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GMPはなぜ生まれたか

「試験だけでは品質は守れない」に至る道

はじめにーーGMPの条文には、すべて事件の影がある

GMP(Good Manufacturing Practice:適正製造規範)は、今日の製薬業界で空気のような存在である。しかし、交差汚染の防止、製造記録の照査、バリデーション、改ざん防止包装ーーGMPを構成する要求の一つひとつには、それを生んだ具体的な事件がある。本回は、GMPが「なぜ」生まれ、「なぜ」今の形になったのかを、事件史としてたどる。

条文の背後の物語を知れば、GMPは暗記の対象から納得の対象に変わるはずである。

1941年サルファチアゾール事件ーー交差汚染が教えた「作り方」の重要性

第7回で見たサルファニルアミド事件(1937年)は「安全性を確かめずに売った」事件であった。その4年後の1941年、今度は「作り方」の欠陥が大惨事を招く。

大手製薬企業が製造したサルファチアゾール錠に、鎮静睡眠薬フェノバルビタールが混入したのである。同じ製造設備を洗浄不十分のまま使い回したことによる交差汚染で、一錠に致死量に迫るフェノバルビタールを含むロットが市場に出て、約300人が死亡または重篤な被害を受けたとされる。
FDAはこの事件を契機に、企業へ製造管理と品質管理の抜本的強化を求めた。

ロットごとの記録、設備の清掃管理、製造と包装の分離、試験部門の独立といった、今日のGMPの原型となる管理項目は、この事件への対応の中で形作られていった。「最終製品の試験に合格したかどうかだけでは、混入は防げない。品質は工程で作り込むしかない」ーーGMPの根本思想は、規格書ではなく事故現場から生まれたのである。

1962年の法制化と「c」の意味

第9回で述べたとおり、サリドマイド事件を受けた1962年のキーフォーバー・ハリス修正は、GMPを法律に書き込んだ。医薬品が「現行の適正製造規範(current Good Manufacturing Practice)」に従って製造されていなければ、たとえ試験に合格していても不良品(adulterated)とみなすーーこの一文により、製造管理の欠陥そのものが法違反となった。FDAは翌1963年に最初のGMP規則を公布する。

見落とされがちだが、重要なのは「current(現行の)」の一語である。GMPの要求水準は固定ではなく、科学と技術の進歩とともに上がり続けることが、法律上予定されているのである。60年前に適合していた製造管理が今日では不適合になり得る。

FDAのGMPが「cGMP」と表記されるのは、この動的な性格ゆえであり、企業に継続的な改善を義務づける思想の表れである。

事件のたびに鍛えられたGMPーー大改正、タイレノール、Barr判決

1970年代初頭、大手メーカーの大容量輸液(LVP)の無菌性不良による敗血症の多発事故が起き、無菌医薬品の製造管理が根本から見直された。最終製品の無菌試験はサンプリング検査にすぎず、合格しても全数の無菌は保証できない。

ならば、滅菌工程そのものが確実に機能することを事前に立証するしかないーーこの発想から、FDAの担当官らによって提唱されたのが「バリデーション」の概念である。工程が意図したとおりの品質を恒常的に生み出すことをあらかじめ検証しておくというこの考え方は、無菌操作から出発して製造工程全般、試験法、洗浄、そしてコンピュータ化システム(CSV)へと拡大し、GMPの中核概念となった。この経験を踏まえ、FDAは1978年にGMP規則を大改正し、現在の21 CFR Part 210/211の骨格を確立する。

1982年には、店頭の解熱鎮痛剤タイレノールに何者かが青酸化合物を混入し、7人が死亡する事件が起きた。これは製造ではなく流通段階の犯罪であったが、FDAは改ざん防止包装(タンパーエビデント包装)の規則で応じ、GMPの守備範囲は工場の外へと広がった。
1980年代末には、ジェネリック医薬品の承認をめぐる贈収賄・データ不正事件(ジェネリックスキャンダル)が業界を揺るがし、申請データの信頼性が厳しく問われるようになる。

そして1993年、規格外試験結果(OOS)の扱いをめぐる米国政府対Barr Laboratories事件の連邦地裁判決が「不合格の試験結果を合格するまで再試験して消してはならない」ことを明確にした。試験室のデータの扱いに関する今日のデータインテグリティ要求の源流の一つが、この判決である。

21世紀のcGMPへーーリスクベースと国際化

2002年、FDAは「21世紀のcGMPイニシアティブ」を打ち出し、GMP行政を科学とリスクに基づく近代的なものへ転換した。

品質をあらかじめ設計するQbD(Quality by Design)、工程を連続的に監視するPAT(プロセス解析技術)といった考え方が推進され、ICH Q8〜Q10(製剤開発・品質リスクマネジメント・医薬品品質システム)として国際ガイドライン化された。2011年にはFDAがPIC/Sへ加盟し、査察の国際整合も大きく前進した。
日本のGMPもこの系譜に連なる。

1974年に行政指導としてのGMPが導入され、1980年に省令として法制化、2021年の改正GMP省令では医薬品品質システム(PQS)や データインテグリティといった国際的要求が明文化された。米国で事件が規制を生み、その規制が国際標準となって日本に到達するーーこの流れを知っておくと、GMPの改正動向を先読みする眼が養われる。

おわりにーー次は「データ」の信頼性

GMPは製造の信頼性を確立した。

しかし1970年代、FDAはもう一つの足元の崩壊に気づく。承認審査の土台である動物試験データそのものが、捏造されていたのである。次回は、GLP(優良試験所規範)を生んだ史上最大級のデータ捏造スキャンダルの物語である。

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