医療機器の三役とは
「三役といっても、要は肩書きを三つ置けばいいのだろう」ーーそう受け止めた瞬間に、医療機器の品質・安全管理はつまずき始める。三役とは、製造販売業者が必ず担わせなければならない三つの責任、すなわち総括製造販売責任者、国内品質業務運営責任者、そして安全管理責任者の職務を指す(薬機法第23条の2の14、QMS省令第72条、GVP省令第4条)。名義ではなく、機能である。

役割はきれいに分かれている。
- 総括製造販売責任者は、品質と安全の全体を統括し、経営陣と現場をつなぐ要である。
- 国内品質業務運営責任者は、造られた製品が決めたとおりの品質かを見張り、市場への出荷の可否をロットごとに決める。
- 安全管理責任者は、市場に出た後の不具合情報を集め、必要な安全確保措置を立案する。
ここに、実務でしばしば取り違えられる一線がある。措置を「立案する」のは安全管理責任者だが、それを評価し、実施を「決定する」のは、原則として総括製造販売責任者である(GVP省令第8条・第9条)。あらかじめ手順書で定めた措置類型については安全管理責任者への権限委譲も認められているが、原則の重心は総括にある。
回収も似た構造を持つ。品質不良に由来するか安全性情報に由来するかで起案の経路は分かれ、品質側では国内品質業務運営責任者が記録・報告の実務を担い、その内容は管理責任者と総括製造販売責任者に文書で報告される(QMS省令第72条第2項第5号・第6号)。ただしーー安全確保措置と違って、回収そのものの最終決定権者を名指しする条文は存在しない。
総括はその統括責任(QMS省令第71条第1項第1号)によって報告を受け、実質的な判断に関与する立場に置かれる。条文が空けたその余白を、誰が、どの手順で埋めているか。そこは各社が自ら設計しなければならない部分である。

造る前、造った直後、売った後ーー製品のライフサイクルを、三つの職務が連携して見守る布陣である(設計・製造工程そのものは、登録製造所側の責任技術者とQMS体制が担う)。それぞれに資格や実務経験の要件も定められているが、その厳格さは一様ではない。
総括製造販売責任者は、物理学・化学・生物学・工学・薬学・医学等の指定分野について大学等の専門課程を修了していれば実務経験を問われず、旧制中学・高校等の専門課程修了者なら3年以上、学歴要件を満たさない者は5年以上の実務経験と登録講習の修了が求められる(施行規則第114条の49)。
国内品質業務運営責任者には品質管理業務等に3年以上が、業態を問わず必要だ(QMS省令第72条第1項)。
一方、安全管理責任者の「3年以上」という経験要件は第一種製造販売業者にのみ課され、第二種・第三種では業務遂行の能力要件と独立性要件のみである。誰でも就けるわけではない。だが、誰にでも同じ高さの壁があるわけでもない。

なぜ役割を三つに分けるのか。正確に言えば、法令は「三役は常に三人でなければならない」と定めているわけではない。総括製造販売責任者が国内品質業務運営責任者を兼ねることは明文で認められており(QMS省令第71条第2項)、一般医療機器のみを扱う第三種では、要件を満たす一人が三役すべてを兼ねることも制度上は可能だ。
しかし、高度管理医療機器を扱う第一種では、品質を担う国内品質業務運営責任者と、安全情報を扱う安全管理責任者の兼務は一貫して認められていない。リスクの高い製品ほど、品質の判断主体と安全の判断主体を分離するーーそこに制度設計の意思が現れている。条文が「相互牽制」という言葉を掲げているわけではない。
法が明文で求める独立性は、まず販売部門からの独立である(GVP省令第4条、QMS省令第72条第1項第4号)。だが、販売部門からの分離と、第一種における品責・安責の兼務禁止を重ねて読めば、意図は読み取れる。出荷を急ぎたい力学と、市場の異変に慎重であるべき力学は、時に対立する。
それを一人に背負わせれば、どちらかが必ず押しつぶされる。役割を分けることそのものが、安全を守る設計なのだ。航空機の操縦と管制を同じ人間にやらせないのと、発想は同じである。
一人に権限を集めれば効率はよいが、その一人が判断を誤ったとき、止める者が誰もいなくなる。役割の分割は、非効率ではなく安全のための冗長性なのだ。

ここで強調したいのは、三役は経営者の代理人であって、経営者の身代わりではない、という点だ。品質マネジメントシステムはトップダウンでしか機能しない。QMS省令が経営者(管理監督者)に求めているのは、品質方針を自ら定め(第2条第12項)、品質目標が定められるようにし、管理監督者照査を実施し、必要な資源を確保することによって、自らの「責任をもった関与」を実証することである。
品質マニュアルーー品質管理監督システム基準書ーーの原案を起草するのは品質保証部門でよい。マニュアルという文書の体裁を整えることが目的ではない。問われているのは、その運用に経営者が関与している事実が残っているかだ。
三役に権限も予算も与えず、問題が起きたときだけ責めを負わせるーーそういう会社は、経営者自身の関与を放棄し、三役を「盾」にしているにすぎない。名義だけ借りて実務を伴わない、いわゆる名義貸しは、その最も退廃した形であり、法令遵守体制の整備義務(薬機法第23条の2の15の2)そのものに反する。同条は、総括製造販売責任者が有する権限を明らかにし、必要な権限を付与し、その業務を監督する体制を整えることを、製造販売業者に義務づけている(同条第1項第1号・第3号)。
明らかにすべき権限の中身ーー従業者への指示監督、廃棄・回収・販売停止・安全確保措置の決定および実施、製造業者に対する管理監督などーーは、同条の委任を受けた省令や通知で示されており、条文はその大枠を定めるにすぎない。だが大枠であっても義務は義務だ。権限を明らかにしていない会社は、それだけで法の要求を満たしていない。

Show me, don’t tell meーー三役が本当に機能しているかは、組織図の上ではなく、意思決定の記録に表れる。出荷を止めた判断は国内品質業務運営責任者の記録に、安全確保措置を決めた判断は総括製造販売責任者の記録に、日付と根拠を伴って残されているか。QMS適合性調査では、品質管理監督システム基準書、前回調査以降の回収の有無とその概要、国内品質業務運営責任者が要件を満たすことを示す宣誓書などの提出が求められ、調査の視点は「文書と実態の整合性」に置かれる。
調査にあたる調査員や薬事監視員が「反対を押し切って出荷した記録」を項目として尋ねるわけではない。だが記録を辿れば、その体制が飾りか、生きているかは自然に浮かび上がる。権限のない責任者ほど、いざというとき「聞いていない」としか言えないものだ。

三役は、経営者が品質と安全への責任を組織に埋め込むための装置である。肩書きを置くことがゴールなのではない。その職務を担う者に、経営者と同じ目線で「止める」判断ができる力をーーそして総括製造販売責任者には、その判断を最終的に引き受ける権限をーー与えられているか。それが問われているのである。
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