ISO 14971 リスクマネジメントの基本
医療機器の安全とは「危険をゼロにする」ことではない。残るリスク(残留リスク)を受容可能な水準まで下げ、製品のライフサイクル全体を通じて見張り続けるーーISO 14971が求めるのは、その営みそのものである。
ISO 14971は、医療機器に適用されるリスクマネジメントの国際規格である。現行は2019年発行の第3版で、ハザード(危険源)を特定し、関連するリスクを見積り・評価し、リスクコントロール(低減)を行い、その有効性を製造・製造後の情報に基づいて監視するという一連のプロセスを定めている。
このリスクマネジメントプロセスは、品質マネジメントの規格であるISO 13485に基づくQMSの一部として組み込むことができ、また欧州のMDR(医療機器規則)などのリスクマネジメント要求への適合を説明する手段としても実務上広く用いられている。いわば医療機器の安全を支える土台の規格と言ってよい。ここで押さえたいのは、リスクマネジメントが単発の作業ではなく、製品の企画から設計、製造、そして市場に出た後まで途切れず回り続ける「サイクル」だという点だ。14971はその一巡を、次の流れで組み立てている。

用語の面でも、最初に押さえておきたい区別がある。ハザード(危険源)は「危害を引き起こす潜在的な源」危害(Harm)は「人の傷害・健康被害に加え、物的損害や環境への損害も含む被害」リスクは「危害の発生確率と、その重大性の組み合わせ」である。
鋭利な角(ハザード)があっても、触れる状況が生じなければ危害には至らない。この三語を区別せずに議論すると、対策の焦点がぼやける。まず言葉を正しく分けることが、リスクマネジメントの第一歩である。

多いのが、いきなり第三に飛びつく発想である。リスクコントロールにも、14971が定める優先順位がある。(スリーステップメソッド)
- 第一が本質的な安全設計(危険源そのものを設計で取り除く)
- 第二が保護方策(アラームやガードなど)
- そして第三が安全に関する情報(警告表示・取扱説明書・教育訓練)だ。
まず設計で消せないか次に仕組みで防げないか

2019年の第3版で、実務上とりわけ重要な変化があった。旧版で論点となりやすかった「合理的に実行可能な限り(ALARP)」等の考え方が、より明確なリスク受容基準とベネフィット・リスク分析の枠組みへ整理されたことだ。コストを理由にリスク低減を止めるのではなく「そのリスクを上回る医学的便益があるか」で判断せよ、という姿勢である。
査察やリコール事例で繰り返し問題になるのも、この判断の甘さと、市販後監視の形骸化だ。市場からの不具合情報を設計にフィードバックしていなかったーーそう指摘される企業は少なくない。リスクマネジメントは、承認を取るために一度作って棚に眠らせる文書ではない。
製品が世に出た後こそ、新たな使われ方や不具合が見えてくる。集めた情報を分析へ戻し、サイクルを回し続ける。その地道な循環こそが、ISO 14971の本体なのである。
出典:ISO 14971:2019「Medical devices ー Application of risk management to medical devices」(第3版)、および解説文書 ISO/TR 24971:2020。
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