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ワンポイント

品質とは

品質とは一体何であろうかという問いから考察を始めたい。例えばブランド物のバッグを15万円で購入し、家に帰って見るとバックルがわずかに汚れていたとする。読者はどう思うだろうか。おそらく「品質が悪い」と感じるはずである。一方、駅のキオスクで300円の紙袋を買い、同じ程度の汚れがあったとしても、「品質が悪い」とは思わないだろう。
この差は何か。それは価格の違いである。つまり、価格が高いものには高いなりの品質を読者は求め、安いものには安いなりの品質で満足するということである。すなわち品質とは、「対価に見合った顧客の要求基準」と定義できる。このことから分かるように、品質は生産者側やメーカー側が一方的に決められるものではない。品質を決めるのはあくまでも消費者、顧客であることを認識する必要がある。
しかしながら、医薬品や医療機器は「高いからこれくらいの品質、安いからこれくらいの品質」というわけにはいかない。医薬品は薬価で定められた価格以外にも、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)、すなわち生活の質の向上を目指すという顧客の要求があり、それはいわば青天井であると言える。

品質を決めるのは生産者ではない

価格と品質の関係は、機器メーカーが高性能な上位機種と、機能を絞った廉価版を用意することにも表れている。上位機種を購入した顧客は多くを求め、廉価版を選んだ顧客はその価格にふさわしい品質で満足する。価格が期待の大きさを変え、期待の大きさが品質の評価を変えるのである。

品質は生産者が決めるものだと思われがちであるが、生産者がどれほど自信を持って送り出した製品でも、顧客が満足しなければ、その品質が高いとは言えない。逆に、顧客が十分に満足していれば、それはその顧客にとって品質の高い製品である。生産者は、自分たちが力を入れた性能こそが品質だと考えがちである。

例えば、測定機器のメーカーが測定精度を一桁高めたとしよう。顧客がそこまでの精度を必要としていなければ、顧客にとっての品質は上がらない。価格まで上がれば、満足はかえって下がるかもしれない。

品質マネジメントの用語を定めた国際規格ISO 9000(日本ではJIS Q 9000)の2015年版も、製品やサービスの品質は顧客を満足させる能力などによって決まり、顧客が感じる価値や便益も含むとしている。また同規格は、顧客満足を「顧客の期待が満たされている程度に関する顧客の受け止め方」と定義している。満足かどうかは、あくまで顧客の受け止め方で決まるのである。

狩野紀昭氏らが1984年に発表した「魅力的品質と当り前品質」の考え方も参考になる。当り前品質とは、満たされていて当然と受け止められ、欠けると不満を招く品質のことである。傷一つない仕上がりは、ブランドバッグでは当り前品質だが、紙袋ではそうではない。

一方、魅力的品質とは、なくても不満にはならないが、満たされると満足を生む品質である。もらった紙袋が思いのほか丈夫で、雨の日にも破れなかったら、うれしい驚きを感じるだろう。同じ性質でも、どの製品に求めるかで顧客の受け止め方が変わるのである。

医薬品に「安いなりの品質」は許されない

では、製薬業界の顧客とは誰か。まず思い浮かぶのは患者であるが、医療機関の医師や看護師、場合によっては臨床検査技師も顧客に含まれる。患者が医薬品に求めるのは、病気が良くなること、そしてQOLが保たれることである。人の命や健康は対価で測ることができない、いわばプライスレスの世界である。

だから医薬品では「安いのだから品質はこの程度で満足してもらおう」という考え方は通用しない。しかも患者は、飲んでいる薬の品質を自分で確かめることができない。バッグの汚れなら目で見て分かるが、錠剤に含まれる有効成分の量は見ても分からない。患者は、作り手を信頼して薬を飲むしかないのである。

後発医薬品(ジェネリック医薬品)が分かりやすい例である。厚生労働省によれば、後発医薬品は先発医薬品と治療学的に同等であるとして承認され、一般に研究開発費が低く抑えられるため、先発医薬品より薬価が安い。価格が安いのは開発にかかる費用の違いによるものであり、品質を下げてよいからではないのである。

