SOPとは
SOPは、スタンダードオペレーションプロシージャ(Standard Operating Procedure)の略である。日本語では標準業務手順書(標準作業手順書と訳される場合もある)という。作業のやり方をあらかじめ定めた文書であり、ここで大切なのは先頭の「Standard(標準)」という言葉である。これは、野球でいうところのストライクゾーンにあたる。
SOPの「標準」はストライクゾーンである
投手はストライクゾーンをめがけて球をコントロールする。品質管理(QC:Quality Control)も同じで、品質のストライクゾーンをめがけて、作業や工程をコントロールする活動である。ストライクゾーンがあらかじめ決まっているから、投手は狙って投げられ、審判もボールかストライクかを判定できる。品質の世界でその役割を担うのが、SOPや製品標準書に書かれた「標準」なのである。

「違反が出ないようにSOPを変えました」
筆者は長年製薬業界で各社のSOPを見てきたが、特に日本の企業では、SOP違反やSOPからの逸脱を嫌って、SOPを変更することがよく見られる。つまり、逸脱が起きないように、違反が起きないように、SOPを緩くしたり、あらゆる例外ケースを記載したりするのである。一見、現場の実情に合わせた前向きな取り組みに聞こえるが、品質管理の考え方からすると、これは本末転倒である。
ある製薬企業で、筆者は改訂履歴が非常に多いSOPに気がついた。改訂の理由を尋ねると「SOP違反が起きてしまうので、違反が起きないようにSOPを変えている」という答えが返ってきた。例えば「作業後30分以内に記録する」という決まりを守れない人が続いたので、「当日中に記録する」に書き換えたとする。確かに違反の件数は減るだろうが、作業の実態は何も変わっていない。
変わったのはルールの方である。本来やるべきことは、SOP違反が起きないように作業をコントロールすることである。違反をなくすためにSOPを変えるのは、投手の制球が悪いからといってストライクゾーンを広げるようなものであり、しかも何をやっても違反にならない方向に広げている。これでは、品質を管理しているとは言えない。

さらに厄介なのは、数字の上では改善したように見えることである。SOP違反の件数を品質指標として追いかけている組織では、ルールを緩めた月から件数が急に減り、報告を受けた経営者は「現場が頑張った」と受け止めるかもしれない。しかし実際には、記録が遅れて内容が不正確になるリスクは、以前と同じか、むしろ見えにくくなっている。問題を測る物差しそのものを曲げてしまったのである。
また、SOPを頻繁に変更すると、ストライクゾーンが変わることになる。ストライクゾーンが頻繁に変更されるというのは問題である。昨日までのストライクゾーンが今日は変わっているとなれば、昨日までの業務は一体何だったのかということになる。
例外まで書き込んだSOPは、ただの「OP」になる
SOPに例外事項を含めてあらゆることを記載しようとする企業も多い。「原則はAとする。ただしBの場合はC、Dの場合はEでもよい」といった但し書きが増えるほど、手順書は分厚くなる。
しかし、ストライクゾーンを際限なく広げてしまうと何が起きるだろうか。どこを投げてもストライクになってしまう。ストライクゾーンが広すぎると、どこに投げてもストライクになり、コントロールの意味がなくなる。作業者も、どのやり方が本来の姿なのか分からなくなる。
もしSOPに例外処理等を含めて何でも記載するなら、それはSOPではない。筆者はよく揶揄して「これはSOPじゃないですね、OPですね」と言う。そこにスタンダード(標準)が記載されておらず、単なる作業手順(Operating Procedure)になってしまうからである。
したがって、SOPはある意味、狭めに設定しておき、その狭いストライクゾーンにいかに業務品質を収めるかということが大切である。SOPには標準だけを書き、どうしても標準から外れる場面は、別の正しい手続きで扱うのである。SOPに標準だけを書けば、当然、SOPに書かれていない作業をしなければならない場面が出てくる。問題は、そのときにどう手続きを踏むかである。

