コンパニオン診断(CDx)の基礎
「この薬を使う前に、まず検査を受けてください」ーー今や珍しくないこの一言の裏側に、コンパニオン診断(CDx/companion diagnostics)という仕組みがある。特定の医薬品から利益を得る可能性が高い患者や、重篤な副作用のリスクが高い患者を、治療前に、あるいは治療中に見分けるための検査である。調べる対象は遺伝子変異だけではない。
タンパク質の発現を見る免疫組織化学など、手法は幅広い。検査結果が薬の使用可否や用法・用量、投与継続の判断に用いられる以上、その一枚の判定は、治療方針そのものを左右する。

CDxが他のIVD(体外診断用医薬品)と際立って違うのは、特定の医薬品と結びつけて評価される点だ。ある遺伝子変異を持つ患者にだけ効く薬があるとき、その変異を正しく検出できなければ、適切な患者選択ができず、臨床試験で示されたベネフィット・リスクを実臨床で再現できない。だから規制当局は、薬と検査を切り離さずに扱う。
もっとも、制度上は「一つの承認パッケージ」になるわけではない。米国でも日本でも、医薬品とCDxは別個の申請・審査の対象であり、担当部門が連携して判断と時期の整合を図る。EUではさらに、医薬品は医薬品の承認手続を、CDxはノーティファイドボディによるIVDR適合性評価を受け、その過程で医薬品当局またはEMAへのコンサルテーションが行われる。別々の手続を噛み合わせて動かすことーーそれがCDx規制の実像である。

この関係は、開発のあり方を大きく変える。従来、薬は製薬企業が、検査はIVD企業が、それぞれ別の世界で作ってきた。だがCDxでは、薬の臨床試験の段階から、どの検査でどう患者を選ぶかを一緒に設計することが強く推奨される。
臨床試験で用いたアッセイこそが、対象患者の定義と医薬品の臨床成績を支える基準になるからだ。ただし、治験で使ったアッセイがそのまま市販CDxになるとは限らない。両者が異なる場合には、検体を用いた一致性・相関性の評価により、アッセイ間の差が治療効果の推定に与える影響を橋渡しする必要がある。
また、早期の共同開発は望ましい戦略ではあるが、常に法的な必須要件というわけではない。既承認のパネル検査に新たな対応薬や適応を追加する経路もあり、一薬一検査の同時共同開発だけがCDxの姿ではない。

一体的な評価は、規制側の体制にも影を落とす。薬を審査する部門と、検査を審査する部門(EUでは認証を担う機関)は、米国・日本・EUのいずれでも分かれている。CDxは、その二つを歩調を合わせて進める必要があり、時期を揃えるだけでも容易ではない。
足並みが乱れれば、患者が新しい治療を受けられる時期は実際に遅れうる。ただし「対になる相手がいなければ患者に届かない」と断定はできない。FDAは、重篤または生命を脅かす疾患で満足な代替治療がなく、薬の利益が未承認CDxに伴うリスクを上回る場合には、医薬品の先行承認を認め得るとしている。
EUでも、適切なCEマークIVDが利用できない場合に代替の妥当性確認済み検査を用いる旨が製品情報で示されることがある。原則は同期、例外は制度として用意されているーーそう理解するのが正確だ。

CDxもIVDの一類型であり、リスクの性質そのものが別物になるわけではない。違うのは、誤った結果が治療選択に直結するため、臨床的影響が大きくなり得ることだ。以前、偽陰性と偽陽性の二方向を書いたが、CDxではその両方が、次の投薬という行為を通じて増幅される。
ここで一点、厳密にしておきたい。偽陽性・偽陰性とは、参照法または真のバイオマーカー状態に対する検査結果の誤分類であって「その患者に薬が効くかどうか」と同義ではない。バイオマーカー陽性は個々の患者の奏効を保証しないし、陰性が必ず無効を意味するわけでもない。
それでもリスクの向きははっきりしている。偽陰性により、本来は治療対象となり得た患者が有益な治療機会を失うおそれがある。偽陽性により、利益を得にくい患者が無益な治療や有害事象のリスクに曝されるおそれがある。IVDの害は情報の誤りから生じると述べてきたが、CDxはその「情報が次の医療行為の引き金を引く」構造が最も剥き出しになった領域だといえる。

実務で注意したいのが、CDxとよく似て非なる「補完的診断(complementary diagnostics)」の存在である。前者が「なければ薬を使えない」関門であるのに対し、後者は投与の必須条件ではない。とはいえ単なる参考情報でもなく、ラベリングに組み込まれ得る重要なベネフィット・リスク情報である。
なお、補完的診断は米国の実務で用いられている概念であり、CDxのように確立した法的カテゴリーとして扱うべきではない。EU IVDRにも同名の法的カテゴリーは存在しない。両者を混同すると、検査の位置づけも規制上の重みも見誤る。近年は一つの検査で多数の遺伝子を一度に調べる包括的なパネルも広がり、一つの薬に一つの検査という古典的な一対一の枠組みは、さらに複雑になりつつある。

がん治療が個別化へ進むほど、「誰に効くか」を見分けるCDxの重みは増していく。薬の物語は、もはや検査から始まるのである。
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