関し改善が必要な場合においては、所要の措置をとるとともに、当該措置の記録を作成し、これを保管すること。

これは、一般の品質マネジメントでいう「内部監査」そのものである。仕組みが決めたとおりに動いているかを定期的に評価し、報告し、改善につなげる活動だからである。なお省令は、頻度を「定期的に」としか定めていない。どの範囲をどの頻度で点検するかは、各社が手順書で決めることになる。

また、逐条解説には、下記の事項が解説されている。

  • 自己点検責任者を設置すること。
    • 自己点検責任者は、自己点検の対象となる業務の内容を熟知している職員であること。
    • 自己点検責任者は、当該自己点検の対象となる業務に従事していない、客観的な立場にあること。
  • 自己点検に係る業務の一部を外部委託業者に委託する場合、適切な管理を実施すること。
  • 自己点検報告書(または自己点検記録書)を作成すること。
  • 自己点検の結果を品質保証部門および製造管理者へ文書により報告すること。
  • 製造管理者は自己点検報告書の結果により適切な処理を実施すること。
    • 責任者の適切な配置
    • 人員の十分な確保
    • 管理体制の整備
    • その他必要な資源の配分
    • 教育訓練

GQP省令における自己点検
医薬品を市場に出す製造販売業者に適用されるGQP省令(品質管理の基準に関する省令)では、第13条が自己点検である。GMP省令第18条と同じ構造であり、品質保証責任者以外の者が自己点検を行った場合は、結果を品質保証責任者に文書で報告する。改善が必要なときは、品質保証責任者が措置を講じ、その結果を総括製造販売責任者に文書で報告する。

自己点検の対象(GMP省令の場合)

  • 製造管理者の業務
  • 医薬品製品標準書および手順書の作成等
  • 交叉汚染の防止措置
  • 構造設備の保守、点検等
  • 製造管理業務
  • 試験検査業務
  • 品質保証業務
  • 安定性モニタリング
  • 製品品質の照査
  • 原料等の供給者の管理
  • 外部委託業者の管理
  • 製造所からの出荷の管理
  • バリデーション
  • 変更管理
  • 逸脱管理
  • 品質情報および品質不良等の処理
  • 回収等の処理
  • 教育訓練
  • 文書および記録の管理
  • 文書および記録の保管
  • データインテグリティ

自己点検の進め方

前述のとおり、当局査察で指摘された事項のみを改善しても、患者の安全を守れるとは限らない。日々の自己点検で、査察官と同じ目線で指摘を出し、改善を続けることが求められる。以下に、筆者が勧めている進め方を紹介しておく。

まず、年間の計画を立てる。対象とする部門や業務、重点を置くテーマを決める。前回の指摘事項や、苦情・逸脱の傾向などから、リスクが高いと思われる領域を優先するとよい。次に、省令や通知、社内の手順書が何を求めているかを整理し、それに照らして質問を準備する。

当日は記録を見るだけでなく、現場で作業を観察し、担当者に話を聞く。手順書どおりに作業しているか、手順書そのものが実態に合っているかを確かめる。

このとき責める調子で質問すれば、担当者は問題を隠そうとする。失敗を隠そうとするのは、人の自然な心理だからである。点検の目的は人を責めることではなく、仕組みを良くすることだと、事前に伝えておきたい。

見つかった問題は、事実と根拠を添えて報告する。「記録の不備が3件」で終わらせず、なぜ起きたのか、他の工程でも起きていないかまで考える。そして改善措置が実施されたか、その措置が効いているかを、次の点検まで追いかける。

筆者の経験では、自己点検がうまく回っている会社ほど、当局の査察や顧客の監査を落ち着いて迎えている。自分たちで先に弱点を見つけ、手を打っているからである。製薬企業に機器やサービスを納める企業も、顧客の監査の前に、自社の手順と記録を第三者の目で見直しておきたい。

まとめ

  • Self Inspectionは企業が自らを査察すること、すなわち内部監査であり、GMP省令第18条・GQP省令第13条の自己点検もこれに当たる
  • 目的は記録の誤りを探すことではなく、仕組みのリスクを見つけて改善することにある
  • 監査員には当該プロセスの経験と最新の規制要件等の理解、そして独立性と公平性が求められる
  • 薬機法には「査察」という語がなく、当局による確認は立入検査や調査として規定されている

言葉の印象に引きずられると、活動の中身まで小さくなってしまう。自社の「点検」が、本当に仕組みを見直す監査になっているか、確かめてみてはいかがだろうか。

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