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EUにおける医療機器規制(MDR/IVDR)

分析的性能と臨床的性能の違い

「正確に測れているのに、なぜ臨床で使えないと言われるのか」ーーIVD(体外診断用医薬品)の開発現場で、技術者がこぼす言葉である。装置は設計どおりに動き、標準物質を入れれば期待される範囲内の値を返す。それでも「臨床的性能が示せていない」と薬事から差し戻される。分析的性能と臨床的性能ーーこの二つが別物だと、頭では知っていても腹に落ちていないと、こうした手戻りが起きる。

  • 分析的性能(analytical performance)とは「測りたいものを、意図した検体種類・測定範囲・使用条件の下で、どれだけ正しく検出・測定できるか」である。
    真度、併行精度・再現精度、検出限界、直線性、共存物質の影響ーー要するに、検査システム(装置・試薬・必要ならソフトウェアを含む)が分析技術としてどれだけ信頼できるかを問う。
    ここは主として工学と分析科学の世界であり、標準物質や適切な検体、反復測定、妨害・交差反応試験などを通じて詰めていける。
  • 一方、臨床的性能(clinical performance)とは「その測定結果が、対象集団における特定の疾患、臨床状態または生理学的・病理学的状態を、どの程度適切に反映するか」である。
    同じ結果でも、健康な人と患者をどれだけ切り分けられるか、陽性と出た人が本当に病気である割合はどれくらいかーーこちらは患者集団の中で初めて意味を持つ。
    試験管の中では決して見えてこない性能だ。

ここで一つ、区別しておくべき概念がある。臨床的性能と、臨床的有用性(clinical utility)は同じではない。「その検査を使うことで診療判断や患者アウトカムが実際に改善するか」は臨床的有用性の問題であり「結果が臨床状態とどれだけ対応するか」という臨床的性能より一段広い。

「臨床で役に立つ」という言葉は、しばしばこの二つをまたいで使われる。混同しやすい第一の落とし穴である。混同はもう一つ「感度」という言葉が複数の世界に登場することからも起きる。

ごく微量まで検出できるという分析感度(ここでは主に低濃度の検出能力、とりわけ検出限界を指す)と、患者を取りこぼさないという診断感度は、まったく別の概念だ。前者がいくら優れていても、後者が伴うとは限らない。微量まで検出できても、その低濃度域における生理的変動や臨床的意義を踏まえて判定閾値を設定しなければ、病気でない人まで陽性と判定し、かえって臨床では使いにくくなることがある。

さらに、臨床的性能は装置固有の一つの数字だけでは語れない。同じ検査でも、有病率の低い集団に使えば、陽性と出た人のうち本当に患者である割合(陽性的中率)は下がる。装置は何も変わっていないのに、使う集団が変われば、同じ陽性結果が持つ臨床的な意味や予測的価値も変わる。

もっとも、集団依存性は陽性的中率だけの話ではない。診断感度・診断特異度も、疾患のスペクトラムや重症度、併存疾患、患者の選び方、参照法、判定閾値などによって変動する。分析的性能が規定された測定条件の下で評価される検査システムの性能であるのに対し、臨床的性能は対象集団・使用目的・判定閾値といった文脈に強く依存するーーここも両者を分ける決定的な違いである。

この構造を、開発の順番と取り違えてはならない。「まず分析的性能を完璧にしてから臨床を考える」という直線的な進め方は、しばしば失敗する。何を、どの検体で、どの範囲または判定閾値において、どの程度の正確さで検出・測定すれば臨床判断に足りるのかーーその要求は、意図する使用目的と臨床性能目標の側から降りてくるからだ。

臨床のゴールから分析の目標値を導き、両者を反復的に整合させる。これは分析的性能の確立を後回しにするという意味ではない。向きを誤ると、無駄に高精度なだけで誰も使わない検査が出来上がる。

なお、より厳密には、IVDの性能は三層で捉えるのが妥当である。すなわち、測定対象と疾患・臨床状態との関連が科学的に成立しているかを問う「科学的妥当性(scientific validity)」、測定対象を技術的に正しく検出・測定できるかを問う「分析的性能」、そして結果が対象集団の臨床状態とどれだけ相関するかを問う「臨床的性能」ーーEU IVDRはこの三要素を区別する。バイオマーカーを極めて正確に測定できても、そのバイオマーカーと対象疾患との関連が確立していなければ、科学的妥当性という別の根拠が不足しているのである。

実務では、これら三つの要素は、根拠となる資料も評価の観点も異なる。分析的性能は主として管理された試験環境で評価・最適化できるが、臨床的性能は、意図する使用目的と対象集団を反映した臨床性能試験、既存の臨床データ、文献など、適切な臨床的エビデンスによって立証する必要がある(他の情報源のみに依拠する場合には、その妥当性を説明しなければならない)。前者だけ厚くして申請に臨み、後者で足を止めるーー分析技術の最適化を先行させてきた組織ほど、この落とし穴にはまることがある。

正確に測れることは、出発点にすぎない。その結果が意図した臨床目的に照らして意味を持つことが示されて初めて、IVDとしての臨床的性能が成立する。さらに、それが診療判断や患者アウトカムの改善につながるかは、臨床的有用性として別に問われる。測る技術と、臨床的な意味を保証する営みは、地続きでありながら別の山なのである。

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