品質保証とは

品質が高いということと品質保証することは異なる概念である。読者の中には品質を高めれば品質が保証できていると考える人も多いと思われるが、それは誤解である。
品質保証とは「あらかじめ定めた品質や仕様の通り継続的に生産できること」を意味する。例えば、製造してみたら美しいバッグができたとしても、時折ほころびや傷がついているような状態では品質が保証できているとは言えない。何度作っても、何十個作っても、1年後も3年後も5年後も同じ仕様で同じ品質で製造が継続できること、これが品質保証なのである。
ここで注意すべき点は、キオスクの紙袋を製造し続けていても、いずれルイ・ヴィトンのバッグになることはないということである。
これが品質保証の要点であり、品質や要求仕様を上げていくことが品質保証ではない。
あくまでも同じ仕様で、同じ品質で製造し続けることを品質保証と呼ぶのである。

国際的な品質の定義

これまで概念的な説明をしてきたが、国際的な品質管理の基準であるISO9000では、品質について以下のように定義している。
「本来備わっている特性の集まりが要求事項を満たす程度」
これが国際規格における品質の定義である。例えば、血圧計を製造する場合、その血圧計の品質が良いか悪いかは、顧客の要求事項を満たしているかどうかで決まる。つまり、品質が良いとは、当該製品が固有の本質的な一連の特性が要求事項を満たしている状態のことを指す。「使い勝手が良い」「悪い」といった点は、品質の善し悪しとは必ずしも直結しない。あくまでも要求事項を満たしていれば、それは良い品質の製品と見なされるのである。
読者は「品質とは何か」と問われれば、「性能が良いこと」「機能性が良いこと」「見た目が良いこと」などと考えるかもしれない。しかし国際規格の定義はそうではなく、あくまでも顧客の要求を満たしたものが良い品質の製品であると定義されている。

ただし、価格そのものは品質ではない

ここで注意したい点がある。冒頭で述べた「対価に見合った顧客の要求基準」は、筆者が分かりやすく言い換えた説明であり、ISO 9000の定義そのものではない。JIS Q 9000:2015は、品質を「対象に本来備わっている特性の集まりが、要求事項を満たす程度」と定義したうえで、注記で、価格のように対象に付与された特性はその対象の品質特性ではないと明記している。つまり、バッグの縫製の美しさや留め金の仕上がりは品質特性だが、値札の金額は品質特性ではない。

価格が影響するのは、顧客がどの程度の要求を持つかという「要求事項」の側である。価格は品質そのものではなく、顧客の要求の水準を動かす要因だと理解するとよい。したがって「高いから品質が高い」とも限らず、高価な製品でも要求事項を満たしていなければ品質は低く、安価な製品でも要求事項を満たしていれば品質は良いのである。

製薬企業に製品を納める企業にとっての意味

この話は、製薬企業に機器やソフトウェアを納める企業にも関係する。こうした企業にとっての直接の顧客は製薬企業だが、その先には必ず患者がいる。製薬企業が機器メーカーに示す要求の水準は、その先にいる患者の要求によって決まっている。

一般の製造業向けであれば「廉価版なのでこの程度で」と説明できる部分も、製薬の現場で使われる以上、そのまま通用するとは限らない。顧客の要求を知るには、カタログの仕様を説明するだけでは足りない。製品がどの工程で、誰に、どのように使われ、その結果が何の判断に使われるのかを聞き取る必要がある。

例えば、同じ温湿度計でも、倉庫の温度を目安として知りたい顧客と、製品の品質を判断する根拠として記録を残したい顧客とでは、求める精度も記録の扱いもまったく違う。前者にとって十分な製品が、後者にとっては品質の低い製品になりうるのである。顧客が違えば要求事項が違い、要求事項が違えば品質の評価も変わる。

キオスクの紙袋とブランドバッグの違いは、機器の世界にもそのまま存在する。筆者は、製薬企業向けの製品を開発・販売する企業ほど「自社が考える良い製品」ではなく「顧客が求める品質は何か」から出発すべきだと考える。品質を決めるのは顧客であり、その顧客の向こうにいる患者だからである。

まとめ

  • 同じ汚れでも、支払った対価によって期待と要求の水準が変わり、品質の評価が変わる
  • 品質を決めるのは生産者ではなく顧客である。ただしISO 9000では、価格そのものは品質特性ではない
  • 人の命と健康に関わる医薬品では、価格にかかわらず高い品質が求められる
  • 品質保証とは、品質を上げ続けることではなく、定めた仕様と品質で継続的に製造できることである

自社の製品の品質を、生産者の目だけで決めていないだろうか。顧客、そしてその先の患者が何を求めているのかを、改めて問い直してみたい。

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