思いがけず外れたら「逸脱」として扱う
作業中に予期せず手順から外れてしまうことがある。これは「逸脱」である。医薬品の製造所に適用されるGMP省令(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令)の第15条は、逸脱の管理を定めている。逸脱の内容を記録し、影響を調査し、品質保証を担当する組織に報告して確認を受ける、という流れであり、逸脱は起きてしまった後に処理するものである。
一方、SOPどおりにできないことが事前に分かっている場合もある。そのときに「後で逸脱として報告すればよい」と考えるのは誤りである。担当者の判断で「今回だけ」と済ませるのも同じである。分かっているなら、実行する前に手続きを踏むべきである。
事後に理由を書くと、どうしても結果に合わせた説明になりやすい。「測定値に問題はなかったので、影響はなかった」という書き方であり、第三者から見れば、それは言い訳と区別がつかない。また、実行してから品質への影響に気づいても、製品はもう作られてしまっている。事前に検討していれば、代わりのやり方を工夫したり、実行そのものを見送ったりできたはずである。
正しい例外処理の方法
このような説明をすると、「例外が発生した時にSOP違反になってしまう」「逸脱になってしまう」と心配する人が多い。そのような場合には、正しい例外処理の方法を理解することが重要である。
正しい例外処理の方法とは何か。例えば、バリデーションであれ製造であれサービスであれ、何かを実施しようとする際に計画を立てる。その計画書に「今回はSOPの通りできない」という状況がある場合、なぜSOPを遵守できないか、その理由を記載してQA担当者などの第三者にレビューしてもらい、合意を得ることが重要である。つまり「先に書き、先に合意する」のである。
ここで注意すべきことは、都度都合に合わせてSOP側を変更してはならないということである。SOPは、規制要件が変わったり業務形態が変わったり組織が変わらない限り、あまり変更すべきではない。むしろSOPは狭く記載しておいて、例外が発生しそうな場合は、QA担当者と協議する。
その場合になぜSOPを遵守できないか、遵守しなくても品質保証上問題ないかということの理由を記載する必要がある。その理由を英語で「ジャスティフィケーション(Justification)」という。正当化できる根拠という意味である。これが重要である。
ここで注意したいのは、これは言い訳ではないということである。「できない」という言い訳ではなく、なぜ今回はSOPを一部変更してどのような活動をするのかという、正当化できる根拠を作ることが重要である。
QA担当者がこのジャスティフィケーション(正当化できる根拠)に対して合意し、お墨付きを与えた上で、責任者が計画を承認するのが、正しい例外処理の方法である。もちろん例外は発生しないに越したことはないが、めったに起きない、または稀にしか起きないことに対して、SOPに全て記載してしまうことは適切ではない。

ここでQA担当者の役割を誤解しないようにしたい。QA担当者は、実施部門から独立した第三者の立場で、その根拠が妥当かを確かめる。出された計画書に機械的に合意する窓口ではなく、根拠が弱ければ追加のデータや代替策を求め、品質への影響を否定できなければ合意しないという判断もありうる。
一方で、計画を実行するかどうかを最終的に決めるのは責任者である。QAが品質の観点から根拠を確かめ、責任者が業務の責任者として承認する。この役割分担があるから、例外処理に二重の歯止めがかかるのである。

