ベンダーの活用と作業の二重化排除
「ベンダーが実施したテストを、念のため自社でもう一度やり直す」ーーCSV(コンピュータ化システムバリデーション)の現場で、いまだに広く見られる光景である。だが、リスクに見合わないこの種の重複は、多くの場合合理的でない。市販ソフトウェア製品そのものの品質保証は、本来それを開発したベンダーの仕事だからだ。
ソフトウェアの単体テストや結合テストは、ソースコードと設計思想を最も深く理解している開発者が行うのが、最も効率的かつ確実である。製薬企業や医療機器企業のユーザーが、中身を知らないまま同じテストを外側からなぞっても、ベンダーの品質保証を上回る精度は望めない。それどころか、限られた検証資源を「すでに保証されている部分」に費やすことで、本当に自社で確かめるべき部分ーー自社の業務プロセスに固有の設定や運用、いわゆるインテンデッドユースーーの検証がおろそかになる。これでは本末転倒である。
この考え方は、決して手抜きの正当化ではない。CSVの国際的な指針であるGAMP 5は、リスクベースアプローチ、ライフサイクル管理、そしてサプライヤ関与の活用(leveraging supplier involvement)を重視しており、サプライヤの知識・試験結果・品質活動を適切に評価したうえで活用する考え方と整合している。欧州医薬品GMPのAnnex 11も、コンピュータ化システムに関わる供給者および外部サービス提供者を適切に管理・監督することを求めている。
医療機器領域でFDAが説く「最小限の負担(least burdensome)」の原則、さらに近年のCSA(Computer Software Assurance)の流れも、意図した用途(intended use)とリスクに応じて保証活動を設定すべきという同じ方向を向く。したがって、ベンダーが実施済みの検証を機械的に繰り返すのではなく、その成果物が自社のintended use、リスク、規制要件に照らして利用可能かを評価することこそが重要である。
ここで陥りがちな誤りが、ベンダーに「うちのSOP通りに文書を作れ」と強いることである。
一見、自社品質基準の徹底に見えるが、実態は逆効果になりやすい。優れたサプライヤは、自社の確立された手順とテンプレートで品質を作り込んでいる。慣れない他社の様式を押しつけられれば、本来の品質保証プロセスが乱れ、かえって成果物の質が落ちる。
尊重すべきはベンダー自身のQMS(品質マネジメントシステム)であって、自社の書式ではない。求めるべきは「私たちの様式で書け」ではなく、「あなた方の様式で、私たちが検証できる形で示せ」である。
筆者の四十年近い経験を振り返っても、ベンダーが提供する保証文書ーーテスト記録や妥当性確認報告書ーーをそのまま受け入れれば十分なのに、わざわざユーザー側で一から書き直す企業が後を絶たない。
これは作業の二重化の最たるものだ。必要なのは、その文書を「自社の様式に転記し直す」ことではない。「その文書が信頼に足るか」をサプライヤアセスメントで見極める目である。転記に費やした時間は、品質を一ミリも高めない。
ただし、サプライヤ成果物の活用は、規制対象企業の責任を免除するものではない。ユーザー企業は、サプライヤのQMS・開発・試験プロセス、提供文書の完全性、そして自社のintended useに対する適合性を評価し、必要に応じて受入試験や設定確認、業務プロセスへの適合性確認を自ら実施しなければならない。「ベンダーがやったから検証は不要」なのではなく「ベンダーの保証をどこまで使えるかを見極めたうえで、残るリスクを自社で確かめる」のである。
要は、エネルギーの向け先を変えるべきなのだ。ベンダーがやった仕事をやり直すことに労力を注ぐのではなく「このベンダーは信頼できるか」「この保証文書はどこまで使えるか」を評価することに注ぐ。前者はコストでしかないが、後者は品質と効率を同時に高める投資である。
優れたCSVとは、すべてを自前で検証することではない。誰の保証を、どこまで活用できるかを賢く見極めることなのである。
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