「予防処置=水平展開」だと思っていませんか
~CAPA で最も誤解されている、是正と予防の境界線~
「予防処置をしました」と報告される事例の大半は、実は予防処置ではない。CAPA を回している組織でも、ここの誤解が一番根深い。最も多い誤解はこうだ。
「ある不適合の根本的原因を特定し、是正処置をした。同じ根本的原因が他のプロセス・他の製品にも存在するかもしれないから、横展開・水平展開した。これが予防処置である」ーー。違う。これは是正処置の一環でしかない。
ISO 13485 8.5.3 は予防処置を「起こり得る不適合の発生を防止するために、その原因を除去する処置」と定義する。鍵は「起こり得る」ーーまだ起きていない不適合、すなわちリスクである。同じ根本的原因を別のプロセスに展開する行為は、すでに特定した既知の原因を潰しているに過ぎない。
これは是正の延長である。つまり水平展開は予防処置ではなく是正処置である。正しい予防処置とは「同じような望ましくない結果をもたらす別の根本的原因を、自らの経験から探し出して未然に防ぐ」ことを指す。
飲酒運転による死傷事故を例にすると分かりやすい。
- 応急処置で怪我を治す。事故車を路肩に移動させるーーこれが修正(直接原因の除去)。
- 運転手の免許を剥奪するーーこれが是正処置(再発防止)。
- 同じ「死傷事故」という結果をもたらし得る別の原因、たとえば煽り運転、過労運転、高齢者の判断力低下、こうした未顕在のリスクを見つけて潰すーーこれが予防処置である。危険運転致死罪の新設は、まさにこの予防処置の典型例だ。
つまり予防処置とリスクマネジメント(ISO 14971)は、論理構造として同じである。品質マネジメントとリスクマネジメントは車の両輪であり、PDCA を共に回す。片輪だけでは車はまっすぐ進まない。
CAPA の質は Quality Culture の成熟度を映す鏡だと言える。問題を隠す文化から、問題から学ぶ文化へーーこの移行が CAPA の運用に表れる。是正処置の登録件数だけ追っている組織は、まだ「起きた問題」しか見ていない。
予防処置の登録件数、そしてその登録に至るリスク発見プロセスが回り始めて、初めて CAPA は組織の価値創造装置になる。CAPA の月次レビューで、ぜひ問うてほしい。「今月登録された予防処置のうち、別の根本的原因を新たに見つけたものは何件か」と。横展開だけが並んでいるなら、それは是正処置の延長であって、予防処置ではない。
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