例えば、環境モニタリングで、ある測定ポイントが設備工事のため一定期間立ち入れなくなったとする。計画書には、工事の期間と範囲、代わりに測定する位置、その位置で工程の環境を代表できると判断した理由を書く。これをQA担当者が確認して合意し、責任者が承認してから測定を始める。
こうしておけば、後日の監査や査察で「この期間はなぜ測定位置が違うのか」と問われても、計画書とジャスティフィケーション、QAの合意記録を示して説明できる。担当者が異動していても、判断の経緯は文書に残っている。例外処理の記録は、組織の記憶でもある。
ジャスティフィケーションに書くべきこと
ジャスティフィケーションは「仕方がなかった」という言い訳ではなく、第三者が読んで納得できる根拠でなければならない。筆者は少なくとも次の点を書くよう勧めている。
- なぜ標準どおりにできないのか、という事実
- 標準から外れることが製品の品質や患者の安全に影響しないと言える理由
- 影響を抑えるための代替策
- 例外を適用する範囲と期間
よくある悪い例は「人手が足りないため」「装置が故障したため」とだけ書いたものである。これは標準どおりにできない事情を述べているにすぎず、品質に影響しないと言える理由が抜けている。事情の説明と、正当化できる根拠は別物であり、QA担当者はこの違いを見極めて合意するかどうかを判断する。
Justificationという言葉は、品質の規格の中でも使われている。例えば、医療機器の品質マネジメント規格ISO 13485:2016は、要求事項の一部を自社の仕組みに適用しない場合、正当な理由(justification)を文書にすることを求めている(4.2.2)。「やらない」「外れる」と決めるなら、その根拠を書き残す。これが品質の世界の共通ルールである。
例外で済ませてはいけないもの
ただし、ジャスティフィケーションさえ書けば何でも許されるわけではない。注意点は二つある。第一に、国の承認を受けた事項は例外処理で変えられない。
医薬品は、製造方法などを定めた承認書に従って製造しなければならない。GMP省令第3条の2はこの「承認事項の遵守」を明記しており、承認事項を変える場合は、医薬品医療機器等法(薬機法)第14条第13項に基づく一部変更承認など、法令上の手続きが必要になる。社内の合意だけで済ませれば、違法な製造になりかねない。
第二に、同じ例外を何度も繰り返すなら、それはもはや例外ではなく、標準そのものを見直すべきサインである。その場合は、GMP省令第14条に定める変更の管理として、品質への影響を評価したうえで手順を改訂する。欧州では「計画的逸脱(planned deviation)」という呼び方を避け、一時的な変更として変更管理の枠組みで扱う傾向があるとされる。「逸脱は本来、計画できないものだ」という考え方である。
継続的改善とは、ストライクゾーンを狭めていくこと
では、SOPは一度作ったら変えてはいけないのか。そうではない。規制当局は、しばしば「継続的改善」を求める。問題は、どちらの方向に変えるかである。
筆者は、継続的改善とはストライクゾーンを狭めていくことだと考えている。品質管理の仕組みを作った当初は、工程の理解も浅く、許容範囲を広めに設定せざるを得ないことがある。データや経験が蓄積し、工程をよりよく理解できれば、管理の幅を適切に絞り込み、より安定した品質を狙えるようになる。
例えば、ある工程の温度を当初は「目標値±5℃」で管理していたとする。記録を分析すると、実際には±2℃の範囲にほぼ収まっていて、外れそうなときの原因も分かってきた。そこで管理の幅を±3℃に見直し、早めに調整する手順を加える。これがゾーンを狭める改訂の一例であり、投手にたとえれば「ストライクを取る」から「外角低めを狙う」へと、狙いの精度を上げていくことに近い。
規制当局の期待により応えるため、ひいては患者の要求に応えるために、コントロールの度合いを厳しくする。SOPはそのために改訂するものである。自分たちの都合でゾーンを広げる改訂は、改善ではなく「改悪」と言うべきである。
違反が多いとき、本当に見直すべきもの
もちろん、違反が頻発するときに何もしなくてよいわけではない。まず、なぜ標準どおりにできないのかを調べる必要がある。教育訓練が足りないのか、設備や人員が不足しているのか、作業環境に無理があるのか。原因によって、打つべき手はまったく違う。
調べた結果、手順そのものが現実に合っていないと分かることもある。その場合の改訂は正当である。ただし「違反が減るから」ではなく「品質への影響を評価したうえで、この手順が適切だから」という理由で変えなければならない。
GMP省令も、この考え方に立っている。第14条は、製造手順などを変更する場合、製品品質や承認事項への影響を評価し、品質保証を担当する組織の承認を受けることを求めている。第20条では、文書の改訂時に承認を行い、改訂の履歴を保管することも求めている。
SOPの改訂は、それだけ重い手続きなのである。改訂の中身は、外部からも見られている。筆者の経験では、顧客監査や当局の査察では、SOPの改訂履歴と改訂理由がしばしば確認される。基準を緩める方向の改訂が繰り返されていれば「この組織は作業をコントロールできていない」と受け止められかねない。
これは製薬企業に機器やソフトウェアを納める企業も同じである。製薬企業から監査を受けたとき、自社の手順書が違反を消すために書き換えられていないか。改訂の理由を、品質の言葉で説明できるようにしておきたい。
まとめ
SOPはクオリティコントロールするために、ある程度狭さを持った標準を示すべきである。
- SOPの「標準」は品質のストライクゾーンであり、品質管理とはそこをめがけて作業をコントロールすることである
- 違反を減らすためにSOPを緩めたり、例外を書き込んだりするのは、ストライクゾーンを広げる本末転倒である
- 予期せず手順から外れた場合は逸脱として扱う。事前に分かっている例外は、SOPを変えるのではなく、計画書にジャスティフィケーションを書き、QA担当者の合意と責任者の承認を得てから実行する
- 承認事項は例外処理では変えられない。同じ例外が続くなら、変更管理で標準を見直す
- SOPの改訂は、品質への影響を評価したうえで、コントロールを強める方向で行うのが本来の継続的改善である
SOPの改訂履歴を眺めてみてほしい。その改訂はゾーンを狭めるためのものだったか、それとも違反を消すためのものだったか。そこに、組織の品質管理に対する姿勢が表れている。
また、「今回だけ」を口頭で済ませた例外は、後から誰にも説明できない。根拠を書き、第三者のお墨付きを得る。この一手間が、査察や監査の場で自社の判断を守る盾になる。
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