誰が、何に、責任を負うのかーー三層構造とRACI、そして薬機法改正
グローバル品質保証体制は、一つの製品が製造国・輸出先国・中間国で異なる規制要件に直面するという現実の上に成り立っている。個別対応では品質保証の抜け漏れが避けられない。そこで求められるのが、各国規制の違いを統合的に管理し、全世界で一貫した品質水準を維持する仕組み、すなわちグローバル品質管理システム(GQMS)である。その根底にはICH Q10「医薬品品質システム」の原則があり、本社がグローバル・ポリシーや共通標準を策定し、各国拠点が自国の法規制を補足する「ハイブリッド構造」を採ることで、グローバルな一貫性と各国規制への適合を両立させる※1。

この体制は通常、本社QA(HQ)、リージョン・現地法人、サイトQA(製造所)の三層構造で設計される。要となるのが、役割と責任を明確化するRACIマトリックスである。RACIとは、実行責任者(Responsible)、承認・説明責任者(Accountable)、相談先(Consulted)、報告先(Informed)の四つの役割を業務ごとに定義するフレームワークである。
「誰がやり、誰が最終責任を取り、誰に相談し、誰に知らせるか」を一つずつ明文化することで、層をまたぐ業務の責任の所在が曖昧になることを防ぐ。ここで見落としてはならないのが、本社QAが現地法人を孤立させないという視点である。グローバルSOPによるルールベースの統制と、本社QAからの積極的な支援・助言。この「二重構造のガバナンス」を機能させることが、リスク最小化の鍵となる。本社QAは監査部門であると同時に、現地とサイトを支えるガバナンス機能でもある。

これらの役割分担を実効あるものとするのが品質協定(Quality Agreement)である。品質協定には、責任の所在、変更管理の通知義務、逸脱発生時の報告タイムライン、年次製品品質照査(APR/PQR)の実施責任、監査権と実施頻度、データインテグリティ要件などを盛り込む。さらに、重大逸脱は発生後24時間以内に初報、CAPA完了率は期限内95%以上といった定量的なKPIを設定し、モニタリングすることが望ましい。品質協定は一度締結すれば終わりではなく、規制や組織の変化に応じて見直すべき「生きた文書」である。

とりわけ日本企業が留意すべきは、2025年公布の改正薬機法である。この改正では、医薬品等の品質および安全性確保の強化が制度改正の柱の一つとされている※2。製造販売業者は、品質保証責任者等の役割、委託先・製造所に対する監督、監査記録の保存、品質協定の実効性を、改正法および関係する政省令・通知に照らして再点検する必要がある。
海外製造所への監督は、単なる社内運用ではなく、法令上の要請と整合させて設計すべき領域へと位置づけが変わりつつある。条文番号や具体的な義務内容は、最終的な条文・施行令・省令で確認したうえで自社体制に反映することが望ましい。

出典
※1ICH Q10「Pharmaceutical Quality System」(医薬品規制調和国際会議)。
※2厚生労働省「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」関連情報(厚生労働省、2025年公布)/URL確認日:2026年7月2日。条番号・義務内容・施行スケジュールは一次情報で確認すること。
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