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クッキーは170℃±5℃で焼け

ーーCPPと環境モニタリング機器の本当の役割

175℃を超えると焦げ、165℃を下回ると半生になる。クッキー工場のバーナー担当者は、なぜ火加減を調整し続けるのか。本稿では、このたとえ話を入り口に、医薬品の製造で重視されるCPP(重要工程パラメータ)の考え方を解説する。あわせて、温湿度計やパーティクルカウンターといった環境モニタリング機器が、品質保証のどこを支えているのかを考える。

バーナー担当者はなぜ火力を調整するのか

あるクッキー工場の製造指図書(製造の条件や手順を指示する文書)に、「170℃±5℃で焼くこと」と書かれているとしよう。バーナーを管理する担当者は、温度計の表示を見ながら、175℃を超えそうになると火力を下げる。165℃を下回りそうになると火力を上げる。

175℃を超えるとクッキーが焦げ、165℃を下回ると半生になるからである。逆に言えば、170℃±5℃で焼けば、あらかじめ定めた品質のおいしいクッキーが毎回焼き上がる。担当者は、焼き上がったクッキーを1枚ずつ味見しているわけではない。

温度という条件を守り続けることで、品質を作り込んでいるのである。これが品質管理(QC)の姿である。

もし担当者が温度を気にせず、焼き上がったクッキーを見て焦げたものを取り除くだけだったらどうなるか。大量のクッキーが捨てられ、見た目では分からない半生のクッキーは見逃されるかもしれない。

CPP(重要工程パラメータ)とは

医薬品の世界では、この温度のような条件をCPP(Critical Process Parameter:重要工程パラメータ)と呼ぶ。ICH(医薬品規制調和国際会議)は、医薬品の承認審査に関する基準を国際的にそろえるための組織である。そのICHの製剤開発ガイドラインを基にした厚生労働省の通知は、CPPを次のように定義している。

「工程パラメータのうち、その変動が重要品質特性に影響を及ぼすもの、したがって、その工程で要求される品質が得られることを保証するためにモニタリングや管理を要するもの」ここでいう重要品質特性(CQA:Critical Quality Attribute)とは、求める製品品質を保証するために、適切な限度や範囲の中に収まっているべき物理的、化学的、生物学的な特性などを指す。クッキーで言えば、焼き色や焼き加減、水分量がCQAに当たる。オーブンの温度は、その変動が焼き加減に影響するのでCPPである。

焼成時間も、同じようにCPPの候補になるだろう。工場には数え切れないほどの条件があり、すべてを同じ厳しさで管理するのは現実的ではない。どの条件が品質に効くのかを見極め、そこに管理の力を集中させる。CPPを特定する意味はここにある。

パラメータを守れば、なぜ品質が一定になるのか

医薬品の品質試験の多くは、製品を溶かしたり砕いたりする破壊試験であり、全数を試験することはできない。だからこそ、工程の条件を守ることが品質の根拠になる。「CPPを定めた範囲に保っている限り、同じ品質の製品ができるはずだ」と考えるのである。

ただし、この考え方が成り立つには前提がある。「±5℃」という幅が、勘ではなくデータに基づいて決められていることである。医薬品の開発では、工程の条件を変えると品質がどう変わるかを実験で確かめ、品質が確保できる範囲を定めていく。

前述のガイドラインでは、品質を確保することが立証されている条件の組み合わせを「デザインスペース」と呼んでいる。また、温度を監視しているだけでは不十分である。範囲を外れそうになったら火力を調整し、外れてしまったら処置をする。監視と調整がセットになって、初めてコントロールと言えるのである。

範囲を外れてしまった場合は、温度を戻すだけでは終わらない。外れていた間に焼いたクッキーの品質に影響がなかったかを評価し、必要なら出荷を止める。医薬品でも、CPPが範囲を外れた時間帯に作った製品をどう扱うかは、品質保証上の重要な判断になる。

監視の記録も欠かせない。温度を守っていたことを後から示せなければ、顧客や規制当局に対して、品質が一定だったと説明できないからである。逆に言えば、CPPを守っていたのに品質特性が外れたなら、CPPの選び方や範囲の決め方が間違っていたことになる。

そのときは、工程の条件と品質の関係を確かめ直す必要がある。クッキー工場でも、焼き上がりを左右するのはオーブンの温度だけではないかもしれない。生地を扱う部屋の温度や湿度が変われば、生地の状態も変わる。工程の条件を監視するということは、製品に触れる環境まで含めて見るということである。

環境モニタリング機器が支えているもの

製品や工程によっては、製造環境の温度や湿度、空気中の微粒子の数も品質に影響する。湿気を吸いやすい原料を扱う工程や、無菌の医薬品を作るクリーンルームなどがその例である。クリーンルームの清浄度は、国際規格ISO 14644-1で、空気中の粒子の濃度によってクラス分けされる。

その測定の基本となるのが、光の散乱を利用するパーティクルカウンター(空気中の微粒子数を測る機器)である。ここで、クッキー工場の温度計が実際より3℃低く表示していたらどうなるかを考えてみよう。表示が174℃なら、担当者はまだ範囲内だと判断する。

しかし実際の温度は177℃であり、クッキーは焦げ始めている。±5℃の幅のうち3℃を、温度計のずれが食いつぶしているのである。担当者が指図書どおりに作業しても、品質は保証されない。

つまり、環境モニタリング機器や計測機器は「条件が守られている」という判断そのものを支えている。測定値が正しくなければ、CPPを管理しているつもりでも、実際には管理できていないことになる。

機器メーカーが説明できるとよいこと

こうした機器を製薬企業に納める企業にとって、自社製品が顧客の品質保証のどこに効いているかを説明できることは、大きな強みになる。例えば、その機器がどの工程のどの条件を監視するために使われ、その測定値が製品品質のどんな判断の根拠になるのか。測定値の正確さをどう保つのか。

範囲を外れたときに、どう気づけるのか。温湿度計であれば、校正(基準となる器具と比べて表示のずれを確かめること)の方法や、記録が後から書き換えられない仕組み、停電時に記録がどうなるかといった点を、顧客は気にするだろう。こうした問いにCPPやCQAといった顧客の言葉で答えられれば、自社製品は単なる計測器ではなく、顧客の品質保証を支える仕組みの一部として理解されるはずである。

まとめ

  • CPP(重要工程パラメータ)とは、その変動が製品の重要品質特性に影響するため、監視や管理が必要な工程パラメータである
  • CPPを定めた範囲に保ち、外れそうになったら戻すことで、毎回同じ品質を作り込む
  • 温湿度計やパーティクルカウンターは、「条件が守られている」という判断の前提を支える機器である

クッキーの味は、オーブンの前の担当者と、正しい温度を示す温度計の両方で決まる。自社の製品は、顧客の工程でどの「温度計」の役割を担っているだろうか。

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