不具合等報告の時計は「情報を入手した日」から動き始める
本稿は、薬機法に基づく医療機器製造販売業者の不具合等報告を念頭に置く。具体的な報告期限・区分・起算日の取扱いは、薬機法第68条の10、施行規則第228条の20、GVP省令および最新の関連通知・事務連絡に従って確認いただきたい。なお、本稿の「起算日」は期限管理の基準となる情報入手日を意味し、法令上の期間計算における初日の算入方法までを示すものではない。
「まだ調査中だから、報告のカウントは始まっていない」ーーそう考えている担当者は少なくない。だが、これは危険な誤解である。不具合等報告の期限は、一般に、出荷した日でも、原因調査が終わった日でもない。製造販売業者が、報告対象となる可能性を示す情報を入手した日を基準に管理する。

この一点を取り違えると、報告は構造的に遅れる。原因が判明してから数えればよい、と思っていると、調査に手間取るほど期限は先送りされるーーそんな都合のよい話はない。「情報を入手した日」を起点に期限を管理する以上、社内で情報を抱え込んでも、報告期限を先送りすることはできない。
原因が未確定でも、報告対象となる可能性を示す情報を入手し、評価を開始すべき状態になった以上、時計は動き出す。「わからないから報告しない」は通用しない。報告期限までに原因調査が完了しない場合でも、その時点で把握している情報に基づいて必要な報告を行う。原因、患者転帰、製品解析結果など、報告内容の評価に影響する重要な情報が後に判明した場合は、関連通知や当局の指示に従って追加報告することが基本となる。

現場で報告遅延を生む典型的な要因の一つが、情報の抱え込みである。現場が「大ごとにしたくない」「自分で確かめてから上げよう」とためらう数日は、法定期限に対する余裕を失わせ、報告遅延につながりうる。指定窓口への連絡が一週間後になったとしても、それによって起算日が当然に後ろへ動くわけではない。
製造販売業者として当該情報を入手したと評価される時点が、起算日の判断上問題となりうる。ここで区別すべきなのが、社内報告と当局報告である。現場には、苦情、不具合、健康被害その他の疑わしい情報を、製造販売後安全管理業務手順書等で指定された窓口へ速やかに上げることを求める。
最終的な報告該当性の判断は、最初に情報を受けた担当者だけに委ねず、各社の手順で指定された者または部門が、報告要否、報告区分および期限を評価して行う。だからこそ、社内報告の基準は法定報告の基準より広く設定しておくとよい。疑わしければ、まず社内の指定窓口へ上げる。

早期報告を支える組織文化
ここでも効くのは、問題や懸念を報告した人を責めない文化である。報告遅延の背景には、担当者の怠慢だけでなく「上げたら叱られる」という組織風土が存在することがある。悪い知らせが速く上がる組織では、早期に伝えた人を責めず、その相談やエスカレーションを評価する傾向がある。
逆に、報告した現場を問い詰める会社では、情報が現場に滞留し、指定部門が知るころには対応が遅れている。報告の速さは、手順・教育・記録システムと同じくらい、文化の産物なのだ。「情報を入手した日」は、社内で適時に記録すべき事項であり、当局の調査等では、関連記録からその妥当性が事後的に検証されることがある。
当局の調査担当者等は、メールのタイムスタンプ、修理受付票、苦情処理記録、コールセンターのログなどを確認し、実際の情報入手時期を検証することがある。指定窓口への連絡日だけを情報入手日として扱っても、それが実際の情報入手時期と一致するとは限らない。だからこそ、最初に情報を受けた担当者が、入手日時、情報源、事象の内容、製品情報、患者への影響、社内連絡日時を記録する習慣が、報告遅延を防止し、期限管理の妥当性を説明するための重要な基盤になる。情報が不完全でも、記録とエスカレーションを先送りしてはならない。

時計は、会社の準備が整った日ではなく、適用規制上、製造販売業者が当該情報を入手したと評価される日に動き始める。その一日の見落としが、結果として報告遅延ーー場合によっては不報告ーーとの評価につながりうるのである。
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