外注先にエラーの場所を教えてはいけない
――データ入力1,000件・許容0.3%の教訓
外注したデータ入力の検収で、4個目のエラーが見つかった。エラーの場所を親切に教えて直してもらえば、手間も少なく、角も立たないように思える。しかし筆者は、その親切こそがデータの品質をいつまでも上げない原因になると考える。本稿では、あるたとえ話をもとに、受け入れる側が行うべき「コントロール」を考える。
1,000件のうち許容は3件
ある外注業者に、1,000件のデータ入力を依頼したとする。契約では、エラーが0.3%までなら受領し、代金を支払うと約束した。1,000件の0.3%は3件である。
納品されたデータの検収を始めると、1件、2件、3件とエラーが見つかった。そして4件目が見つかった。この時点で、エラーは約束した0.3%を超えたことになる。
さて、ここで発注側はどうすべきだろうか。見つけたエラーを自分たちで直してしまえば早い。あるいは、エラーの場所を業者に伝えて直してもらうのが親切かもしれない。筆者の答えは、どちらも「否」である。

受け取らずに差し戻す
正しい対応は「受入基準を満たさないため受領できない」として、データ一式を業者に差し戻すことである。これがコントロールである。発注側が自分で直した場合を考えてみよう。
見つけた4件は直せても、まだ見つけていないエラーは残る。しかも、自社の担当者が外注先の仕事を肩代わりすることになり、その手間は契約金額には含まれていない。コントロールとは、標準からずれたプロセスを標準に戻す活動である。
あらかじめ定めた許容範囲に入らないアウトプットを、前の工程に戻すことはその典型である。検収でのチェックは、そのための手段にすぎない。差し戻しは業者を突き放すことではなく、約束した品質で納めてもらうための正当な手続きなのである。

前提として、合否の基準は発注の時点で明確にしておく必要がある。品質マネジメントシステムの国際規格ISO 9001:2015も、8.4.3で、外部提供者に製品やサービスの承認に関する要求事項などを伝えることを求めている。「0.3%まで」という約束は、いわば双方で合意したストライクゾーンなのである。
エラーの場所を教えてはいけない理由
差し戻すとき、どこにエラーがあったかを教えてはいけない。理由は二つある。
- 一つ目は、業者が教えられた箇所だけを直して再提出してくるからである。例えば、400件目までを確認した時点で4件目のエラーが見つかったとしよう。残りの600件は、まだ誰も確認していない。業者が4か所だけを直して戻してくれば、発注側はその続きから再びチェックすることになる。
- 二つ目は、改善の意識が働かなくなるからである。教えられた箇所を直すだけの作業は、業者にとって楽である。全件を見直す手間も、原因を考える手間も省けるからである。指摘された場所を直せば受領してもらえるなら、業者は次からエラーを出さないように工夫しようとは考えない。発注側は、いつの間にか外注先の「無料の検査員」になってしまう。
何個あったかも教えない
同じ理由で、エラーが何個あったかも教えないほうがよい。「4個ありました」と伝えると、業者は4個を見つけた時点で探すのをやめ、再び提出してくるだろう。目的が「全体の品質を確保すること」から「言われた数を見つけること」にすり替わってしまう。
伝えるべきは、受入基準を満たさなかったという事実だけである。業者は全件を自ら見直し、なぜ基準を超えるエラーが出たのかを考えることになる。では、差し戻しを受けた業者は何をすべきか。
まず、納品したデータの全件を自ら見直すことである。発注側の検収は、業者の最終確認の代わりではない。次に、なぜ基準を超えるエラーが出たのかを考えることである。
入力画面が見づらかったのか。作業時間が足りなかったのか。入力した人と確認した人が同じだったのか。原因が分かれば、次の仕事でエラーを減らす手を打てる。

再納品されたデータを受け取ったら、発注側は改めて最初から検収する。前回の続きから確認するのではなく、全体を同じ基準で確かめ直す。そうすれば、業者の見直しが本当に行われたかどうかも分かるのである。
なお、同じ業者で差し戻しが繰り返されるなら、原因と対策の報告を求めることも必要になる。筆者が戒めたいのは、発注側が業者に代わって間違い探しを引き受けてしまうことである。発注側にとっても、差し戻しは気持ちのよいものではない。
納期が迫っていれば、自分で直してしまいたくもなる。だからこそ、受入基準を超えたら差し戻すこと、再納品の期限などを、あらかじめ契約や手順に書いておくとよい。担当者がその場の判断で甘くなることを防げるからである。
後工程で直すと、品質は永遠に上がらない
後工程で誰かがエラーを見つけて直してあげると、データの品質はいつまでも上がらない。前工程にとっては、ミスをしても誰かが直してくれる状態だからである。筆者はこれを、後工程で修正すると品質が上がらない「ジレンマ」と呼んでいる。
米国の統計学者W・エドワーズ・デミングも、経営者に向けた「14のポイント」の中で、品質を検査に頼って達成しようとするのをやめ、最初から製品に品質を作り込むよう説いた。検査は、すでに生まれてしまったエラーを後から選り分けることしかできない。エラーを生まない仕組みは、作る工程の中にしか作れないのである。
製薬企業の中でも、同じ構図は起こりうる。記録やデータを別の担当者が確認したとき、確認者が誤りを黙って直してしまえば、作成者は自分の誤りに気づかない。そもそも電子記録について、FDA(米国食品医薬品局)の規則21 CFR 11.10(e)は、記録を変更しても以前の記録内容が見えなくなってはならないとしている。
誰が何を直したのかを残すことが求められているのである。この話は、製薬企業に製品やサービスを納める企業にとって他人事ではない。製薬企業から見れば、こうした企業は外注先の立場にあるからである。
差し戻しを受けたとき、エラーの場所を聞き出して直すだけで済ませていないだろうか。全件を自ら見直し、エラーが生じた原因を自社の工程の中に探す。その姿勢が問われていると受け止めたい。
まとめ
- 受入基準を超えたアウトプットは、自分で直さず、受領せずに差し戻す。これがコントロールである
- エラーの場所も数も教えない。教えるとそこだけ直され、改善の意識が働かない
- 後工程で直してあげると、前工程の品質はいつまでも上がらない
親切のつもりの手直しが、相手が改善する機会を奪っていることがある。約束したストライクゾーンを守ることは、取引先の品質を育てることでもある。
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