日本のGMP適合性調査 vs 米国のcGMP査察
「申請して受ける調査」と「予告なしの立入り」
はじめにーー同じGMPなのに「受け方」がまるで違う
GMP(Good Manufacturing Practice、医薬品の製造管理及び品質管理の基準)は世界共通の考え方であり、日本も米国も、医薬品の製造所がGMPを守っているかを当局が確認する仕組みを持っている。ところが、その確認の「受け方」は両国で驚くほど異なる。日本の製造所は調査を「申請して受ける」のに対し、米国FDAの査察は「予告なしにやってくる」のが基本だからである。本稿では、日本のGMP適合性調査と米国のcGMP査察を対比し、この違いがどこから来るのか、実務では何に気をつけるべきかを解説する。
日本のGMP適合性調査ーー承認要件としての「申請ベース」の調査
日本では、医薬品の製造販売承認を取得する際、その品目に関わる製造所がGMP省令に適合していることを確認する調査(GMP適合性調査)を受けなければならない。調査の主体はPMDA(医薬品医療機器総合機構)または都道府県であり、承認申請者が調査申請書を提出し、手数料を納めて調査を受ける。書面調査で済む場合と実地調査が行われる場合があるが、いずれにせよ日本の調査は、承認という行政処分の要件として、企業の側から「申請して受ける」建付けなのである。
承認取得後も終わりではない。5年ごとに定期のGMP適合性調査を受ける必要があり、これを怠れば承認の維持に関わる。さらに2021年8月施行の改正薬機法では「区分適合性調査」の制度が導入され、品目ごとではなく製造工程の区分(無菌医薬品、固形製剤など)ごとに調査を受けて基準確認証の交付を受ければ、個別品目の調査を合理化できる仕組みも整った。
とはいえ基本構造は変わらない。日本の調査は日程を調整したうえで実施されるのが通常であり、製造所は文書を整え、担当者を配置し、準備万端で調査当日を迎えることができる。
米国のcGMP査察ーー予告なしが基本の「立入り」
米国では発想が根本から異なる。FDAの査察官は、連邦食品医薬品化粧品法に基づく立入り権限を持ち、米国内の製造施設に対しては事前予告なしに現れるのが原則である(海外施設については渡航手配の都合上、予告されることが多い)。ある朝突然、査察官がロビーに現れて身分証を提示するーー米国の製造所にとってこれは日常の風景である。
査察には大きく二種類ある。承認審査の一環として行われるPAI(Pre-Approval Inspection、承認前査察)と、市販後に定期的に行われるサーベイランス査察である。かつてサーベイランス査察は2年ごとと法律で定められていたが、2012年のFDASIA(FDA安全性・革新法)以降は、施設のリスクに基づいて頻度を決める運用へ移行した。
品質システムの状態が良好で査察歴に問題のない施設は査察間隔が延び、無菌製剤のようにリスクの高い工程を持つ施設や、過去に指摘の多かった施設には頻繁に査察が入る。費用の面でも対照的である。日本では調査のたびに申請手数料を納めるが、米国には査察ごとの手数料が存在しない(後発品制度に基づく施設年会費のような負担金はあるが、査察の対価ではない)。米国の査察は企業が「受けるサービス」ではなく、当局の執行活動そのものなのである。
指摘への対応ーーForm 483とWarning Letterは「公開の場」で進む
査察後の流れも対照的である。FDA査察官は、査察終了時に指摘事項を「Form 483」という文書にまとめて施設に手交する。企業は通常15営業日以内に是正計画を回答し、FDAは査察報告書(EIR)を作成のうえ、施設をNAI(指摘なし)・VAI(自主的改善で足りる)・OAI(行政措置が必要)に分類する。
OAIとなり改善が不十分な場合はWarning Letter(警告書)が発出・公表され、さらに輸入警告(Import Alert)により当該施設からの製品の米国への輸入が事実上止められることもある。Warning Letterや483の内容はFDAのウェブサイトで公開され、取引先・委託元・投資家の目にも触れる。指摘と是正のプロセスが「公開の場」で進むのが米国流であり、一通のWarning Letterが受託製造ビジネス全体を揺るがすことも珍しくない。
日本では、調査で不備が見つかれば改善指導や改善命令が行われるが、個別の指摘内容が逐一公表される運用は基本的にない。承認や調査結果の可否という形で静かに反映される仕組みと言える。
査察で見られるものは同じーーデータインテグリティという共通言語
受け方は違っても、調査・査察で確認される中身は国際的に共通化が進んでいる。品質システム、施設・設備、原材料管理、製造工程、包装・表示、試験室管理といったシステムを軸に、手順書と記録の整合、逸脱・変更・OOS(規格外試験結果)の処理、教育訓練などが確認される。近年特に重視されるのがデータインテグリティ、すなわち記録が改ざんされておらず、作成者・日時が追跡でき、生データが保存されているかという観点である。
試験機器の監査証跡(オーディットトレイル)を査察官がその場で確認し、都合の悪い試験結果を「練習」と称して破棄していた事例が指摘されるーーこうした指摘は近年のWarning Letterの定番であり、日本の調査でも同様の観点が浸透している。つまり、どちらの当局が来ても見られるものは本質的に同じであり、平時の記録管理の質がすべてを決めるのである。なお、日本の製造所であっても米国向けに製品を供給していればFDA査察の対象となる。
逆に海外の製造所も、日本向け品目についてPMDAの海外実地調査を受ける。自社の製造所・委託先が「どの国の当局から見られる立場にあるか」を棚卸ししておくことは、品質保証部門の基本動作といえる。
国際的な潮流ーーPIC/SとMRA、リスクベース化
とはいえ、日米の仕組みは近づきつつもある。日本のPMDAと厚生労働省は2014年にPIC/S(医薬品査察協定・査察協同スキーム)へ加盟し、査察手法や指摘のグレード分けの国際整合が進んだ。日EU間にはGMP分野の相互承認協定(MRA)があり、相手国の査察結果を受け入れることで重複査察を減らしている。米国とEUの間でも査察結果の相互信頼が運用されており、リスクに応じて査察資源を配分するという考え方は、いまや三極共通の方向性である。
おわりに
日本は「承認の要件として申請ベースで確認する」入口管理型、米国は「予告なしの立入りと公開の執行で担保する」事後担保型である。米国向けに製品を供給する製造所にとっては「いつ来るか分からない査察」と「公開される指摘」が前提となる。データインテグリティの確保、文書化の徹底、模擬査察の実施といった平時からの備えこそが、グローバル供給の生命線なのである。
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